表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻家族 〜五千年の怨恨呪詛 呪われた家族の輪廻の旅〜  作者: 喜遊元 我可那
身に付けるモノ身に付ける時
26/84

遺されたモノ

第26話 遺されたモノ その6


声が聞こえる…

何処か悲しげな声だ…

それも聞き覚えのある数人の声…

それとは別に、何故か安らぎを感じてるのが、不思議だ…

でも今は…


信康から聞かされた信康の覚悟に、なんとしてでも応えたい護都詞達。

今は無理をしてでも、力のコントロールを身に付けなければと、各々は、より真剣な思いで習練に励む。

信康の話では、今習練している力のコントロールは、初歩中の初歩なのだと聞かされ、力をものにするには、どれだけ大変な事なのだと、驚きを隠せないでいた。

その為1分1秒でも時間が惜しく、弱音を吐かず、少しでも多く、そして早く身に付けなくてはと、奮闘しているのだ。

無理はしてほしくないと思う信康だったが、自分の我儘を許してくれた家族が、その我儘に応じてくれている事に、ありがとうと言って、自分も習練に励むのだった。

休憩がてらに、火の番をしながら続ける習練。

体力も精神も限界になっているが、誰1人止めようとはしないのだ。

それを見かねた信康が

「皆んな、今日はここ迄にして休もうよ。そうしないと、本番の時に万全の状態で挑めなくなるからさ。それに夜も更けて、かなり遅い時間だと思うよ?お爺ちゃん、今何時頃か分かる?」

信康が、時間に正確な護都詞に聞くと

「大体深夜の1時過ぎだろう…」

汗を拭きながら答え、自分で言った言葉に

「1時!?もうそんな時間になっているのか!?」

と驚く。

弥夜と夕香に阿沙華も、まさかこんな時間になる迄、習練を続けていたのかと、驚いていた。

「取り敢えず皆んな、朝迄僅かしか無いけど、しっかり休んでよ」

そう言って労う信康の言葉で、自分達の疲れに気付き、その場に座り込んで動けなくなる。

「皆んなお疲れ様。本当僅かだけど、休めるうちに休んでよ!火の番は僕がするから」

「何をいってるの?貴方こそ昨日も火の番して、その上今も一緒に習練して疲れてるでしょ?貴方こそ休まないとダメじゃない!」

夕香がこれ以上無理をさせたくないと言う。

「そうよ信兄ちゃん!火の番は私達がするから、信兄ちゃんこそ寝なきゃ!」

阿沙華も同じ思いで言う。

「そうですよ信康、今日は私達女性陣が火の番しますから、お爺ちゃんと一緒に、今日は寝なさい…」

弥夜も休めと言う。

「いや母さん、私はまだ大丈夫だよ!火の番は私がするから、お前達は皆休みなさい。しんどくなって交代して欲しいと思った時は言うから」

護都詞は、自分だけでやるからと言う。

誰もが同じ気持ちなのは、やはり信康を気遣っての事なので、誰も引く気は無いのだ。

それが痛い程伝わってくるから、嬉しくて泣きそうになる信康が

「ハハハッ、本当皆んな頑固だね!譲る気は無いんでしょ?」

笑って話す信康の言葉に

「何笑ってるのよ信兄ちゃん!…まぁ確かにそうだけどね!」

阿沙華がそれに乗っかって返答すると、ドッと笑いが起きる。

「ァ〜…本当、似た者同志だね僕達。そんな皆んなに良い事教えるよ…」

信康が笑みを浮かべている。

阿沙華が

「何々?それって聞いて嬉しい事?」

「うんそう…皆んな喜ぶと思うよ!」

弥夜も

「そうなの?それじゃ〜早く聞かせて♪」

「皆んな、今の習練でさ、コントロールが良くなってきたよ!それも凄く良くなってた!」

護都詞が

「またパーセンテージで教えてくれるかい?どれだけ上手くなったのか、ちょっとドキドキものだがね」

「聞いて驚かないでね、お爺ちゃんは50は超えたよ!阿沙華も60近くだね。お婆ちゃんはお爺ちゃんとほぼ同じくらい。母さんは70ちょっとってとこ。本当この短時間で、凄く上達したって感じ」

