語られるもの、語る者その2
第6話 語られる者、語る者 その2
聖司達は、今から語られ様としてる内容に、これから先の自分達の宿命を知る事になるとは、夢にも思わなかった。
何故なら
「いやぁ色々とスンマセン、何せこれだけの強い魂になった者達に出会うまで、五千年も掛かっちゃいましたからね〜、いやぁ〜正直びっくりですよ本当!」
と、最初の出会った頃とは違うイメージに、変わり果てた光の主のいい加減さが、其うさせるのだった。
自分達の状況が分からないでいた時に、突如現れた光の主には、驚きも有ったからか、何処か威厳の有る神々しいモノの様にも思えていたのだが、あの出来事が起きてから以降、あの威厳は全く無く消え去ってしまって、今となっては苛立つ気にさえなっていた。
其うさせてしまった原因の元は、弥夜が起こしたあの件だと誰もが思っているので、何も言えずにいる。
それでも
「えーあーそのですね皆さん、我、あっいや僕がこれから話す事なんすけど、多分〜直ぐには理解出来ないでしょうけどね〜、いや〜本当、自分が聞いても笑っちゃうくらいに理解出来るか!って感じの内容なんすよ、まぁそれをですね、成る可く分かり易く話しますから、出来るだけちゃんと理解して欲しいんすよ」
という感じで話すから、信用する事など無理な話だ。
既に聖司達には、光の主の言う事が頭に入って来ない。
そんな事を思われてるなんて思ってない光の主が
「あっそこ話聞いてます〜?…本当ちゃんと聞いて下さいよ〜」
其の言葉に
「チャラい!チャラ過ぎてすっごく苛つく!」
阿沙華が声を上げた。
聖司は其の言葉に納得した。
其うか、苛つくのは何ともチャラい、頭に入って来ないのもその言い回しだからなのだと。
そして信康が聞く
「所でその話し方、メッチャ現代風なのはどうして?」
「其う!其うなんだよ!…五千年って言うから、もっと古びた聞き慣れない言葉や話し方をイメージするものだけれど、余りにも普通に話すから、違和感に気付かなかったな…」
と、護都詞もそう言うのだった。
其う信康の言葉に、自分も其う感じたと相槌している護都詞であるが、実はそんな事は思っても無く、適当に相槌をしているだけだったりする。
弥夜の件以降、光の主の事など興味を失せ、語る話は一切聞いて無かった。
この男、護都詞は実の所、かなり筋金入りのタラシなのだ。
其の範囲は広く、老若男女問わず、自分のお気に入りが居れば、誰かれ構わずアプローチしては、お持ち帰りする強者で、その成功率99.9%と驚異のタラシなのである。
其の為か、興味の無いものに対して一切の労力を使わないので、光の主の話など聞く気にもならないのであった。
其れでも上手く相槌出来るのは、タラシたる者の力量による、相手の話に合わせて気持ち良く会話をするスキルが特出しているからだ。
なので今回も上手い事、“そうだよな、自分もそう思ってた”などと話を合わせられるのだ。
そんな感じで相槌し
「信康よ、良く気付いたなぁ、凄いよ」
と、付け加えて褒める。
孫にもタラシスキル全開の護都詞。
褒められた信康は、少し嬉しくなって、更に光の主に問い掛けた。
「五千年前から、そんな調子の口調だったの?」
すると其の問いに、光の主は
「えっ?…フッ…いやいや〜そんな訳ある訳無いっしょ?」
と、手をパタパタと振りながら、小馬鹿気味に答える。
あー、コイツ完全にバカにしてるわ〜、お婆ちゃんに締められたら良いのに!と思う信康。
でも弥夜にそれをされると、話の続きが聞けなくなるので、グッと堪え
「それじゃぁどうして?」
と、完全大人の対応で聞く信康。
何とも出来た信康の対応なのに
「えっ?何言ってんすか?マジで言ってます?」
大人の対応も、最早限界!
