阿沙華と巫阿燐編 3
第45話 阿沙華ペンギン
オイッチニー!オイッチニー!オイッチニー!
赤ちゃんペンギンになった阿沙華は、少しでも早く歩ける様に、頑張って歩く練習をするのだった。
オイッチニー!オイッチニー!オイッチニー!…って!全然ダメじゃない!
どんなに頑張っても未だ赤ちゃんだし、大人になっても余り変わらない気がするわ!
動画とかで観てたペンギンは、もっと早く歩いてた気がしてたけど、いざ体験してみると、こうも違うモノなの?
あぁ〜疲れたぁ〜…。
お腹空いた〜…。
このままじゃ、餓死決定ね…。
あっそうだ!巫阿燐に親ペンギンの事聞いてみよ〜っと。
ねぇ巫阿燐、私の親ペンギンは何処に行ったの?知ってる?
(……聞かない方が良いわよ……)
えっ!?……うん分かった!聞かない!
(エサ取りに出た時、食べられちゃったから…)
あんたバカなのー!聞かないって言ったじゃない!
そんな事察したわよ!ああぁー!聞きたく無かったー!
(流石阿沙華!期待通りの反応してくれるわね!)
ウルサイッ!…で、どんな奴に食べられたの…?
(えっ、それ聞く?)
そりゃ聞くわよ!貴方が余計な事教えるから気になるじゃない!!…それに、敵討ってやりたいし…。
(流石ねぇ〜、教えても良いけれど、本当に聞く?)
だ・か・ら、聞くって言ってんの!
(はいはい、分かったわ。片方は、海中で私みたいな奴だったわ…。もう片方も、海中で黒い大きな魚みたいなのだったわね…)
黒くて大きな魚みたい?…それってシャチ何じゃない…?
…シャチかぁー!ペンギンじゃ、太刀打ち出来ないわよ〜!
(そうなの?でもまぁ、これが自然の掟なんでしょ?だからね、敵討ちとかは止めて欲しいの…。向こうも生きるのに精一杯何だから…)
…そうよね…分かったわ…。
でも私はそんな奴らには、絶対負けないから!その為にこの体でも技や術を使える様にならないとね!
(えっ!?…技や術が使えないの?)
そうなの、今も使おうと頑張ってはいるけどね、全く発動しないし…、イメージしてもしきれない感じで使えないのよね…。
(…それ、結構不味いわね…)
やっぱりそうなの?
(そうなの…多分だけど、人とペンギンの構造が違うせいも有るのだろうけど、その子の影響も有りそう…)
えっ?そうなんだ…それじゃこの先、この子の影響が強くなったら、私は如何なるの?
(正直分からないけど、魂が、最悪ペンギンと一体化してしまう可能性も否めないわね…)
それって超不味いんじゃないの!
(だわよね…)
だわよね…じゃ無いわよ!そうなると、寿命尽きる前に何とかしないと!
(そんな阿沙華に、追い討ちで報告なんだけどね…)
えっ、嫌…聞きたく無い…
(ペンギンの寿命って、15年〜20年だそうよ…)
だから聞きたく無いって言ってるでしょー!
(嫌な事は避けて通れないんだから、早目に知った方が、ダメージも少ないでしょ?)
……確かにね…でも知りたくは無かったよ〜……。
(ご愁傷様…でもまぁ頑張っ!阿沙華!)
巫阿燐って、時折他人事みたいにする所有るわよね…。
(まあ!失礼ね!そんなの当たり前じゃない!)
あんた…開き直ったわね…?
(全然?全く?…だって、ムリじゃないのに頑張らないのはさ、見ててムカつくじゃない?本当にダメだって思わないと成長しないし、助けても、何時でも助けられるって思って、楽しようとするでしょ?だから本当にムリだと私が感じた時にだけ、助ける事にしてるのよ…)
そうなのね、そう聞かされたら、弱音吐けなくなっちゃったわ…。
(あっ、阿沙華は別よ?時には厳しくするけど、基本甘々の飴ちゃんだから〜)
えっ本当に?それじゃお腹が空いたから、何か食べる物欲しいんだけど…
(頑張って、自分で用意してね!)
ちょっとあんた!言ってる事違うじゃないのよ!
(エヘッ♡)
キーーーッ!ちょっとあんた!嘴で突くわよ!エヘッ♡じゃ無いわよ!
(!ちょっと阿沙華!?何するのよ!危ないでしょ!)