「まぁそんなに上達したの?本当に?」

夕香が確かめてくるので“本当だよ”と返す信康。

「だからさ、少し安心して休みなよ!僕はこの事見込んでさ、実は陰で寝たりして休んでたんだ。だから数時間程なら大丈夫だから、今は休んでよ」

だが阿沙華が

「嘘!私見てたから分かってるもん!信兄ちゃん一向も休んでなかったじゃ無いの!誤魔化されないからね!」

厳しい目で言う阿沙華に

「…流石阿沙華…騙されないか…どうやら皆んなにもバレてるみたいだね…しょうがない、本当はやりたく無かったけど…」

と言いながら、以前、権也に使った力を使って皆んなを強制的に眠らせるのだった。

薄れゆく意識の中で、信康のごめんねの言葉に、それぞれ“このバカ”と思い、眠りにつくのだった。

朝になっても、疲れも手伝ってか、信康に掛けられた力から覚める事がなく、起きたのは昼近くになっていた。

目が覚めた途端、こんな時間迄寝てしまったのかと驚きながら、信康を探す。

人の事ばかりを気遣って、自己犠牲にも程があると叱ってやる為に。

信康を見つける前に、起きた皆んなに気付いた権也が

「あっ皆んなやっと起きたんだね」

阿沙華が

「権也!信兄ちゃんは?信兄ちゃんは今何処にいるの?知ってる?」

「信兄ちゃん?知ってるよ」

「本当!?今何処にいるの!?お願い早く教えて!」

1刻も早く文句を言ってやりたいと、少し焦りながら権也に聞くが

「阿沙姉ちゃん達、信兄ちゃんを叱るつもりでしょ?」

「それがどうしたのよ?」

「だったら教えない!」

「はぁ!?何で?これだから権也は!いいから教えてよ!」

「絶対嫌だ!信兄ちゃんの覚悟知ってるんでしょ!?だから言えない!今のお姉ちゃん達には言えない!…怒らないっていうのなら教えるけど、今怒ってるなら言わない!」

権也の言葉の意味に、“そんなまさか”と戸惑い、信康が何をしたのかを理解してしまい、膝から崩れ落ちてしまう。

「…そんな…そんなバカな…」

震える声で、護都詞が言う。

弥夜も夕香も

「どうしてなの…」

「信康…貴方って子は…」

阿沙華は

「信兄ちゃん…なんでよ…権也…もう怒らないから…何があったのか、今何処でどうしてるのかを教えてくれる?」

泣きそうになるのを我慢して、権也に尋ねる。

権也は

「本当に怒らないんだね?…僕がさ、起きたら信兄ちゃんがね、お母さん達まだ起きないだろうからと、起きてくる迄お腹空くだろうから、これ食べて待っててあげてって言って、信兄ちゃんの残してたおやつくれたんだ。それからね…」

ーーーー

信康は、権也に光の球を手渡し、皆んなが起きたらその中にある、記録を見て欲しいと伝えてくれと頼むのだ。

そして今度は僕が、父さんと一緒に寝るから、父さんと2人にして欲しいと頼むのだった。

この歳で、父親と一緒に寝る姿を見られるのは恥ずかしいからと言って、誤魔化すのだが、権也の直感が違うと感じ、権也が問い詰めると、権也にも嘘は通じないかと素直に、自分がする事を話す。