「お婆ちゃん、コイツ殺しちゃって♡」
満面の笑顔で、右手の親指でキルポーズをする。
其れを見た光の主は、慌てて
「スンマセン、スンマセン!マジスンマセン!…バカにするつもりは一切ないっす!ちゃんとした話し方で話すっす!」
と、信康と弥夜の鋭い視線に焦りながら
「五千年ですよ?五千年。時代の移り変わりで、言葉も話し方も変化するじゃないですか、強い魂に出会うまで、我…っとと、あっぼ、僕の時代の言い方だと、話伝わらないじゃないですか?以前に数回魂と接触した時、話し方が向こうに伝わら無いまま消滅しちゃいますし、こりゃダメだと学習したんすよ!…で、時代に合わせて言葉を学びながら、その時代に合わせての話し方にしてるんすけど、この話し方違っちゃてます〜?」
てな感じで、光の主が答える。
一同は、五千年もの間、光の主の其の涙ぐましい努力を重ねた事を聞かされて、おおっ偉い奴なんだと思うべきなのだろうが、素直にそう思えない。
やはりこの軽さが、だいぶ損をしているのは確かなのだ。
「…正直その努力には、感服するけど…」
「間違いじゃないよ?…間違いじゃないけど…」
「うん、言葉や話し方も、この時代のものだけれど…」
聖司と信康に、阿沙華もそこまで言うと、
「痛い、軽い、惜しいって感じなんですよね。もっとこう礼儀や知性を感じられる話し方が、そんな砕け過ぎた言い方より、威厳を感じられると思いますよ」
と、夕香がフォローするのだった。
一家全てをサポートに徹する夕香は、一家の癒し的存在だけでは無く、ご近所さんやママ友の人達にも愛される、癒しの夕香として親まわれている。
弥夜も癒しの存在なのだが、時折鬼と化す弥夜とは違い、天然な所が大部分を占めてる彼女こそが、本当の意味での癒しなのだ。
まぁかなりの天然の度合いでは、有るのだが…。
元人気女優だった夕香。
女優業をしていた時も、其の存在に癒された多くのファンがいた。
其れが一般人との結婚を機に即引退し、メディアにまで大々的に取り上げられ、多くのファンが涙したのだが、絵にも描けない様な笑顔で、“必ず幸せになります”の一言で、最後の癒しを与えられたファンは納得し、誰もが夕香の幸せを願ったのだ。
其れ程、誰からも愛される夕香の言葉に、光の主は感極まるのだった。
そして
「…あああっ、……データアップデート…アップデート…、うん…うん…あっあっ……あー、アップデート完了…」
と、呟く光の主。
夕香を除く一家は、また何か変な事しだしたのかと、変な者を見る様な目で、光の主を見ていた。
「いや皆さん、色々と大変お騒がせしましたな。それでは今から我が、事の成り行きや、其方達の宿命を語ろう…」
先程までのチャラい感じは全く無くなり、急な変化に驚く一同。
「話し方、真面になってる!えぇっ?何で?」
阿沙華が驚きを隠せなくて、思わずそう聞くと
「先程ご夫人の助言が有ったから、我なりにデータをアップデートしたのだよ」
と返答する。
あの変な呟きがこれだったのかと理解するのと同時に
“お前はAIかよ!”
と、ツッコミそうになる。
だがこれで、まともに話が聞ける様になったのだと考えると、それでも良いかと思う事にした一同であった。
そしてまた光の主が、語り始めた。
「先ずは今の現状を話そう…。今1番知りたいのは、其の事なのだろうからな…」
やっとまともに光の主の言葉が、頭に入って来る。
「事実を述べるが、心乱さないでしっかり聞いて欲しい…」
ゴクッと喉をならす聖司達…。
「もう気付いているとは思うが、お主達は皆、あの稲妻により死んでしまっている、…今のその姿は、それぞれの魂の形なのだ」
其の内容にやはりそうなのだと、皆理解する。
理解しながらも
「それじゃもう、生き返る事は出来ないのか!?これだけハッキリと魂が存在しているのに…!?」
先程までとは打って変わって、興味を取り戻した護都詞が問うのだった。
「残念ながら今は無理だ」
愕然としながらも
「今は?…今はとは、どう言う意味なのか?」
護都詞が、更に問う。
其の問いに、光の主は
「其の答えは、これから語る話で理解出来よう…。先ずは順を追って語るから、しばし待つが良い…」
と、直ぐには答える事は無かった。
今はただ、光の主の話を黙って待つしかないのだった。
第6話 語られる者、語る者 その2 完
もう少し、この語られる者、語る者続きます。