試練
第34話 試練 その5
護都詞と一緒に飛ばされた聖司。
何故一緒に飛ばされたか理解出来ないでいたのだが、その時
「汝達に、新たな試練を課そう…」
と言われて思わず、護都詞と同じ内容の試練を受けなければいけないのか?と、内心焦っていた。
何故なら1万人切りを2人でするには、気まず過ぎるからだ。
しかも、実の父親と2人でとは…。
2人で口説いて、相手と×××するのは、倫理に反してるとも思えて、それに夕香一筋なのに、そんな事出来やしないとも思ったからだ。
だが護都詞は違っていた。
ただ冷静に
「此処の堂舎の声よ、何故今回、2人で此処に飛ばされたんだ?それに何故今迄、新たな試練が開始されなかったんだ?それを先ず説明するのが当たり前なんじゃないのか?」
と、堂舎の声に聞くのだった。
それを聞いた聖司は、自分が思った事に対し、恥ずかしくなるのだった。
「このムッツリが…」
とても小さな声で護都詞が言う。
その言葉に、ビクッとしてしまう聖司だった。
そのビクついた時
「汝の問いには答えられぬ…我には分からぬ故…無事試練が終えた時、社殿にて聞くがよい…」
と、何も教えては貰えなかった。
ほっっっん当まどろっこしい!阿沙華じゃないが、キレそうだよ!
「落ち着け聖司…どうした?」
「いや、阿沙華じゃないけどさ、本当まどろっこし過ぎて、早く先に進みたいんだけど、この調子じゃなかなか進まないと思ってしまったんだ…」
「確かにそうだが、家長のお前がしっかりしないと、皆んな不安になるから、もっとドーンと構えてる事が、何より大切だぞ?」
護都詞のアドバイスに、そうだなと思うのだった。
「分かったよ父さん、アドバイスありがとう」
「何、大した事じゃ無いよ…。それより早く試練を終わらせて、社殿に戻るぞ…」
「あぁそうだね、戻ったら、社殿に文句の1つでも言ってやるよ」
「そうだな、私もそうするよ!」
このやり取りで、ハハハと笑い合う2人。
「待たせたな…さっ!堂舎の声よ!さっさと試練を始めてくれよ!」
「…では次なる試練を始めよう…」
そう言うなり、堂舎の中の風景が、一気に変わるのだった。
真下には溶岩の海、足元には護都詞と聖司が横並びになって、ギリギリ立っていられる薄い板の上に立っていて、その遥か下に、溶岩が沸々としていた。
「うわぁ!何だこれ!」
「おお、落ち着きなさい…せ、聖司…」
「いや、落ち着けって、落ち着ける訳ないじゃないかよ!…それに父さんもビビってるじゃないかよ!」
「ハハハ…だよな…」
「…これ…落ちたら死ぬのかな…」
「どうだろうな…試練だから、死ぬ事無いだろう。ただの追体験みたいなモノなんじゃないのか?」
「俺が前に受けた試練…本当に死ぬモノだったんだよ…」
「何!?それ本当なのか!?」
「本当なんだよ…なぁおい、これ本当に死ぬやつなのか?」
そう声に聞く聖司。
「…汝の言う通り…死ぬ…」
「…な?本当だっただろ?…」
「…マジか…それはヤバいよな…」
本当に死ぬと知った護都詞。
その時初めて、自分に課された試練と違う事を知り、自分も大変だったと思っていたが、それ以上に死ぬ様な目に遭ってた事に、驚いてしまうのだった。
多分、弥夜も今頃、同じ気持ちでいるのだろうとも思うのだ。
「それで今回は、俺達どうすれば、試練クリアした事になるんだ?」
聖司が堂舎の声に尋ねると
「今立っているその板は、汝達の力の均衡が崩れてしまえば板は割れ、真下に有る溶岩に落ちる仕組みになっている…板を割らずに溶岩を消す事が、今回の試練だ…」
「ちょっと待ってくれ!もし板が割れてしまったら、再度板は現れるのか!?」
「それは無い…今有る1枚のみだ…」
「マジかよ!?それじゃ、チャンスは1度っきりじゃないか…失敗出来ないよ父さん!」
「その様だな…これは如何するかをしっかり見極めないと、助からないな…で、如何する聖司?」
「如何するもこうするも、まだ何も分からないよ…」
「…では汝達…試練を開始する…」
「マジ!?こっちは未だ何も準備出来て無いっての!」
いきなり試練を開始されて、慌てふためく2人。
そのせいで、早速ミシミシいいだす板。
「取り敢えず落ち着こう!聖司!」
「だな!…でも力の均衡がって言ってたが、今俺達の均衡は取れてるのか分からないんだけど…」
ミシミシミシ…
「!ーやっぱりとれてないぞ父さん!」
「これは本気でヤバいな!ってか、焦らせないでくれ!」
「………そうだ!父さん!取り敢えず肉体にアクセスしてみよう!何か分かるかも知れないから!」
「なる程!…よし!早速始めよう!」
そう決まって、直ぐアクセスする2人。
すると、今迄ミシミシいっていたのが止まるのだった。
アクセスする事によって、意識を集中した為か、一時的に均衡が取れた様だった。
だが本当に一時的だった為、またミシミシと音がし始めてくる。
どうにか均衡を取る手段として、お互いの力量を見抜くやり方が分かった聖司。
「父さん、やり方が分かったよ!父さんはどうだ?」
だが護都詞は、そのやり方を分からないでいた。
「済まん…分からない…」
「えっ?…マジか…どうする…」
そう言いながらも、やり方が分かった聖司は、2人の力量を測ってみるのだった。
すると聖司と護都詞の力の差が、かなり開いているのが分かる。
聖司の力量を10とすると、護都詞の力量は4。
6つもの差がある事を知った聖司は、何としてでも護都詞に、同じやり方を知ってもらわなければ、上手くいかないと思ったのだった。
(どうする?このままじゃ2人一緒にあの世行きだぞ!?…何か今直ぐ教える事は出来ないか…)
何故聖司がそう思ったのかというと、口頭で説明するのが難しいやり方だったからと、理解するのに時間が掛かるからだった。
如何する?と、ひたすら考えた時、ふとある事を思い出すのだ。
(そういえば光の主の様に、記憶を見せる事が出来れば、説明する手間が省けるんじゃないか?…よし、モノは試しだ!先ずそれのやり方を探して……在った!これだな!それじゃ善は急げだ!)
