阿沙華と巫阿燐編
第43話 阿沙華と巫阿燐
阿沙華は逃げた。
だだひたすら逃げ続けた。
だが魂の状態なのに、自然の力は凄いモノで、猛吹雪で荒れ狂う南極の地は、人や物はおろか、魂でさえ寄せ付けない脅威が有るのだった。
「ねえ巫阿燐〜!これちょっとヤバくない?全然まともに進めないんですけど!?」
(確かにそうよね…でも向こうさんも同じみたいだから、ヘッチャラよ〜!頑張ってね〜阿沙華!)
「ちょっとあんた!何他人事の様に言ってんのよ!貴方も頑張りなさいよ!」
(え〜!?私、か弱い病弱さんなのよ〜?労わって欲しいわ〜)
「なぁ〜にバカな事言ってるのよ!?何が病弱よ!巫阿燐って、王族の宝物何でしょ!?そんな貴方の何処に、病気になる要素が有るのよ!!ふざけてないで、少しは助けてよ!」
(だ〜って阿沙華、貴方ってツッコむ人居ないと、本領発揮しないでしょ〜?だ・か・ら、これも手助けなのよね〜)
「…何かもぅ…面倒いわ…。私1人で頑張ろ…」
(あれ?ツッコミ来ないの?ツッコミ待ちしてたんですけど、如何しちゃったのよ?)
「………」
(阿沙華ごめん!ふざけ過ぎてごめんなさい!ちょっと調子に乗ってしまったわ…。阿沙華なら、こんな時如何するか知りたくて、ワザとふざけたのだけれど、やり過ぎちゃいました!ごめんなさい…)
「…えっ?ワザと?…それ、如何いう意味よ?」
(いや〜えっとあのね、後出しっぽくなるけどね、今の状況下で、どれだけ冷静で、観察力が有るのかとか、どんな風に洞察力発揮してるのかとかね、色々観察してたの…これ本当だから…)
「何でそんな事するのよ、今じゃなきゃダメだったの!?」
(今じゃなきゃダメだったの!こんな状況下は、そうそう無いんだもの。それに、阿沙華の癖とか早目に知っておかないと、いざって時に、私が役に立たなかったら…と思うと、とても怖いんだもの…。私は阿沙華の盾なのだから…)
「…そういう事だったのね…なぁ〜んだ、やっぱりそんな事だろうと思ってたわよ。だからこっちもカマかけて、ワザと怒ったふりしたんだから…」
(えっ?そうなの?)
「こっちも本当だからね」
(フフフ…お互いする事似てるわね)
「フフッそうみたいね〜」
阿沙華と巫阿燐が、可笑しくて笑いあった時、更なる変化が起きるのだった。
それは、聖司と神音の絆の結び付きが強くなった時だった。
「キャッ!えっ何!?」
(何なの!?突然力が漲る!…えっ、阿沙華もなの!?)
「巫阿燐も、突然何かを感じたの?」
(そうなの!…でも突然…如何してかしら…。ちょっと探ってみるわね…)
巫阿燐が直ぐに、その原因を調べてみると
(あぁ〜なる程ね〜…)
とだけ述べて、後は何も無かったかの様に、無言になるのだった。
「ちょっと!その続きは何も無い訳!?」
(わぁ!ビックリした〜…。如何したのよ突然、そんな大声出して…)
「そんな大声出してって、違うでしょ!あぁ〜なる程ね〜って、それだけ言って、何1人だけ納得してるのよ!?私も知りたいのに、教えないつもりなの!?」
(あっごめ〜ん!今迄無かった事が起きたからね、あれこれ考えちゃってて、阿沙華に教えた気になってたわ…。本当ごめん!)
「何それ…。まぁそれが本当だとしたら、巫阿燐にとって、とても衝撃的な事だったのね?…あれこれ考えるくらいだから…」
(そうなのよ!あれこれ考えるの面倒くさいから、この際ぜ〜〜〜んぶ話すけど、聞いてくれる?あっそこ右!その後左!)
