辿り着いた場所
第42話 辿り着いた場所 その3
聖司を除く家族6人が、其々の指輪の導きにより、各時代の各地に向かったのだが、未だ聖司だけ、元の異空間に残っていた。
それは何故かと言うと、其々に危険が迫った時に、直ぐ駆け付けられる様にする為だった。
「なぁおい…お前から映し出されてる皆んなの姿なんだが、かなりのピンチにしか思えないのに、何故助けに行こうとしないんだ!?」
焦りながらも、少し冷静に聖司の指輪に尋ねると
(あの程度では、何の問題も有りません…。必ずや、あのモノ達が皆様方をお守りするでしょう…)
「何だって!?あんなに強力そうな怪物が何体も現れたのに、問題も無いなんて…はいそうですかと、納得する訳無いだろう!?」
(確かに、そう思われるでしょうが、これも習練の1つとしてお考え下さい…。それに、以前に襲われた怪物の情報からしても、確かに数倍は強力なモノですが、個別に対処すれば、今の皆様のお力なら消滅出来ると確信しています…)
「それは、本当なのか?信用しても良いものなのか?」
(…信用して頂きたいです…。それでも我等を信用出来ないと思えた時は、ご主人様の望む通りにして頂いても構いません…。ただ言えるのは、絆を結んだ今、私自ら絆を壊す様な事は致しません…。それは皆様方の、各指輪も同じです…。ですから、どうか我等の事、信じてこのまま見守って頂けないでしょうか…)
そう言われて、確かにそうだなと思った聖司は
「…うん…そうだよな…。俺達は絆を強く結んだんだ…ああ!分かったよ、お前を信じるよ!」
そう言って、指輪が映し出すビジョンを観ると
(護都詞様と夕香様は、自分から、使者から差し向けられたモノに、対峙されるみたいですね…。その他の方達も、ピンチでは有りますが、どうにか出来そうにも思えます…)
「何だか危なっかしいけど、お前が言う様に、確かに何とかなりそうだよな…。よし、これなら俺も、安心してお前を探しに行ける!」
(それでは此処より未来へ向けて、聖司様と私の旅を始めても宜しいでしょうか?)
「ああ!宜しく頼むよ!」
(では心の準備も出来た様ですので、未来へ向けて出発致します…)
「さあ行こう!」
(到着迄、時間の旅をお楽しみ下さい…)
そして聖司は、指輪と共に時間の旅に出る。
この時代に来た時は、逆再生の様だったのに、今度は、再生速度何十倍もの早送りの様な感じで、時を進めるのだった。
途中で見える過去の出来事が、未来へ向けて進んで行くと思うと、この先にも続く未来が必ず有るのだと思えて、自分達の因果として巡る運命にも、撃ち勝てる様な気がしていた。
(さぁご主人様…もう間も無く、最初の目的となる時代に到着致します…)
「…ん?…最初の?…」
(では現世へと、参りましょう…)
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
プワァーン……
聖司の制止する言葉と同時に、異空間から現世に飛び出すのだった。
(無事、到着致しました…)
「…おい…無事だと?…」
(はい、あの者からの妨害も無く、時間を渡る事が出来ました…)
「そうじゃない、そんな事聞いてるんじゃ無いんだ!」
(…では一体何を聞かれたのでしょうか?)