「父さん、今から俺の意識を共有するから、そのままじっとしていてくれよ!」
「あ、あぁ…よく分からんが頼むよ…」
「それじゃ…」
聖司は護都詞の手を握り、意識を共有させるのだった。
するとどうにか上手くいったみたいで、護都詞もやり方を理解する。
そして護都詞も力の計量を開始すると
「何と、こんなにも差が有ったのか…聖司、悪いが私ではこれ以上力を上げるのが難しく…出来ても1つ上げるのが精一杯だ…だからお前で力の均衡を取る様に、セーブしてくれないか?」
「…分かった、何とかやってみるよ…」
そう言って、2人は出来るだけ均等になる様、集中するのだが、なかなか上手くいかない。
(クソッ!なかなか上手くいかないな……あっ、それなら俺の力を意識を共有したみたいに受け渡し出来ないか?…これもダメ元でやってみるか!)
そう思って、力を渡すイメージを描きながら、護都詞に力を渡してみる。
それが上手くいった様で、見事均衡が取れる様になった。
ただこの時、初めてやるやり方だったのと、焦りからも手伝ってか、聖司が普段から思っている、護都詞への思い迄渡してしまっていた。
とても大切な存在だという事。
特別な存在だという事。
誇りに思っている事。
心閉ざした時、辛い思いをさせた罪悪感。
そんな辛い思いをさせたのに、見守ってくれた事に感謝している事。
そして、自分を愛してくれてる事を知る護都詞。
それが痛い程伝わり、聖司の父親でいられた事が、とても嬉しく思った護都詞だった。
嬉しく思えた時、上手く均衡が取れた様で、ミシミシたてていた音が止んだ。
音が止んだ事で、初めて足元の板を見ると、板に無数のヒビが入っていた。
「あっぶな…このまま均衡保てなかったら、割れていたみたいだ…」
「そうだな…これももって後1回、均衡が崩れたら終わりって感じだな…」
「本当、間一髪だったな父さん!」
「…そうだな…それとありがとう聖司。とても嬉しかったぞ…」
「?…何いきなり?如何したんだよ?」
(気付いてないのか…それでもお前の本心が聞けて、本当に嬉しかったよ…私もお前を愛してるし、誇りに思うよ…)
「いや何でもないさ、ただお前のおかげだと、感謝しただけだから」
「ん?本当にそうなのかい?それなら、こっちこそありがとう父さん」
「…でも、何時迄手を握っていればいいんだ?まぁ私は嫌じゃ無いから良いが、お前は如何なんだ?」
「あっこれはその…父さんが嫌じゃ無ければこのままで、この試練を終わらせたいんだ。本当は光の主の様に、光の線を繋げれば良いんだけれど、やり方が分からなかったのと、直接触れてた方が、伝わり易いから…」
「はて?試練を終わらせる為とは…?」
「多分、今回の試練なんだけどさ、2人で協力して、技か術を開発するか、合体技が必要なんだと思うんだよ」
「ほぅ…でも何故そう思ったんだ?」
「信康が言ってたの思い出したからさ、合体技とか、受け渡しの練習して欲しいって言ってた事を…」
「そういえばそんな事言ってたな…」
「で、さっき俺が父さんに力を渡しただろ?」
「ああ…」
「その時、あっこれはもしかして、その事を理解する為の試練だと思ったんだ。だから今回の試練、それでこの下の溶岩をどうにかして、2人で消滅させるのが正解なんじゃないかと思ってね…」
「フフフッ、何だか此処に信康が居るみたいに思えるよ。流石私の息子で、信康の父親だな…ハハハ…」
とても嬉しそうに笑う護都詞。
「何だか父さんに、そう言われるとむず痒くなるなぁ〜」
と、聖司も笑いながら答える。
「よし、それじゃその試練とやらを済まそうじゃないか。やり方分かるのなら、それを教えてくれないか?」
「ああそのつもりだよ、先ずはあの溶岩を凍結させないとな…」
「凍結!?そんな事が出来るのか?」
「1人じゃ無理だろうけど、父さんと2人の力を合わせれば出来ると思うよ」
「そうなのか…それじゃそれをやって成功させた後、消滅させるには、如何したらいいかも分かってるのか?」
「何となくだけど、イメージはついてるよ。それを今から父さんに送るよ」
そう言って目を閉じ、聖司はイメージを送るのだった。
