辿り着いた場所
第41話 辿り着いた場所 その2
だだっ広い平野に、大理石で造られた柱が無造作に倒れていたり、計算されたかの様に綺麗に立ち並び、如何にも古代ギリシャを思わせる風景が広がっていた。
そこに辿り着いた者は、信康だった。
「あーーっ…こんな感じなんだね〜、この時代のギリシャって…。前に見た、写真とあんまり変わらないんだ〜…」
(何かご不満でも?)
「ん?全然、全く…。ただ僕達の時代より、未だ建物とかが荒らされたり、風化して崩れて無いみたいで、ほんの少しだけ見応えが有るかなぁ〜?って、ちょっと思っただけだよ…」
(とてもその様には感じませんが…)
「へへっ…やっぱり分かる?…実はそうなんだよね〜…古代ギリシャやローマってさ、響きだけでも何かカッコ良く無い?古代のロマンって感じでさぁ!」
(私には、そのロマンが分かりません…)
「ええっ!?何で!?勿体無い!」
(私達が創られたのは、それよりも遥か昔ですので、ロマンを感じる事は有りませんね…)
「…何だか負けた気になるんだけど…」
(申し訳有りません…そんなつもりでお答えした訳では有りません…。お気を悪くされたのなら、どの様にお詫びをしたら良いのか…)
「あっ!ごめ〜ん!気にしないでよ!…お前を困らせるつもりは無かったからさ!ただ五千年前ってのがさ、ちょっと頭から抜けてただけなんだよね〜。そう思うと、確かに五千年前って、古代エジプトと同じくらい昔の事なんだもんね!それって遥か昔だから、それにもロマンを感じるなぁ〜」
(ロマンを感じている所に、申し訳有りませんが…1つ訂正させて頂いても宜しいでしょうか?…)
「えっ?訂正っていったい何を?」
(私達が創造主に創られたのは、始まりである貴方様達の更に五千年も前の、計一万年前なのです…)
「………えええっ!!それマジで言ってる!?」
(嘘では有りません…事実です…)
「えっ…それじゃ、あの自然エネルギーを使い始めたのは、約一万年前からなの?…」
(左様です…)
「……はぁ〜、スケールが大き過ぎて、頭がパンクしそうだよ…。あの自然エネルギーを枯渇させずに、五千年も使い続けたんでしょ?どうやって維持してたのかな…」
(はい、仰る通りです…ただどの様に維持していたのかは分かりませんが…)
「凄いよね…今は無い、あれだけの自然エネルギーに満ち溢れてたなんて、考えるだけで興奮するよね!正にロマンだよね〜!!」
(そう思って喜んで頂けたなら、私としても喜ばしい事です…)
「うん!一緒に喜びを分かち合おうよ!」
(承知しました…では、信康様のロマンを刺激出来る様なお話など、致しましょうか?…)
「えっ?良いの!?」
(信康様がお望みならば…)
「…う〜ん…今は良いや!」
(?…如何されましたか?…何か私が不手際を…)
「あっ違うよ!?違うからね!…ただ今はさ、それを後の楽しみに取っておいて、先に済ます事やらないとね…」
(済ます事ですか?…)
「その済まさなきゃいけない本人が何言ってるのさ?先ずはお前を探さなきゃ…でしょ?」
(…お気遣いありがとうございます…ただ信康様が、ずっとエジプトのピラミッドや古代に関して、大変興味を示してましたので、そちらを優先すべきかと…)
「あ〜やっぱりそうだったんだぁ…何となくそうだろうなぁって、思ってたんだ〜。でもそう言うのは無し!…でお願いするよ!僕に気を遣ってたら、何時迄たってもお前を見付けられなくなりそうだもんね〜」
(重ねてお礼申し上げます信康様…ではご足労お掛けしますが、私を見付けて頂けますか?)