「俺、前に言ったよな?後出しみたいな事しないでくれって!」
(はい、伺っております…)
「…なら何故、今回も同じ事をしたんだ!?」
(同じ事とは…)
「現世に出る前に、最初のって言ったのは、何の事なんだ!?俺は聞いてないぞ!」
(…その事につきましては、弁解の余地も有りません…が、ご家族の皆様に、ご主人様が行き先を告げた時、心の中で現世を満喫すると思われてました…)
「…ああ!それは確かに思ったよ…。だが、だからってそれを理由にして、騙し討ちみたいな事するのが腹立たしいんだよ!」
(それも、重ねてお詫び致します…。ただ、私の身勝手な思いで、ご主人様のやる気を削ぐと思い、今迄お伝えする事が出来ませんでした…)
「何っ?それはどう言う事だ?」
(実は私は、ご主人様が1番キツく、辛い旅となる事を知っていたのです…)
「えっ!?何だって?…それはどう言う意味だ!?」
(私の本体は、時代を経る毎に、形や数を変えて存在して来ました…。今それがこの時代から少し先の時代へと、時を超え、時と場所を変えて点在しているのです…。しかも、順を間違わずに集めなければいけません…。その事をご主人様にお伝えして、機嫌を損ねてしまわれたらと、勝手ながら、そう恐れてしまいました…。そんな私の身勝手な行為で、ご主人様のお心を傷付けてしまいました…。大変申し訳有りません…)
本当に申し訳ないという想いが、絆を結んだからか、とても強くかんじる聖司だった。
(こいつも恐れているんだな…再び主人となる者が、自分から居なくなる事を…。何せ、主人の居ない五千年もの時が、孤独を感じるには充分過ぎるよな…)
「だからか…あの時此処では無い何処かと、口を濁す感じで言ったのは…。それに、俺が家族に対して、内心羨ましいだろうと喜んでたら、尚の事、本当の事は言えないよな…」
(………)
「悪かったよ…。自分の事ばかり考えてしまって、お前と絆を結んだのに、全然お前の事を考えても、想っても無かったみたいだ…。俺こそ済まない…」
(!!ーっそんな謝らないで下さい!悪いのは私なのですから!ご主人様は、決して自分の事ばかりを考えてる方では有りません!…ですから、どうか…ご自分を責めないで下さいませんか?…)
何処迄も主人想いの指輪に、胸が熱くなる聖司。
「…ありがとう、だからお前もそれ以上、自分を責めないでくれないかな?」
(…ご主人様がそう仰るのなら、ありがたくそうさせて頂きます…)
「それじゃ、俺からお詫びの印に、せめて名前を付けさせてくれないかな?」
(そんな、名前など私には…)
「ハハハッ、お前達皆んな同じ事言うんだな?…名前を付けたがるのも、俺達も変わらないがな?」
(フフフッ…どうやらその様ですね…。強いて言えば、私達には、今迄名前など付けられた事が有りません…。長い時の中で、初めての事なのです…)
「えっ?そうなのか?」
(はい、そうなのです…。それにも理由が有りまして、創造主に言わせると、名前が付いてしまうと、“意思”が“意志”に変わる恐れが有るからだと、仰ってました…)
「何だって!?そういう考えは、捨ててしまえばいい!相手を想いやる気持ちが有るのなら、“意志”があっても構わないだろう?…だからさ…これからは、お前が望む様にやっていけば良いからな?」
(そう仰って頂けるのなら、私にも是非名前を頂戴したく思います…)
「それじゃこれからは、お前の名は、神音と名付けるよ。俺達の導き手として考えた時、何故か観音様の事が思いついてさ、そのまま観音を使うよりも、こっちの神の音の方がしっくり来たんだが、お前としては如何なものだろうか?…」
(何と勿体無い…そんな大それたお名前は、私には不釣り合いに思えますが…)
「何言ってるんだよ、俺達にしたらお前達の存在は、それくらいに感じてるんだよ?…だからお前が良ければ、この名を受け取ってくれないかな?…」
(ご主人様がそう仰るのなら…はい、是非その名を頂きたく思います…。ありがとうございます、今この時点で、私は神音と名乗らせて頂きます)
「良かった!ビジョンで夕香が名前を付けた時に言ってた、付けた方も名前を付けさせて貰えて、感謝するって言ってた事が、今とても理解出来たよ…。そう思えば、信康や阿沙華に権也が産まれて、あの子らの名前を付けた時に、そう感じていたよなぁ〜。すっかり忘れていたけどね…ハハハ…」
少し照れくさそうに、頭を掻きながらそう言う聖司。
(それはとても良かったです、私も嬉しく思えます。ご主人様の喜びは、私の喜びでも有るのですから…)
「…う〜ん、やっぱりそのご主人様ってのが…正直慣れないな…。今迄聞き流すつもりでいたんだけど、やっぱり俺にはむず痒くて苦手だな…」
(そうなのですか?ご主人様?…)
「…ああ、やっぱり今のもムズムズ来ちまうよ…。だからせめて、俺の名前で呼んでくれないかな?出来そうかな…?」
(ご主人様がそう仰るのなら、今後聖司様と呼ばせて頂きます…)
「ああ、それでお願いするよ!」
(了承致しました、聖司様)
そう、更に聖司と神音の絆が深まった時、更なる変化が起こるのだ。
「!!??」
(!!??)
