表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻家族 〜五千年の怨恨呪詛 呪われた家族の輪廻の旅〜  作者: 喜遊元 我可那
共に進む為に
83/85

夕香とリン編 6

 最初に言っておきます。

 長い!長い長文使用です!

 でもね、読み疲れる事は無いだろうとね、思ってます。

 では、時間も惜しいから、早く読んで下さいよね〜。

 本編を如何ぞ〜。

第86話 夕香の母性


 此処は異国の地タイ。

 其のタイ国にて、のほほんと呑気な雰囲気の中で、歪な関係を築こうとしてる、グループが在りました。

 其のグループが居る場所とは、人も寄らない山中の森の中に在る、小さな池のほとりです。

 小池のほとりに、夕香とリンに、使者が創りあげた、強力な敵で在るバネ。

 この3人が何事もなく、只黙って寛ごうとしています。

 夕香が鼻歌を歌い、寛ぐ為の場所に、大き目の葉を何枚も並べる。

 夕香の行動を黙って見ているが、内心バクバクドキドキのリン。

 打って変わって、何処か楽しげなバネ。

 何故か、夕香の言動が気に成る上に、見ていて面白いと感じている様だ。

「ふっふっふ〜ん♪と、さてこれでヨシッ。さぁさぁ2人共、此処に座ってお喋りしましょ〜っか?」

 寛ぐ用意が出来たと、2人を催促する夕香。

「此処にはバネちゃん、そしてこっちにはね、リンちゃんが座ってねぇ〜♪で、私は此処に座るわね〜」

 と、テキパキ指示をします。

 あの天然さんが、テキパキ指示を出すとは、一体誰が思うのでしょうか…?

 絶対誰も思わないと、リンに保護されし魂達が思ったのですが

「あぁ〜早くガールズトーク始めたいわ〜」

 と、自分がしたい事に対しては、テキパキさんに成るみたいなのです。

 優しい欲望にての言動なので、このテキパキを常にとは言えない、魂達なのでした…。

「さぁさぁ早く座ってね♡」

 と、急かす夕香に

「あ、あぁ分かったよ…」

「あ、はい夕香様…」

 と、素直に座る、リンとバネ。

 素直に座ったのは良いが、特にコレと言って、何を話せば良いのか分からない、リンとバネ。

 萎縮してるリンと、する事が無いバネに共通して言えるのは、2人共、話題が無いと言う事だ。

 だがしかし、そんな2人にお構い無し!と言わんばかりに

「ねぇねぇ2人共、何か楽しい事とか、面白い事って無い?どんな事でも良いから、話しましょうよ〜」

 と、半ば強制的に、会話を始めようとする夕香。

 勝手に会話を始めようとする夕香に、堪らず

「おいおいアンタ、何勝手に話を始めようとしてんだよ…。楽しい事面白い事って言われてもよ、何が楽しくて、何が面白いのかも良く分かってねぇ〜んだぞ!?其れに、何を話せば良いのか、マジ分かんねぇよ…」