何言ってるの!?私何もしてないわよ!嘴で突くって言って、嘴突くマネしただけよ!それの何処が危ないのよ!?
(ウソッ?…阿沙華気付いて無いの?)
えっ、何に?
(貴方今、嘴から物凄い勢いで氷の針を飛ばして来たのよ?分かって無いの?)
マジ!?それ本当!?
(本当よ!そんな事でウソ付いても、しょうがないじゃない!)
そうなの?…えっと、こう!
ビュシュッ!
かしら?
(かしら?じゃ無いわよ!だから危ないじゃない!…でも力は使えるみたいね…)
エイッ!…エイッ!…ヤアッ!…ハッ!
ビュシュッ!ビュシュッ!ビュシュッ!ビュシュッ!
(ちょっと!何連発してくれてるの!?しかも私に向けてばかり!)
え?そんな事無いわよ?
(何白々しい事言ってんのよ!…あっ手が滑った!)
そう言って、阿沙華目掛けて手元に有った氷の石を弾く巫阿燐。
ちょっとあんた!主人の私に何してくれてるのよ!テェイ!
バシュン!
(アイタッ!痛いじゃないの!…それに、貴方からして来たんじゃない!それー!)
バシュバシュッ!
もお〜アッタマきた!そこ動かないでよ!
(それはこっちのセリフよ!返り討ちにしてあげるわ!)
ヨチヨチと、ドスドス音をたてながら、近付く阿沙華と巫阿燐。
ハッ!ヤァッ!ティッ!サッ!…
(タァッ!ハッ!ホッ!トォッ!…)
バシュッ!…ドォーン!…タダァーン!…ガシャァーン!…
2人の激しい攻防が日暮れ迄続くのだった。
ハァハァハァ…なかなかやるじゃない…。
(…ハァハァ…貴方もね…)
フフッと笑いながら、熱い握手を交わす阿沙華ペンギンと、巫阿燐アザラシ。
かなりシュールな影が、南極の大地に描かれる。
って、何バカな事やってんのよ私達!
(だよね…何だか虚しいわね…)
あぁ〜、ただでさえお腹空いて、食べ物探さなきゃいけないのに、ムダな労力使ったわ…如何しよう…。
(まぁ取り敢えず、ちゃんと努力した訳だし、まだまだだけど、力も使える様になったから、ご褒美の飴ちゃんあげちゃう♪)
えっ本当?やった嬉しい〜!ありがとう巫阿燐〜!
(フフフ、はいこれ!)
そう言って、異空間から取り出したのは、生のイカだった。
イカ?
(そうよ、ペンギンはイカとかを主に食べるらしいの)
そうなんだぁ…まぁイカはお刺身でも食べるから、抵抗は無いわね〜、それじゃ早速食べるわね、頂きます!
(ちょっとダメよ!食べちゃ!)
えっ!?何でよ?食べる為に出してくれたんじゃ無いの?
(そうだけど、ダメなのよ!)
何で!?何でダメなのよ?
(今の貴方は、未だ赤ちゃんだからよ。消化能力が未だ未発達だから、消化不良起こして、あっという間にお陀仏しちゃうらしいのよ…)
そうなの!?…知らなかった…。
(だからね、親ペンギンが、お腹で消化したのを食べさすらしいの)
だからかぁ…初めゲロ食わさせられてるって思ったけど、その為なのねぇ…。
(だからちょっと待っててね、食べられる様にしてあげるから〜)
えっ、ちょっと…それって…。
(気にする事無いわよ〜♪ハムッ!クチャクチャクチャ…ペッ!はいど〜ぞ〜♡)
イヤーーーーッ!何ハムッ!クチャクチャクチャペッ!よ!はいど〜ぞ〜♡よ!そんなの食べたく無いわよ〜!抵抗有り過ぎるわよ!
(何贅沢言ってるのよ!阿沙華ペンギンが、もう少し成長して自力でエサ取れる迄、方法はこれしか無いんだから、我慢してよね!)
〜〜〜ッ!分かったわよ!食べれば良いんでしょ!?食べるわよ!
(そうよ〜その調子で、ドンドン食べて大きくなってね〜)
〜〜〜〜〜!!!
ビュシュッ!!
