夕香とリン編 4
第81話 キャッチボール
(ちょっと待って〜!其処のお猿さん!私を連れてかないで〜!!)
叫ぶリンの声は届かず、猿は猛スピードで去って行く。
其のスピードは、木々を縫って渡り歩くには余りにも早過ぎて、とてもじゃ無いが、追いつけそうには無い…。
風と一体化して、リンがコントロールしていても、中々追いつけずにいるのに、此処に来て逆風で押し流されて仕舞う。
(ああんもう!ちょっと待ってていってるでしょ!本当、待って下さいよ〜!お猿さん!)
待ってくれと言うリンの声が届いて無いのか、完全無視の猿。
其れもその筈、リンやリンに保護されし魂達の声が聞こえるのは、この場では、夕香しか居ない。
其の事を完全に忘れているリン。
リンや神音達の宝具は、仕えし者や、其の親しい者達のみが、意志を共有出来ていて、初めて可能なのだ。
保護されし魂達は、保護した宝具と其の主人のみにしか聞こえない。
其の為、リンの言葉が通じる様にするには、リンの意思を乗せた声が必要と成るのだ。
其の事をすっかり忘れているリン。
遂には
プチッ…
(キィ───ッ!このエテ公!待てと言ってんだろうが!何で止まんねぇんだよ!待〜ちや〜がれ〜〜〜!!)
と、音を立てて切れたかと思えば、今迄のやんわりした口調は何処に言ったのかと思う程の、汚い口調で言うリンなのでした。
「リ、リンちゃん!?」
ー リ、リン様!? ー
夕香と魂達が、リンの言葉遣いに驚くのでした。
(あ゛〜ん゛!?何すか夕香様、皆さん)
返事も何処か、トゲトゲしく言うのだ。
「な、何ですかって貴方、どうしちゃったのよリンちゃん…」
ー そそそ、其うですリン様!い、今迄のホンワリした話し方じゃないものでして、お、驚いてるのです… ー
……………
(あっ…えぇ〜っと…エヘッ♪)
ズルッ
今迄天然故に、他人の言動で転けた事が無かった夕香ですら、リンの“エヘッ♪”で、何も無かった事にしようとする言動に、思わず前のめりで転けるのだった。
「リ、リンちゃん貴方…流石に今のエヘッ♪で、簡単に済ませそうに無いわよ…」
ー そ、其うですリン様。如何されたんですか!?ま、まさか、其れが本来のすが… ー
(ち、違います!違いますから!…実は私…テンパったり、怒りを感じたりする時、何故か別人の様に成るみたい何ですよ〜…)
「えっ…其れ本当なの?」
(……はい夕香様…事実です…)
「あらら、其うなのね…。でもちょっとビックリだわ〜、まさかリンちゃんも、怒りを感じたり怒ったりするのなんてね〜…意外だわ〜…」
ー 正に其の通りですよ…。天ね…いえ、お優しいリン様が怒るとは、思ってもいませんでしたよ… ー
(ん?何か今、失礼発言が有った気がしましたが…)
ー ドキッ!…リ、リン様、ききき、気の所為ですよ?… ー
(本当ですか〜?)
ー ほほほ、本当です! ー
(其うですか〜?…まぁ其れは良いとして、皆さんやはり驚かれましたよね…?)
自分の別の姿を晒したリンが、分かり切った事を確認する。
「えぇ…まぁ…確かに驚いちゃったわよね〜…」
ー ユイナ様の仰る通り、我等も大変驚きました… ー
(ですよね〜…。今後もパニックに為ったり、怒りを感じた時は、こぅ成ると思ってて下さい…)
ちょっと、シュンとした感じで言うリン。
「えぇ分かったわリンちゃん。でもまぁ〜、知らないリンちゃんをまた、こんな感じで知れて嬉しかったわ〜。ありがとうね、リンちゃん」
ー 正に、ユイナ様が仰った通りです。我等も知れて、大変嬉しく思います… ー
(夕香様〜皆さん…)
ちょっとウルっと成るリン。
ウルウルしてるリンに、夕香が
「でも何故突然、あんな風に怒ったの?」
(えっ?…え〜っとですね、お猿さん…私の言う事を全然、聞いてくれないんですもん…)
「…あら?ねぇリンちゃん、確か以前にね、リンちゃんの声は私達一家と、今保護されてる皆さんだけにしか、聞こえないんじゃなかった?違ってたかしら…」
(……………アッ!)