それを聞いた権也は、勿論止めたのだが、光の球に残されてる、記録があるから大丈夫だと、納得させられたのだ。

権也も、信康の覚悟を理解したから、それ以上止める事は無かった。

権也が自分と聖司から離れ、残りの家族の元へと向かうのを確認し、信康が、父聖司に抱きつく様に身を寄せるのだ。

「父さん、何も心配する事は無いからね…きっと上手くいくよ。僕がなんとかして見せるからさ、父さんは、父さんの出来る事をしてくれたら良いからね。…父さん…大好きだよ…五千年前の僕が言ってたみたいに、僕も父さんの事、誇りに思ってる。僕は父さんの子供として産まれてこれて、本当に良かったと思ってる。大好きなお爺ちゃんお婆ちゃん、母さんに阿沙華と権也…皆んなの事宜しくね。皆んなにも、大好きだよと伝えてくれたら嬉しいなぁ…父さん、後は宜しく。大好きだよ…」

信康の優しい表情をした目から、涙が止まる事なく、溢れ流れていた。

そっと目を閉じ、信康は、聖司の心にアクセスし、自分の記憶と想いの全てを譲り渡していく。

譲り渡していた間、薄く光る信康だったが、譲り終えた時、その光は消えてしまっていた。

そして、聖司の傍で、静かに眠るのだ…。

ーーーー

権也が、信康から離れる迄の2人の経緯と、権也が信康から感じ取った内容を知り、既に遅いとは思うのだが、聖司と信康の元へと向かおうとする。

その時、権也が

「信兄ちゃんは、多分もう起きないと思うよ…」

悲しそうな表情で言う。

信康が何をしたのか知らない筈なのに、権也の直感力が働いて、そう感じたんだと一同は思うのだ。

阿沙華が

「なんで…なんでそんな事言うのよ…まだ分からないじゃない!」

そう言うなり、聖司と信康の元へと駆け出すのだ。

それに続き、護都詞達も急いで向かうのだった。

その場に1人残された権也は、ゆっくりと皆んなの元へ歩き出す。

(信兄ちゃん、ちょっとだけ待っててね。直ぐ会えるからね…)

と、意味ありげな事を思い、貰ったお菓子を手に取る。

「信兄ちゃん!信兄ちゃーん!」

悲鳴に近い声で、信康の名を呼びながら、阿沙華は聖司と信康の元に辿り着く。

護都詞達もその後直ぐ合流し、息を切らしながら2人を見ると、木に寄り掛かり、信康を胸に抱きしめ、聖司が咽びながら涙を流していた。

それを見た護都詞達は、聖司が信康によって、閉ざした心を開いたのだと理解するのと同時に、信康の記憶は全て失ったのだと理解してしまう。

記憶が失われた信康は、借り物の体の為か、息もしていなく、青白くなっていた。

そして、体の表面から皮膚が少しづつ剥がれ始めて、黒く焼け焦げた跡が見えて来ていた。

「お兄ちゃーん!ねえ返事をしてよ!お願いだから!返事して…信兄ちゃん…」

阿沙華が頼むからと、必死に懇願する。

護都詞と弥夜は

「信康…お前は…」

「ああぁ信康ぅ…貴方って子は…」

言葉に詰まり、それ以上話せない。

「信康…貴方の覚悟…分かってたけど…これ程の悲しみを受ける事の、私の覚悟が出来てなくてごめんなさい…信康…ああぁっ…ああああぁぁぁー信康ーー…」

皆、信康と聖司を囲み、悲しみの余り、声を上げて号泣する。

「信康…信康…信康…済まない…済まない…済まない!…こんな俺なんかの為に…信康…ううぅ…うっぐっ…」

聖司の意思が乗せられた言葉に、護都詞が

「聖司…お前…今しっかり意思が戻ったのだな…」

「…ああ父さん、また心閉ざしてごめん…俺が何をしてたのか、どうしたのかも分かってる…信康が…こいつが全て教えてくれたよ…俺の為すべき事も…全て教えてくれた…」

聖司に意思が戻った事を分かって、弥夜が

「その貴方の為に、この子は…」

「それも分かってるよ母さん…これ以上、心閉ざす愚かな事は、今後絶対しないと信康に誓うよ!…そして、俺の全てを掛けて、必ず元の信康に戻してみせる!どんな事をしてでも、必ず戻してみせる!」

