夕香とリン編 6
最初に言っておきます。
長い!長い長文使用です!
でもね、読み疲れる事は無いだろうとね、思ってます。
では、時間も惜しいから、早く読んで下さいよね〜。
本編を如何ぞ〜。
第86話 夕香の母性
此処は異国の地タイ。
其のタイ国にて、のほほんと呑気な雰囲気の中で、歪な関係を築こうとしてる、グループが在りました。
其のグループが居る場所とは、人も寄らない山中の森の中に在る、小さな池のほとりです。
小池のほとりに、夕香とリンに、使者が創りあげた、強力な敵で在るバネ。
この3人が何事もなく、只黙って寛ごうとしています。
夕香が鼻歌を歌い、寛ぐ為の場所に、大き目の葉を何枚も並べる。
夕香の行動を黙って見ているが、内心バクバクドキドキのリン。
打って変わって、何処か楽しげなバネ。
何故か、夕香の言動が気に成る上に、見ていて面白いと感じている様だ。
「ふっふっふ〜ん♪と、さてこれでヨシッ。さぁさぁ2人共、此処に座ってお喋りしましょ〜っか?」
寛ぐ用意が出来たと、2人を催促する夕香。
「此処にはバネちゃん、そしてこっちにはね、リンちゃんが座ってねぇ〜♪で、私は此処に座るわね〜」
と、テキパキ指示をします。
あの天然さんが、テキパキ指示を出すとは、一体誰が思うのでしょうか…?
絶対誰も思わないと、リンに保護されし魂達が思ったのですが
「あぁ〜早くガールズトーク始めたいわ〜」
と、自分がしたい事に対しては、テキパキさんに成るみたいなのです。
優しい欲望にての言動なので、このテキパキを常にとは言えない、魂達なのでした…。
「さぁさぁ早く座ってね♡」
と、急かす夕香に
「あ、あぁ分かったよ…」
「あ、はい夕香様…」
と、素直に座る、リンとバネ。
素直に座ったのは良いが、特にコレと言って、何を話せば良いのか分からない、リンとバネ。
萎縮してるリンと、する事が無いバネに共通して言えるのは、2人共、話題が無いと言う事だ。
だがしかし、そんな2人にお構い無し!と言わんばかりに
「ねぇねぇ2人共、何か楽しい事とか、面白い事って無い?どんな事でも良いから、話しましょうよ〜」
と、半ば強制的に、会話を始めようとする夕香。
勝手に会話を始めようとする夕香に、堪らず
「おいおいアンタ、何勝手に話を始めようとしてんだよ…。楽しい事面白い事って言われてもよ、何が楽しくて、何が面白いのかも良く分かってねぇ〜んだぞ!?其れに、何を話せば良いのか、マジ分かんねぇよ…」
「ですです夕香様〜。バネさんの言った様に、何を話せば良いのか分からないです〜…」
と、2人が言う。
「あら其うなの?…う〜ん最初に何か、お題が無いとだわね〜…。あっ其うだ!好きな食べ物とかは如何?」
「す、好きな食べ物…!?」
「………ちょっと、夕香様〜…」
リンにしろ、バネにしろ、人と同じ、消化器官が無い創りに成っている2人には、食べる概念が無いのに、素で聞く夕香。
以前リンが、其の事を伝えていたのに、コロっと忘れている夕香は、やはり天然だと言えるだろう…。
「あの〜夕香様〜」
「ん?なぁに、リンちゃん?」
「以前にも言いましたが、私達宝具には、消化器官等がない為、食べ物を食べる概念が有りません…」
「あっ其うだったわね…。あれ?えっもしかして、バネちゃんも同じだったりするの?」
「アン?アタイ達か?其の宝具とやらの事は知らね〜けどよ、アタイ達も食う概念何て、全く無ぇ〜ぜ?」
「あら〜其うなの?2人共、食事しないのね〜。食事無しで、良く体が保つわね〜凄〜い♪私だったら〜、絶対無理ね〜」
と、自分とは違うのだと驚くのだ。
「あっでも私、今死んで魂の状態だから、2人と同じなのよね?ね、其うでしょ?ねねね、リンちゃんバネちゃん?」