「勿論!で、お前…あ〜この言い方慣れないなぁ…何か偉そうになっちゃうなぁ…僕が言うと…。よし!これからお前の事、ロマンって呼ぶけど、嫌じゃない?」
(ロマン…それは私の名前と受け取っても、宜しいのでしょうか?…)
「そうだよ?その為に少し一芝居したんだから!…分からなかったでしょ!?」
(!!そこ迄して、この私に名前を…本当にありがとうございます!そのお名前、ありがたく使わせて頂きます…。これより私は、ロマンの名に恥じぬ様、精一杯励ませて頂きます…)
「僕も精一杯頑張るよ!」
(お1つ聞いても宜しいでしょうか…)
「ん?何を?」
(何故ロマンとお付けになられたのかと…)
「だって、ロマンはロマンの塊だもの!だって一万年もの古代ロマンを知ってるんでしょ?…あっ、かなり安直過ぎたかな…?」
(いいえ、そんな事ございません…大変良き名を頂きました)
「良かった〜!実はね、これは安直過ぎて怒るかなぁ〜って、僕だったら怒るよな〜って思ってたんだよね〜」
(…あの…失礼ながら、1つ忠告を…)
「えっ?」
(信康様は、如何やら感情を上げるだけ上げて、谷底に落とす傾向がお有りの様ですね…それは、多くの敵を作る行為になりますので、なるべく控えて下さい…)
「あっ…怒ってる?」
(いいえ…決して、全く…)
「いやいや、完全に怒ってるでしょ?」
(しつこいのも敵を作り易くなりますよ?……私の本体の場所のイメージを強制的に共有します…)
「やっぱ怒ってるじゃん!ごめんなさい!」
(共有完了です…)
「…えぇ〜これって、期待してたパルテノン神殿じゃ無いんだぁ…えっ?これ何処…?ねぇロマン、教えてよ〜」
(さぁ何処でしょうね?…信康様、後は自力で頑張って、私、ロマンを探しだ…離脱します!)
危険を察知したロマンは、離脱すると言うなり、異空間へと強制移動させられる信康だった。
それと入れ違いに、此処にも4体の怪物が出現したのだった。
だがロマンの機転により、その場には信康の姿は無く、ロマンのおかげで、信康は難を逃れる事が出来たのだった…。
・
(到着しました護都詞様…)
「おや、もぅ着いてしまったのかい?」
(はい…少しでも早い方が宜しいかと思いましたので…)
「もっとゆっくりでも良かったのに…もっとお前さんとの時間旅行を楽しみたかったよ…」
[…私は出来るだけ早く切り上げたかったです…。ずっと私を口説いて来ましたからね…。主人を傷付けずに、断り続けるのは疲れました…]
(それは申し訳ございません…ですが早く着きましたから、少し時間に余裕が得られました…護都詞様が、気になる場所などございましたら、ご案内致しますが、如何なさいますでしょうか?…)
これには、自分を探す間も、護都詞から口説かれる事が分かっていたから、指輪は、それをさせない為の思惑も有ったのだ。
「う〜ん…特に興味は無いなぁ…。ただこの時代は何時頃かとか、軽く見た所、過去のインドに来た筈なのに、かなりの外国人が居るのだなぁ〜くらいにしか、思い付かないなぁ」
[それは、とても都合が悪いです…何とか、少しでも興味を持って頂かないと…]
(そうなのですか?…それは残念です…護都詞様に、私を探し出す間に何かご案内出来ればと、思ったのですが…)
「おや…せっかく気を遣ってくれてたのに、この私とした事が…。良ければ、何か聞かせてくれないかな?」
(此方こそ、お気を遣わせてしまいました…申し訳有りません…)
「構わんよ!さぁ遠慮なく、何か聞かせて聞かせて!」
(ではお言葉に甘えて…。今私達が居るこの時代は、およそ西暦でいう1800年代中頃から後半辺りのインドですね…。この時代のこの国は、イギリスという国などの支配下、所謂植民地となってました。その為、とても貿易などが盛んに行われて、先程護都詞様が申した様に、その国の者達が多く住んでいた様です…)
「何と!そうなのか?…観光では無かったのか…だからか、インド人っぽい者達とは違う、肌をした者達が多いのは…。服装も見ただけで、国の違いが見て取れるから、なかなか興味深く思えて来たよ…」
[良かった!これでしばらくは、口説かれる事も無いでしょう…]
(興味が出て来た様で、私としても、大変嬉しく思います。更に付け加えての説明など、お話させて頂いても宜しいでしょうか?…)
「お前さんが良ければね!是非聞かせて欲しいものだ…」
(では…この国は、西暦でいうと紀元前から、様々な部族や帝国が有り、争いなどにより、滅亡や新たな国や種族が作られてはを繰り返して来た国でも有ります。その為、言葉や文字も多く存在し、護都詞様の生きていた時代でも、多くの言語や文字が残されています…。宗教でも、同じ宗教なのに、祀る神が違ったり、宗教自体違ったりと、様々な文化が点在している国でも有ります…)
「ほぉ〜!そう聞くと、どれだけ違うのか確かめたい気になってくるモノだな!…でもそれをするには、お前さんを探す時間が無くなりそうだな…」
(そうですね…本当に多く存在していますから、全てを確認するには、莫大な時間を要する事になるでしょう…)
「それはいかん!…何せ私の大切なお前さんを探さなければいけないからな!」
(…大切だと思って頂けるなんて、大変嬉しく思います…)
「あぁだからこそ、お前さんにちゃんとした呼び名を付けなければなぁ〜」
(呼び名ですか?それは嬉しいのですが、私に名など必要は有りません…お前などで充分でございます…)
「いや、そうはいかんよ!私と絆を結んだのだから尚更、名前を付けてやりたいんだよ…」
(その様なのでしたなら、是非、護都詞様から名を付けて頂きたく思います…。お願いしても宜しいですか?)