行き場のない怒りに似た感情を紛らわせる為、阿沙華は何度も、氷の針を空へと向けて飛ばしていた…。
それから半年間、少しでも力を取り戻し、ペンギンの姿でも戦える様にと、毎日氷の針やその他に出来る事は無いかと、己を磨き続けた。
そしてそのサポートとして巫阿燐は、毎食阿沙華の為に咀嚼物を作るのだった…。
(慣れたものよねぇ…私も…この咀嚼物作るの…。今じゃペースト状にするのも、簡単に出来る様になったわ〜…)
何変な事で、感慨にふけってるのよ…。
(だって…正直無駄な能力身に付けちゃったなぁ…って)
確かにそうだけど、おかげで私は助かってるから、それで良しとしてね、ありがとう巫阿燐。
(そう言って貰えたら、少しは気が楽になるわ〜。ありがとう阿沙華〜)
それなら良かった…でも私は…あぁ〜、どれだけ頑張っても、これ以上強い技とか術が発動しないのが辛いのよね…。
(それは思ったわ…今の攻撃って、何だか唾を凍らせて飛ばしてる様にも見えるもんね〜)
嫌な例えしないでよ!…本当なら、編み出したあの術を完成させたかったのに…
(えっ?それって、あの意味が分からないカッコ仮が付くやつの事?)
そう、超水星爆花(仮)の事…って、意味が分からないって言わないでよ!あれ未完成だったから、取り敢えず付けた名前なんだから…
(そうだったのね〜、納得いったわ…。正直何故、改じゃ無くカッコ仮なのかって、変に思ってたのよね〜。ふざけてるのかって思っちゃった!)
やっぱり、そう思ったのね…だから、早く完成させたかったのよ…。
(でもあの術は、余り使わない方が良いと思うの。良い前例が有る事だしね…)
その事に関しては、申し開き出来ないわ…。
(まぁそんなに落ち込まなくても良いと思うわよ?何せ私が付いてるんだから、今後も必ず阿沙華を助けてあげるから、落ち込む必要は無いわよ?落ち込むだけ損よ?)
ありがとう、やっぱり私には、巫阿燐が居ないとね!
(私も同じよ〜!阿沙華が私の主人で良かったわ〜)
それじゃ、この半年で体も大きくなった事だし、そろそろ本格的に貴方を探しに行く事にするわね。
(あら、そう?もう少し成長してからでも良いのよ?)
そうはいかないわよ!だって半年も時間ロスしてんのよ?
(それは大丈夫よ、時間を旅するんだから、何年経っても集まる場所の時間は変わらないのだから)
ん?それ如何いう事?
(私達全部の宝を見付けた後、あの出発した異空間で集合する事になってるの。だからね、時間の流れが止まってるあの異空間に戻ってしまえば、誰が先に戻ったか後になったかくらいで、此処での時間は関係ないのよ)
ヘェ〜そうなんだぁ…あっでも、成長した私は如何なるの?此処で何年も経っちゃうと、かなり大人になるけど…
(それも大丈夫!だって、こんな言い方悪いけど、貴方の本体は無くて魂の状態なのだから、魂の力は増加しても、見た目は変わらないから)
なる程ねぇ〜…納得したわ!それじゃダラダラしようかしら…。
(ちょっと!それは止めてよね!幾ら時間は関係無くても、早く見付けてよ〜!)
分かってるわよ〜!ちょっと言ってみたかっただけだから。
(本当にそれなら良いけど、貴方の事だから、やりかねないもの…。結構有言実行するんだもの…)
その言葉、褒め言葉と思っておくわ…で巫阿燐、貴方の本体は、此処からどれくらい離れていそう?分かる?
(ちょっと待ってね、今検索するから……あら、此処から真っ直ぐ行ったとして、約20km程先ね…)
えっ!そんなに有るの!?
(有るわね〜)
人の体でも、この南極の氷の上を移動するのも大変なのに、ペンギンのこの体じゃ、もっと大変じゃない!それに途中氷の山とか有るんでしょ?
(有るわね〜)
それを迂回しなきゃダメなんでしょ?
(だわね〜)
キーーーッ!
(だよね〜)
………あんた、楽しんでるでしょ…。
(だわね〜)
あぁ…やる気無くす…。
(それでも頑張っ!阿沙華!私が付いてるんだから、阿沙華ならやり通せるって信じてるからねぇ!)
ふぅ〜…そうねぇ、頑張るわ…前に貴方から言われた、楽しんだ者勝ちの精神で、前向きにやってみるわね…。
(そうよ、それで良いのよ〜ん!流石、私の阿沙華よね!)
ウフフッ、何だか元気が出たわ!それじゃ行きましょうか?