何処からそんな発想が出来るのか、全く理解出来ないリンとバネ。
目をキラキラさせながらの、純粋な夕香の圧に、引き気味に為りながら
「そ、其うかもですよね〜…夕香様〜…」
「え あ おぉ…うん…まぁそんなもんなのか?…」
と、あやふやな返答をした為
「キャ────ッやった〜♪嬉しいわぁ〜♡2人とお揃いだなんてねぇ〜♪うふふ〜♪」
みたいに、飛んで跳ねて燥ぎ、本気で喜ぶ夕香。
「「……………」」
この行為により完全に引き、思考停止するリンとバネ。
一通り燥いだ夕香が、思考停止している2人に気付き
「あら?2人共、全く動かなく成ってるけれど、如何したの?」
と、自分の所為で停止しているのだと、露にも思わない発言をする。
其の発言により、更に無言で固まって仕舞う2人。
リンはリンで
(天然って…これ程にも疲れるの?…)
と思い、バネはバネで
(こ、こいつは何モノなんだ!?こんな奴…アタイの仲間には居ねぇ〜ぞ!?一貫性の無ぇ〜言動…何かちょっと新鮮だが、疲れるよな…)
と2人共、ちょっとお疲れ気味です。
なのに…
「ねぇねぇリンちゃんバネちゃん、本当、如何したの〜?」
自由奔放な夕香が、ねぇねぇねぇ〜としつこく攻め立ててくれるので
「いえ…別に…」
「な、何も無ぇよ…夕香…」
と、悪意の無い夕香の言動を、何も無いと答えるので精一杯な2人なのでした。
「あら、其うなの〜?其れなら良かった♪何処か体の調子が悪く為ったのかって、心配してた所なのよ〜、頭でも痛いのかしらってね〜。でも何も無くて、ほ〜んと、良かったわ♡」
此処でも悪意の無い言動に、ガクッとするリンとバネ。
人間と同じ器官は無いと教えた筈なのに、頭が痛いのかもと心配されても、先ず有り得ないのだと思う2人。
更に、もし人間と同じ頭痛が在るとするのなら、其の原因は、夕香の言動だとも思えた2人なのでした。
「……疲れる…」
思わず其う呟いたバネに
「あらバネちゃん、大丈夫?疲れたのなら、この大きな葉のシートに横に成って、体を休めてね。無理しちゃダメよ?バネちゃん」
心配そうな顔をして、何時の間にか何処からか、追加で用意していた大きな葉を敷き、バネを休ませ様とする夕香。
「さぁさぁリンちゃんもね、此処に横に成って休んでね〜良い?」
気が付けばリンの分も用意し、休ませ様とする夕香。
さっさと横に成りなさいと言わんばかりに、葉のシートをポンポンと叩く夕香。
「あっはい…夕香様…」
「オッオゥ…分かったよ夕香…」
言われるまま、横に成るリンとバネ。
2人は何故か、夕香に従わないと、後々面倒な事に成ると、第六感的センサーが反応していた。
実際夕香は、このもてなしが気に入らないと感じたら、次は如何しようかと考えていて、また2人を置き去りにして、何処かで何かを見繕って来ようとも思っていた。
其う成るとリンとバネの2人は、気不味い状態で、夕香の奇行を待たなければ成らない。
今、夕香に従って正解だったと思う2人。
何故なら
「良かった♪2人が、やっとゆっくり寛いでくれそうで、私安心したわ〜。もしお気に召さなかったら、大きな葉を編み込んでお船を作って、小池に浮かべて、葉っぱのお船に乗ってお話ししようかな?って思ってたの〜。其う成ると、お船を作る時間が掛かるから、正直如何しようかと悩んでたのよね〜。良かった♡2人が安心して寛げそうで、うふふ♪」
と、不安材料しかない事を嬉しそうに笑って言うのだ。
一体夕香は、如何やって船を作るつもりだったのだろうと、2人は思う。
船を作る知識が、そもそも有るとは思えないし、もし知識が有って、船を完成させたとしても、葉の船の強度で3人が乗れば、何時沈むかと、気が気じゃ無い状態で、安心等出来る筈が無いと、同時に思った2人なのでした。