「聞くのは良いけれど、わっと!…それ長くなりそうな話なの?」
(如何かなぁ…あっ今度は上に回避!…まぁ長くなるかも知れないわね〜。私が話し尽くしたいって、前気を付けて!って思ってるから、正直分かんないかな?…エヘッ♡…)
「ったく何なのよ?まぁ良いわ、巫阿燐が好きな様にって、危ないわね!もう!さっきから!…ねぇ話聞く前に、こいつら片付けても良いかしら?本当ウザくて邪魔なのよ…ねえっ!」
2人の会話の最中に、怪物が阿沙華を襲っていたのだが、ひたすら攻撃を躱し続けた挙句、苛立ちが最高潮になった阿沙華は、思わず1体の怪物に回し蹴りを喰らわすのだった。
(私に聞く前にやっちゃってるじゃないの!そうね、私もムカついていたから、阿沙華!やっちゃいなよ!)
「OK!それじゃパパッと行くわね〜!」
(あっでも、いっぺんにはムリだから、1体ずつにしてよ?そうじゃ無いと、こっちがやられちゃうわよ?)
「了解!…でも、残りの3体は如何するの?1体に攻撃してたら、残りが襲って来るじゃない?」
(それは任せて〜!だから1体ずつに専念してちょ〜だい!)
「巫阿燐、それじゃお願いね!頼りにしてるわよ?」
(任せて〜!こっちも阿沙華を頼りにしてるからね!)
「それじゃ先ずはこいつから!」
そう言って、先程回し蹴りを喰らわせた怪物に
「水華雨連!」
を繰り出す。
超圧縮した水滴は、怪物に届く前に凍りつき、威力を増して、怪物の体に無数の穴を開け貫くのだった。
「エエェッ!?何これっ!メッチャ破壊力有るんだけど!」
それもその筈、此処極寒の地、南極の猛吹雪の中で繰り出したのだから。
そうなる事を思ってもいなかった阿沙華は
「ラッキー!こんな事も有るのね〜。そっかぁ〜、こんな風に、技や術の威力を上げられるのかぁ〜。良い事知ったわ!もっと色々試さないとね〜…」
(やるじゃない!取り敢えず、私は残りの動きを止める為、細かく時空に裂け目を作っておくから、その間にチャッチャとヤッつけちゃってね〜!)
巫阿燐がそう言って、怪物達の前に、時空に裂け目を作り出す。
それを見た阿沙華が
「OK〜!それじゃ…って、如何やって消滅させるの?」
(えっ?…ねぇ阿沙華、それ知らないで攻撃してたの…?)
「そうだけど?」
(えぇ〜マジ!?…まさか知らないなんて…)
「ムゥッ!知らないものはしょうがないじゃない!前に戦った時は、弱らせるだけで良かったんだもの。消滅させたのは、ピカさんだったんだから!」
(…そうだったのね…ごめん、意気込んでいたから、分かっているのだと思ってたわ…。それじゃ、1番手っ取り早いの教えるね!)
「うん、お願い!宜しくね!」
(トコトンボコって、メチャクチャにやっちゃって〜!)
「何それ!?それで本当に良いの?」
(ええ、それで大丈夫だから、阿沙華のしたい様にすると良いわよ〜!)
「取り敢えず、巫阿燐に言われた通りにやってみるわ!」
(頑張ってね!私も残りの怪物共を抑えておくから)
そう言って巫阿燐は、近づく怪物を時空の裂け目に誘い入れ、遠く離れた場所に作った別の時空の裂け目と連動させ、その裂け目から怪物を出すという作業をしていた。
何故、異空間に飛ばしたままにせず、時空の裂け目を連動させ、怪物を出現させていたのかというと、異空間に飛ばしただけでは、怪物が直ぐ異空間から戻り、阿沙華の目の前に出現すのを恐れたからだ。
かなり高度な技術と力が必要なのだが、それを平然とやってのける巫阿燐なのだ。
一方阿沙華は、怪物を何処迄痛め付ければ、消滅するのかと、思い付く限りの術や技を試していた。
「結構色々とやってるのに、本当シブトイわね〜!チマチマやっても意味無いわね…それじゃこの際、新しい術を考えてみようかな?それとも分かってる術の中で、1番強力そうなのと色々組み合わせてもみようかな?」
そう言って阿沙華は、新しく術を開発する事にし、新たな術を創る為、術をイメージする。
そのイメージは、水を分解し水素爆発させるというモノだった。
(確か…水素だけを凝縮して、重水素だっけ?…まぁ良いや、余り良く分かってないけど、取り敢えず爆発のイメージを強く思えば、何とかなるでしょ…)
とかなり安易に考え、術を発動させる。
その術の威力を一早く理解した巫阿燐は、慌てて阿沙華と怪物を其々光の膜で覆う。
次の瞬間、肉体を持っていたなら、確実失明する程の閃光が発せられ、鼓膜が破れる程の轟音が響くのだった。
(ちょっ、ちょっと阿沙華!何危険なモノ使ってくれてるのよ!)
