弥夜とシルバ編 6
弥夜とシルバ、カネとガネ。
其れと使者達との戦いは如何なるのか、展開を楽しめて読んで貰えたら嬉しいです。
では本編を如何ぞ〜。
第62話 誰?
敵だと思っていた新しいタイプの怪物2体。
其れが如何言う訳か、弥夜達の味方になりそうなのだ。
使者達の目を欺く為にザネとアネを弾き飛ばし、其の隙に傍受不可の専用回線を弥夜と2体の怪物に繋げ、コンタクトを取ってみる事にした。
語尾にカネとガネを付けて話すので、ついバカな感じがしてしまうのだが、話し始めると、とても知性豊かなモノなのだと理解する弥夜達。
シルバによって、時間を早めての会話は楽しく弾むのだ。
会話が弾む中、自己紹介を済ませるカネとガネ。
まさか敵として創られたモノと、コレだけ楽しく話す事が出来るとは思っても無く、短時間ながらも情が湧いて来てしまう弥夜。
そんな弥夜に、カネとガネが非常に辛いお願いをして来た。
其れは…
「あの時代での貴方様は、前王妃のヤル様で合ってますカネ?」
「其うみたいね」
「やっぱり其うだったガネ!良かったガネ!…でも先程迄のご無礼には、何とお詫びしたら良いガネ…」
「其の事なら、もぅ気にしてませんからね。悪いのは全てあの使者!アイツのせいで、永い時を逆らえず抗えずにいた貴方達を責める気は無いわ…」
「其れはとてもありがたいカネ、感謝仕切れないカネ…。前王妃様の許しが得られたばかりでとても心苦しいのですカネ、お願いしたい事が有るカネなのです…」
「私にお願いしたい事?其れはどんなお願いなの?」
「我等の目を破壊して見えなくして欲しいガネ…」
カネとガネのお願いとは、自分達の目を潰して欲しいのだと言う。
卑劣極まりないモノなら、躊躇わずに出来ただろう…。
だがこの2人に情を持ってしまった今の弥夜には、とてもキツくて叶えられない願いだった。
そんな事は出来無い、無理だと断ろうとする前に
「俺達の見てるモノ全てが、あの者に見られているカネ…」
「其れに逆らえない様にする為の種も、植え付けられてるガネ…」
「種を排除したくても、見られていたら排除出来無いカネなのカネ…」
「とても迷惑で勝手なお願いなのですガネ、如何か叶えて欲しいですガネ…」
カネとガネは、無理矢理にでも断れ無い様にと先手を打って来たのだ。
其のおかげで、しっかり2人の策に嵌った弥夜。
断るに断れない内容を聞き、悲痛な思いをしながら承諾するのだった。
「分かったわ…貴方達が怪しまれない様に今もお互いが攻撃し合ってるけど、そろそろザネとアネも参戦して来る筈だから、其の前に何とかしないとね…」
「ありがとうございますカネ!では俺達が一斉に飛び掛かるカネ、其の時に目を潰して出来れば遠くに弾き飛ばして欲しいですカネ」
「所で、貴方達の目が無くなってしまったら、今後は如何するの?見えないままじゃ大変何じゃないの?…」
「其れなら大丈夫ガネ!貴方様のお付きの宝具さんが、新たに創ってくれると思ってますガネ〜。其れくらいは簡単な事だと確信してるガネ〜」
シルバに、新しい目を創って貰えるから大丈夫だと、勝手な事を言う2人。
弥夜は、何て図太い性格をしてるのだと思いながら、何処か憎めない2人に愛着が湧いて来ていた。
シルバからしてみれば、弥夜を前にして、其う言われてしまうと断れない2人の交渉術に呆れながらも、2人の頭の回転の速さと計算力に、そして相手に警戒心を持たす事無く引き込む能力に長けている事に、とても関心していたのだった。
「カネ、ガネ、良いでしょう2人の目は、私が責任を持って創ります。ただ1つ、私はお付きの宝具と言われたく無いのです。弥夜様から頂いたシルバと言う名前が有るのです。今後は名前で呼ぶ様に…」