「ですです夕香様〜。バネさんの言った様に、何を話せば良いのか分からないです〜…」

 と、2人が言う。

「あら其うなの?…う〜ん最初に何か、お題が無いとだわね〜…。あっ其うだ!好きな食べ物とかは如何?」

「す、好きな食べ物…!?」

「………ちょっと、夕香様〜…」

 リンにしろ、バネにしろ、人と同じ、消化器官が無い創りに成っている2人には、食べる概念が無いのに、素で聞く夕香。

 以前リンが、其の事を伝えていたのに、コロっと忘れている夕香は、やはり天然だと言えるだろう…。

「あの〜夕香様〜」

「ん?なぁに、リンちゃん?」

「以前にも言いましたが、私達宝具には、消化器官等がない為、食べ物を食べる概念が有りません…」

「あっ其うだったわね…。あれ?えっもしかして、バネちゃんも同じだったりするの?」

「アン?アタイ達か?其の宝具とやらの事は知らね〜けどよ、アタイ達も食う概念何て、全く無ぇ〜ぜ?」

「あら〜其うなの?2人共、食事しないのね〜。食事無しで、良く体が保つわね〜凄〜い♪私だったら〜、絶対無理ね〜」

 と、自分とは違うのだと驚くのだ。

「あっでも私、今死んで魂の状態だから、2人と同じなのよね?ね、其うでしょ?ねねね、リンちゃんバネちゃん?」

 何処からそんな発想が出来るのか、全く理解出来ないリンとバネ。

 目をキラキラさせながらの、純粋な夕香の(プレッシャー)に、引き気味に為りながら

「そ、其うかもですよね〜…夕香様〜…」

「え あ おぉ…うん…まぁそんなもんなのか?…」

 と、あやふやな返答をした為

「キャ────ッやった〜♪嬉しいわぁ〜♡2人とお揃いだなんてねぇ〜♪うふふ〜♪」

 みたいに、飛んで跳ねて(はしゃ)ぎ、本気で喜ぶ夕香。

「「……………」」

 この行為により完全に引き、思考停止するリンとバネ。

 一通り燥いだ夕香が、思考停止している2人に気付き

「あら?2人共、全く動かなく成ってるけれど、如何したの?」

 と、自分の所為で停止しているのだと、露にも思わない発言をする。

 其の発言により、更に無言で固まって仕舞う2人。

 リンはリンで

(天然って…これ程にも疲れるの?…)

 と思い、バネはバネで

(こ、こいつは何モノなんだ!?こんな奴…アタイの仲間には居ねぇ〜ぞ!?一貫性の無ぇ〜言動…何かちょっと新鮮だが、疲れるよな…)

 と2人共、ちょっとお疲れ気味です。

 なのに…

「ねぇねぇリンちゃんバネちゃん、本当、如何したの〜?」

 自由奔放な夕香が、ねぇねぇねぇ〜としつこく攻め立ててくれるので

「いえ…別に…」

「な、何も無ぇよ…夕香…」

 と、悪意の無い夕香の言動を、何も無いと答えるので精一杯な2人なのでした。

「あら、其うなの〜?其れなら良かった♪何処か体の調子が悪く為ったのかって、心配してた所なのよ〜、頭でも痛いのかしらってね〜。でも何も無くて、ほ〜んと、良かったわ♡」

 此処でも悪意の無い言動に、ガクッとするリンとバネ。

 人間と同じ器官は無いと教えた筈なのに、頭が痛いのかもと心配されても、先ず有り得ないのだと思う2人。

 更に、もし人間と同じ頭痛が在るとするのなら、其の原因は、夕香の言動だとも思えた2人なのでした。

「……疲れる…」

 思わず其う呟いたバネに

「あらバネちゃん、大丈夫?疲れたのなら、この大きな葉のシートに横に成って、体を休めてね。無理しちゃダメよ?バネちゃん」

 心配そうな顔をして、何時の間にか何処からか、追加で用意していた大きな葉を敷き、バネを休ませ様とする夕香。

「さぁさぁリンちゃんもね、此処に横に成って休んでね〜良い?」

 気が付けばリンの分も用意し、休ませ様とする夕香。

 さっさと横に成りなさいと言わんばかりに、葉のシートをポンポンと叩く夕香。

「あっはい…夕香様…」

「オッオゥ…分かったよ夕香…」

 言われるまま、横に成るリンとバネ。

 2人は何故か、夕香に従わないと、後々面倒な事に成ると、第六感的センサーが反応していた。

 実際夕香は、このもてなしが気に入らないと感じたら、次は如何しようかと考えていて、また2人を置き去りにして、何処かで何かを見繕って来ようとも思っていた。

 其う成るとリンとバネの2人は、気不味い状態で、夕香の奇行を待たなければ成らない。

 今、夕香に従って正解だったと思う2人。

 何故なら

「良かった♪2人が、やっとゆっくり寛いでくれそうで、私安心したわ〜。もしお気に召さなかったら、大きな葉を編み込んでお船を作って、小池に浮かべて、葉っぱのお船に乗ってお話ししようかな?って思ってたの〜。其う成ると、お船を作る時間が掛かるから、正直如何しようかと悩んでたのよね〜。良かった♡2人が安心して寛げそうで、うふふ♪」

 と、不安材料しかない事を嬉しそうに笑って言うのだ。

 一体夕香は、如何やって船を作るつもりだったのだろうと、2人は思う。

 船を作る知識が、そもそも有るとは思えないし、もし知識が有って、船を完成させたとしても、葉の船の強度で3人が乗れば、何時沈むかと、気が気じゃ無い状態で、安心等出来る筈が無いと、同時に思った2人なのでした。

