再びの異空間
第38話 再びの異空間
突如現れた使者により、急遽戦場となった修行場。
対峙する使者と自分達の力の差は、これ程迄にも開いているのかと思わされた聖司達。
それでも身に付けた力によって、出来うるだけの抵抗はするのだった。
そのおかげで権能はそのままに、其々に付加されていたモノを消去出来、使者に1枚喰わせる事が出来たのだった。
今迄の事を思うと、とても痛快な気分にもなったのだが、それが不味かった様で、使者を本気にさせてしまったのだ。
本気になった使者からくるプレッシャーは、気を抜けば直ぐさま死んでしまう程の強さを待っていた。
そんな危機的状況から異空間に、ピカさんにより、強制的に飛ばされて難を逃れた一家。
飛ばされた異空間は、自分達が最初に飛ばされた異空間では無く、また別の異空間の様だった。
この異空間の風景は以前のモノとは違っていて、7色の色が変わり続けていくだけの、何も無い空間だった。
その異空間に飛ばされて、最初に口にしたのは信康だった。
「ピカさん!ピカさん!」
自分を犠牲にして聖司達を異空間に飛ばし、使者と対峙するピカさんを思って叫んでいたのだった。
「ピカさん何で勝手な事してんのよ!私達も一緒に戦うつもりだったのに!」
そう阿沙華が言う。
「そうだよ!早く助けに行かなくちゃ!」
権也もそう言うのだ。
だが
「落ち着きなさいお前達!…ピカさんの覚悟をムダにしてはいけないよ…」
と、聖司が子供達を宥め落ち着かせるのだった。
だかそれでも
「でもこのままじゃ消えてしまうよ!ピカさん殺されちゃうよ!」
と、珍しく信康が焦った感じで言うのだ。
「信康…お前の気持ちは良く分かる!俺もそうだから!…でもピカさんの気持ちも分かるんだ…。だから何時もの様に、冷静で落ち着きを取り戻してくれないか?お前達なら出来るだろ?」
そう言われた信康達は、聖司の手を見てハッとするのだった。
聖司の手は震え強く握られていて、血を流していたからだった。
聖司も必死に助けに行きたい思いを押し殺して、耐えているのだと理解して、昂る気持ちを落ち着かせる事に専念するのだった。
「分かってくれてありがとう…」
優しく言うその言葉には、とても力強く、そして逞しさを感じる一同だった。
何故なら始まりの父、セルジを聖司から感じとれたからだった。
護都詞はやっと、本来の聖司になったのだと、感慨深く思えていた。
(やっと本当のお前になれたのだな…良かった…)
そう思って、聖司の肩をトントンと叩き
「聖司、それと皆んなも…私達がするべき事をしようじゃないか…。その為に、ピカさんが私達をこの場に送り届けたのだから…」
そう言って、其々がするべき事を思い出させるのだ。
「そうだね父さん…でもその前に、この借りているこの時代の俺達の肉体を返さないとな…」
「そうだな…そうしよう…でも先に、ピカさんが言っていた事をしようじゃないか」
「言っていた事って、宝を探す事だよな?父さん…」
「それだけじゃなかっただろう?指輪にこの時代の魂の片鱗を刻めと言っていただろう?」
「あっ!そうだった!…でも如何やればいいのか分からないんだけど…如何するか分かってるのか?父さんは?」
「…分からん!」
「分からん!って、何当たり前の様に言ってるんだよ!」
「分からんものは分からんよ!…こう言う時こそ…信康、阿沙華、お前達が分かってるんじゃ無いのかい?」
そう振られた信康と阿沙華。
「ごめんお爺ちゃん…僕その事知らないよ…」
「私もよ…だって、光の記憶を読み解いてたのに、結構間違いだらけで何でよ!って、思ってたりしてるんだもの…」
「そうなんだよね…僕もそうだったよ…結構解析力有ると思ってたのに、いざその時が来たらさ〜、あれっ?違うぞ?って、なってたんだよね…」
