試練
第31話 試練 その2
中央の社から光になって送られた建物の中は、何処かの道場の様な造りをしていた。
その隅に、登る階段が1つ有るだけだった。
だが、階段の先は、天井で塞がれている。
一応登って色々試してみたけど、上へと登れそうに無い。
もしかしたら、ここで力を何かしら身に付けなければ、上への入り口が開かない造りになっているのだろうか?
そう思って、部屋の真ん中辺りをウロウロしていたら
「汝、力を示せ…」
と、何処からか声が聞こえてきた。
あー、この手のモノって、何故同じなんだろう…。
だいたい力を示せって言うよな…。
それでもって、必ず示せば階段の先が開かれるだろうみたいな事、言ってきそうだ。
「さすれば…」
「分かってる、先に進む扉か何かが開くんだろ?」
と、呟いたら
「死ぬがいい…」
「ほら、そうだろう?……えっ?死ぬがいい?」
えっ?聞き間違いじゃないよな?
あれ?もしかして当てられたから怒ってる?
「あっあの〜、言い当てられて怒ってる?」
「……汝、力を示せ…さすれば死ぬがいい…」
怒ってるんじゃなかった!
マジで死ねと言ってるぞ!?
そんな物騒な事言われたら、力を示す訳がない!
アホか!
「汝…力を示さぬのなら、即死ぬがいい…」
「ちょっちょっと待て待て!どっちにしろ、死ぬのかよ!」
「示すのか示さぬのか…」
っきしょー!どうすればいいんだよ!
示そうにも、やり方が分からないっての!
どの道殺されるとするなら、示して抵抗しないと…取り敢えず、肉体にアクセスアクセス!何かヒントがないのか?
ズダァーン!
何処からともなく、いきなり鉄の矢が襲って来た。
「うわぁ!…あっぶな…」
ダダダァーン!
今度は連続で襲ってくる。
こんな状態じゃ、アクセスしようにも集中出来ない!
何とかしないと…
必死に幾つもの攻撃を躱しながら、肉体にアクセスを試みる。
何とか慣れてきた頃に、やっとアクセス出来たのだ。
その中に、この部屋の攻略法が有ったのだが、それは死ぬ事だったのだ。
「マジかよ…死ぬって…」
と思った瞬間、腕に激痛が走る。
1本の矢に、腕が貫かれていた。
「うわぁーー!ぎゃーーー!……」
そう悲鳴をあげた時、心臓と頭に矢が突き刺さり、俺は絶命した。
The End…
主演 龍乃瀬 聖司役 龍乃瀬 聖司…
と、音楽と共に映画のスクロールが流れてきたよ…。
って違う違う…。
今本当に死んだよな?…確かに俺は死んだ筈…。
なのに、無傷で生きている。
しかも、さっきと同じ部屋の真ん中に立っている。
どういう事だ?と思っていたら
「汝、力を示せ…さすれば死ぬがいい…示さぬのなら、即死ぬがいい…」
えっ?デジャヴ?と思った次の瞬間、また鉄の矢が降り注いでくる。
今度は1度に幾つもの矢が…。
慌ててアクセスしながら矢を躱すのだが、またもや同じ攻略法で“死ぬ事”としか出てこない。
ハァ?ふざけるなと必死に矢を避けるのだが、また心臓と頭に矢が刺さり、あえなく死んでしまう。
そしてまた、気が付けば無傷で甦り
「汝、力を示せ…さすれば死ぬがいい…示さぬのなら、即死ぬがいい…」
と、同じ事を繰り返されるのだ。
この同じ事を何度繰り返しただろう…初めのうちは、何とかしようと頑張っていたが、60回程過ぎた辺りから、抵抗する気が無くなり、100を超えてからは最早抵抗すらしなくなっていた。
200は超えたのだろう、考える事すら辞めかけた時、ふと思ったのが、使者の喜ぶ顔だった。
クソッ!負けてられない!