 天然発想の破天荒さを初めて知る2人。

 リンはリンで

(私、皆んなによく天然さんって言われてたけれど、もしかして私もこんな感じなの!?………結構ショック………)

 と思い、バネはバネで

(コイツ一体何モノなんだ!?こんな自由なヤツは、初めてだぜ…。疲れる…疲れる…が、何故か何処か心地良いってのが、腑に落ちねぇ〜よな…。何故なんだ?…)

 と、夕香の天然思考が全く読めなくて、少々疲れているみたいだ…。

 リンとバネの2人が、ハァ〜ッとため息をすると

「あら?2人共、何だか本当に疲れてるみたいね…大丈夫?」

 心配そうに、2人を覗き込んで聞く夕香。

「あっ夕香様、大丈夫ですよ〜、私は疲れてはいないので〜」

(本当の事は、言えないもんね〜…トホホ…)

「ん?アタイも別に何も無ぇから…」

(此処ではい何て言っちまったら、また何かしでかしそうだしな…)

 と其々が、本音を隠して答える。

 すると

「本当に〜?…う〜ん…とても其うだとは思えないけれど、2人が其うだと言うのなら、其うなのね〜分かったわ〜。でね、どうせ同じ寛ぐのならね、先程集めて来たお花の蜜をね、飲みながら寛ぎましょうね〜。さぁさぁ2人共、遠慮なく飲んでね〜」

 と、2人に手渡して有る花の蜜を飲めと、催促する夕香。

 催促された2人は

「あ、あの夕香様、先程も言いましたが、私達には、人間と同じ器官が無いので、飲む事は出来ません…」

「其うだぜ夕香、アタイ達には、モノを摂取する概念何て無ぇぞ?」

 と、答えると

「え?あら?だってさっき、私と同じだと2人共、言わなかった?」

 先程同意した事に対して、違うのかと聞く夕香。

 この時2人は

“あっ…面倒臭い事に成りそうだ…”

 と思った。

 なので

「た、確かに其う言いました…」

「あぁコイツの言った通り、其う答えたぜ?けどよ…」

「でしょ〜!ほ〜ら同じじゃない〜。ならね、幽体の私が実際に体験してるからね、貴方達もちゃ〜んと出来るわよ〜♪これで問題は無いわよね〜♡さあさぁ2人共〜、飲んで飲んでねぇ〜うふふ〜」