それを聞いた残りの者は、2人が同じ事を言うので、実は今迄感じていた違和感だったのだが、その説明により納得したのだった。
「そうなのか?だからか…所々話が違うとは思っていたが、解析した2人がそう思うとは、本当にそうなのだろうな…」
護都詞がそう呟く。
「確か、信康が最初この時代に来た時にも、そんな事言ってたよな…」
「そうなんだよね…あの時本当に訳が分からなかったよ…」
聖司と信康のやり取りに、阿沙華も
「何だか翻訳の機能がキチンとしてなかったのかな?それとも、これもアレかな?信兄ちゃんが言ってた理不尽に慣れるってヤツ…」
その発言に、妙に納得してしまう一同。
「かも知れないわね…今度ピカりに会えたら、問いただしてみるわね〜」
と弥夜。
「か、母さん、それはしなくて良いから!今はピカさんの無事だけ祈ろうよ!」
と、聖司が止める様説得するのだった。
「あらそう?…そうねぇ、分かったわ。今は無事を祈りましょう…」
と、納得してくれたのだった。
「さて、如何すれば肉体に残された、魂の片鱗を刻む事が出来るのか、それを考えないとな…」
そう悩む聖司だったのだが、思わぬ者達が
「あら聖司さん?如何したのです?魂を刻むの私終わりましたよ?」
「えっ?」
「僕も刻んだよ!…えっ?皆んな未だ出来てないの?」
と、夕香と権也が言う。
それに驚いた聖司達。
「かか、母さん!権也!そ、それ如何言う事!?」
と、驚きを隠せない信康。
「そ、そうよ!如何して2人だけ出来てるのよ!?」
阿沙華もそう聞くのだった。
「えっ?そんな事言われても、私には分からないわ?」
「わ、分からないって…」
聖司が夕香に、つい呆れた感じで言ってしまう。
「だって聖司さん、私指輪を貰った時既に刻まれてましたもの…」
そこに権也が
「僕もそうだったよ。だけど僕の場合はね指輪がさ、早よ刻まんかい!エエェーイ!ワテがやったるわ!って言ってさ、勝手に刻んだんだよね〜」
そう答える権也だった。
その権也の話で、指輪を介せば刻む事が出来るのだと理解する聖司達。
「なる程!そうだったのか!信康、阿沙華、そのやり方でいけると思うか?」
聖司が確認の為に、信康と阿沙華に尋ねると
「いけると思うよ」
「私もそう思う」
「そうか!…それじゃ如何やれば指輪を介せるんだ?如何やれば良い?」
「「…………」」
「ん?如何した?」
「少しは自分で考えたら?お父さん…」
「僕もそう思うよ…何だか権也みたいに思えたよ…」
「そ、そこ迄言うか!?」
「ちょっと!また僕を巻き込まないでよ!何で何時も僕だけバカにされてんのさ!」
不貞腐れる権也。
だが、信康と阿沙華の発言は当たり前の事なのだから、権也には悪いが、聖司に対して抜群の効果を発揮していたのだった。
崩れ落ちそうになる聖司。
その聖司を護都詞が、またトントンと肩を叩き、凄く小さな声で
「私もお前と同じ事思ったよ…だから余り気にするな…」
「父さん…」
と、2人は頷き合うのだ。
それを見ていた阿沙華が
「バカやってないで、早く考えなさいよ!」
と叱るのだった。
女帝阿沙華に怯える聖司と護都詞+権也。
「取り敢えず、僕と阿沙華は完了したからね!お婆ちゃんも如何やらすんなり出来たみたいだし、残るは父さんとお爺ちゃんだけだからね…」
と信康迄が、そう急かすのだった。
「わ、分かったよ…それじゃ父さん、如何…」
「おっ!出来たぞ!?何だ意外と簡単な事だったのか!」
「あっ!抜け駆けしたな父さん…」
「何だ未だ出来ないのか?サッサとするんだぞ?」
と、得意げに言う護都詞。
ただ1人残された聖司は
(チクショー!いいさ!自力で頑張ってやるさ!)
