喜びの再会
第3話 喜びの再会
聖司は、本当ならこの場を離れて、出来る限りの広範囲を探しに行きたいのだが、何故かこの場を一歩も離れる事が出来ないのだ。
必死にこの場を離れようと、前へ前へと足を踏み出すのだが、同じ場所で足踏みしているだけで、この場を離れる事が出来ない。
其の場を離れる事の無い、其うそれはまるで地縛霊になったかの様な気にさえなる聖司…。
其れからどれだけの時間が経ったのだろう…。
何時しか、あれだけの大パニックに為ってた群衆も数少なく疎になり、空は明るんで出勤や通学の人達が、驚きながら聖司の家の有り様を見て去って行く。
既に何もかもが無気力になり、考える力も、家族を見付ける気力も無くなって、只其処から動けないだけの、聖司の姿が其処に有るだけだった。
唯ボーッと、焼け跡の我が家と、焼け炭になった家族と思われる物体を眺めているうちに、何時しか真上に日が昇った時、突如不思議な現象が起こるのだった。
家族の焼け炭と思われてた物体の中から、チカチカと光の粒が無数に溢れて来るのだった。
其れに気付いた聖司は
「…あれはなんだ?…あの無数の光の粒は一体…?」
其れ迄無気力でいた聖司だったが、その異変に心が騒めく。
「あれは、もしかして…もしかすると…」
聖司は思う。
焼け炭の物体から溢れる光の粒が、ずっと探していた家族の魂の光の粒なんじゃないのかと、其うで有ってくれと想い願いながら、じっと其の成り行きを見続けた。
時間が経つにつれ、其の光の粒は1つへと集まり、人の形を形成していく。
其れが同時に6つも作られていくのを見ていた聖司の想いは、儚い希望から確信へと変わるのだ。
「やっぱりあれは、家族皆んなの魂なんだ!」
其れを言葉にしたと同時に、形作られた光の粒は、残りの家族の姿となる。
「良かった!やっぱり其うだったんだ!…おーい!皆んな!おーい!」
無事(?)な家族の姿を見て、嬉しそうに叫んで皆んなを呼ぶ。
だが誰1人として、聖司の呼ぶ声に応える者はいないのだ…。
聖司は焦るのだが、家族の反応が無いのは当たり前の事だった。
何故なら聖司も其うだった様に、其々も未だ意識が定まっておらず、自分達の現状を理解していないのだから…。
其れでも叫び呼び続ける聖司の声を聞くうちに、其々の意識がハッキリして来るのだ…。
其の中で護都詞が、最初に発言をする。
「私達は一体…弥夜…夕香さん…それとお前達も…」
「如何したんでしょうか私達…ねぇ貴方…」
と弥夜。
「お義父さんお義母さん、…私達に一体何が有ったのですかね…」
不安な気持ちで其う尋ねる夕香。
其の3人の遣り取りに、割って入る権也。
「ねえお母さん!お爺ちゃん、お婆ちゃん!父さんは?父さんは何処?」
阿沙華も信康も同じ事を思ったらしく
「お父さんの姿が何処にも無いの!」
「其れにこの状態って、僕達に何が有ったんだろう…?家だけ焼けて無くなってるし、父さんも居ないのって…」
其々の思う事を口にする。
だが其れを答えられる者は、居ないのが現状なのだった。
其々が、不安と焦りで押し潰されそうになって来た時に、何処からか自分達を呼ぶ声が聞こえて来るのだった。
皆んなは一斉に、声のする方へと顔を向けた。
其処には、居ないと思っていた聖司の姿があった。
「貴方!」
「あぁ聖司…!」
「父さん!」
「お父さん!」
等と、遥か上空に浮いている聖司を見付ける。
「貴方、聖司があんな所に浮いてますよ?…どう言う事でしょう?」
「本当だ…お父さん浮いてる!」
弥夜と権也が、驚きながら言う。
「でも何であんな所に、お父さんが居るの?」
阿沙華が疑問を口にした時、其々の身体が宙へと舞い上がって行く。
「わっ!」
「キャっ!」
自分達も空へと浮かんで行く事に、驚きと恐怖を感じ
「一体どうなってるんだ!?」
「如何したの私達!?貴方…如何すれば…」
戸惑いを隠せない護都詞と弥夜。
自分達に起こる異変に、戸惑う事しか出来ない。
そして聖司の居る高さ迄到達すると、何故か浮上も止まり、聖司と並び立つ。
一同に、家族が揃うと
「良かった皆んな…、無事だったんだな…!」
安堵の表情を浮かべながら、聖司が言う。
「ずっと俺1人で、この場所から離れられなくて…皆んなを探したくても探せなくて…ずっと皆んなの名前を叫びながらいたんだが、見付ける事が出来なくて…諦めてた所何だ…」
安心と嬉しさの余り、一気に自分の思いだけを話して仕舞う。
だが聖司以外の家族は、自分達に何が起きたのか、其々が現状を今だに飲み込めてはいないのに、そんな事を聞かされても、理解など出来る筈も無かった。
「ちょっちょっと、ちょっと待ってくれ聖司!」
慌てて其う、聖司の言葉を遮る護都詞。
「?…な、何?…父さん…」
「いやな、私達は今の状態が、全く把握していないんだ…。だから聖司、お前の言っている事も、何も頭に入って来る所か、何を言ってるのかもさへも、全く意味が分からんのだ…」
と答える護都詞に、周りの家族も頷く。
其れを見て聖司は、自分も最初はこの現状を理解する迄、時間を要した事を思い出した。
其の事を思い出した今でも、ちゃんと理解しているとは言い切れないのだが…。
其れでも今現時点では、この現状を1番理解しているのは、聖司しかいないのだ。
聖司は
「今から言う事、…多分理解し難いと思う…。何せ俺も未だ夢か現実かと、其う思っているから…」
其う言われて、不安が高まる皆んなだったが、聖司の話の続きを聞く為黙ったままだった。
話を続ける聖司
「俺達の身に何が起きたのか、そして皆んながどの様にして、今の俺の前まで来たのかを全て話すよ」
そして聖司は、自分なりに気付いた事や、其れからの不思議な出来事など、出来る限り分かり易く、疑問に思う点も含めて話すのだ。
家族の皆んなはというと、其の語られる内容に、青褪める者や驚愕に、震える者もいた。
其れでも、聖司から聞かされる内容に、目の前にある現状を見て、納得するしかないのだった。
納得するにはするけれど、聖司と同じく、何処か現実味が無く、この全てが夢であればと思って仕舞う。
納得はいかないが
「これが現実なら、私達は本当に死んでしまったのだな…」
と、護都詞が言うと
「そうなのでしょうね…今の私達は魂の塊で、幽霊なのかも知れませんね…」
と、弥夜もそう呟くのだった。
そして夕香が
「私達、これから如何なるのでしょうか?…このまま此処でこの状態で留まるのでしょうか?…聖司さん、貴方は如何思います…?」
と、聖司に問う。
だが其の問いに、聖司も他の誰もが、答える事は出来なかった…。
ただ沈黙が続くのみ…。
沈黙のまま時間は流れ、何時しか辺りは暗くなり、気が付けば深夜になっていた。
カチッカチッ、時計の針は深夜0時を指そうとしていた。
カチッ、其れは深夜0時になった瞬間の出来事だった。
第3話 喜びの再会 完