 グイグイと無邪気な圧を掛けまくる夕香に、根負けをしたリンとバネは

「わ、分かりました夕香様…。そそそ、それじゃ頂きますね…」

「あ、あぁ…だな…。アタイも少しくらいは試してみてやるよ…」

 ってな感じで一口、葉っぱのコップに溜まった、花の蜜を飲む。

 ゴクッ…

「「!!!!」」

「えぇっあっ!甘い!!?」

「ななな、何だこれはっ!?こ、こんな現象…いや、経験は…は、初めてだぜ…」

 夕香に言われるまま、花の蜜を飲んだ2人は、今迄経験した事のない実体験に、驚きを隠さなかった。

 其の驚き振りを見た夕香が

「良かった〜♡絶っっっ対2人共、驚くと思ったし、ちゃ〜んと私と同じ、()()が備わってたって分かって、とても嬉しいわ〜♪如何?お気に召したかしら?」

 うふふっと笑みを浮かべながら、2人の驚く姿に少し、幸福感を味わう夕香。

「わ、私は正直、困惑してます…。ですが、主人で在る夕香のお心遣いの温かみや、この花の蜜の味、私は好きですし、嬉しくて堪りません…」

 リンを模る(かたどる)存在感の奥底から、夕香に対しての景仰心で溢れるのだった。

「良かったわ〜、リンちゃんがお気に召してくれて〜。で、バネちゃんは如何だった?」

 夕香の問いにバネは

「………オイ夕香…」

「ん〜?」

「ん〜じゃ無ぇよ夕香、アンタ何かしただろう…?こんなの普通じゃ先ず有り得ねぇぜ…。まさか毒でも盛ったんじゃ…」

「あらいや〜ねぇ〜バネちゃん、可愛い貴方にそんな事する訳無いでしょ〜?」

「か、可愛い!?ハア!?だ、誰が!?ア、アタイがか!?」

「えぇ勿論バネちゃん、可愛い貴方の事よ〜」

「!!」

 嘘偽りを言う筈が無いと、この短時間で理解したバネは、生まれて初めて可愛いと夕香から言われ、胸の奥底から湧き上がる熱い何かで、心が揺れるのだった。

 初めての感情に、困惑しているバネに

「私ねぇ、可愛いバネちゃんと、素敵なリンちゃんにね、少しでも心が安らいでくれる様にと願ってね、お花の蜜を集めたの〜。其うしたらね〜、お花さん達に想いが伝わったのかね、澄んだ蜜を分けてくれたの〜。とても嬉しかったわ〜うふふ〜」

 自分の事を想いながら、そんな事をしてくれていた事を知り、胸が熱く成り、全身が高揚して行くバネ。

 気付けば涙を流すバネ。

 涙を流すバネを見た夕香が

「どどど、如何しちゃったのバネちゃん!?私嫌な事言っちゃったかしら…?其れとも何処か具合が悪く成っちゃったの?大丈夫…?」

 突然の事で、焦る夕香が尋ねると

「……い、いや別に…何とも無ぇよ…夕香…。なぁ1つ聞くが…」

「何とも無いのね〜良かった♡…っで、何?何が聞きたいのかしら…?」

「あっいや…」

「もぉ〜バネちゃん、ちゃ〜んと聞いてくれないと、分からないわよ?どんな事でも聞いて頂戴…ね?」

「………あ…あぁ…。あのさ…」

「ん?」

「ア、アタイ…あの…その…」

「なぁ〜に?」

「ほ、本当に…」

「うんうん…」

「本当に、可愛いのか?」

 今迄言われた事が無かったバネは、自分が可愛いのかと聞くのが恥ずかしかったみたいで、やっとの思いで夕香に尋ねるのだった。

 そんなバネに夕香は

「うふふ何当たり前の事を聞いてるの〜?バネちゃんはね、最初に出会った時から、今もずっと可愛いって思ってるわよ?こんなに愛らしいバネちゃんと知り合えて、私って幸せ者よね〜うふふ〜♪」

 満面の笑顔で答える夕香。

 笑顔で答えた夕香の言葉にも、また、嘘偽りは無いと思いながらも

「う、嘘言うなよ!ア、アタイが可愛いだって!?そそ、そんな事信じられるかってんだよ!!」

 と、反論するバネ。

 其う反論して迄、夕香の言葉を信じられないのには、理由が有った。

 生前のバネは、酷く醜い姿だと虐げられた辛い過去が有った。

 長年虐げられた事により、怒り悲しみ、人々を呪った…。

 其の蓄積された怨念の強さを使者に見出され、怪物のコアとして、魂を使用されたのだった。

 其の為、使者に怪物として創り出されても、醜い姿として創られたバネは、自らの姿が可愛い等とは、とても思えなかったのだ。

 だから尚更、夕香が“可愛い”等と言う事が、とてもじゃ無いが、信じられないバネ。

「本当何を言ってやがる!アタイの事が可愛いだと!?何処を如何見て其う思えるんだ!唯其う言って、アタイを懐柔しようと思ってんのか!?もし其のつもりなら、有無を言わさずブッ殺すぞ!!」

 凄い剣幕で、怒りを露わにするバネ。

 怒り心頭のバネに、夕香は

「如何したのバネちゃん…そんなに怒って…」

 と、バネの怒っている内容が理解し切れて無い返答をする。

「オイ夕香!話を聞いて無かったのか!?」

「あらバネちゃん、ちゃ〜んと聞いてたわよ?」

「なら何度も言ってるだろ!?アタイの何処が可愛いってんだよ!」

「あぁ其の事ね〜。…えっ?怒ってるのって、其の事なの?」

「〜〜〜っだから其うだと言ってんだろ!」

「あらまぁ〜其うなのね〜。…えっ?可愛いって思ったの、出会った頃からずっと思ってたわよ?其れは本当♪だって、こんなにも愛らしい粒らな瞳をしてるし、コロコロ変わる表情もキュートだし、何よりバネちゃんの優しさがね、私にはキュンって来たのよね〜♡もぅ〜何処を取っても可愛くって仕方がないわ〜うふふ〜」

