新たな
第35話 新たな
恥ずかしい形で社に戻された、聖司と護都詞。
正直、護都詞としては、そこ迄恥ずかしくは無かった。
何故なら試練の最中、聖司が思っていた護都詞の想いを知る事が出来たからだった。
我が子に此処迄、深い愛情を持ってくれてた事が、とても嬉しかったからだ。
そして親として、間違った育て方をしてなかったのだとも思えて、喜びを感じていたのだ。
そんな時に、突如現れた光の主。
「皆無事の様でなによりだ」
そんな感じで話し掛けてくるのだが、本物かどうか疑わしく思う一同だった。
「これ、本物だと思う?」
と阿沙華が言う。
「如何だろう…」
と信康。
「いやいや本物だ!其方達、我の事疑っておるのか?我の事、忘れてしまったのか?」
慌てる光の主。
「いや、忘れては無いよ…ただ何か…がなぁ…皆んなもそう思うだろ?思った者、手を挙げて!」
聖司がそう言うと、一斉に全員手を挙げる。
「なっ?」
「そんな…我は我だ!疑われるだなんて、心外ぞ!」
と、焦りながらも苛立ちを隠せない光の主。
そこで信康が、弥夜にトントンと肩を叩くと、信康の意図を理解した弥夜が
「オンドレ!ギャアギャア抜かすなや!」
と、脅しをかけた。
すると
「スンマセンシタ!スンマセンシタ!大変申し訳ありません!」
と、ひた謝りする光の主。
それを見た一同は、あぁ〜これ本物だわ〜と確信する。
ただその為だけに、いわれも無い叱咤を受ける光の主。
可哀想にも思えるのだが、これが1番確実な確認方法なのだ。
「どうやら本物みたいだな…」
聖司がそう言うと、光の主が
「だから本物だと言っているのに…我悲しいのだが…」
「それはしょうがないじゃない、だってあの時、使者に追われて消えてしまったんだもの…まさか貴方が存在してるなんて、思わないでしょ?」
と、阿沙華が言う。
それは誰もが思っていた事だった。
だが光の主は
「あの時我はこう言った筈だが、今1度ここで別れると…。そう言った事を忘れてしまっていたのか…?」
その問いに、全員が一斉に
「「その通り!」」
と答えるのだった。
「そんな事言ってたかぁ?」
聖司が言うと
「あの時、かなり慌ただしかったもんね、記憶に残らないよ」
と、信康が追加で答えた。
記憶力の良い信康でさえそうなのだから、覚えている事自体無理な事だと、誰もが思ったのだった。
「そんな訳だからね、覚えてないの…ごめんなさいね…」
と、夕香が優しく謝るのだった。
その優しさに、光の主はショックを受けていたのだが、何とか気持ちを持ち直すのだった。
「それならしょうがない…ただショックなだけだったのだが、責めようとは思ってもおらぬ故、気に病まないで欲しい…」
夕香以外は、別に気に病んでなどいないのだが?と、思ったが、口にする事はしなかった。
「それでまた突然現れたのだが、今迄どうしてたのだい?」
護都詞がそう聞くと、待ってましたその質問とばかりに
「よくぞ聞いてくれた!」
と、大変喜んでいる光の主。
それに対して、しまった!聞かない方が良かったのかも…と、後悔し始める護都詞。
何故なら、余計な事聞きやがったな!?みたいな、夕香以外の者達の目線が刺さるからだ。
でも聞いてしまったから、大人しく聞く事にするのだった。
「あの後、使者との攻防が激しさを増してしまい、有りとあらゆる異空間や時代に移動しては、奴の力を削いでいたのだよ…」
思いの外、凄い事をサラッと話す光の主。
これは聞いておいて良かったのだと思う一同。
信康が
「有りとあらゆる異空間と時代って、異空間も沢山在るの!?それとあらゆる時代って、僕達の先の未来にも行ってたりしたの?」
「異空間は、幾千幾億と、数え切れない程在る。時代については、我が体験した時代しか移動出来ぬ故、過去にしか行ってはおらぬよ。ただ、今後も其方達が、過去へ向かった先で、我と使者の攻防を目にするやも知れぬが、その時は我達が過ぎ去る迄、気配を消していて欲しい。見つかると厄介なのでな…」