と思った時
(ご主人、何やらお困りの様で…如何為されましたか?)
と、指輪から声が聞こえて来た。
(あっお前か…カッコ悪いとこ見せて済まない…。実はこの時代の魂の片鱗を刻む事が出来なくて、凄く困ってるんだ…如何したら良いか分からなくてさ…)
(それなら私がやりましょう…)
(えっ?そんな事出来るのか?)
(出来ます…)
(では是非お願いするよ!)
(承知致しました…完了です)
(早っ!…えっもう終わり?)
(左様です…)
(凄いなぁ〜、本当色々と出来るんだな…)
(その為の私です。今後何か有りましたら、私くしに申し出下さい…それが私くしの役目なのですから…)
(そうなのか、それじゃ今後も何かと宜しく頼むよ!)
(了承致しました、我ご主人様…)
何とか聖司も魂の記憶を刻む事が出来たのだった。
「よし、俺も何とか刻む事が出来たよ…」
「「おっそーー!!」」
と、信康と阿沙華。
(クッ!ここは我慢…)
「如何せ指輪に助けられたんでしょ?」
「多分そうだよ…だって父さんだから、抜けてる時は本当抜けてるもんね…」
プチッ…
「お前ら!大人をバカにするんじゃない!」
「あっヤバッ!本気で怒った…」
「ごめんなさ〜い!怒らないで〜!」
と逃げ出す信康と阿沙華。
「待てぇーーー!」
と2人を追い掛ける聖司。
結局2人は聖司に捕まり、1発ずつ拳骨を喰らうのだ。
だか拳骨を喰らった2人と聖司が、同時に笑うのだ。
このやり取りがとても懐かしくも思え、とても楽しいとも感じたからだった。
「さて、バカな事するのはこれくらいにして、今度は本格的に其々の宝を探さないとな…」
聖司がそう言うと
「でも如何やって探すの?」
と、権也が聞く。
直感力に長けた権也の筈が、その直感力が余り働いて無い様だった。
「ん?権也?…如何したんだ?そういえばお前の直感力、弱くなってないか?」
聖司がそう聞くと、信康と阿沙華が
「もしかして、付加消されたから弱くなってる?」
「信兄ちゃんもそう思う!?…何だか私もそう思えたわ…それに、私達も観察力とか以前程機能してないわよね…?」
「何だって!?それは不味い事なんじゃ無いのか?」
信康と阿沙華のやり取りを聞き、焦りながら聞く聖司。
「もしそうだとしても、ヤツの嫌がらせの付加が無くなったんだから、またしっかり身に付ければ良いと思うよ。それに僕達にはさ、この指輪が有るんだから、ある程度はサポートして貰えば良いんじゃない?」
信康のしっかりとした考え方が、時折羨ましくなる聖司だった。
「そうだな…権能は自分で育て上げれば良いよな!今後は自力で頑張って行こう!」
力強くそう宣言する聖司に、皆んな"分かった"と頷くのだった。
「それじゃ指輪に、今何処に在るのか聞いてみよう」
聖司の号令で、其々指輪に意識を向ける。
(指輪よ、お前の本体は何処に在るんだ?それを示す事は出来るのか?)
(何処に在るのかは、分かりません…ですが私くしの在る場所のイメージならお伝え出来ます。イメージを共有しますか?)
(あぁ、是非そうしてくれ…頼むよ…)
(了承しました。ではイメージを共有します)
そう言って、指輪から送られて来たのは現代の日本で、しかも自分が生きていた時代だった。
(ハァ!?これ俺が生きていた時と同じ時代じゃないかよ!この時代に在るんじゃないのかよ?)