 母性を込めた柔らかく優しい笑顔で答える夕香の言葉に、バネの中で何かが弾け、胸の奥底に在る硬い殻の様なモノに、ヒビが音を立てて入る。

 今迄に感じた事のない胸の痛みに

「グゥ…何だ…この胸の…痛みは…」

 胸を押え、苦しみ出すバネ。

 突然苦しみ出すバネに

「如何したのバネちゃん!?ねぇ大丈夫!?大丈夫なの!?」

 慌ててバネに駆け寄り、抱き締めて大丈夫かと聞く夕香。

 其の夕香の胸に抱かれたバネが

「ち、近寄るんじゃねぇよ…夕香…。アンタ…アタイに何かしやがったんじゃ…ねぇのか…」

 胸を押えながら、夕香と距離を置こうとするバネ。

 だが夕香は

「何言ってるのよバネちゃん!突然急に苦しみ出したのよ!?放って置ける訳が無いじゃないの!何処が痛いの!?苦しいの!?ねぇ大丈夫なの?バネちゃん!」

 抱き締め背を摩りながら、必死に成って、何とかしないとと、夕香が権能で有るヒーリングを施す。

「大丈夫!?ねぇ大丈夫なの!?バネちゃん!」

 只ひたすらに、バネを心配する夕香に

「…ゆ…夕…香…」

 夕香に抱かれ、幽体なのに何故か夕香から温もりを感じ、気が付けば涙が溢れて来るバネ。

「バ、バネちゃん!?涙を流す程辛いの!?本当大丈夫なの!?……あぁ如何すれば良いの…。ごめんなさい…私にもっと癒しの力が有ったなら…バネちゃんを苦しまさせる事が出来るのに…ごめんね…力が無くて…」

 何とかして上げたいのに、何も出来ないと泣きながら謝る夕香に、バネが

「何で泣くんだよ…敵で在るアタイに泣くだ何て…。夕香、アンタがアタイに何かして無いって事は分かった…。だがよ…アンタの所為で胸が、胸が辛いんだ…苦しいんだよ…何故なんだ…?」