天然発想の破天荒さを初めて知る2人。
リンはリンで
(私、皆んなによく天然さんって言われてたけれど、もしかして私もこんな感じなの!?………結構ショック………)
と思い、バネはバネで
(コイツ一体何モノなんだ!?こんな自由なヤツは、初めてだぜ…。疲れる…疲れる…が、何故か何処か心地良いってのが、腑に落ちねぇ〜よな…。何故なんだ?…)
と、夕香の天然思考が全く読めなくて、少々疲れているみたいだ…。
リンとバネの2人が、ハァ〜ッとため息をすると
「あら?2人共、何だか本当に疲れてるみたいね…大丈夫?」
心配そうに、2人を覗き込んで聞く夕香。
「あっ夕香様、大丈夫ですよ〜、私は疲れてはいないので〜」
(本当の事は、言えないもんね〜…トホホ…)
「ん?アタイも別に何も無ぇから…」
(此処ではい何て言っちまったら、また何かしでかしそうだしな…)
と其々が、本音を隠して答える。
すると
「本当に〜?…う〜ん…とても其うだとは思えないけれど、2人が其うだと言うのなら、其うなのね〜分かったわ〜。でね、どうせ同じ寛ぐのならね、先程集めて来たお花の蜜をね、飲みながら寛ぎましょうね〜。さぁさぁ2人共、遠慮なく飲んでね〜」
と、2人に手渡して有る花の蜜を飲めと、催促する夕香。
催促された2人は
「あ、あの夕香様、先程も言いましたが、私達には、人間と同じ器官が無いので、飲む事は出来ません…」
「其うだぜ夕香、アタイ達には、モノを摂取する概念何て無ぇぞ?」
と、答えると
「え?あら?だってさっき、私と同じだと2人共、言わなかった?」
先程同意した事に対して、違うのかと聞く夕香。
この時2人は
“あっ…面倒臭い事に成りそうだ…”
と思った。
なので
「た、確かに其う言いました…」
「あぁコイツの言った通り、其う答えたぜ?けどよ…」
「でしょ〜!ほ〜ら同じじゃない〜。ならね、幽体の私が実際に体験してるからね、貴方達もちゃ〜んと出来るわよ〜♪これで問題は無いわよね〜♡さあさぁ2人共〜、飲んで飲んでねぇ〜うふふ〜」
グイグイと無邪気な圧を掛けまくる夕香に、根負けをしたリンとバネは
「わ、分かりました夕香様…。そそそ、それじゃ頂きますね…」
「あ、あぁ…だな…。アタイも少しくらいは試してみてやるよ…」
ってな感じで一口、葉っぱのコップに溜まった、花の蜜を飲む。
ゴクッ…
「「!!!!」」
「えぇっあっ!甘い!!?」
「ななな、何だこれはっ!?こ、こんな現象…いや、経験は…は、初めてだぜ…」
夕香に言われるまま、花の蜜を飲んだ2人は、今迄経験した事のない実体験に、驚きを隠さなかった。
其の驚き振りを見た夕香が
「良かった〜♡絶っっっ対2人共、驚くと思ったし、ちゃ〜んと私と同じ、味覚が備わってたって分かって、とても嬉しいわ〜♪如何?お気に召したかしら?」
うふふっと笑みを浮かべながら、2人の驚く姿に少し、幸福感を味わう夕香。
「わ、私は正直、困惑してます…。ですが、主人で在る夕香のお心遣いの温かみや、この花の蜜の味、私は好きですし、嬉しくて堪りません…」
リンを模る存在感の奥底から、夕香に対しての景仰心で溢れるのだった。
「良かったわ〜、リンちゃんがお気に召してくれて〜。で、バネちゃんは如何だった?」
夕香の問いにバネは
「………オイ夕香…」
「ん〜?」
「ん〜じゃ無ぇよ夕香、アンタ何かしただろう…?こんなの普通じゃ先ず有り得ねぇぜ…。まさか毒でも盛ったんじゃ…」
「あらいや〜ねぇ〜バネちゃん、可愛い貴方にそんな事する訳無いでしょ〜?」
「か、可愛い!?ハア!?だ、誰が!?ア、アタイがか!?」