でもどうすれば、この繰り返しを終わらせる事が出来るんだ?
せめて肉体にアクセスして、攻略法じゃなく、別の力を使えればいいのだけれど、アクセスしている余裕が無い…。
せめてその余裕が少しでも確保出来れば、何か見つけられるかも知れないのに…。
………待てよ…何か思い付きそうだ……。
そうだ!どうせ同じ事の繰り返しなら、死ぬ直前迄アクセスし続けるか、死ぬ瞬間に、アクセス開始しておけば、繰り返される間に、何か見つけられるかも知れない…。
よし!それでいこう!
そう決めてからは、ずっとアクセスし続けた。
すると1つ2つと、手段が思い付くのだった。
「ダメ元だ!先ずは超速移動で矢の攻撃を躱す!光雷!」
聖司は、肉体に刻まれた力を使うが、上手く発動出来ずに、自ら矢を受けてしまい、死亡してしまう。
だが、自ら力を発動させる事が出来た事に、喜び希望が見えた気がした。
それからは、今分かっている全ての技を試してみる。
風と一体化した時の様に、空間と一体化になったり、火や電撃は使えないかと、試したりもした。
だが、どれも聖司にとってはしっくり来ず、決め手に悩んでいた。
(せめて時が止まれば、もう少し上手くいきそうなんだが……時?…時間?…何だかこの響き…しっくりくるぞ?…もしかして、俺の力って…)
何かが聖司の中で、弾けた様な感覚になる。
試してみよう!と試みた時、今迄続いていた攻撃が止んだ。
「!?…何だ?、攻撃が止まったのか?」
周りを見渡してみても、何処からも攻撃されそうな気配が無い。
「汝…力を示した…よって、第一の試練は終了する…」
言っている意味がよく理解出来ない…第一の試練?何だそれ?何にせよ、何度も死んで、何度も甦る事は無いのか…。
此処迄に、既に2,000回は超えていると思う。
その間に色々と試してみた結果、何となくではあるが、分かった事があった。
技や術を使う時に、その技や術を発動させる為の言葉や呪文の様なものが有るのだが、イメージがしっかり出来てくると、思っただけで発動するという事。
1番最初に使った光雷や、火の術の炎覇に電撃の雷断、水の水兎。
技では金剛撃という、重機の強力な力で破壊する様な打撃に、速断裂脚という、カマイタチを発生させる程の、素早い連続の蹴りなどがあるのだが、どれもイメージを強く待てば、技名や術名を唱えなくても、発動出来るという事なのだ。
この第一の試練で得た情報を整理していたら、部屋の風景が、突然パソコンのノイズの様になり、ジジジィと音をたてながら別の風景に変わるのだった。
そこには自分の姿が有ったのだ。
「!!」
驚く聖司。
「な、何であそこに俺が居るんだ!?」
そう言った時、自分の体にノイズが走る。
「な、何だこれ!?どうしたんだ!?」
自分の身に起きている現象に、驚異しか感じられない聖司に、また何処からか声が聞こえてきた。
「汝、よく第一の試練を乗り越えた…今のお前は思念体となっていて、肉体から離された状態なのだ…この試練により、既に力の使い方を知り得ただろう…さぁ肉体に戻るが良い…」
そう言われた途端に、肉体に戻されるのだった。
戻された瞬間、変な痛みを感じたのだが、それよりも
(何だって?…あの何度も死んで甦ったのは、思念体での体験だったのか?…それにしても、リアルな体験だったぞ…)
幾つもの、大変な試練が有ると聞かされてはいたが、まさか本当に初めから、これ程の試練を受けるとは思ってもいなかった。
なにせ、何度も死ぬ痛みを繰り返されるのだから、今後の試練はどんなモノが待ち受けているのか、想像しただけでゾッとするのだった。
「そういえば、試練を乗り切れば、ここから出られるんだったよな…出口…らしき物は無いよな?…って事は…此処での修行は…考えたくはないが、まだ終わってない…のか?」
一応念の為に、部屋の中を隈なく調べてみる。
やはり上に行けない階段はあるが、窓も無いし、出口が見当たらない。
取り敢えず阿沙華が言っていた、俺が何かしら望んだら、それに応えられる創りの空間だっていう事を思い出し、肉体にアクセスしてみて、この部屋から出られる術を確認してみる。
だが分かった事は、やはりこの部屋での修行が終わってない事だった。
「う〜ん、この調子だと、他の皆んなはどうなってるんだ?確認してみるか…」
(あー皆んな〜、聞こえるか〜?聞こえたら返事して欲しいのだけれど)
………
誰からも返事が返って来ない…。
返事が出来ないくらいに、各自大変な試練が待ち受けていたのか?
