権也とカンちゃん編 4
第53話 飛び出せ権也!
この修行場に留まって何日程経ったのだろう…。
余りにも強力な結界を施した事により、外に出たくても出られないままの権也達だった。
魂の器の底上げが完了した権也だったが、流石に暇を持て余していたのだった。
「暇だね…」
(暇やな…)
ー暇ですな…ー
いやいや暇って…。
そんな悠長な事を言ってても良いのだろうか?
だが
「へへっ魂の皆んなも暇何だ〜、それじゃ何かして遊ばない?」
ーこれは失礼しました…ですが遊ぶとは、一体何をしようとお考えで?ー
(せや、何するっちゅ〜ねんな?何やかんやと良い案出てこんから、かなり遊び尽くしたで?)
「それじゃさ〜ダーツしない?」
(ダーツ?)
ー失礼ながら、そのダーツとは…ー
「えっ〜とね、的当てだよ」
(的当て?そりゃ弓とかと同じモンやないのか?)
「まぁそんな感じなんだけど、弓を使わずに、小さな矢を手で投げるの」
(ほほう…なる程なぁ〜)
「詳しい点数の付け方はしらないけれどね、真ん中に矢が刺されば高得点なんだ〜。でも確かもっと得点高いの有った気がするけど、良く分かんないから、取り敢えず真ん中が1番点数が高いって感じでやってみない?」
(それオモロそうやな、ほなちょっくらやってみようか?)
ーそれは宜しいのですが、簡単過ぎでは無いですか?…我等には力が有るので、真ん中に当てるだけだと、誰もが当て続けると思われますが…ー
「そっかそうだね、それじゃ如何しようか…?」
(せやったら、チッコイ的を結界ギリギリ迄離して、メッチャ遠くからやればエエんちゃう?)
「そっか!それ良いよね!あっ後さ、障害物として風を的付近に吹かせば良いんじゃない?」
(それエエ案やな!ヨッシャそうしよ!ほな的とか準備するさかい、その間にそのダーツの矢っての作っといてんか?)
「OK〜!ねぇ皆んなもちょっと手伝ってくれる?僕のイメージ共有して良いから」
ーそれじゃ失礼して…ー
この時魂達は、権也の底抜けの明るさに限界がない事を知るのだが、それはそれで嬉しくも思えた。
そして権也の要望にも応え、様々な形のダーツの矢を幾つも創り出す。
(おっ?そっちの準備は終わったみたいやな。こっちも準備出来たさかい何時でも出来んでぇ〜!)
「それじゃゲーム開始!先ずは僕からするね!エイッ!」
思いっきり的を外す。
(あひゃひゃひゃひゃ〜!全然やないか権坊〜!)
「う〜〜っ!それじゃカンちゃんもやってみなよ!」
(オッシャ!こんなん簡単やがな!先ずは分身体出して…そりゃっ!)
今度は的迄届かず
「アッハハハハハハッ!や〜いや〜い!カンちゃんも出来ないんじゃない!」
(このぉ〜…言い返せん…)
ーでは我等が…ー
ビュシュン…
「ええっ!1発!?」
(な、何やと〜!?ホンマかいな!?)
ーフッ…簡単でしたよ?ー
(こ、こん…おまん等、何得意気に言ってくれてんねん!次は絶対決めたる!先ずは権坊行ったれ!)
「よ〜し、次は決めるね!エイッ!」
ピュシュン…
「やった〜!上手く当たったよ〜!」
(チッ!当てやがったか…ほなワイも!そりゃ!)
スカッ…
「ブワァハハハハハハハハハ〜!」
ーフフッ…ー
(〜〜〜!こんボケー!何でや!?ちょいもう1回や!とりゃぁ!)
ピュー…バシン…
(おっ?当たった…当たったぞ権也!どや!)
「当たっても、真ん中じゃ無いじゃない…。ちゃんと真ん中当てないと」
(〜〜!チクショウが〜!!そもそもこんな変な矢で当たる訳無いやろうが!何してワイだけ変な矢ばかりやねん!?)
「そんな事無いよ?僕も普通の矢は使ってないよ?」
ー我等もですよ?カンちゃん様…ー
(キーーーッ!こんチキショウ〜!次は真ん中当てたる!)
これ以上無い程の集中して的へと矢を放つカンちゃん。
ピュシュン!
(どや!ちゃんと当てたやろ!ワイに不可能は無い!)
「…おっそ〜…今頃そんな事言っても、全然説得力無いよ?カンちゃん…」
(何やと〜!?ほな権坊も連続で当てられるんかい!やってみー!)