少し済まなさそうに答える光の主。
今度は阿沙華が
「後それとね、力を削いだって言ったけれど、どれくらい減らせたの?」
「…かなり頑張ったのだが、多分小規模の都市1つ分の魂だろう…だからそれ程力は衰えて無い筈だ…。誠済まない…」
「…それでも力を削いだのよね?」
「あぁ、それは間違いない」
「それならそれで良いじゃない!逆に有難いと思うわ。本当ありがとう」
「そう言ってくれると、やった甲斐がある。感謝されるのは嬉しいものだなぁ…」
「…でもね、幾つか質問と文句を言わせてもらわないとね!」
阿沙華がキツく言うと、それにビビる光の主。
(何故か、この者からも、あの者と似た様な怖さを感じるのだが…)
光の主が感じたものは、弥夜の恐怖の事だった。
「我〜、なんか要らん事思ってんとちゃうかぁ?」
弥夜の鋭いツッコミに、萎縮しながら
「全く思ってませんよ?…」
と、冷や汗を滝の様に流しながら答える光の主。
「で、其方の言いたい事とは…?」
「どうしてこう、まどろっこしい創りにしたのよ!バカじゃない!?時間が惜しいって分かってるの!?」
「い、いや、そそ…それは我に言われても…困るのだが…」
「何でよ!創ったの貴方も関わってるんでしょ!?」
「わ、我が関わったのは、アドバイスと力の一部を提供しただけで、創ったと言うか、生み出したのは、この時代の其方の母だ。そしてそれに手を加えたのは、この時代の其方なのだが…」
「…えっ?…それマジ?…」
「あぁマジ…ん?マジ?…って…あ!本当という意味だったな、そうマジだ!」
色んな時代の言葉を習得している為、時折言葉の意味が分からなくなる様だった。
「それを男達が形作って完成したのが、この修行場なのだ」
阿沙華痛恨のミス発覚!これは痛い…。
そして、そう聞かされた阿沙華は
「皆んな…過去の私とお母さんが、しでかしたみたいで、本当にごめんなさい…」
あれだけ罵っていたのに、ここを創ったのは、まさかこの時代の自分だとは思いもしない阿沙華だった。
「モノを創るのは男性が良いが、生み出すのは女性が1番なのだからと、そう言っていたのが、この時代の祖母だった記憶が有るぞ…。我はそれに大変感銘を受けたものだ…」
と、この時代の事を懐かしんでいる光の主に、しでかした感で沈んだ気持ちが、少し和らぐ阿沙華だった。
光の主が、阿沙華を気遣った言葉だったからだ。
そこに信康が聞く
「多分皆んなは、修行の時の事なんだけどさ、本当に死ぬ試練があったじゃない?あれって、死んでも魂に戻るだけで、本当に死んだ事にならないと思わなかった?」
「私はそう思ったわね、だから何とかなるんじゃ無いかと、案外気楽に試練を受けてたわ」
と、弥夜が言うと
「やっぱりそう思ってたんだ…でもそうじゃ無い筈なんだよね、本当に死んでしまうんでしょ?光の主さん?」
「ああ、此処での修行にて受けた試練は、全て本物で本当に起こり得るモノだ。だから“死”は免れない」
「やっぱりそうだったんだね、この時代の肉体が無くなれば、肉体に刻まれた記憶も無くなり、力を身に付ける事なんて出来なくなるもんね…」
「そうだ…その上魂に戻ってしまえば、最悪、転生してしまう可能性も有るのだ…」
「それだったら、今1度、時間を遡ってやり直せば良いんじゃなかったの?」
と阿沙華が聞くと、光の主は
「この時代に訪れる事が出来るのは1度のみだ。何故なら何度も使うと、時代に変化が生じてしまい、歴史が歪む恐れがある事と、使者に気付かれてしまう恐れがあるからなのだ」
それを聞かされた信康以外の者達は、心底驚いてしまうと同時に、楽観視していた自分の愚かさに、何も言えずにいた。
「だから、それを確認したかったんだ。良かったよ聞けて」