それとも修行中は、通信出来ないのか?
と、思っていたら
「汝、試練の最中、他の者との会話は出来ぬ…」
と、また何処からか聞こえてくるのだった。
あぁ、後者だったか…多分皆んなも同じ事してるんだろう…そして、同じ事言われてるんじゃないかな?
ってか今俺がした会話、なんで分かったんだ?
「あのさ、何処の誰だか知らないが、俺の質問に答えられるのか?他の者と会話は出来ないって今言ったが、俺自身言葉で話してないぞ?思っただけなんだか?」
「…汝、力を…」
「いやそれは分かったから!答えられるのか、られないのか、ハッキリしろよ!本当は出来るんだろ?」
「…出来る…」
「やっぱりな…で、聞きたい事あるんだが、質問しても大丈夫なのか?」
「…我は定められた事柄しか話せぬ…故、答えられぬ事もあるがそれでも良いのなら構わぬ…」
どうやら、1システムに過ぎないって事か…多分、試練を与えるだけの、簡単な物なのだろう。
「あぁそれで構わない、で質問なんだが、此処を出るには、後どれくらいの試練を乗り越えなくちゃいけないんだ?」
「それは汝による」
「はあぁ?なんだそれ?」
「汝が、全ての力を使いこなせる基本を身に付ければ、自ずと出られるのだ。それ迄、試練は可か否かだけなのだ。数の問題では無い…」
「…なる程…分かった!では早速次の試練を頼むよ」
数では無く、可か否かか…分かり易いっちゃ分かり易いな。
「では汝、力を示せ…次の試練はこれだ…」
そう言い終わると同時に、部屋の中が水で満たされていた。
今度は思念体ではなく実体なので、本当にヤバい。
息が出来ない状態では、溺れ死んでしまう。
取り敢えず一体化をしてみるが、その途端渦を巻き出すので、一体化した体がバラバラにされそうになるし、目が回るし吐きそうになる。
次の術はこれか?など思って水兎を使った。全く意味なし!
そりゃ水の中で水の攻撃しても意味がないよな、でも吐きそうになって、慌てて使ったものだから、一体化したまま術を発動させていた。
その事に気付き、こんな使い方も出来るのかと、驚いてしまう。
そしてそれならと、水と一体化したまま火の術を使えばどうなるのかと試してみた。
「炎覇!」
アッツ!アチチィー!水が熱せられて、自分自身まで加熱してしまう…。
だがこの術、水の中で使ったのに、炎は消えずこの火力なのかと、これにも驚いてしまう。
では逆の発想で、凍らせてみたらどうだろう…氷結の術…技…あれ?有った様に思ってたけど、全く見つからないぞ?どうしてだ?
しょうがない、何かと何かを合わせてみて、何とか凍らす術を作れないか?
う〜ん、先ずはやっぱり水の術と、後は…風の術が良いかな?