「えぇ勿論バネちゃん、可愛い貴方の事よ〜」
「!!」
嘘偽りを言う筈が無いと、この短時間で理解したバネは、生まれて初めて可愛いと夕香から言われ、胸の奥底から湧き上がる熱い何かで、心が揺れるのだった。
初めての感情に、困惑しているバネに
「私ねぇ、可愛いバネちゃんと、素敵なリンちゃんにね、少しでも心が安らいでくれる様にと願ってね、お花の蜜を集めたの〜。其うしたらね〜、お花さん達に想いが伝わったのかね、澄んだ蜜を分けてくれたの〜。とても嬉しかったわ〜うふふ〜」
自分の事を想いながら、そんな事をしてくれていた事を知り、胸が熱く成り、全身が高揚して行くバネ。
気付けば涙を流すバネ。
涙を流すバネを見た夕香が
「どどど、如何しちゃったのバネちゃん!?私嫌な事言っちゃったかしら…?其れとも何処か具合が悪く成っちゃったの?大丈夫…?」
突然の事で、焦る夕香が尋ねると
「……い、いや別に…何とも無ぇよ…夕香…。なぁ1つ聞くが…」
「何とも無いのね〜良かった♡…っで、何?何が聞きたいのかしら…?」
「あっいや…」
「もぉ〜バネちゃん、ちゃ〜んと聞いてくれないと、分からないわよ?どんな事でも聞いて頂戴…ね?」
「………あ…あぁ…。あのさ…」
「ん?」
「ア、アタイ…あの…その…」
「なぁ〜に?」
「ほ、本当に…」
「うんうん…」
「本当に、可愛いのか?」
今迄言われた事が無かったバネは、自分が可愛いのかと聞くのが恥ずかしかったみたいで、やっとの思いで夕香に尋ねるのだった。
そんなバネに夕香は
「うふふ何当たり前の事を聞いてるの〜?バネちゃんはね、最初に出会った時から、今もずっと可愛いって思ってるわよ?こんなに愛らしいバネちゃんと知り合えて、私って幸せ者よね〜うふふ〜♪」
満面の笑顔で答える夕香。
笑顔で答えた夕香の言葉にも、また、嘘偽りは無いと思いながらも
「う、嘘言うなよ!ア、アタイが可愛いだって!?そそ、そんな事信じられるかってんだよ!!」
と、反論するバネ。
其う反論して迄、夕香の言葉を信じられないのには、理由が有った。
生前のバネは、酷く醜い姿だと虐げられた辛い過去が有った。
長年虐げられた事により、怒り悲しみ、人々を呪った…。
其の蓄積された怨念の強さを使者に見出され、怪物のコアとして、魂を使用されたのだった。
其の為、使者に怪物として創り出されても、醜い姿として創られたバネは、自らの姿が可愛い等とは、とても思えなかったのだ。
だから尚更、夕香が“可愛い”等と言う事が、とてもじゃ無いが、信じられないバネ。
「本当何を言ってやがる!アタイの事が可愛いだと!?何処を如何見て其う思えるんだ!唯其う言って、アタイを懐柔しようと思ってんのか!?もし其のつもりなら、有無を言わさずブッ殺すぞ!!」
凄い剣幕で、怒りを露わにするバネ。
怒り心頭のバネに、夕香は
「如何したのバネちゃん…そんなに怒って…」
と、バネの怒っている内容が理解し切れて無い返答をする。
「オイ夕香!話を聞いて無かったのか!?」
「あらバネちゃん、ちゃ〜んと聞いてたわよ?」
「なら何度も言ってるだろ!?アタイの何処が可愛いってんだよ!」
「あぁ其の事ね〜。…えっ?怒ってるのって、其の事なの?」
「〜〜〜っだから其うだと言ってんだろ!」
「あらまぁ〜其うなのね〜。…えっ?可愛いって思ったの、出会った頃からずっと思ってたわよ?其れは本当♪だって、こんなにも愛らしい粒らな瞳をしてるし、コロコロ変わる表情もキュートだし、何よりバネちゃんの優しさがね、私にはキュンって来たのよね〜♡もぅ〜何処を取っても可愛くって仕方がないわ〜うふふ〜」
母性を込めた柔らかく優しい笑顔で答える夕香の言葉に、バネの中で何かが弾け、胸の奥底に在る硬い殻の様なモノに、ヒビが音を立てて入る。