ヒートアップするカンちゃん。
「上手く行くか分からないけど、やってみるよ!」
そう言って、権也も最大限に集中して連続投矢する。
全て真ん中に命中するのだが、無意識に矢に風のドリルを付加させての投矢だった為、的が破壊された。
その時、結界にある現象が起こる。
音をたてて歪んだかと思えば、薄くヒビが入るのだった。
(何や今の!?)
「せっかく創った的壊れちゃったね…ごめん…」
(そんなん気にしなや〜、的なんてまた創ればエエ…ちゃうわー!そんな事言うとるんや無いっちゅ〜ねん!今権坊の矢が連続して当たった時、結界にヒビ入ったの分からんかったんか!?)
「あっそう言えばそうだね…で?」
(で?や無いやろが!エライ凄い事した自覚無いんかい!?なぁ権坊!?)
「………あっ!全部ど真ん中だったのが、凄かったんだね!」
(うんそうそう……ってこんドアホッ!だからちゃう言うねん!ヒビ!ヒビが入ったやろ!)
「…それが…あ〜!なる程ね!結界にヒビが入ったって事は、結界が壊せるって事なんだよね?」
(せや!ほんでもってな、外に出られる様になるって事や)
「な〜んだ、それならそうと分かり易く言ってくれれば良いのに〜」
(いや普通気付くやろ…権坊の兄ぃと姉ぇは直ぐ気付くで?気付かんの、権坊と多分オカンくらいなんちゃう?…)
「そっかな?」
(あ〜天然さん発動しよったか…ふぅ…何か泣ける…。不憫で可哀想なワイに泣ける…)
ー心中お察しします…ー
魂の器の底上げが完了したのに未だ幼さだけでは無く、夕香譲りの天然を発動させた権也の相手をする事に対し、魂達もカンちゃんに同情するのだった…。
(まぁエエ…取り敢えずは皆んなで同じトコ、有りったけの力で攻撃しまくんでえ!エエかぁ!?)
「了解〜!」
ー分かりましたー
(ほな!開始や!)
これでもか!と言うくらいに、1点集中攻撃。
結界に少しずつ亀裂が入り
(権坊最後はお前がキメ!ドカーンとイッタレ!!)
「OK〜!」
権也は髪の毛が逆立つ程に力を溜め、意思を強くイメージする。
その時権也の魂が、目や皮膚が黄緑色の炎の様な揺めきに変わり、まるで神や精霊かの様な風貌にも見えるのだった。
その姿にカンちゃんや魂達は、驚き感動するのだが
「ギュルギュルドッカーン!」
術のネーミングセンスにコケそうになる。
(ホンマ何やねん!そのギュルギュルドッカーン!って!どんなセンスしとんねん!)
ーケネラ王子…我等もそう思います…ー
と一応ツッコミが入るのだが、その術の威力は半端無く、凄まじい音をたてて結界を破壊するのだった。
(何でアホなネーミングなんやのに、こんな凄ぅ威力有んねん!意味分からん!)
ーハハ…ハハ…ー
カンちゃんのツッコミ、乾いた笑いしか出ない魂達…。
最早権也が持っている強さの基準値を、測ることがバカバカしくなったカンちゃんだった。
「結界、如何にか壊せたね〜!」
(ホンマに凄ぅ威力の術やったな…。多分やけど…瞬間的な爆発力は、家族の中で権坊が1番有るんやろうな…。だが権坊の性格上、もの凄うムラが有るさかい、今みたいに集中力をMAXにせなアカンみたいやな…)
「そうなんだ…。でもやったね!僕にも1番になれるモノが有ったんだ〜!ヤッタァ〜!」
(ん?それ、如何言うこっちゃ?)
「…僕ね、いっつも信兄ちゃんや阿沙姉ちゃんと比べられてさ、ずっと学校での人気No.2なんだよね〜」
(ん?)
「勉強もね、テストとかは大体100点なんだけどさ、苦手なのは点数低いんだよね…。学年ではトップだけど、学校中では今は阿沙姉ちゃんが1番だから、僕それ以下なんだよね…」
(んんん?それがどないしたん?)
「僕何でも良いから、信兄ちゃんと阿沙姉ちゃんより優れてるって、思われたいんだよね〜」
(頭オカしくなったんか?そんなんど〜でもエエやんか?ちなみに聞くけど、権坊が学校入った時、信はんも同じ学校に居てたんやろ?そん時は、誰がイッちゃん上やったん?)