「……ビックリしたぁ〜、何これ…凄い爆発なんだけど…」
(あんた分からないでやったの!?)
「あっ巫阿燐…。えぇまぁ…そうなんだけどね…」
(分からないでやったとしても、この術は現世では使っちゃダメ!)
「えっ、何で?…」
(本物の水素爆弾迄には至らなかったけど、それに近くてヤバいモノだったのよ!)
「…えっ…それって、原爆みたいなやつ?」
(そうよ!厳密には違うモノだったから良かったけど、それでも核融合っての?それを使用した術みたいだから、放射能汚染とかの被害も出ちゃうかも知れないんだから!)
「そんな…私ただ、水素を爆発させるだけなんだと…。前に授業で軽く習ったから、これ程だなんて知らなくて…」
(まぁやってしまった事は、しょうがないわよ…。それに私が、その威力で貴方迄消えない為と、汚染物質が漏れない様に、膜で包んで相殺したから、今回はそこ迄気にする事無いからね?)
「…ありがとう巫阿燐…」
(良いって!私は貴方の助けをする為に在るんだから!)
「そっかぁ…でも本当ありがとうね!…で、これで怪物は消滅したかしら…?」
(…うん!完全に消えて無くなってるわね!)
「エヘッ、それで巫阿燐に相談なんだけどね、聞いても良いかしら?」
(……ちょっと、聞きたく無いんですけど?…絶対ムチャな事考えてるでしょ…)
「あっ分かる〜?実はそうなの〜」
(それって、まさか…)
「多分お察しの通りだと思うわ」
(…分かったわよ…私は、貴方を助けるモノなんだから、やらせて貰うわよ!)
「そう怒らないでよ〜。さっきから、ずっと巫阿燐が怪物を遠ざけてくれてたの見てて、凄く大変な事してるの分かってたから、少しでも負担減らしたいって思ったから…」
(ありがとう、その気持ちだけで、充分嬉しいわ〜。それじゃサポートするから、全力でやりなさいよ?)
「分かった!私張り切ってやるわね〜!」
(はいは〜い!…じゃ、始めるからしっかり準備してよ!)
巫阿燐が阿沙華にそう告げると、一際大きな光の布の様なモノを創り出した。
それと同時に阿沙華は、今の自分が持っている力の全てを1つにする為、精神を集中し、イメージを強くして行くのだった。
(準備は出来た?阿沙華?)
「ええ…正直かなりキツいけど、準備は万端!何時でも良いわよ!」
(それじゃ、あいつら此処に呼び寄せるわね!)
「うんお願い!」
(それじゃ…えいっ!)
巫阿燐の掛け声が上がった時、阿沙華達の目の前に、3体の怪物が出現する。
それに目掛けて、巫阿燐が光の布の様なモノで、怪物達を包み込む。
(阿沙華!そんなに長く持たないから、1発で決めちゃって!さぁ今よ!)
「OK〜!行くわよー!超水星爆花(仮)!」
先程、新たに創られた術を更に強力にしたモノが、3体の怪物を容赦無く焼き尽くして行く。
怪物から一瞬だけ、悍ましい呻き声が聞こえたのだが、それも大爆発の轟音と共に掻き消され、怪物達は一片のカケラも残さず、消滅するのだった。
(やったわね阿沙華!貴方凄いじゃない!)
たった1人で、4体モノの怪物を消滅させた阿沙華を褒める巫阿燐だったのだが、阿沙華から返事が返って来ないのだ。
(阿沙華、ねえ阿沙華!?ちょっと!ねぇってば!返事をしてよ!?)