今迄に感じた事のない胸の痛みに
「グゥ…何だ…この胸の…痛みは…」
胸を押え、苦しみ出すバネ。
突然苦しみ出すバネに
「如何したのバネちゃん!?ねぇ大丈夫!?大丈夫なの!?」
慌ててバネに駆け寄り、抱き締めて大丈夫かと聞く夕香。
其の夕香の胸に抱かれたバネが
「ち、近寄るんじゃねぇよ…夕香…。アンタ…アタイに何かしやがったんじゃ…ねぇのか…」
胸を押えながら、夕香と距離を置こうとするバネ。
だが夕香は
「何言ってるのよバネちゃん!突然急に苦しみ出したのよ!?放って置ける訳が無いじゃないの!何処が痛いの!?苦しいの!?ねぇ大丈夫なの?バネちゃん!」
抱き締め背を摩りながら、必死に成って、何とかしないとと、夕香が権能で有るヒーリングを施す。
「大丈夫!?ねぇ大丈夫なの!?バネちゃん!」
只ひたすらに、バネを心配する夕香に
「…ゆ…夕…香…」
夕香に抱かれ、幽体なのに何故か夕香から温もりを感じ、気が付けば涙が溢れて来るバネ。
「バ、バネちゃん!?涙を流す程辛いの!?本当大丈夫なの!?……あぁ如何すれば良いの…。ごめんなさい…私にもっと癒しの力が有ったなら…バネちゃんを苦しまさせる事が出来るのに…ごめんね…力が無くて…」
何とかして上げたいのに、何も出来ないと泣きながら謝る夕香に、バネが
「何で泣くんだよ…敵で在るアタイに泣くだ何て…。夕香、アンタがアタイに何かして無いって事は分かった…。だがよ…アンタの所為で胸が、胸が辛いんだ…苦しいんだよ…何故なんだ…?」
バネは、胸が苦しいと言うと
「胸?…バネちゃん、胸が辛くて苦しいのね?其れって、どんな感じで苦しいの?」
詳しく知りたいと、夕香が問うと
「………良く分からねぇ…。唯、何かこぅ…締め付けられる様な…暖かい様な…震える様な…意味分からなぇ感じ何だよ…」
夕香に抱き締められたまま、其う答えるバネ。
「不可視不可領域の結界を張ります」
ピィ──────ィン…
リンが突然、自分達を囲む様に、強力な結界を展開させた。
「!?オ、オイお前!突然こんな強力な結界を張るだなんて、アタイを閉じ込めようとしてんのか!?」
「其うよリンちゃん、何故突然こんな事したの?如何しちゃったのよ…」
リンの行動に驚き、疑問を持った2人が問うと
「閉じ込めようとはしてません…。ですが、有る意味其うとも言えますね…」
「ハァ!?何だ其れ!?」
「私も、全く意味が分からないわ…。詳しく教えて、リンちゃん…」
何を言っているのか理解出来ないと、2人は言う。
「バネさん、今の貴方を彼のモノから守る為に、結界を張りました」
「彼のモノ!?…其れって…まさかアタイの主人様の事なのか?…」
「はい其うです…」
「な、何故だ!?」
「…其れはバネさん、貴方も薄々気付いている筈です。ずっと監視され、何時でも消滅させられる事を…」
「!!」
ザネやアネ、カネとガネには、使者からの監視と消滅を遠隔で出来る事を、知らされていた。
だがバネには其の事を教えられては無く、只の兵器として扱われていた。
何故ならば、夕香達の存在感を測る為の、使い捨ての道具として、バネが創られたからだった。
他のモノ達との扱いの違いからも、薄々だったが気付いていたバネは、戦果を上げれば喜ばれ、自分の扱いも変わると思っていた。
だが、夕香を相手にしている間、ずっと監視されてる様な違和感が有った。
其の事をリンに言い当てられ、只驚くバネ。
「お、お前…其の事に気付いてたのか…?」
「はい、出会った時からずっと気付いてました」
「……エッ…」
「ですがつい先程、監視の気配が消えたので、其の隙に結界を張らせて頂きました」