(それは私くしにも分かりません…ですが、今私くしが在るのは、そこの何処かです…)
(でもそれじゃ、如何やってこの時代から、向こうの現代に行けば良いんだ!?)
(その件に関しましては、今しばらく時を待って下さい…時が来れば、私くしが、安全にご主人様をお送りします)
そう言って、指輪との会話が一旦終了したのだった。
意識を家族に向けると、皆んなも困惑した顔をしていた。
「皆んなの宝の在処は分かったのか?」
聖司がそう聞くと、先ず護都詞が
「私は何だかよく分からなかったのだが、如何やら此処より少し過去のインドに在る様なんだ…」
それを聞いた弥夜が
「えっ?貴方はインドなの?私は此処よりほんの少し未来のイギリスでしたわ…しかも戦争真っ只中の…」
「私はこの時代のタイでした。たしかタイってとても暑い国でしたよね?私暑いの苦手なんですけど、ちゃんと出来るか不安ですわ…」
と夕香。
「皆んなバラバラなんだね!?僕は随分過去のギリシャだったよ!」
そう言う信康に、阿沙華が
「私南極なんですけど!でもこの時代からは、そんなに離れてなさそうなのよね〜。情報が南極だけだったから、いまいち分からないのよ…」
「僕はお侍さんが沢山居たよ!何だかね、前に行った大阪城ってのに似ていたお城が在ったよ」
権也がそう言うと、なる程、だから関西弁なのかと思う一同なのだ。
「それで聖司、お前は何処だったんだ?」
「俺?俺は現代の日本って事だけで、場所は特定出来てないの…」
そう答えたら
「「「現代!?日本!?」」」
と、驚くのだった。
「えぇぇ〜何で〜お父さんだけ、現代なの〜!?ズルいよー!!私南極なのにーー!!」
と阿沙華。
「そうだよな!何で父さんだけ現代なのさ!」
信康もそう責める。
それに続いて皆んながズルい!と言うのだった。
「しょ、しょうがないじゃないか…送られて来たイメージがそうだったんだから…それにさ、正直言って現代だっていっても、少し古い感じ何だ…しかも日本の何処なのかとか、全く分からないんだぞ?」
「それでも近代文明味わえるじゃん〜!クーラーとか、TVとか、ゲームとか色々と〜…」
そうボヤク阿沙華。
「だよね〜、僕達の大半は過去だもの…」
信康も阿沙華と同じ意見だった。
「確かに現代の方が、色々と便利になって良かったけれど、俺は遊びに行くんじゃ無いんだぞ?それ分かって言っているのか!?」
聖司の言った言葉で、黙ってしまう2人。
残りの者もそうだよな〜と、黙る事にした。
だが聖司の本心は
(皆んなには悪いが、俺だけ現代を満喫させてもらうよ!)
と、少し悪どい事を考えていたのだった。
(!………)
実のところ、宝を探す者達の中で1番苦労するのは聖司なのだが、それを知らない聖司なのである。
指輪はそれを知っていたのだが、聖司の気を悪くしてやる気を失せる事があってはならないと、黙ってしまうのだった。
グオォォォォォーーーーン… グオォォォォォーーーーン…
突如異空間に鳴り響く音。
一家は、また使者の魔の手が迫って来たのかと、身構えるのだが、其々の指輪から真珠の様な球が出て来て1つになる。
そして1つになった球が
「準備は整いました…それでは皆様を其々の在る場所へ、送り届けましょう…」
と言うのだ。
聖司達は、何の事なのか理解出来ずにいたのだった。
準備が整ったと言う真珠の様な球。
それは、其々の指輪から出て来た球が1つになったモノだった。
またもや理解出来ない聖司達。
せめて何か前もって、教えてくれたならと思うのだった。
第38話 再びの異空間 完
別の異空間でのお話になりました。
いよいよ次話辺りから、宝を探す旅に出る事になります。
どんな話になるかは次話にて。