「勿論だとも!…実はもう決めてあるんだ!」
(えっ…そうなのですか?)
「あぁ、お前さんと話をしていた時からね。…なかなか博識で、その上、その知識を相手が嫌にならない様、上手く語る術を心得てるから、識と決めたんだが、どんなモノかな?」
(………識……識ですか……)
「ありゃ?お気に召さなかったかな?…」
(いいえ!違います!…私に“識”と言う名が与えられ、嬉しさの余り、何度も反芻していたのです…護都詞様、良い呼び名を下さり、ありがとうございます…)
「ハハハッ、それは良かった良かった!…それじゃ識、そろそろお前の所在を確認して、そこに向かおうじゃないか」
(そうですね、では今、更に詳しくお調べします…分かりました、イメージを共有致します…)
「………此処に在るのか…。これはちょっと手間が掛かりそうだな…」
(左様ですね…。流石と言えますね…)
「イメージを裏切らないな、この国は…。だが、それでこそインドって気にもなるよ!」
(取り敢えずは向かいながら、何かしらの手段を考えましょう…その為の私なのですから…)
「それじゃお願いしようか?…で、如何する?このモノ達は?」
(そうですね、あの時よりも強力な怪物達ですが、私のサポートが有れば、護都詞様なら何とか出来ると思いますよ?)
「おおっ言ってくれるね〜!…それじゃ老体に鞭打って、頑張ってみるかな?」
そう言って、会話をしていた最中に出現した5体モノの怪物に、平然と近づく護都詞だった。
・
日本でいう大正時代のタイに、夕香がタイムトラベルする事は無く、ただ移動していた。
「ねぇリンちゃん、私達の目的地って未だ着かないのかしら?」
(夕香様?そのリンちゃんとは、何に対して言っているのでしょうか?)
「えっ?決まってるじゃ無い!指輪の貴方の事よ?前にそう言ったじゃないの〜!」
(…ええっ!?わ、私ですか?)
「ええそう!そうだって言ってるじゃない…?あら?言って無かったかしら…?」
(聞いてません…)
「あらそうだったのね?…またやっちゃったわね〜、思い込むとダメね〜私ったら…。ごめんなさいね、気を悪くしたかしら…?」
(いえ、その様な事はございませんが、いきなりリンちゃんだなんて、私以外に存在してるのかと、少々焦ってしまっただけですので…)
「なら尚更ごめんなさい、しっかり言っておけば良かったわね…」
(夕香様が謝る必要など有りませんよ?ですが、何故私の事をリンちゃんと…お呼びになった経緯をお聞きしたく存じます…)
「あっ!貴方の名前の事?」
(はい…それは、私の名前と思っても宜しいモノなのでしょうか?)
「そうよ?貴方の名前♡…名前の由来ねぇ…だって、指輪でしょ?指輪ってリングでしょ?輪を英語にしてもリングでしょ?でもリングだと少し物騒な感じだし、輪だけならリンでも良い訳だなぁ〜ってね、そう思っただけなんだけど…。あっ後ね、私達って、輪廻の輪を巡ってるのでしょ?だからかしら?私にはその“輪”ってのがね、とても重要な気がしてたのね…。だから響きも可愛いし、リンちゃんって付けたのだけれど、嫌だったかしら…?」
(いいえ全く嫌では有りません!…寧ろ夕香様の名の説明をお聞きして、大変共感し、その名前が私の名前だと思うと、不思議と満たされてくるのが分かります…感謝しか有りません…)
「それなら私も貴方に名前を付けられる事が、とても感謝な気持ちでいっぱいなのよ〜!」
(そうなのですか?)
「そんなものなのよ…大切なモノに、名前を付けられる事はね、とても素晴らしい事であってね、付けた側も、付けさせて貰えたって感謝の気持ちで、胸が温かくなるの…」
そう言って、とても嬉しく幸せそうに笑う夕香。
その心の温かさに触れたリンは、この上ない程の安らぎと幸福感を味わっていた。
「ねぇリンちゃん、ちょっと聞きたいのだけれど、聞いても大丈夫?」
(何を聞かれたいのでしょうか?)