「…もぅリンちゃんらしいわね〜。まるで権也か、パニックに為ってる聖司さんみたいだわ〜。しっかりしないとね、リンちゃん♪」
(ガ〜〜〜ン…ショック…)
何故か天然に、毒られる聖司。
毒を吐く天然の言葉に、ショックを受けるリンもかなり失礼だと思う魂達…。
知らぬ所で、毒られ小馬鹿にされてる聖司よ、哀れ成り…。
「でもこれで、原因が分かったのだから、お猿さんに、リンちゃんの声が届く様に成るわよね〜」
(ですですです〜。其れじゃ〜今からお猿さんに、待ってと伝えてみますね〜)
「今度はしっかりね♪」
(は〜〜〜い♪では…。お猿さ〜〜〜ん、ちょっと停まって下さ〜い!)
今度はちゃんと届く様に波長を乗せて、猿に話し掛けるリン。
すると、かなり離れた所に居る猿が、ピタっと停止するのだ。
(やった〜!やりましたよ夕香様〜♪お猿さんに、や〜〜〜っと声が届きました〜)
「あら〜良かったわね〜リンちゃん♪」
(はい〜♡)
ほのぼのキャッキャな雰囲気を醸し出してる2人なのだが
「……………」
プイッ
(エッ…)
「あら?」
そんな2人にお構い無しと言わんばかりに、本当にちょっとだけ止まり、即
「ウキキキキィーッ!」
と、森の中へと逃げて猿が去る…。
………寒っ!
そんな親父ギャグを言わずにはいられない魂達。
冗談を言いたく成る魂達に、同情したくなる…。
其れ程にも天然ズの2人。
猿が止まってる間に動きを止めたまま、リン本体を奪えば良かったのに、何故其うしなかったのだろうか…。
こんなマイペースな2人に、翻弄される魂達でした。
「あらら、また逃げちゃったわね…」
(あららって夕香様〜!如何しよう〜!待ってモンキー!停止停止!モンキッキー!!)
また性悪リンが、発動しているみたいです。
「リンちゃんリンちゃん、またお口が悪く成ってるわよ?」
(アッ…またやらかしてました?)
「ウフフッしてたわね〜」
(……シュン…反省…って事で、停まって〜!モンキッキー!!)
……………
余り反省してるようには思えないのだが、今度はしっかりと、猿が停止してくれてます。
(良かった〜。モンキさん、ちゃ〜んと言う事聞いてくれて、私嬉しいです〜)
先程迄、お猿さんと言っていたのに、性悪リン発動してからは、モンキと言い変えたみたいだ。
そんな変化など気にならないのか
「良かったわね〜リンちゃん。これでリンちゃん本体を無事手に入れられそうよね〜」
と、夕香がホワホワしながら言う。
ー えっ?…言葉の変化をスルーですか… ー
「ん?変化?」
如何やら、本気で気付いて無い様なので
ー い、いえ別に… ー
とだけ、答える魂達。
そんな魂達の気苦労など、如何でも良いかの如く
(其処のモンキさ〜ん、私達が其処に行く迄、其のまま其処で止まってて下さいね〜)
と、普通に話し掛けるリン。
すると…
「キィーッ」
「キキィーッ」
「キィキィキィーッ」
と、何匹モノの猿が出現する。
(ハヤッ!?ヘッ?…な、何こんなにも沢山のモンキさんが出て来たの!?…)
「あら、数え切れない程のお猿さんが現れたわね〜。まぁ〜何て賑やかなのかしら〜、何だか楽しいわね〜うふふ〜」
何処か楽しそうな夕香。
(確かに其うですね〜、ふふふ〜)
と、リン迄もが言う。
ー えっ…いやちょっと夕香様?リン様?ななな、何を仰って… ー
この時点で、不安しか感じられない魂達。
マイペースにも程が有るよ!と思う、魂達。
ワラワラと出て来た猿達に
(モンキさ〜んこんにちは〜)
至って普通に挨拶をするリン。
「ウキィ〜?」
「キィーキィーキィーッ」
(モンキさん達が、何言ってるのか分からないですけど〜、取り敢えず其の手にしてる宝石をですね、こっちに投げ渡して下さ〜い!)