「分かったカネ!シル!」
「分かったガネ!シル!」
“呼び捨てした上に、バを略すな!”と叱責しようとしたシルバだったが
「ウフフフフッ!何とも明るい人達なのね〜。今から痛い思いをしなきゃいけないのに、貴方達って如何して其処迄楽しそうに出来るのかしら?…」
と、弥夜が笑って言うものだから、この2人に対しては、許可する事にしたシルバだった。
「本当に、良い性格してますね…」
「褒められて嬉しいカネ〜!」
「だガネ〜!」
「…………」
シルバは疲れる…と、黙る事にした。
「ウフフッ…。コレから貴方達を痛めつけなきゃいけないけれど、如何してもちゃんと出来る気がしないわ…」
「如何してカネ?」
「何故ガネ…?」
「其れ!其の語尾とかにね、カネ、ガネが入っているせいだからよ…」
「カネ?」
「ガネ…?」
「悪いけれど、何だか力が抜けちゃうのよ…。生前も、其の言い方だったの?」
「いえ違うカネ…。これは彼奴が俺達を創った時に、ふざけて面白半分で付けた機能だカネ」
「其うなのだガネ…。でも今は、貴方様がこの話し方で笑ってくれてるガネ。だから気に入ってるガネよ〜」
気の良いこの2人を如何にかして上げたい、怪物では無く、元の人間として安らかな眠りにつかせて上げたいと、弥夜はこの時強く思ったのだった。
シルバも弥夜に対し、怪物として創られても尚敬意の念を持つカネとガネに、敬意には敬意で応えなくてはと思うのだった。
「弥夜様、ではそろそろ始めましょうか?」
「其うね、始めましょう。カネ、ガネ、本当に良いのね?」
「良いカネ!」
「お願いするガネ!」
「…分かったわ、其れじゃやるわね!」
「お願いするカネ!其れと、出来るだけ遠くに飛ばして欲しいカネ!」
「飛ばされた先で、彼奴から貰ったこの宝石達に力を宿してから、此処に戻って来るガネ〜!宜しくガネ〜!」
怪物なのに善良な2人を思い、躊躇ってはいけないと心をグッと、意思をギュッと固め
「土刃威!」
針状にした土刃威を2人が襲うタイミングに合わせて放つ。
「キャネーー!」
「ギャネーー!」
カネとガネの両目は破壊され
「出来るだけ遠くに飛ばすわ!ハアァアッ!土手羅!」
渾身のフルスイング。
「ま〜た〜カ〜ネ〜ェェェェェ………」
「ま〜た〜ガ〜ネ〜ェェェェェ………」
痛い目に遭いながらも、何処迄もコミカルなカネとガネ。
多分、“またね”と言っているのだろうと思う弥夜達とは違い、使者達は
「何とも情け無いやられ方だ…。アホにしか思えん…」
と、またやられてしまったと言いながら、飛ばされてしまったのだと思っていた。
ま〜た〜のこの部分が、双方によっては捉え方が違うだろうと、カネとガネは予測していたのだった。
だから弥夜から攻撃を受ける前に、2人がやられた時のセリフを予め決めていたのだった。
使者に創り出された怪物の中の誰よりも頭は切れ、回転が早い策士だったのだ。
其れなのに使者は
(使えん!本当に使えん!…如何してこうも、私を不愉快にさせる失敗作しか出来ぬのだ…。情け無くなるわ…)
創り手の自分を棚に上げて、ザネ達の不出来に苛つきが止まらなくなるのだ。
其れを察したアネが、ザネに
「これ以上失態を晒しては、あの方のご機嫌を損ねるだけじゃ無く、私達も消されて創り直されるわ…。ザネ、貴方も覚悟を決めて、せめて新たに現れたあの宝石を破壊するわよ!良い!?」
小さな声でザネに言うと
「分かった…少しでもあのお方の憂いを無くさなければ、この先抱かれたくても抱いてはくれまい…。其の前に、消されてしまうだろうからな…」
直ぐ側に、愛しい者が居るのに、捨てられ消されるかも知れないと思う恐怖から、使者を見る事すら出来無いザネとアネ。