「これから行くタイって国は、どんな所なの?それととても暑い国なのよね?」
(夕香様が仰る通り、日本からすれば、とても暑い国では有ります…。ですが今の夕香様の状態は、肉体は無く、魂のみですので、暑い寒いなどは、感じる事は有りません…)
「あら、そうなの?」
(少し思い出して頂ければ、この時代に来てから、肉体を借りる時迄、魂に刻まれた痛みは感じても、五感の全ては感じては無かった筈です…)
「あっ!そういえばそうだったわね〜…この時代の肉体をお借りした時、肌に感じるモノ、聞こえてくる音や草木の香りがした時は、生きてるって感動したわね…。またそうなれる様に、頑張ってリンちゃんを見付けないとね!」
(そうですね、ですがムリはしないで下さい…。私が必ずお守り致しますから…)
「分かったわ!宜しくお願いしますね〜リンちゃん!」
(お任せを!…)
「所で、この時代のタイって、どんな感じなの?」
(確か、帝国がございまして、今その2世が他の国を吸収する為の戦争、もしくは他国からの侵略を阻止していたと、思います…)
「まぁ!そうなの!?…人って、何時迄戦争しないといけないのかしら…。この星は、誰のものでも無く、誰のものでも有るのに、何故遥か昔から終わる事無いのかしら…」
(…私もその様に思います…悲しいですが私が思うに、やはり“意志”がそうさせてるのやも知れませんね…。相手を思う“意思”なら、争いが起きる事は少なかったかも知れないと、愚行ながらそう思いました…)
「そうかもね、リンちゃんが言った“意思”なら、争いは減る様な気がするわね〜!」
(共感して頂いて、嬉しく思います……夕香様、現地に近付くにつれ、私の所在のイメージがかなりハッキリしてきましたが、共感しても宜しいでしょうか?)
「は〜い!良いわよ〜。あっそうそう!前にリンちゃんから送られて来たイメージ、それに出て来た人達って、日本語話して無かったけど、私ちゃんと向こうの言葉話せるかしら?ちょっと不安なのよね〜、出会った時、ちゃんと挨拶出来るのかしら?」
(……きっと大丈夫です…安心して下さい…)
魂の状態で、現地人と会話をする想定の夕香に、それはまずムリだと言えないリンなのだった…。
(では共有します…)
「あら?リンちゃん…貴方の本体、何故か移動してない?」
(!……確かにその様ですね…。これはいったい…何かがおかしい感じですね…しっかり検索し直さないと……!!夕香様!お逃げ下さい!)
だが言うが遅し、地面から4体モノの怪物が、ズボッスボッと音をたてながら出現し、夕香達の居る上空へと飛翔して来たのだった。
「あら?お客さんが来たわね…」
(何を悠長な事を!早くお逃げ下さい!)
「えっ?フフフッ大丈夫よ!リンちゃん♪」
(大丈夫って、如何されたのですか!?今は一刻も早く…)
「ねぇ貴方達、時間を掛けて私の元に訪れてくれたんでしょ?ありがとう〜。でもとても疲れたでしょう…。此処じゃ何だから、あそこの木陰が沢山在る丘に行って、私と話をしませんか〜?」
(ゆ、夕香様!?…)
リンにとっては、夕香の気が触れたのかと、気が気じゃ無かったのだが、夕香がそう提案したら、何故か襲う事はせず、コクンと頷く怪物達。
「良かった!それじゃあの木陰に行きましょうね〜」
と、ルンルン鼻唄を歌いながら、楽しそうに向かう夕香だった。
その行為に、今にもはち切れそうなリンなのだが、何故か怪物達も楽しそうにユラユラしながら、夕香の後に着いていくのだった。
大胆な行動を取る夕香に、心穏やかじゃ無いリン。
護都詞と識は、何故か余裕が有る様で、誰よりも多くの怪物が出現しているのに、楽しそうに怪物と向かい合うのだ。
だがただ1人だけ、ロマンを怒らせ?た信康は、そのロマンによって、突如襲う危機から、難を逃れる事が出来たのだった。
いずれにしろ、また誰もが、使者から送られたモノ達により、危機的状況になっている事は、間違いないのだ。
この3人も、どの様に、この危機を乗り越えて、指輪の本体を見付け出せるのだろうか…。
第41話 辿り着いた場所 その2 完
今話では、護都詞と夕香が大胆な行動を取ろうとしてる所が出て来ました。
王族の宝探し、残す所聖司のみ未だ出て来ませんが、次話には出て来ます。
其処から先は…
では次話をお待ち下さいね。