(行きましょ行きましょ!じゃ案内の球出すわね〜)
巫阿燐は、案内用の球をだすのだった。
(それじゃ、これに付いて行ってね)
了解!じゃあLet's go!
阿沙華と巫阿燐は、ヨチヨチ、ドスドスと、楽しそうに球の後に付いて行くのだった。
だが、直ぐ楽しさは打ち消されてしまう。
出発して1時間過ぎた時に、南極特有の猛吹雪が吹き荒れたのだ。
前には進めず、息をするのも辛い。
巫阿燐が直ぐに防御膜を張るのだが、その防御膜も余り効果は無く、とてもじゃないが、これ以上前に進めそうにも無いのだった。
だからといって、強力な力を使って前に進もうとすれば、使者が放った怪物に気付かれる恐れが有った為、これ以上の力が使えなかったのだ。
巫阿燐は、怪物が、この南極に未だ何体も放たれてる事を知っていた。
阿沙華には伝えず、焦らず魂の回復に専念して欲しいと、ワザとおちゃらけたりして、気付かれない様にしていたのだ。
だが阿沙華は
ねぇ巫阿燐、貴方私に気を遣って、ずっとふざけたりしてたんでしょ?怪物が私を探してる事を知られない様にしたくて…。
(!えっ…何で分かったの…?)
そんなの、卵から孵った、始めの頃から何となく分かってたわよ。
(そうなの!?)
そうよ?だってずっと見守ってたわ〜って、そう言ってたじゃない。
(……)
だから何となくね〜、確信持ったのは今だけど。
(如何して確信持てたのよ?)
そんなの、当たり前じゃない!だって本当なら、今貴方が張ってるこの防御膜じゃ役にたたないって、普通なら思うし、そうなった時は、更に強力なの使う筈でしょ?
(えぇ…)
それをしないのは、答えは1つしかないじゃ無い。
(せ〜解!流石阿沙華ね、凄いわ!如何やら観察力と洞察力も、以前の様に戻って来たみたいね)
それも貴方のおかげよ!ありがとう巫阿燐!
(そんなの大した事じゃ無いわ〜、だって私は、貴方を助ける為に在るのだから。だから気にしないで阿沙華♪)
本当ありがとう、でもそれは私も同じだから、幾ら私の為だからといって、ムチャしたらダメよ?悲しくなるから…ね?
(分かったわ、今後そうするって約束するわね)
約束よ!
(でも、如何しよう…このままじゃ前に進めないし、かといって力を使えば見つかってしまうし…)
ねぇ提案なんだけど、ちょっとだけ力を使って先に進んで、そこに居るペンギンやアザラシに紛れ込んでしまえば、見つからないんじゃない?今の貴方は、アザラシに憑依してるから、存在も消えてるんでしょ?私もこの子に紛れてるから、分からないと思うし…。
(そうね、その案良いかもね!…でも、怪物が手当たり次第殺してきたら、無関係な動物迄死なせちゃうと思うと、躊躇ってしまうわ…)
そっか…そうよね…。
(あっ!でも、そうなりそうになったら、前の時の様に、私が怪物を異空間に転送して、遠くに飛ばしてやれば、何とかなるかも!)
わぁ凄い!良く思い付いたわね!流石私の巫阿燐!それじゃその案で、早速試してみない?
(OK〜!それじゃその前に、進む先にペンギンかアザラシが居るか、調べてみるわ)
お願いね〜。
(………居た!此処から3km先に、丁度ペンギンの団体が同じ猛吹雪を凌いでるわね。そこに超特急で、パパッと向かいましょう〜!)
良かった!無理させるけど、それじゃお願いね巫阿燐!
(そんなの平気よ〜!任せて!それじゃ行くわね!)
うん、お願いね!
(Let's go!)
そう言って巫阿燐は、阿沙華ペンギンと、巫阿燐アザラシを1つの光の膜で包み、高速で猛吹雪の中を進んで行くのだった。
阿沙華と巫阿燐は、出来れば怪物に見つからない事を願うのだった。
無関係な動物を巻き込まない為に…。
第45話 阿沙華ペンギン 完
今回、阿沙華と巫阿燐のケンカを如何しても書きたくて、それだけの為に、阿沙華ペンギンと巫阿燐アザラシのシーンを足しました。
それと、咀嚼物の件も同じく、書いてるうちに書きたくなりまして、我慢出来ずに書いてしまいました。
僕は楽しく書けて満足なのですが、読まれてる方は、如何だったでしょうか?
では次話をお待ち下さいね。