2人は青褪めながら、流れ落ちる冷や汗が止まらなくなっていた。
其の恐怖が臨界点に達した時
「グゥギャアァァァァァーーー!!」
歪な雄叫びを上げながら、ザネがシルバに特攻する。
「イヤァアァァァーーー!!」
アネも雄叫びを上げ、ザネに続くのだった。
其の少し前
「カネ、ガネ…聞こえる?私達の会話は何処に居ても繋がるみたいだから、何か有ったら知らせてくれるかしら?其れ迄あいつに気付かれぬ様気配を消して、貴方達の治療と宝具創りに専念して頂戴ね」
「あっ声が聞こえたカネ」
「分かっただガネ。宝具が出来次第、直ぐ合流するだガネ」
「だから待っててだカネ」
「頑張って早く創るだガネ」
こんな言い方は良くは無いと思うのだが、人懐っこい賢い犬の様な、幼い子供の様な気がして来た弥夜だった。
見た目は怪物より、かなり人間に近い姿をしている事も有るせいか、段々と愛おしくさへ思えて来ていた。
だからこそ、善良な者の魂をも弄ぶ使者が許せなかった。
出来るなら今直ぐ此処で、使者を消してやりたい気持ちでいっぱいになっているのだが、其うも行かない。
ザネとアネだけなら何とかなると思っていたが、使者も此処に居る今、其の全てを相手にするにはキツ過ぎる…。
本当は、これ以上カネとガネを巻き込みたくは無かったが、今は少しでも戦力が欲しい…。
悔しいが、少しでも多くの力を削ってから、この場を去って貰えたら御の字。
だが其れも難しいだろう…。
カネとガネの救援が来る迄の時間稼ぎが精一杯…。
其れが、弥夜とシルバが思った状況だった。
其う思った時、奇声の雄叫びを上げてザネとアネが攻撃して来る。
シルバは戦い易い姿に変わり
「弥夜様、私がこのモノ共の相手をします!ですから安全な所迄お下がり下さい!」
「何言ってるのよ!貴方1人で如何こう出来る訳が無いでしょう!微力だけど私も一緒に戦わないと、貴方の主人として失格だわ!護られるのが当たり前になってしまったら、絆を結んだ意味が無いわ!」
「弥夜様…分かりました、ではご一緒に戦って頂けますか?」
「勿論よ!私が出来るだけ威嚇して、相手の動きを鈍らせるから、容赦無くアイツ達を痛めつけて上げてね!」
「畏まりました」
其処から弥夜の威嚇とシルバの強力な猛攻撃で、ザネとアネの本気の攻撃を喰らいながらも、何とか2人に大ダメージを与える事が出来ていた。
何度かザネとアネの攻撃を受けた時、本気のザネの力はこんなにも有ったのかと、初めて知る弥夜達だった。
初めはザネが、タカを括っていたせいでも有るのだが、最初から本領発揮していたなら、意図も簡単に消滅させられていただろうと思う弥夜達。
完全体のシルバでも、此処迄苦戦してしまう程強かったのだ。
其の上、時折使者からの攻撃も加わり、ただでさえ強力なのに向こうは3人、此方は2人…。
分が悪い事は確かなのだ…。
疲弊するシルバだったが、其れ以上に疲労困憊の弥夜。
弥夜は権能に、もしもの時の為にと修行場で修練をしていた時から、少しずつ力と幾つかの術を蓄えていた。
其れを全て使い切ったのだが、余りにも敵が強力過ぎて倒す事が出来ない…。
後もう1つ、別の手段が有るのだが、其れをするには少なくとも5分程の時間の余裕が欲しいのだ。
其れは、弥夜の属性である大地からのエネルギー補給。
他の属性とは違い、全てのモノを支える大地には、強力なエネルギーを秘めた場所が数多く点在している。
所謂パワースポットである。
其の付近にさへ居れば、弥夜の属性と共鳴してエネルギーを補給出来るのだ。
ただ其れには幾つか条件が有り、1つはパワースポットの側に居なくてはいけない事。