「何故…何故こんな強力な結界を張る必要が有った…?」
何度も聞き返すバネにリンは
「夕香様は勿論、バネさん、貴方も守る為です」
「だから如何してアタイを守らなきゃ為らねぇんだよ!?」
「其れは既に、ご自身でお分かりの筈…。バネさん、貴方の核に変化が生じている事を…」
「!!?」
リンに指摘され、自分の奥底に在るコアに変化が生じていると、この時初めて気が付くのだ。
「ねぇリンちゃん…バネちゃんの核?に変化ってのは…」
「其れはバネさんが、答えてくれる筈です」
「えっ?」
「ですよね?バネさん…。今貴方が1番欲してるモノ、感じたいモノを言葉にしてみてくれませんか?」
答えはバネの言葉だと、リンが告げると…
「アタイは…アタイは愛情が欲しい!優しさに触れたい!温もりが欲しい!もぅ2度と醜いと言われたくは無い!ずっと可愛い綺麗だと言われたかった!!」
と、バネの心の奥底に隠されていた思いが、言葉として吐き出されたのだった。
「ハァハァハァ…」
秘めた思いを言い切ったバネは、息を荒くし、ポトポトと涙を流す…。
泣くバネをそっと抱き寄せる夕香が
「バネちゃん、貴方の心を聞かせてくれてありがとう…。私はバネちゃんがとても愛おしくて、可愛くて堪らないわ…。本当、貴方と知り合えて、私は幸せ者よ〜バネちゃん…」
子供をあやす様に優しく撫で、本音を言ってくれた事が嬉しくて、涙を流して感謝する夕香。
其の夕香の心に触れたバネが
「ゆ…夕香…嗚呼あぁ…わぁ嗚呼ぁあぁ…」
夕香に抱かれ、子供の様に泣く…。
「良い子ね…バネちゃんは…うふふ…」
母性いっぱい込められた愛撫をされた時、バネに異変が起こる。
「アアアアアッ!!ゥアアアアッ!!」
呻き声を上げたかと思えば、眩いばかりに輝き出し、バネの表皮にヒビが入る。
「バ、バネちゃん!?どどど、如何したの!?一体何が起きてるの!?」
焦る夕香に、リンが
「夕香様、焦らず其のままバネさんを見守って下さい…」
「エッ!?リンちゃん、貴方何言ってるの!?そんな悠長な…」
「落ち着いて夕香様…。ほら段々とバネさんが、美しく成って来てますよ…」
そっとバネを指差し、リンが
「バネさん…もう少しだけ頑張って下さい。きっと…いいえ、必ず大いなる力と共に、本来のお姿に戻れる筈ですから…」
バネに向けて、煌めく雫を注いで行く。
「リ、リンちゃん、貴方一体何をしてるの!?」
リンの行動の意味を聞く夕香。
「あ〜ん心して下さ〜い夕香様〜、私はバネさんを癒してるんです〜」
「えっ!?癒し…?」
「はい其〜うで〜す♪癒しです♪」
「えっ?えぇっ!?ちょっとごめんなさい、私には余り良く分からないのだけれど…」
困惑する夕香。
其の夕香に
「実は今、バネさんを彼のモノから守る為と、本来のお姿に戻す為に、夕香様の権能の力をお借りして、バネさんの中に在る穢れた種を除去してるんです…。其れが先程の雫です…」
其う言い終えた直後に、バネに大きな変化が訪れる。
「アァア────ッ!!」
大きな叫び声を上げたかと思うと同時に、バネの奥深くに在る使者の種が砕け散り、消滅したと同じ様に、バネを覆っていた穢れた皮膚が浄化されたのだった。
完全無垢な状態のバネ。
其の姿は、先程迄の姿から、想像を超える変化をし、美しい蝶の羽を纏う少女の姿に為っていた。
更に、禍々しさが消えた途端、今迄以上の力を宿していたのだ…。
其の姿を見た夕香が
「バネちゃん…バネちゃんなのね…?何て美しいの…素敵だわ〜…」
「ですです夕香様♪元々可憐なバネさんでしたが、更に磨きを掛けて、綺麗に成りましたよね〜」
リンも、バネの姿を綺麗だと褒めるのだ。