水兎と、断風を同時に発動させるには、かなりの集中力が必要だし、コントロールが難しい…。
何せ、既に水と一体化してるから、同時に3つもの術をコントロールしなければいけないからだ。
先ずは強くイメージしよう、凍らせる様に、南極や北極の猛吹雪の様に、強く…強くイメージ…そしてコントロールに強く集中して…。
強くイメージする事により、心が無になる。
それと共に、頭の中に言葉が浮かんできた。
「雹風月」
ピシィーーーッ
そう音をたてて、全ての水が凍る。
なので、一体化した自分も凍りついちゃったよ…。
『ヤバい、こうなる事考えて無かったよ…信康や阿沙華に笑われてしまうな…あっ、特に権也には大笑いされちまうぞ…どうする?…この状態どうすりゃいいんだよ…しくったぁ〜』
氷の中なので、自分の話す声が鈍く響く。
凍らせた事により、体が冷えてきた。
溶かすにも炎覇だと、また加熱されそうで躊躇ってしまうし、それに上手く溶ける気がしない。
氷を溶かすには水が1番なんだが、それでも直ぐには溶け切らないだろう…その間に凍死してしまいそうだ…。
打つ手無しかよ…。
そう思ってたら
「汝、試練を乗り切れた様だ…第二の試練を終了する…」
と、突然試練が終了し、元の部屋に戻るのだった。
水で満たされていたのに、凍り付いた水は無くなり、一体化も解除されていた。
何だ?どうして試練が終了したんだ?
「なぁ〜おい、どうして突然試練が終わったんだ?」
と聞いてみると
「汝、同時の発動と、新しく術を編み出したからだ…それが今回の試練だったのだ…」
なる程、あれこれ考えてやってみた事が、正解だったんだな…結果オーライってヤツだな。
それにしても、1つ気になる事があった。
「今し方、幾つか術が元に戻ってる事に気付いたんだが、もしかして、今回の試練の為に消されていたのか?」
「…汝…其方の言う通りだ…今回の試練は、自力で術を創成させる事にあった…」
「なる程なぁ…いやぁ…何というか、嫌らしい仕組みだよな…まぁそのおかげで、力の使い方が分かったのだけれどなぁ…」
「それなら良い…これで1度基本となるモノは終了だ…次を待つがよい…」
「?…1度?それはどういう…」
パシューン…
「意味だ?未だ続く…あれ?」
気が付くと、見覚えのある場所に立っていた。
そこは中央の社の部屋だった。
しかも、左手人差し指で空中を刺し、右手は腰にあてて、人を問い詰めるポーズで立っていた。
周りを見渡すと、護都詞と弥夜以外の家族の姿があったのだ。
「……………」
「お父さん…何ポーズキメてるの?」
「お父さん指差してるね〜、まるで学校の先生みたい〜」
阿沙華と権也の弄り。
「阿沙華、察してやれよ…多分建物の声に何か言ってたんだと思うからさ…」
と、信康はフォローを入れるが
「あら貴方、学校の先生になってたんですか?学校の先生出来るなんて、聖司さんって本当何でも出来るのねぇ〜」
と、権也の言葉だけに反応した夕香だった。
「信康〜!」
分かってくれるのは、信康だけだと抱きつく。
「あらっ?まだ子離れしないんですね〜。本当子煩悩ですね〜、とても嬉しいわ〜」
「僕ちゃまさんと、親バカさん復活だね〜」
阿沙華の弄り。
「お父さ〜ん、僕もギュッとしてよ〜」
と言いながら、先程の聖司がとっていたキメポーズを繰り出す権也。
どうやら修行にて、使者に付加された機能が強くなっているみたいだった。
分かってはいるが……分かってはいるのだが、虚しさと腹立たしさが込み上げてくるのだった。
「「はあぁ〜……」」
2人、大きなため息をつくのだった。
まだ始まったばかりの修行なのだが、思った以上に過酷な修行だったのだ。
今はひと時の休息の筈なのに、休まる事さへ出来そうに無い。
そして、未だ終わらぬ護都詞と弥夜の修行は、どうなったのか気になる聖司であった。
第31話 試練 その2 完
やっと少しですが、本格的に術などを使うようになってきました。
技名とか、術名を考えるの難しいですね〜。
では次話迄、しばらくお待ち下さい。