「勿論信兄ちゃんだよ。あっ阿沙姉ちゃんも同率トップだったと思うよ?」
(そうかぁ…何や権坊のコンプレックスや言う事何やな?前向きな権坊やと思っとったから、そんなモン気にして無いんかと思っとったんやけど、権坊にも悩みが有ったんやな…)
「そりゃ有るよ!自分で言うのもなんだけどね、僕達の兄弟ってさ凄く憧れられてるんだよね。それも他の学校の人達とかにもね。信兄ちゃんは頭良くてスポーツも出来るし格好いいでしょ?阿沙姉ちゃんも勉強出来るし可愛いって言われてるんだよね…。僕が小学校に入りたての頃は、その2人の弟としてスッゴく期待されてたんだよ?僕も頭が良くて、スポーツも出来て格好良いんだろうなって、勝手に…」
(………)
「正直そんな事、僕知らないのにね、先生とか信兄ちゃんや阿沙姉ちゃんが出来た事なのに、出来ないのかって情けなさそうに言うんだもん…。何だかんだと僕だって学年1番なんだよ?でもダメなんだよね…。直ぐ比べられちゃうんだ…」
(それ…エグくて結構キツいな…)
「でしょ?未だ小学1年生なのに、信兄ちゃんに阿沙姉ちゃんと比べられても困るよ…。だからね、余りにも悔しかったからさ、何でも良いから2人を追い越して1番になりたかったんだよね〜。さっきカンちゃんが言ってた事が本当なら、やっと1個追い越せたんだね〜!やったね!」
(良かったな権坊。だからなんやな、その豊かな発想出来るのは…。今迄色んな事に挑戦して来たからなんやなぁ〜)
「ヘヘヘェ〜か〜もね〜…。あ〜でもさ、カンちゃんが驚いたくらい何だから、僕の瞬間的な爆発力を継続出来る様になれば、最強なんじゃ無い?」
(そら無理や…)
「無理!?えっ何で!?如何してそんな事言うの…?」
(あんな、権坊があの状態を続けてたらな、権坊の存在自体が危うくなんねん…)
「何それ…存在自体がって…」
(今の権坊は特殊な魂の状態やん、それ覚えとるよな?)
「うん、この世に干渉出来るんだったよね…。それが如何したの?」
(権坊が限界を超えた集中力によってな、魂の臨界点を超えてもうたんや)
「魂の臨界点?何それ…?」
(権坊を形造る為の魂の核みたいなモンが有んねんけどな、それがさっきの集中力によって、膨大な力を使う為に別モノに変わってもうてん…)
「僕を形造る核が別のモノ?…それって、僕が僕じゃ無くなるって事…だよね…」
(お利口さんやなぁ〜、直ぐ理解して…。せや、その通り何や。だからあの状態を維持しとったら、永い時を繰り返して来た魂の記憶ごと別んモンになって、2度と戻らん別の権坊になってたんや…)
「それイヤな話だけどさ、転生もしないって事にもなるって事?…」
(正にその通りや、それ程の変化が起こってん)
「そうなんだ…ちなみに聞くけど、その時の僕って如何な感じになってたの?」
(う〜ん…しいて言うなら…神や精霊に近いモンとでも言えばエエんかな?何にせよ、そんなモンになってもうたら、力尽きたら消えて無くなってしまうやろうなぁ…)
「そんな…」
(せやから継続しては止めときな?)
「うん分かったよ…。でもそうなるとさ、あの使者と戦う時必要になると思うんだよね…。あの状態じゃなきゃ勝てそうにも思えないよ…」
(それはそうかも知れんけどな、それに変わるモン身に付けたらエエんとちゃう?)
「…そっか、そうだよね!それじゃ僕、頑張って何かもっと凄いの身に付けるよ!」
(せやな、ワイもおるんやから何とでもなるやろ!)
「だね!」
(ほなこの話は此処迄や、早よ外に出よ?)
「うん!」
(ほな、おまん等もワイの中に集合しとき!)
そう言って、結界を壊す為に出ていた魂達を取り込む。
(ゲップ…食い過ぎた…)
「カンちゃん、久々の外だね〜!」
(おいコラっ!ワイのボケに突っ込まんかい!)
「?」
(?やないやろ!今ボケたのに!)
「何をボケたの?」
(…エエわ…。説明したらボケや無くなるし、オモロないからな…。ワイは権坊のボケツッコミ入れてんのになぁ…せやから天然さんはコレやもんな…)
「良く分かんないけど大丈夫?」
(はいおおきに…さっ出よか…)
哀愁を漂わせるカンちゃん。
そして現世ではほんの数秒だったのだが、修行場に居た日数は軽く2ヶ月間だったから、外に出られる嬉しさで、また勢い良く飛び出す権也。
(!!!)
出口付近で感じる、重く禍々しい気配にカンちゃんは、いち早く権也に防御膜を何重にも張る。
そのおかげで、権也は外に出るなり消滅から救われたのだった。
何者かに攻撃を受けた事も分からない権也。
吹き飛ばされて、初めて攻撃されたのだと気付く。
「えっ…何…?何が…」
(しっかりせえ!権坊!あん使者が其処におるやないか!)