信康は、これで気をしっかり引き締めて、真剣に習練をしてくれると思ったのだった。
特に夕香と権也には、肝にめいじて欲しいと思っていたからだ。
気を引き締めた聖司が、光の主に聞く。
「光の主よ、今の俺達はどれくらい強くなったのか、教えてくれないか?使者との差もどれくらいあるのかも、聞いとかないと、どれだけ強くならないといけないかが、分からないからな…」
「……使者との力の差は、彼奴が100とすると、其方達をまとめても、5にしかならないだろう…その5も、多めに見たとしてもの数値だ…」
あれだけ強力な術や技を習得したのに、それでもたったの5とは、しかも家族全員の力を集めても5という事に、落胆してしまうのだった。
「其方達に聞きたいのだが、この修行場に来て、何か口にした物はあるか?水なり食べ物などは、口にしただろうか?」
光の主が突然、そんな事を聞くのだった。
「いや全く…それが如何したんだ?」
と、聖司が聞き返すと、更に光の主が
「全くとな?…それでいて、何か口にしたいと思ったりはせぬのか?」
とまた、聞くのだった。
その問いに、一同は
「そう言えば、何か口にしたいと思わないよな…」
と聖司が言うと
「僕もそうだよ、お父さん達や信兄ちゃん達もそうなの?」
と、何時もハンバーグをねだる権也迄が、何かを食べたいと思っていなかった。
「お前にしたら珍しいよね、あれだけハンバーグ食べたいって言ってたのに…そういや僕も欲しいとは思わないよね…」
と信康も言う。
「ねぇ、何だかそれっておかしくない?よく考えたら、風と一体化してこっちに来てから、何も食べてないし、飲んでも無いわよね?」
と阿沙華が疑問を口にする。
「そう言えばそうだな…何故なんだろうな?…」
と、護都詞も不思議に思ってしまう。
そして光の主が
「話を聞く限り、とても良い傾向とは言えない状況の様だな…。不味い状況になって来ている様だ…」
と言うのだった。
その事に対して、聖司が
「それって如何言う意味なんだ?不味い状況ってのは…」
と聞くと
「其方達の間借りしているその肉体が、滅び朽ち果てかけているのだ…」
「ハアッ?朽ち果てる!?」
「そうだ、その証拠に、肉体が栄養を必要としなくなったから、何も欲しいと感じなくなっているのだ…。最早余り時間に猶予は無さそうだ…」
衝撃の事実を伝えられた一同。
その事実を初めて知った信康と阿沙華も、驚きを隠さないでいた。
「そんな事、光の記憶に無かったよ!何でそんな大事な事残して無いのさ!」
「そうよ!とても重要な事じゃない!それこそバカなんじゃないの!?」
と、責め立てる信康と阿沙華。
「それは済まぬ事をした…だがそれを残し、知ったからといって、為すべき事が出来ぬ様なら不要なモノだ。ただ焦らすだけで、気が散ってしまい、何も身に付ける事など出来る筈がないからな…。厳しい事を言うが、それが現実であり、避けねばいけない事なのだから…」
そう言われて、ただ黙るしかない2人。
「だが、今の其方達なら、基本となる力をしっかり身につけたではないか。それも自力でだ!我が此処に現れた1つの理由は、それが出来ない時に、サポートする為にやって来たのだ。だがそれも必要では無くなったのが、何よりも喜ばしい事なのだよ…」
「そうだったんだね…ねぇ聞くけど、本当に僕達、基本をマスターしたの?」
と信康が聞くと
「我とこの時代の其方達の思った以上に、力を身に付けておるよ!とても素晴らしく思う程に」
光の主は、誇らしそうに笑っていた。
それを見た聖司達は、何故かとても嬉しく思えて、顔を見合わせながら、笑うのだった。
その時権也が、光の主にある事を尋ねる。
「ねぇ光の主さん、光の主さんって名前なんて言うの?」
「如何した突然?我の名など聞いて…」
「だって名前気になるじゃない!ずっと光の主って呼ぶのも、正直変な感じだし、言い辛いんだよね〜」