 バネは、胸が苦しいと言うと

「胸?…バネちゃん、胸が辛くて苦しいのね?其れって、どんな感じで苦しいの?」

 詳しく知りたいと、夕香が問うと

「………良く分からねぇ…。唯、何かこぅ…締め付けられる様な…暖かい様な…震える様な…意味分からなぇ感じ何だよ…」

 夕香に抱き締められたまま、其う答えるバネ。

「不可視不可領域の結界を張ります」

 ピィ──────ィン…

 リンが突然、自分達を囲む様に、強力な結界を展開させた。

「!?オ、オイお前!突然こんな強力な結界を張るだなんて、アタイを閉じ込めようとしてんのか!?」

「其うよリンちゃん、何故突然こんな事したの?如何しちゃったのよ…」

 リンの行動に驚き、疑問を持った2人が問うと

「閉じ込めようとはしてません…。ですが、有る意味其うとも言えますね…」

「ハァ!?何だ其れ!?」

「私も、全く意味が分からないわ…。詳しく教えて、リンちゃん…」

 何を言っているのか理解出来ないと、2人は言う。

「バネさん、今の貴方を彼のモノから守る為に、結界を張りました」

「彼のモノ!?…其れって…まさかアタイの主人様の事なのか?…」

「はい其うです…」

「な、何故だ!?」

「…其れはバネさん、貴方も薄々気付いている筈です。ずっと監視され、何時でも消滅させられる事を…」

「!!」

 ザネやアネ、カネとガネには、使者からの監視と消滅を遠隔で出来る事を、知らされていた。

 だがバネには其の事を教えられては無く、只の兵器として扱われていた。

 何故ならば、夕香達の存在感を測る為の、使い捨ての道具として、バネが創られたからだった。

 他のモノ達との扱いの違いからも、薄々だったが気付いていたバネは、戦果を上げれば喜ばれ、自分の扱いも変わると思っていた。

 だが、夕香を相手にしている間、ずっと監視されてる様な違和感が有った。

 其の事をリンに言い当てられ、只驚くバネ。

「お、お前…其の事に気付いてたのか…?」

「はい、出会った時からずっと気付いてました」

「……エッ…」

「ですがつい先程、監視の気配が消えたので、其の隙に結界を張らせて頂きました」

「何故…何故こんな強力な結界を張る必要が有った…?」

 何度も聞き返すバネにリンは

「夕香様は勿論、バネさん、貴方も守る為です」

「だから如何してアタイを守らなきゃ為らねぇんだよ!?」

「其れは既に、ご自身でお分かりの筈…。バネさん、貴方の核に変化が生じている事を…」

「!!?」

 リンに指摘され、自分の奥底に在るコアに変化が生じていると、この時初めて気が付くのだ。

「ねぇリンちゃん…バネちゃんの核?に変化ってのは…」

「其れはバネさんが、答えてくれる筈です」

「えっ?」

「ですよね?バネさん…。今貴方が1番欲してるモノ、感じたいモノを言葉にしてみてくれませんか?」

 答えはバネの言葉だと、リンが告げると…

「アタイは…アタイは愛情が欲しい!優しさに触れたい!温もりが欲しい!もぅ2度と醜いと言われたくは無い!ずっと可愛い綺麗だと言われたかった!!」

 と、バネの心の奥底に隠されていた思いが、言葉として吐き出されたのだった。

「ハァハァハァ…」

 秘めた思いを言い切ったバネは、息を荒くし、ポトポトと涙を流す…。

 泣くバネをそっと抱き寄せる夕香が

「バネちゃん、貴方の心を聞かせてくれてありがとう…。私はバネちゃんがとても愛おしくて、可愛くて堪らないわ…。本当、貴方と知り合えて、私は幸せ者よ〜バネちゃん…」

 子供をあやす様に優しく撫で、本音を言ってくれた事が嬉しくて、涙を流して感謝する夕香。

 其の夕香の心に触れたバネが

「ゆ…夕香…嗚呼あぁ…わぁ嗚呼ぁあぁ…」

 夕香に抱かれ、子供の様に泣く…。

「良い子ね…バネちゃんは…うふふ…」

 母性いっぱい込められた愛撫をされた時、バネに異変が起こる。

「アアアアアッ!!ゥアアアアッ!!」

 呻き声を上げたかと思えば、眩いばかりに輝き出し、バネの表皮にヒビが入る。

「バ、バネちゃん!?どどど、如何したの!?一体何が起きてるの!?」

 焦る夕香に、リンが

「夕香様、焦らず其のままバネさんを見守って下さい…」

「エッ!?リンちゃん、貴方何言ってるの!?そんな悠長な…」

「落ち着いて夕香様…。ほら段々とバネさんが、美しく成って来てますよ…」

 そっとバネを指差し、リンが

「バネさん…もう少しだけ頑張って下さい。きっと…いいえ、必ず大いなる力と共に、()()()()姿()()戻れる筈ですから…」

 バネに向けて、煌めく雫を注いで行く。

「リ、リンちゃん、貴方一体何をしてるの!?」

 リンの行動の意味を聞く夕香。

「あ〜ん心して下さ〜い夕香様〜、私はバネさんを癒してるんです〜」

「えっ!?癒し…?」

「はい其〜うで〜す♪癒しです♪」

「えっ?えぇっ!?ちょっとごめんなさい、私には余り良く分からないのだけれど…」

 困惑する夕香。

 其の夕香に

「実は今、バネさんを彼のモノから守る為と、本来のお姿に戻す為に、夕香様の権能の力をお借りして、バネさんの中に在る穢れた種を除去してるんです…。其れが先程の雫です…」