その現象に、聖司と神音が同時に驚く。
「な、何だ!?力が、力がとても増した感じがするぞ!?」
(…その様ですね…多分なのですが、我等全てに名前が付けられて、その上絆の結び付きが深まった事で、我等に宿る魂が共鳴反応したのでしょう…。それにより、力が増大したと思われます…)
そう神音が言うと
「なる程な…俺もそんな気がするよ。とても納得したよ」
そう神音に、優しく言う聖司だった。
そしてその現象は、バラバラになってる家族達にも起きるのだった。
其々が感じた想いが、神音を通じて感じる聖司は
「皆んなも、俺達と同じな様だな…」
(その様ですね、この様な現象は今迄有りませんでした…。大変興味深いです)
「へぇそうなのか、それじゃこれからも、神音が知らない現象が起きるかも知れないなぁ?」
(そうですね、それはそれで、何故か楽しくも思えます)
「アハハハッ、そうだな!これから沢山知らない事、知って行こう!」
(そうですね、聖司様)
「それじゃ、神音を探しに行こうか?今何処に在るのか分かるか?」
(はい、では検索致します……おかしいですね…先ずこの時代が最初の筈なのですが、存在が2つ在るのです…)
「存在が2つ!?…それはどう言う事何だ?何か問題でも有るのか?」
(問題有りです…。先程私が申した事覚えていますでしょうか?…)
「えっと…」
(…聖司様…時折りその様な間の抜けたのは、私は良いのですが、お子様達にお見せになっては、聖司様の威厳が損なわれますよ?)
「…あっはい…」
(…神音って…結構キツい事言うんだな…)
そう思った聖司に
(聖司様を思っての助言です…)
「な、何で俺の考えてる事分かったんだよ!?」
(絆が強化された事もございますが、失礼ながら聖司様は、表情に出易いので、何を考えているのか分かり易いのです)
神音からのダメ出しに、言葉を失う聖司。
「そんなに分かり易いのか!?俺って単純?…」
(………)
「無言って何だよ!それ!答えたのと同じだからな!?…ハァ…信康と阿沙華にも言われたのだけれど…単純なんだな…俺って…トホホ…」
(そんなに気を落とさないで下さい、私はそんな聖司様もお好きですよ?)
「…慰めありがと…。今後は、威厳が有る様に頑張るよ…」
(微力ながら、私も支援しますので、是非頑張って下さい)
「分かった…で、話を戻して、本体の1部が2つ在るのが不味いとか、そう言ってたが、如何不味いんだ?」
(その事なのですが、少し説明が難しく、長くなってしまいますが、それでも宜しいでしょうか?)
「難しいのか…俺、単純だからムリかも…」
(そう拗ねないで下さい…お願いですから…)
「あぁ分かったよ…。で、出来るだけ簡単にお願いするよ」
(…頑張ってみます…。最初に私が得たイメージでは、今居るこの時代、西暦でいうと1980年代に、先ず1つの片割れが存在していた筈なのです。それを見つけた後、2年後へと向かい、2つ目を見付ける筈でした。ですがこの年に、既に2つモノが存在してるのです…)
「それってただ単純に、2つ見付ければ良いだけなんじゃ無いのか?」
(それなら良いのですが、先程も申しました様に、順を間違えてしまうと、元の私には戻りません…)
「あっそうだったな!?」
(ですから困ってしまっていました…。何方かを最初に手に入れるモノなのか、それとも2つ共最初に手に入れても良いのか、又は何方かを手に入れた後、時を行き来してから手に入れるモノなのか、検討も付きません…)
「それは本気で不味い事だよな…」
神音の説明を理解した聖司は、こういった事を懸念して、神音が自分に伝えなかったのだとも、思うのだった。
(更に言えば、もしこの2つをこの年で、手に入れられると考えたとしても、どちらを先に手に入れるのか、それとも同時に手に入れなくてはならないのか?など、不確定要素が多いのです…)