猿迄未だ少々距離が有った為、夕香の所迄、投げ渡して貰おうと考えたリン。
だが悲しいかな、猿には夕香の存在など見えてはなく
「キィ?」
と、首を傾げ
ポイッ
と声のする方に、リン本体を投げ捨てる。
(やった〜!ありが)
ヒュン…
投げられたリン本体は、夕香の直ぐ側を通過し、別の猿がキャッチするのだった。
(エッ…)
「あら?」
気付けば夕香を中心に、猿達が何匹も現れていて、グルリと囲まれていた。
其の内の1匹に今度は、リン本体が行き渡って仕舞うのだ。
(ちちち、違〜う!其うじゃ無いです〜!コッチ!コッチです!コッチに投げて〜!!)
慌ててコッチへと寄越せと言うと
ポイッヒュン…
今度もまた、別の猿へと投げられるのだった。
(イヤヤヤヤッちちち違います!コッチ!コッチですって〜!)
そしてまた
ポイッ…ヒュン…
と、またまた別の猿に投げ渡し、見事に夕香の直ぐ側をリン本体が通過するのだった。
(ちょっちょっと〜!コッチですって〜!なぁ〜んで其う意地悪するんですかぁ〜!!)
リンの波長を乗せた、抗議の言葉に
「ウキィ?」
何を言ってるのか分からないと、首を傾げる猿。
(ちょっとモンキ〜!私の言ってる事が理解出来ないの〜!?)
ダークリンがヒョコッと出現し、少し?苛立って来ているみたいだが、猿にしてみれば、そんな事など知った事では無いのだ。
何故なら、人よりも野生の感は持ち合わせていても、霊体の夕香の存在など見える筈も無く、只リンの波長を乗せた声のする方へ、投げてるだけなのだから…。
其れを理解していないリンは
(このぉ〜モンキー共!!言う事聞いてくれないのなら、私泣いちゃうからね〜!其れでも良いの!?)
と、半泣き状態で、更に抗議するのでした。
「ウキィキィ…?」
何処からか聞こえる声に、少し困惑しながらも、リン本体をヒョイヒョイと投げては受け取るを繰り返す猿達。
(ゥキャ────ッ!私をオモチャにしないで下さいよ!この大バカモンキ〜!!)
ダークリンが、遂に切れ始めるのでした。
でも、其の状態を黙って見ていた夕香が
「落ち着いてリンちゃん…。少し冷静に成りましょ?出来る?」
と、リンを宥めるのです。
(ん゛ん゛!?何ですか夕香様…。私は至って冷静沈着ですよ!?)
誰が如何見ても、苛立ちとパニックに為ってるリンに
「裏のリンちゃんもね、中々魅力的だけれどね、やはり何時もの穏やかなリンちゃんの方がね、私は安心するし、好きだわ〜」
其の言葉にまた、裏使用の自分を曝け出していた事を知り
(ありゃら、また醜態を晒しちゃっていました〜!?)
「えぇもうバッチししてたわねぇ〜」
ー してましたよ〜…。でも、闇リン様も中々可愛らしくて、とても新鮮で良かったですよ? ー
と、夕香と魂達のご意見でした。
「ねぇリンちゃん、確認を込めてまた1つ疑問を聞いても良い?」
(…別に聞かれても大丈夫ですよ?何でしょうか?夕香様〜)
「えっとね、お猿さん達にはね、私の存在が見えてるのかしら?リンちゃんの言葉はね、意思を乗せているからね、聞こえてるとは思うのだけれど、肝心の私が見えてないんじゃないのかしら…?」
天然な筈なのに、メチャクチャまともな事を言う夕香。
其の意見に
(……あっ、確かに其うかも知れませんね…)
夕香の意見に賛同するリン。
「其れじゃぁ〜また次にね、お猿さん達のキャッチボールを始めたなら、お猿さん以外がキャッチしちゃえば良い訳よね?」
天然らしく無い発言をする夕香。
(あっ…其うでしたね…其の事をすっかり忘れてました。では夕香様〜、次モンキーの野郎が投げたら、すかさずキャッチして頂けますか?)