 其う言い終えた直後に、バネに大きな変化が訪れる。

「アァア────ッ!!」

 大きな叫び声を上げたかと思うと同時に、バネの奥深くに在る使者の種が砕け散り、消滅したと同じ様に、バネを覆っていた穢れた皮膚が浄化されたのだった。

 完全無垢な状態のバネ。

 其の姿は、先程迄の姿から、想像を超える変化をし、美しい蝶の羽を纏う少女の姿に為っていた。

 更に、禍々しさが消えた途端、今迄以上の力を宿していたのだ…。

 其の姿を見た夕香が

「バネちゃん…バネちゃんなのね…?何て美しいの…素敵だわ〜…」

「ですです夕香様♪元々可憐なバネさんでしたが、更に磨きを掛けて、綺麗に成りましたよね〜」

 リンも、バネの姿を綺麗だと褒めるのだ。

 褒められたバネは、未だ自分に起きた事に対して、呆然としていたのだが、今迄に感じた事のない幸福感と、漲る力の凄さを全身で感じ

「………これが、アタイの本当の姿なのか…」

 と、穏やかな口調で呟いた。

「ですですバネさん。良かった、バネさんを本来のお姿に戻せた上に、秘めた力も解放出来て嬉しいです…」

 リンが、安堵して言うと

「えっ…これは、お前がしてくれたのか?確かリンっだったよな…」

「はい其うで〜すバネさ〜ん♪私がバネさんの呪縛から、何とかでしたが解放しました〜」

「リン…」

 明るく答えるリンに、胸が熱く成るバネ。

「ありがとうリンちゃん、バネちゃんを解放してくれて〜…。私も本当に嬉しくて、嬉しくて…涙が出ちゃう…嗚呼…嬉しい…」

「夕香様…」

「夕香…」

 バネを使者の呪縛から、解放された事を心から喜ぶ夕香に、心が満たされるリンとバネ。

 泣いて喜んだ夕香がリンに

「ねぇリンちゃん、何故あんなにも凄い力を使えたの?其れとね、如何やってバネちゃんの呪縛を解いたの?」

 と、何時もなら思わない疑問を問うのだ。

 其の問いにリンが

「私だけの力では、先ず無理でした…。ですが、夕香様が集めてくれた花の蜜に、浄化と増加の付加が込められてたんです…。其の蜜を飲んだ私には、力の増加を…。バネさんには、浄化の作用が施されたのです…。ですから、後はバネさんの心を揺さぶるキッカケさへ有れば、何とか浄化が出来たのです…」

「えっ…其れじゃ〜もしかして、私がバネちゃんの心を揺さぶったの?」

「えぇ其うです。バネさんも、自身の事ですから、多分分かってますよね?」

 リンに、自分自身の事を聞かれたバネは

「…まぁな…」

 顔を赤くし、もじもじしながら、其うだと答えるのだった。

「まぁ〜其うなの〜?やった〜嬉しい〜♪私、バネちゃんの役に立てたのね〜キャーッ♡」

 子供の様に燥いで喜ぶ夕香。

「夕香様、そろそろ此処を離れないと危険です。多分、バネさんの変化に気付いた彼のモノが、此処にやってくるやも知れません…」

 喜び燥ぐ夕香に、使者がやって来るかもと、警告するリン。

「えっ…其れは不味いわよね…。折角呪縛から解放されたのに、今度は命を狙われる可能性も有るって事よね…?」

「ですです…。ですから早くこの場を去らなければ…」

「其うよね…。ねぇバネちゃん、良ければだけれど、私達と一緒に来ない?貴方さへ良ければ何だけれど、出来ればずっと一緒に居たいの…ダメ?仲良く成れたから、ずっと一緒に居たいわ〜」

「私からもお願いします、バネさん…。如何か夕香様とご一緒してくれませんか?」

 2人のお願いにバネは

「……あぁ良いぜ?」

 と、あっさりと承諾するのだった。

「えっ本当に!?」

「ですです、本当ですか!?」

 余りにもあっさりと承諾した為、驚く夕香とリン。

「そんなに驚く事か〜?正直、今のアタイにはよ、何であんなクズ野郎に恋焦がれ、従ってたんだと、吐き気がして来たぜ…。其れによ、如何やら夕香の愛情を感じてる方が、満たされるし、力も漲って来る感じだからさ、今後はアタイがアンタを守ってやるよ…」

 少し恥ずかしそうに言う姿に、2人は微笑ましく思えたのだった。

「其れじゃ、此処を離れましょ。お願いね、リンちゃんバネちゃん♡」

「はい、任せて下さい♪」

「あぁ任せとけ、夕香…」

 こうして夕香は、バネと言う強力な仲間を手に入れ、約束の異空間へと仲良く旅立つのでした…。


挿絵(By みてみん)

第86話 夕香の母性 完

 いやぁ〜如何でしたか?

 ちょっと強引な終わり方でしたが、次話に持ち越しするには、ちょっと中途半端に成りそうでしたので、今回はこの形での完了です。

 更に!夕香とリン編は、これで一旦お終い。

 次からは、聖司と神音編が始まります。

 では次話にて…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