カンちゃんに言われ、やっと気付く権也。
「何で此処に居るんだよ!?使者!」
「こんな所に隠れて居たとはな…。チッ!撃ちし損じたか!本当手間の掛かる奴等だな…」
そう言いながら、幾つもの黒い矢を放つ使者。
その矢に撃ち抜かれたら、即消滅してしまう程の威力が有った。
それを全て躱しながら落ちている石を拾い、使者に向けて風の付加を加えて放つ権也。
「弾岩風滴!」
(何や、これにはちゃんとした技名有るんかいな?)
「うん、これは元々前の僕達が使ってたモノだからね」
(なる程なぁ〜)
「でもこれじゃ、効き目無いよね…」
(せやな…)
「さっきのあの術使うには集中する時間が掛かるから、他ので時間稼ぎしないと…」
(ワイが何とかって言いたいがな、今のワイやと足止めにもならん…済まん…)
使者の攻撃を躱し続けて、弾岩風滴を連発しながらも、何か手は無いかと必死に考える。
だが良い案が思い付かない…。
取り敢えず
「ドドーンバンッ!」
続けて
「グルグルギュッ!」
を使うが、ドドーンバンッは、使者に着く前に掻き消され、グルグルギュッも、動きを止める事は出来ても、締め切る事が出来ない。
其れならばと、使う順序を変えて確実にヒットさせる為
「グルグルギュッ!」
使者の動きを止め
「ドドーンバンッ!」
と攻撃する。
今度は上手く行ったのだが、やはり効果は無い。
だが、未だ動きが止まっている使者に
「グルグルハムスター!」
を放つのだった。
だが
「貴様は何がしたい?そんなお粗末なモノなど、私に効く筈が無いだろう?」
と、悠然としていた。
「ケネラよ…貴様は本当に未熟なガキなのだな…。王族の恥晒しにしかならぬ者だな…」
そう言って、グルグルハムスターを打ち消す使者。
その言葉にカチンと来たのだが、意図も簡単にグルグルハムスターを打ち消された事によって、言い返す事も出来ないままの権也だった。
(何やとワレ!こんカスが!ワイがシバいたるわ!)
キレたカンちゃんが、使者の体に空間の裂け目を創り出し、使者を分断する。
だがそれも全く効果は無く、何事も無かったかの様に
「何だ今のは…ケネラ、お前がやったにしろ、何の効果も無いぞ?」
と、下卑た笑い声を上げながら言うのだった。
「如何しよう…」
(どないする…)
その時
ーケネラ王子!我等が身代わりになります!ですからその間に、あの術をお使い下さい!!ー
と、魂達が願い出る。
「ダメ!それは絶対ダメ!」
ー何を言ってるのです!そんな事言ってられない状況なのですよ!?ー
「だからダメだって!!」
ーダメだとは何故です!?ー
「あの術も効果が有るか分からないのに、そんな事させられないよ!それに失敗したらさ、皆んなの魂がまた使者に取り込まれるかも知れないじゃん!…後、皆んなには楽しく居て欲しいんだもん…辛い事させたく無いんだもん…」
ー…ケネラ王子…ー
権也の、他人を思い遣る心にまた触れて、魂の状態なのに胸が熱くなる感覚と、涙が流れる感覚を覚える魂達だった。
「此処迄くだらぬ奴が王族の者だとはな…。遊びにもならぬだろう…一思いに消してやろう…。そら、私からの慈悲だ!消えるが良い!!」
何処が慈悲なのだと思うのだが、使者の翳した掌に集中する凝縮された力の凄まじさに、動く事も出来ない権也だった。
「如何しよう…何か、何かしないと!」
必死に策を巡らす権也なのだが、焦りから何も思い付く事が出来ない。
消滅させる為に凝縮された力が溜まり切って、権也に向けて放たれそうになった時
ドオォォォーーーン!
轟音をたてて、異空間から使者に向かって一撃をかます何者かが居た。
「グワアアアアアアーーッ!」
その者の攻撃により、凝縮された力は霧散し、ダメージを負う使者。
「な…何故お前が…此処に…」
驚きを隠せない使者。
そして権也も同じく驚きながら
「お…お父さん?…何で?…何で此処に!?」
其処に居たのは聖司だった。
権也の危機に突如現れた聖司。
権也だけでは無く、何故か使者も驚きを隠せない様だった。
驚く権也を守る様に、真っ直ぐ使者に向かい立つ聖司だった…。
第53話 飛び出せ権也! 完
早くも使者が登場しましたね。
しかも聖司迄。
今迄平和な権也達でしたが、次話では如何なるのでしょうかね?
では次話をお待ち下さいませ。