闇リンのお願い提案に
「あっそっかぁ〜、私がリンちゃん本体を受け取れば良いのよね〜。は〜い了〜解♪上手くキャッチ出来るように頑張ってみるわね〜。任せてねぇ〜、リンちゃ〜ん」
とね、すんなり了承するのです。
だが魂達は
“この人に、そんな高等技術が出来るのだろうか…”
と、メッチャ失礼な事を思っているのです。
案の定…
「ウキャッ!」
「ウキャキャッ!」
「キャッ!」
「キィーキィーキィーッ!」
ヒョイヒョイヒョイと、猿のキャッチボールに付いて行けない夕香。
「あれ?あれれ〜?中々上手くキャッチ出来ないわね〜…」
(もぅ〜夕香様〜…)
「ごめんね〜リンちゃん…。でもね、何だかお猿さん達もね、リンちゃんのキャッチボールが楽しく成ってきてるみたいで、何だか私、嬉しいわ〜うふふ〜」
と、少し?狂気を感じられずにはいられない発言をします。
(ええぇ〜夕香様、何言ってるんですか!?確かに其の様ですよね〜。私もちょっと楽しく成って来たかもです〜エヘヘ〜)
従者のリン迄もが、ブッ壊れた発言をしちゃいました。
ー いやいやリン様!?ユイナ様!なぁ〜におバカ発言してるんですか!何時迄そんな呑気な事言ってましたら、いつに成ってもリン様を捕える事が出来ませんよ!!しっかりして下さい!お願いしますから!! ー
遂には、ゆるゆるノホノホな2人を叱り付ける魂達。
言った直ぐに
“仕舞った…遣える主人に、何て失礼な事を言って仕舞ったんだ〜!ヤバい〜!! ”
と、魂の状態なのに、青ざめて行く魂達。
「あら、ごめんなさい…。皆さんの言う通りよね…。私直ぐ楽しく成っちゃうみたいで、本当ダメね〜…反省…」
(其れを言うのなら、私もです…。少しでも賑やかに為ると、遂ついお祭りしてる気がしちゃって…何だか楽しく成っちゃうんですよねぇ…)
魂達に叱られて、しっかりと反省する2人。
内心バクバクしていたのに、こうもすんなりと、受け入れてくれる2人に魂達は
ー 今迄、王族のユイナ様と其の従者のリン様に失礼だと思い、強く発言して来ませんでしたが、今後はズバズバと物申させて頂きます。口調もユイナ様の時代で言うのなら、フレンドリー?とでも言えば良いのでしょうか?そんな感じでズバッと発言しますが、宜しいでしょうか? ー
と、この2人になら、其れをしても平気だろうと、心に決めた魂達なのでした。
「あらまぁ〜そんな事?今更何言ってるの〜?其うして欲しいと、前から言ってたじゃない…、ねぇリンちゃん…」
(………?でしたっけ?)
「言ってたわよ〜!忘れたの〜?」
(ん〜其うだったかも…。なので、其うして下さいねぇ〜♪)
2人の返答に、ガクッと成る魂達。
いやいや、仲良く成りたいとは言っていたが、そんな事一言も言ってはいなかったぞ!?と思う、魂達なのでした…。
ー 其れでは早速…。ユイナ様、リン様本体を奪い取る為に、猿のキャッチボールの軌道を理解出来ますか? ー
「う〜〜〜ん…お猿さん達が、誰に投げるか分からないから、投げる方向は予測出来ないわね〜…。軌道は何と無く分かってるけれど…」
ー やはり其うでしたか…。リン様は、ご自身の力で、投げられた軌道をコントロールする成り、此方へ引き寄せる成り出来ますか? ー
(……其れは一応出来ますけど、其れをするとですね、夕香様の試練の邪魔に成って仕舞いそうで、今迄して来なかったんですよね…)
ー 成る程…ユイナ様の、試練の邪魔の件に関しては、どんなモノなのかを知らないですから、何か縛りがお有りと思えば宜しいのですよね? ー
(はい、其う何です〜…。これ以上の内容を夕香様には、教えてはいけないんです…。これ以上は、夕香様の存在にも影響を及ぼす可能性が高いんですよね…)
何やらかなり重要な、キーワードを口にするリン。
其のキーワードに、思わず
ー エッ…?あ、あの〜リン様?今、結構重要な事をサラッと仰いましたが、其れも知られてはいけないモノなのでは…ないのでしょうか…? ー
天然リンの発言に、かなりビビる魂達。
なのに
「えっ?其うなの?ねぇリンちゃん、何だか小難しい事言ってそうだったけれどね、ごめんね〜私難しい事良く分からないからね、まぁ〜たく聞いて無かったんだけれど、聞く必要は無かったと思えば良かったのかしら?」
と、素で聞く夕香。
(ー ズルッ ー)
魂達の心配と、リンがやらかしたと思ったのを他所に、何の悪びれも無く言うモノだから、思わず転けるリンと魂達。
(ゆ、夕香様…)
ー ハハッ…ハハハハハ… ー
リンはリンで、夕香らしいと思い、自由で天然の対応は疲れると思う、哀れな魂達。
ハァ〜と溜め息を1つし
ー ではユイナ様、我等が指示しますので、其の通りに行動してみて下さい ー
夕香にリン本体をキャッチ出来る様に指示し、リンには
ー リン様は、猿が好き勝手に投げない様に、上手く誘導して下さい ー
と、司令を出す。
「は〜い分かったわ〜」
(了解で〜す!)