褒められたバネは、未だ自分に起きた事に対して、呆然としていたのだが、今迄に感じた事のない幸福感と、漲る力の凄さを全身で感じ
「………これが、アタイの本当の姿なのか…」
と、穏やかな口調で呟いた。
「ですですバネさん。良かった、バネさんを本来のお姿に戻せた上に、秘めた力も解放出来て嬉しいです…」
リンが、安堵して言うと
「えっ…これは、お前がしてくれたのか?確かリンっだったよな…」
「はい其うで〜すバネさ〜ん♪私がバネさんの呪縛から、何とかでしたが解放しました〜」
「リン…」
明るく答えるリンに、胸が熱く成るバネ。
「ありがとうリンちゃん、バネちゃんを解放してくれて〜…。私も本当に嬉しくて、嬉しくて…涙が出ちゃう…嗚呼…嬉しい…」
「夕香様…」
「夕香…」
バネを使者の呪縛から、解放された事を心から喜ぶ夕香に、心が満たされるリンとバネ。
泣いて喜んだ夕香がリンに
「ねぇリンちゃん、何故あんなにも凄い力を使えたの?其れとね、如何やってバネちゃんの呪縛を解いたの?」
と、何時もなら思わない疑問を問うのだ。
其の問いにリンが
「私だけの力では、先ず無理でした…。ですが、夕香様が集めてくれた花の蜜に、浄化と増加の付加が込められてたんです…。其の蜜を飲んだ私には、力の増加を…。バネさんには、浄化の作用が施されたのです…。ですから、後はバネさんの心を揺さぶるキッカケさへ有れば、何とか浄化が出来たのです…」
「えっ…其れじゃ〜もしかして、私がバネちゃんの心を揺さぶったの?」
「えぇ其うです。バネさんも、自身の事ですから、多分分かってますよね?」
リンに、自分自身の事を聞かれたバネは
「…まぁな…」
顔を赤くし、もじもじしながら、其うだと答えるのだった。
「まぁ〜其うなの〜?やった〜嬉しい〜♪私、バネちゃんの役に立てたのね〜キャーッ♡」
子供の様に燥いで喜ぶ夕香。
「夕香様、そろそろ此処を離れないと危険です。多分、バネさんの変化に気付いた彼のモノが、此処にやってくるやも知れません…」
喜び燥ぐ夕香に、使者がやって来るかもと、警告するリン。
「えっ…其れは不味いわよね…。折角呪縛から解放されたのに、今度は命を狙われる可能性も有るって事よね…?」
「ですです…。ですから早くこの場を去らなければ…」
「其うよね…。ねぇバネちゃん、良ければだけれど、私達と一緒に来ない?貴方さへ良ければ何だけれど、出来ればずっと一緒に居たいの…ダメ?仲良く成れたから、ずっと一緒に居たいわ〜」
「私からもお願いします、バネさん…。如何か夕香様とご一緒してくれませんか?」
2人のお願いにバネは
「……あぁ良いぜ?」
と、あっさりと承諾するのだった。
「えっ本当に!?」
「ですです、本当ですか!?」
余りにもあっさりと承諾した為、驚く夕香とリン。
「そんなに驚く事か〜?正直、今のアタイにはよ、何であんなクズ野郎に恋焦がれ、従ってたんだと、吐き気がして来たぜ…。其れによ、如何やら夕香の愛情を感じてる方が、満たされるし、力も漲って来る感じだからさ、今後はアタイがアンタを守ってやるよ…」
少し恥ずかしそうに言う姿に、2人は微笑ましく思えたのだった。
「其れじゃ、此処を離れましょ。お願いね、リンちゃんバネちゃん♡」
「はい、任せて下さい♪」
「あぁ任せとけ、夕香…」
こうして夕香は、バネと言う強力な仲間を手に入れ、約束の異空間へと仲良く旅立つのでした…。
第86話 夕香の母性 完
いやぁ〜如何でしたか?
ちょっと強引な終わり方でしたが、次話に持ち越しするには、ちょっと中途半端に成りそうでしたので、今回はこの形での完了です。
更に!夕香とリン編は、これで一旦お終い。
次からは、聖司と神音編が始まります。
では次話にて…。