聖司から送られてくるイメージは、何故か心地良い感じがして、安らぎを覚える護都詞だっだ。
多分それは、相手を思いやる聖司の温かさからくるものだと、護都詞は思った。
「…ほぅ、こんな術が出来るのだな。これならいけそうだ!よし、早速やってみよう!もしダメでも、また別の手を考えればいいだろう…」
「だね!それじゃ…」
「「雹風月!!」」
2人同時に氷結の術を使ったら、あの沸々と煮えたぎる溶岩が、パキパキパキィーッと音をたてて全てが凍り付くのだった。
そこに目掛けて護都詞が
「速断裂脚!」
聖司がその速断裂脚に合わせ金剛撃を繰り出す。
「速断金剛裂弾!」
固まった溶岩は粉々になり、塵と化すのだった。
なんて恐ろしい技なんだと思った。
この技は、今合体技として開発したのだけれど、我ながら凄い技を編み出したものだと思った。
風による超振動を付加した破壊の力で、物を粉砕するイメージだったのだけれど、まさかあれだけの溶岩の塊が、塵になるとは思いもしないよ…。
「…恐ろしい程の破壊力だな…」
「…だね…これは使えるけど、使わないでおくよ…余りにも危険だから…」
「それが良いだろう…でもやったな聖司!これで試練クリアなんだろ?」
「あっ!そうか!おーい、これで試練クリアで良いんだよなぁー?」
あー…あー…ぁー…
ただ聖司の声がこだまするだけだった。
「あれ?返事が無いぞ…?父さん、もしかし…」
パシューン…
「たら、未だ試…」
前と同じ、話しながら強制移動された2人。
しかも手を繋いだままの強制移動。
冷や汗が止まらない2人は、誰も居ないよなと確認する為、恐る恐る辺りを見渡すが、恐れてた通り、そこには既に試練を終わらせてた一同が揃っていた。
「お父さんとお爺ちゃん、手繋いでる〜」
権也が真っ先にトドメを入れる。
「お父さんとお爺ちゃん、何をしたらそんな風に、仲良しこよし出来るの?」
阿沙華が弄る。
「あら聖司さん、貴方もお義父さんも子離れ親離れ出来て無かったのですか?でもまぁ仲が良くって宜しいわ〜」
夕香の反応は、やはり少しズレている。
「本当その様ね〜夕香さん、仲が良い事〜」
弥夜は、弄る事にした。
「父さんお爺ちゃん、僕は何となく分かってるよ…そうしないといけなかった理由…。でもタイミングが悪いよ…フォローし切れない状態で戻されたから…」
と、信康は分かってくれていたが、揶揄う者達の多さに、フォローし切れないと言うのだった。
今度は護都詞も一緒に、心を閉ざしてしまいそうになる。
その時初めて聖司の気持ちが分かった護都詞だった。
もう何を言っても、この者達の揶揄いは続くのだろうと、諦める事にしたのだが、試練の最中に触れた聖司の思いで、何とか踏ん張れていた護都詞。
この時ばかりは、聖司の自分への想いに感謝したのだった。
そして聖司は、薄っすら笑いながら、信康に誓った事を思い、踏ん張るのだった。
肩を落としながら、家族の元へ向かうと突然
「皆、無事力を得られた様だな…」
と、何処からか声が聞こえてきた。
その声は社の声ではなく、聞き覚えのある声だった。
驚いた一同は、社の中を隈なく見渡す。
すると中央の文字が書かれた所が光り輝いて、その中に人の形が浮かび上がるのだった。
「!!」
更に驚く一家。
光が消え、そこに現れたのは、光の主だったからだ。
「光の主!?」
「皆のもの、無事で何よりだ!我にしてみれば、久方振りなのだが、お主達にしてみれば、そうで無いのかもしれぬが、取り敢えず久し振りと言わせてもらおう」
と、ほんの数日前に別れた光の主が、懐かしむ様に語り掛けてくるのだった。
突然の再会に戸惑う聖司達。
如何反応していいのか分からないでいた。
突然の再会に戸惑う一家。
使者から目をくらます為に、囮になって何処かに消えた光の主が、今此処に居るのだ。
何がなんだか分からないまま、時は過ぎていく…。
第34話 試練 その5 完
今話は如何でしたか?
試練としては、生温い感じでしたでしょうか?
それとも、試練っぽいと思えて頂けましたか?
最後の方に出てきた主ですが、次話で少し?重要な事を語ると思います。
では次話をお待ち下さいね〜。