ー ではお2人共、タイミングをしっかりと合わせて下さい。行きますよ? ー
「はい皆さん♪」
(宜しくお願いしま〜すで〜す♪)
ハァ〜…本当に緩くて軽いわ〜と思う魂達。
そして
ー ではリン様、猿を誘導きて下さい ー
魂達に言われるまま、リンが
(ハイハイハイモンキッキ!そっとこっちに投げちゃいましょ〜!)
闇リンが、テンション高めに誘導する。
誘導された猿は、闇リンの指示に従い、ヒョイっとリン本体を投げると
ー さぁ今ですユイナ様!少し左下に移動して、しっかりキャッチして下さい! ー
夕香も指示に従い、言われた通りに左下に移動し
パシッ!
見事、リン本体を手にする事が出来たのだ。
「あらまぁ〜!皆さんの指示通りにしたら、こんなにも簡単にリンちゃんを手に出来たわ!」
自分でも上手くキャッチ出来たと驚く夕香。
(やりましたね夕香様〜!ありがと〜う皆さ〜ん!おかげで無事夕香様に、私本体が手にされました〜!とても嬉しい〜♪やった〜♡)
大はしゃぎの2人に
ー 良かったです。我等がお役に立てた事がこんなにも、嬉しいモノだと思い出させて頂けて、我等は幸せです。ありがとうございました… ー
誰かの役に立てた喜びを、五千年振りに思い出せて、幸福感で満たされる魂達。
其処に夕香が
「何を言っているの〜皆さん…。お礼を言いたいのは私の方よ?ありがとう、皆さん…」
(私も夕香様と同じ気持ちです。感謝感謝感激です〜♪)
お互いに、感謝の気持ちで満たされ、この一帯が、勢いを増して華やいで行く。
「ようやくリンちゃんを手に出来たわ…」
(ですね〜夕香様〜…感無量です〜。では早速ですが、地上に降りて、私に纏わり付く不浄なモノを浄化し、私と主従を結んで下さい…)
「えぇ其うね、其うしましょうか…」
其う言って地上に降り立ち、リンに纏わり付いてた不浄なモノを夕香の癒しで浄化する。
実は其の不浄なモノが、リンの意思を阻害していたのだ。
何故そんな不浄なモノが、リン本体に纏わり付いたのかは不明なのだが、多分これ迄にも沢山の動物に、食べられていたのだろう…。
何せ大蛇に丸呑みされていたのだから…。
浄化した夕香が
「リンちゃん、これからもずっと一緒に居てね。宜しくお願いね…」
(はい夕香様…)
赤ん坊を抱きかかえる様に、そっとリン本体を手にすると
パァァ─────ッ
リン本体が光り輝き、本来の姿を取り戻すのだ…。
其れを見た夕香が
「これがリンちゃんの本当の姿なのね…。何て素敵なの…」
「そんな〜、何だか照れちゃいます…。でも夕香様に其う言われると、何よりも嬉しく思えます…エヘッ♪」
ー 我等も皆、リン様の本来のお姿を拝見出来、とても感動しております…。あぁ…何て素晴らしいお姿なのでしょう… ー
魂達もリンの姿を見て、其の神々しさに崇敬の念を覚えた…。
其れ程にも、美しく神々しい姿をしているリン。
こんなにも神々しいのに、宝具達の中では最弱だとは、とてもじゃ無いが、思えない夕香と魂達。
更に主従関係を結んだ事により2人の力が増大し、夕香は魂力が大幅に増し、リンは存在感が底上げされ、2人の力が共鳴した瞬間に、半径10kmもの動植物が癒され、生命力に溢れるのだった。
其れは動植物だけでは無く、保護されし魂達も癒され力を増したのだ…。
其れを肌で感じた気になる夕香が
「私の力は、こんなにも素晴らしい力だったのね…。この力を授けてくれたピカさんに感謝しなくちゃね…。ありがとうピカさん…」
此処には居ないピカさんに、感謝の想いを乗せて、言霊として、ピカさんに届く様異空間に解き放つのだ。
異空間に解き放ったのは、勿論リン。