同じ大地のエネルギーでも、全てが同じエネルギーでは無い上にどれでも良いと言う訳では無く、弥夜に悪影響を与えるモノも有る為、其の場合は1度適応出来る様に精製しなくてはいけないのだ。
此処ストーンヘンジもやはりパワースポットなのだが、弥夜に悪影響を与えるモノだった。
其の為、大地のエネルギーを濾過精製し、エネルギー補給する為の時間がおよそ5分程必要だった。
だが今の現状では其れが出来そうに無い…。
ジリ貧で焦る弥夜に、使者が
「ザネ、アネ、お前達は其のモノを相手するのだ。私はこのヤルを始末する…」
ザネとアネにシルバの足止めとして相手をさせ、其の間に疲弊した弥夜を自らの手で始末しようとするのだ。
此処迄疲弊していれば、脅威と思える弥夜の権能も威力は落ち、労する事無く始末出来ると考え、其の嬉しさの余り、ただでさえ不気味な面立ちなのにニヤける其の顔は、更に輪を掛けて不気味に思えて来る。
ザネとアネは言われた通りにシルバを足止めし、弥夜とシルバは完全に引き離されてしまった。
「フハハハハハッ!ようやく1人…しかも目障りな力を持つ者を始末出来るわ…。フハハハハ…ワアッハハハハハハ!」
余程嬉しかったのだろう、耳障りな高笑いが止まらない様だ。
「弥夜様!弥夜様ー!」
何とかして助けに行きたいシルバ。
だが其うさせてくれないザネとアネ。
苛立ちだけが湧き上がってしまい、冷静さを失うシルバ。
「こんボケガァー!お誰ら何時迄邪魔してくれとんじゃい!さっきからしつこいんじゃい!」
其う怒号するが、疲弊した今のシルバの力では、威嚇にすらならなかったのだ。
目の前で弥夜が、使者にいた振り弄ばれ始めているのを助ける事が出来無い。
だが冷静さを失ってたからか、カネとガネとの通信を無意識にしていた様で
「シル!如何したカネ!!」
「とても怒ってるガネ!!」
傍受不可のこの通話で、シルバに少し冷静さを取り戻す事が出来た。
「あぁ貴方達ですか…。正直とても怒りに満ちてます…。今とても危険な状態で、主人の弥夜様が消され掛けているのです!…ですが、ザネとアネが私の邪魔をして、助けたくても助けられないのです…」
「其れは本当なのカネ!?」
「こんな事で偽りを言ってもしょうがないでしょう…」
「其れは本当に困ったガネ…。如何するガネ?」
「ん?ガネよ、其の如何すると言うのは一体、如何言う意味なのですか?」
「実は俺達も何モノかに邪魔されて、身動き取れなくなってるカネ…」
「其のせいで、宝具も後僅かな所で、完成出来て無いガネ…」
「何!?其れは本当なのだな!?適当に言って、本当は私達を騙しているとかではないのか!?」
「…其う思われてもしょうがないカネ…。でも本当なのだカネよ…」
「シル、言葉だけじゃ無く、俺達の今の状態を意思で共有出来無いガネ?…其うすればシルの知恵で、此処を何とか打破出来るかも知れないガネ…」
「…分かりました、其う難しい事では有りませんからやってみましょう…」
其う言って意思を共有すると、確かに2人は何モノかによって封じられていた。
(ん?この封印には見覚えが有りますね…)
「カネ、ガネよ、疑ってしまい済みません…。今其の封印を解除しましたから、悪いですが一刻も早く、救援に駆け付けて貰えますか?」
「おおっ!動ける様になったカネ!」
「勿論直ぐ駆け付けるガネ!」
「其れと疑われても別に気にして無いカネ」
「全てヤル様の為ガネだもの」
「其う言って頂けたら、此方としても大変助かります。ですが本当に猶予が無いのです!速度を上げたこの会話も、これ以上は無理でしょう。悪いですが通信を切ります、一刻も早く弥夜様を助けなければいけないので」
其う言って直ぐに通信を切る。
(あの2人がやって来る迄に、何としても弥夜様の前に辿り着かなければ!)