「ああー!何て面倒臭いんだー!…あっ済まない…聞いててパニックになってしまったよ…。神音、お前のせいでは無いのにな…。つい話がややこし過ぎて、理解すればする程ついていけなくなってしまったよ…」
(大丈夫ですよ聖司様。正直申し上げて、言ってる私も困惑しております。疑問に思った事や、分からない事が有れば、疑問など言って頂ければ、それにお答えしてる時に、答えが明確になるかも知れませんので…)
「そうか?それなら助かるよ…。それで、今時点で分かってる事は、今言った事だけなのかな?」
(そうですね…今1度検索し直してみます…)
「あぁ頼むよ…」
神音が時間を掛けて、検索し直すのだった。
その間、聖司は
(今80年代なのか…。丁度俺が産まれた辺りだな…。俺が産まれた年って、こんな感じだったんだな…)
と、周りを見渡して、そう思うのだった。
(聖司様、検索完了致しました…)
「おっ?そうなのか?それじゃ早速教えてくれよ!」
(了承しました、では検索結果をお伝えします。この年に存在している2つのモノは、最初に手に入れるモノでした)
「おっ!そうなのか?それは良かったじゃないか!それなら直ぐに手に入れられそうだよな!」
と喜ぶ聖司なのだが、返ってくる答えは
(残念ながら、そうでも無いのです…)
「えっ?…まさか、同時にってやつなのか?」
(はい、そのまさかでした…。しかも1つは何者かの所有物として、もつ1つは博物館の展示品として存在しています)
「…それ、かなり不味いんじゃ無いのか?…」
(ですね…)
「何とか取りに行ったとしても、何かしらの所有物になっていたら、窃盗扱いで、世の中騒がせる事になるぞ…」
(それは私の知る所では有りません。元は私であり、聖司様の所有物なのですから…)
「怖い事言うな〜!?驚くよ!」
(そうでしょうか?)
「そうだとも!……あ〜でも、それに似せたモノと入れ替えれば、バレやしないかもな…」
(聖司様も、怖い事を仰ってますよ?)
「アハハッ…だな?…ハハハッ」
(フフフッですね!…では早速イメージから精巧な模造品をお造りします。少々お待ち下さい…)
そう言って、大気中から何かを吸い集め、模造品を造り出す神音。
「…何を集めているんだ?」
と、興味を示すと
(ゴミです…)
とだけ、答える神音。
(ゴ、ゴミ!?)
と呆れてしまう聖司。
(出来ました…)
と造り出されたのは、ゴミから造られた物とは思えない、精巧な物だった。
それに驚くのだが、もぅ何でも有りなのだと思う事にした、聖司だった。
(では、後は2つ同時に手に入れるだけですが、その前に、お客がお待ちの様ですので、其方を先に片付けますか?)
と神音が言うと、聖司の周りに使者が放った怪物が出現していたのだった。
「やっぱり此処にも来たか…それも10体…。何で俺だけ多いんだよ!」
(如何なさいます?今の聖司様なら、私のサポートが有れば、容易かと思いますが?)
「言ってくれるね〜!分かったよ!神音の期待に応えられる様に、いっちょやってやるかぁ!」
(それでこそ我が主人、聖司様です!)
そう言って、何処か楽し気に怪物と対峙する聖司だった。
他の家族達よりも、色々と問題が多い聖司の旅。
初めは神音との意思の疎通が出来ていないと思った聖司だったが、今は頼もしい仲間…では無く、家族何だと思えていた聖司なのだった。
神音となら、この先待ち受ける苦難も怖くは無いとも、思えていたのだった…。
第42話 辿り着いた場所 その3
其々が、其々の時代や地域に向かったのに、最後迄異空間に残されてた聖司だったのですが、今話の冒頭でご理解出来たと思います。
指輪にも名前が付きましたし、絆も強く結ばれたのだと、そう思って読んで頂けたなら、嬉しいです。
今話にて、第2章が完了です。
次話から第3章です。
第3章は、1人1人の話になります。
7人全てを書き終えるのはどれだけ掛かるのか、書き終えるのは未だまだ先なのか、僕自身分かっていません。
そんな感じですが、どうぞその時迄お付き合い下さい。
では、次話をお待ち下さいね!