夕香のするべき事が全て終わったと思った時、約束の異空間に戻ろうとしたら
「何てひ弱そうなオバハン何だ?」
と何処からか、罵る声が聞こえて来た。
でも
(何処からか声が聞こえて来たけれど、誰かを探しに来た人が何処かに居るみたいね〜。目的の人が見付かったみたいで良かったわね〜)
と、其れだけを思って、この場を離脱しようとすると
「おいおいおい、ちょっと待ちなよオバハン!アンタ何バックれようとしてんだよ!」
意志を乗せた言葉に
(あれ?もしかして、私の事を言ってるのかしら…)
と、キョトンとしながら立ち止まるのだった。
立ち止まる夕香に
「やっと自分の立場を理解したみたいだよなアンタ。オバハンがアタイを煩わせるんじゃねぇ〜よ!」
と、かなり上から目線で罵るモノが、夕香の前に姿を現すのだった。
「アタイから逃げられると思うなよな?」
「……………」
「何だ?ビビって何も言えないってのかい!?」
「……………」
「ハハッ如何やら本気でビビってるんだな」
ニヤニヤしながら、夕香に近付いて来た。
其のモノに
「ねぇ貴方、お名前は何て言うの?」
と、普通に尋ねる夕香。
「何だ?ビビって言葉も発せないと思えば、アタイの名前を聞きたいのかよ…。良いだろう、如何せアタイに消される運命のオバハン何だから、消される相手の名前くらい教えてやるさ」
消滅させられる夕香に、せめてもの情けだからだと、答えてやると言う。
「ありがとう〜、で、何てお名前?」
「聞いて驚くなよ?アタイの名はバネ、バネだ。アンタを葬る為に、あのお方から遣わされた、最強の存在だぜ!?驚き慄いてろよ?アハハッ」
自分の事をデカく言う事に、自己陶酔しているバネ。
「バネちゃんね〜、私は夕香、龍乃瀬 夕香と申します。以後宜しくね〜うふふ〜」
バネの威嚇を織り交ぜた罵りをも、モノともしない夕香。
「おいアンタ!何悠長な事言ってんだ!?アタイはアンタを消しにやって来たんだぜ!?」
「えぇ其うみたいだわね〜。でもね、如何せだったなら、私が消される前にね、少しでもお話し出来ないかしら?其れくらいの余裕は有るわよね?」
と、平然と答える夕香。
其処に
「ちょっと夕香様!このモノはとても危険です!私達の今の力じゃ、太刀打ちするのが精一杯かも知れないんですよ!?」
ー 其うですユイナ様!怪物として解き放たれた我等とは違い、我等50体モノの力を宿して創られた、知識の有る怪物なのです!しかも、我等が知ってる時よりも、更に強力に成ってます!今直ぐこの場を離れて逃げなければ、魂の消滅は免れません! ー
焦る様に、今の状況を素早く説明するリンと解放されし魂達。
だが
「大丈夫よ?皆んな…。心配してくれてありがとうね♡」
リンと魂達の心配を他所に、何処かお気楽な夕香が
「ねぇバネちゃん、ほんの少しでも良いからね、私とお話ししない?私、バネちゃんの事色々と沢山聞きたいのよね〜、ダメかしら?」
自由な夕香が、バネにダメかと聞くと
「フンッ!まぁ其れくらいならな、別に良いだろう…。だが、只の逃げる算段や延命処置だと分かった時点でアンタを殺すから、其のつもりでいなよな?分かったか?」
「うふふっえぇ分かったわ〜、其れでOKよ〜バネちゃん♪」
こうして夕香は、使者から遣わされた敵を目前に、平然と会話を楽しもうとするのでした。
夕香の計り知れない考えに、翻弄されるリンと魂達なのでした。
果たして無事に、この場を凌ぐ事が出来るのでしょうか…。
「うふふ〜」
夕香の楽しそうな笑い声だけが、この場に響くのでした。
第81話 キャッチボール 完
はい、今回は此処迄です。
では、また次話にて。