「あっそれ!私も思ってた!」
と阿沙華も賛同すると、残りの者も皆んな"そうだよな"と、頷くのだった。
「言い辛い…とは…我の名か?我には名前など無いのだよ…」
「えっ?それマジ?」
阿沙華が信じられず、聞き返すと
「我に名前が付く前に、この状態になったから、名は無いのだ。まぁ正直不便は今迄無かったからなぁ…だから名など必要とせぬのだよ…」
「それじゃ今後は私達が呼ぶ時、不便よね〜。そうだ!私達で名前付けても良いかしら?」
と、阿沙華が提案すると
「別に構わぬよ…」
「だって〜皆んな、名前如何する〜?」
「名前ねぇ…お前達の名前付けるのも、結構大変だったんだぞ?それをいきなり言われても…」
と聖司が言うと
「それじゃピカさんとかはダメかしら?」
と、夕香が言う。
「ピカさん?」
「そう!ピカさん」
「夕香、如何してその名前が思い付いたんだい?」
「えっ?だって聖司さん、光の主さんでしょ?」
「うんうん」
「光ってピカってなるでしょ?」
「うんうん、ん?」
「だからピカさん!」
「………」
夕香のネーミングは、遂にこのレベルに達したのだと、誰もが思った。
恐るべし天然…。
「ピカさんね…よし!決定!皆んな、今後光の主改、ピカさんと命名します!」
そう聖司が宣言すると、“ピカさんか〜”と受け入れる一同だったが、当の本人は
「ピ…ピカさん…?それやめて欲しいのだが…」
「ん?何か気に入らなかったのか?」
「いやだって…ピカさんって…其方達の時代では…ハゲ頭を指すんじゃなかったか?」
「いや全然〜そんな事ないぞ〜」
少し楽しげに答える聖司。
「そうそう、そんな事ないから!気にし過ぎだよ!」
と信康。
「そうなのか?…それなら別に良いのだが…」
「よし、言質取ったな!」
聖司のその言葉に
「?」
となる光の主に、権也が
「ピカさんっての、ツルツル〜ん!ツルツル〜ん!だよ〜」
とトドメを刺す。
「!!!やっぱり取り消す!他の名前にしてくれ!」
「ダメだ!言質取ったから、もうムリ!受け付けません!」
「後生だー!」
聖司と光の主のそのやり取りで、爆笑する一家だった。
大いに笑った後、ピカさんを受け入れた光の主。
そのピカさんから重大な事が伝えられるのだ。
「光の主改、ピカさんから其方達に伝える事がある。…クッ…しまらない……ふぅ〜気を取り直して、其方達に今後必要なモノを手に入れて欲しいのだ…」
「必要なモノ?」
「そうだ、それはとても重要なモノで、今後必ず必要とするモノなのだ」
聖司の問いに、そう答えるピカさん。
また聖司がピカさんに
「それはどんなモノで、何処に有るんだ?」
その問いにピカさんは
「それは分からぬ」
「分からぬって、そんなモノを如何探せばいいんだよ!?」
「そのモノは、王族だけが身に付けられる、王族の宝なのだが、今は形を変えているやも知れぬし、何処に有るのかも分からぬのだ」
その話を聞いた護都詞が
「それを如何やって探すのか分からないのじゃ、全く話にならないじゃないか…それでも探せと言うのなら、何かヒントとかちゃんと用意してあるのだな?」
「それは用意してある…と言うか、分かるのは其方達だけなのだよ」
「何だと?それは如何言う意味なんだい?」
「そのままの意味だ。ただやり方だけしか教えられないのが、我にも悔やむところなのだよ…済まぬ…」
そう言って、ピカさんは謝るのだった。
ピカさんにより、見付けなければいけない、王族の宝。
その宝を如何探すのか、未だ教えられてない一家。
更にこの時代の肉体のタイムリミットも迫っている。
未だ未だ無理難題が続く聖司達であった。
第35話 新たな 完
今話は、術や技が出て来なかったのですが、その代わり、光の主のネーミングがちゃんと付いた事に、ホッとしてます。
では次話にて、王族の宝を探す為の前置きを書きます。
しばらくお待ち下さいませ。