少しだけ希望が見えたシルバは、最後の踏ん張り所だと気を引き締め、今迄以上に集中して立ち向かうのだ。
弥夜も懸命に使者との攻防を繰り広げてはいるが、徐々に削られて行く魂力と使用エネルギー。
其れでも気力だけは常にMAX。
自分以外の愛する者達、大切な者達の為ならば、何処迄も気丈に、そして強くなれる。
其れが弥夜たる者なのだ。
今この場で消滅されて、輪廻転生の輪に組み込まれたとしても、其れで良いと思っていた。
ただし、目の前の使者を道連れにしてでも消滅、もしくは半分でも良いから、弱体化させてからなら…。
犠牲は自分1人だけで良い。
其う思って、魂の全てを掛けて使者に、ひたすら攻撃をし続けるのだった。
だが、其れも長くは続かなかった…。
何とかアネを生き絶えさせ、ザネも戦闘不能迄持ち込んだシルバが、弥夜の元に駆け付けようとした時、立ち上がる事すら出来なくなった弥夜が、トドメを刺されそうになっていた。
「!!弥夜様ーー!!止めろ!止めないかーーー!!」
声の限り叫ぶシルバを横目に見、フッと憎らしい笑みを浮かべて
「死ね!…」
使者は渾身の一撃を弥夜に撃ち放つ。
「や…弥夜…様……。貴様アァァーーー!!!」
弥夜が消滅したと思ったシルバは、絶望しながら叫んだ。
だが
「間一髪だったカネ〜!」
「危ない危ないガネ〜!」
其う言いながらシルバの前に舞い降りるカネとガネ。
「!お前達…。今救援に来ても遅い…遅過ぎた…」
「?何言ってるカネ?」
「救援はありがたいが、今アイツに弥夜様が…」
「だから何言ってるガネ…。ヤル様は無事だガネ」
「!?」
「間一髪、俺達の多重防御膜を張ったから、助かってるカネよ〜」
其う言われてシルバは初めて気付く。
弥夜との絆が切れていない事を…。
「あぁ弥夜様…」
使者の攻撃で覆っていた煙幕が晴れ、球体状の防御膜に守られた弥夜の姿が在った。
姿を確認出来て安堵するシルバに対し
「貴様等〜〜!一体何をしている!…何をしでかしたか分かっているのだろうなあ〜!!」
怒りの矛先は勿論カネとガネ。
自分の手足として創り上げたモノに、まさかの裏切り行為を受けるとは思っても無く、使者にしてみれば許し難い行為であった。
命を与えてやったのにと…。
そんな心情を手に取る様に理解するカネとガネは
「何をしでかした?そんなの分かってるカネ!」
「当たり前だガネ!主人様…いや、クソ様の邪魔をしたんだガネ!」
「何だとぉ〜〜!!ウガアァァァーーーッ!!許さん!許さんぞー!!此処迄失敗作だとは思わなかったわ!!次はこんな失敗作など創らぬ!其の為にもお前達の中の魂を回収せねばな!今直ぐ殺してくれるわぁー!!」
怒りに満ちた使者の攻撃は、止む事無く降り注ぐのだ。
其の全てが地形を変える程の威力で、防御に徹するだけで精一杯のシルバとカネにガネ。
「クッ…此処迄強いとは…。カネとガネよ、お前達の宝具とかは使えないのか!?」
「其れが、途中で止めてコッチに来たカネ、完成してないんだカネ…」
「俺もカネも、ヤル様を守る防御膜にほぼ全ての力を使ったから、僅かしか力が残って無いガネ…」