だがやはり、阿沙華からの返事は返って来ない…。
絆が深まり、新たに力が増したとはいえ、3体モノの怪物を同時に消滅させたのが、やはり不味かった様なのだ。
空中で戦闘していた阿沙華だったが、意識を無くした為、地上へと落下してしまう。
魂だからといっても、この高さから落ちてしまえば、かなりのダメージを負ってしまう事になる。
焦る巫阿燐。
力を貸し、主人を守るのが己の宿命で有り役目なのに、それさえ出来なかったのかと、巫阿燐は、自分の力不足を恥じるのだった。
(ごめん阿沙華…。私がちゃんと出来なかったから、貴方をこんな目に遭わせてしまったわ…許して…。でも必ず貴方を元の状態に戻してあげるから、少しだけ待っててくれる?)
そう阿沙華に向け、呟く巫阿燐。
巫阿燐は、落下するスピードを抑えながら、衝撃を減らそうと時空転移を繰り返して、落下での衝撃を与える事なく、阿沙華を無事地上に降ろすのだった。
(何とかダメージを与える事なく、降ろせたけど…如何しよう…。このままじゃ魂の力が、どんどん失われていっちゃうわ…。何とかしないと…でも如何する?…)
阿沙華を光の膜で保護し、何時迄もこの場に居てもしょうがないと、この場から如何やって移動するかを考えていた。
指輪の状態の巫阿燐たちは、時空を行き来する事は出来ても、今の状態の阿沙華を移動させる手段が無かった。
肉体を得ていたのなら、相手の意識の有無は関係無く、肉体に憑依して自ら行動を取れたのだが、魂の状態だと、阿沙華と巫阿燐の魂や精神が融合してしまう為、今の状態では出来ないのだった。
更に先程の戦闘や、阿沙華の落下から守る為に、何度も時空移動を繰り返した為、巫阿燐のエネルギーも減ってしまい、それも回復する迄出来そうに無いのだ。
[阿沙華、私が必ず守ってみせるから…。私の全てを犠牲にしてでも必ず守るから、それ迄頑張って消えないでいて!]
そう強く思った時、あれだけ吹き荒れていた吹雪が止むのだった。
(!!??)
余りにも突然過ぎた為と、吹雪が止んでいる所が、阿沙華を中心にした半径100m程の範囲だった事から、巫阿燐は驚くと共に警戒を最大にし、残っている力でギリギリ探れる範囲を調べるのだった。
だが、何処にも怪しい気配や存在は無く、ただ困惑するだけなのだった。
その時
(巫阿燐、私は神音…聖司様の指輪に宿りしモノです…)
(えっ、貴方も私と同じ様に、神音って名前を付けて貰ったの?)
(はい…とても良い名を頂きました…)
(そうなの、良かったじゃない…で、この現象は貴方なのよね?)
(左様です…ですが、手助け出来るのは此処迄です…。他の方の手助けも必要になるでしょうから、私にも余裕が作れるとは思えないからです…。申し訳有りません…)
(そんなの全然良いわよ!気にしないで!逆に凄く良いタイミングで、とても助かったわ〜!ありがとう…)
(そう言って貰えて良かったです…。今後もしっかりと、阿沙華様をお助けして下さい…。最後に、阿沙華様と貴方の幸運を祈ってます…それでは…)
そう言って、巫阿燐との交信を終了する神音。
(ありがとう!私も貴方達に、幸運を祈ってるわね〜!)
神音に助けられた巫阿燐は、感謝の気持ちを伝えた後、周囲を検索した時に発見した謎の巨大な生物を、力を使って呼び寄せるのだった。
その生物が到達した時
(この子には悪いけど、しばらくその体を使わせて貰うわね…。ごめんね〜…。でもこの巨大な生物って、何ていう生き物なのかなぁ?…まぁ良いか、後で阿沙華に聞いてみよ〜)
そう言って、巨大な生物に憑依する巫阿燐だった。
[阿沙華、もうちょっとだけ待っててね…。今この子に、安全な所迄運んで貰うからね…]
そして、その生物を操り、阿沙華を安全な場所へと運ぶ、巫阿燐だった。
神音の助けにより、阿沙華を何とか安全な場所へと、移動させる事が出来て、少し安心する巫阿燐なのだった。
第43話 阿沙華と巫阿燐 完
今話から第3章がスタートです。
この章から、1人ずつが王族の宝を見付ける迄の、各自が活躍する内容にするつもりです。
先ずは、阿沙華と巫阿燐編からのスタート。
しばらく、この2人の話が続きます。
では次話をお待ち下さいね!