結局、ただ生き延びた時間が増えただけで、此処に在る全員が消されるだけなのだと悟るシルバ達。
(最早此処迄か…済みません弥夜様…お役に立たなくて…)
ボロボロになって動けなくなった3人に向け、此処一体を全て破壊する程のエネルギー弾を頭上に創る使者。
其の巨大なエネルギー弾を見て、抗う事を止めようとした其の時
「グアアアァァァーーッ!!」
使者の体に幾つもの穴が開けられ、使者がもがき苦しんでいる。
血反吐の様な薄汚れた黄色の液体を口から吐き出し、辺りを見渡す使者。
「!!…何故だ!!何故またお前が此処に在る!!セルジよ!!」
少し上空に、聖司の姿が在った。
直ぐ様弥夜の元に駆け寄る聖司。
「大丈夫かい母さん!」
「せ、聖司…貴方如何して…」
「そんな事今は良いだろう!?其れより母さんの事が心配だ!とても大丈夫だとは思え無いよ!」
「聖司…」
「貴様…よくも母さんを此処迄傷付けたな…絶対許さないぞ!!」
使者を睨み付け
「速断金剛裂弾!!」
聖司の攻撃を蹌踉めきながらも躱し
「クッ…またもや良い所で邪魔をしおって…。だがこの傷では、此処に居る者達を相手にするには些か面倒だ…。口惜しいが、一先ず引くとしよう…」
「!逃すか!」
「フッさらばだ…」
「あっ!…チッ!逃げられた…」
使者は何時の間にか、ザネ達を回収して去って行ったのだった。
其れを悔しがる聖司。
でも危機一髪の所で助かった弥夜達。
未だ回復出来てない弥夜に変わり、シルバが
「危ない所を助けて頂き、誠にありがとうございます聖司様…」
「いや其れは気にしないでくれないか?当たり前の事なのだから」
「何と寛大なお言葉…。其う仰って頂けるのなら、素直に其うさせて頂きます」
「あぁ其れで良いよ」
「で、不躾ながらお聞きしたい事が有ります。聞いても宜しいでしょうか?」
「ん?何をだ?別に構わないが…」
「誠にありがとうございます。では聖司様、貴方様の指輪に宿る神音を前に出して頂けますか?」
「?…あぁ…」
不思議そうにしながら、シルバの前に神音が宿った指輪をむけると
「聖司様の指輪に宿るモノよ、貴方は誰何です?」
聖司は、シルバの言ってる意味が分からなく、少し険しい顔をしながら
「お前は一体何を聞いているんだ!?コイツは神音…」
「いえ、神音では在りません…。全くの別モノです…」
「別モノ!?」
「えぇ、ですから誰なのかと聞いたのです…」
シルバの意味有りげな問いに、静まり返る弥夜達だった。
辺りは明るくなり、夜が明けようとしていた。
そんな中、助けに来た聖司の指輪に宿るモノに、お前は誰なのだと尋ねるシルバ。
使者から無事生き延びて安堵していたのに此処に来てまた、不穏な気配が漂い始めていた。
傷付いた弥夜は、これ以上如何する事も出来そうに無かった…。
第62話 誰? 完
何だか面倒な展開で終わりましたね…。
この先は如何なるのでしょうかね?
次の話は如何なるのか分からないまま、匂わせて終わりました。
では次話をお待ち下さい。