その誓いに夕香が

「聖司さん…私も全てを掛けるわ!だから信康を必ず助けましょう!」

夕香の誓いに、阿沙華も護都詞、弥夜迄もが、信康の覚悟に応える為に、一緒に誓うのだ。

信康を力強く抱きしめ、聖司が

「信康…不甲斐ない父さんだが、安心して待っていてくれ…必ず俺が、お前を元に戻してやるからな…。俺もお前の事を誇りに思うよ…愛してるよ…信康…」

誓いの言葉を述べて、信康の頭に軽くキスをし、そのまま抱きかかえて立ち上がる。

一通り家族を見て、目的地の富士山を眺め、更に決意を固めるのだ。

そこへ権也が現れたのだ。

「お父さん起きたんだね、おはよう…そしてこれ信兄ちゃんからお父さんと皆んなに…」

権也の手元には、信康が渡した光の玉があった。

「ここに信兄ちゃんの記録と、今後どうするかの説明が有るんだって。それを皆んなで見て、今後に活かして欲しいって言ってた…だから皆んなもう泣かないでよ…」

そう言って、光の球を聖司に渡す。

「信康がそんな事を…?で権也、信康は、その記録ってものをどうすれば見られるとか言っていたかい?」

聖司は涙を拭き、権也に信康の言う記録を見る為の手段を尋ねる。

「言ってなかったよ…でもね、皆んなが光に触れたら見られると思うよ。信兄ちゃんの事だから、分かり易くしてくれてると思うから」

権也の直感力から導きだされた答えで、阿沙華達は、記憶が失われていく信康が、誰でも直ぐ出来るように、色々と手を尽くしてくれてるんだと思うのだ。

「信康…この子は本当に、先を見据えて行動のとれる子なのだな…私は今、これまで以上にお前を誇らしく思えてくるよ…」

護都詞が信康の頭を撫で、想いを語る。

阿沙華が

「信兄ちゃんの想いを1刻も無駄に出来ないから、お父さん、皆んなも早く見ようよ…私達の()()()()が休んでるうちにね…」

揶揄うのではなく、心の底から()()()()と思った、阿沙華の本心だった。

「あぁ、それじゃ皆んな…光の球に触れ、信康の意思を聞こう…」

聖司がそう言い、光に触れる。

残りの者達も想いを寄せながら、光に触れるのだった。

ただ触れただけで、信康が残した記録と記憶が流れてくる。

やはり権也の言った通り、信康は誰でも直ぐ使えるように、改良を加えていてくれたのだ。

光に残された記録から、信康のメッセージが再生される。

「お爺ちゃんお婆ちゃん、母さんに阿沙華、ごめんね。僕がやろうとした事を見られるのが、辛くて見せられなかったんだ。それと多分気付いてると思うけど、本当は、それ程コントロールが上達してなかったんだ。でも少し安心すれば、誤魔化せられると安直に思っちゃって、騙してしまいました。ごめんなさい…。だから僕が先にする事は、父さんを元に戻す事だと思ったんだ。そうしないと、あいつの魔の手の脅威もあるし、僕の記憶の事もあるから、今のうちにしか出来ないからね。これで僕が抜ければ、家族が揃う条件が無くなって、あいつに気付かれる事も無くなるだろうから、少しは時間に余裕が出来る筈だよ。その間に記録から力の扱い方を学んで、頑張って身に付けてね。権也、お前はとても優れた直感力があるからさ、皆んなを危険から助けてあげてくれる?お爺ちゃん、皆んなをまとめるの得意でしょ?だから、まとまりがなくなったら、まとめてあげてね。お婆ちゃん、お婆ちゃんは、皆んなを奮闘させるサポートが得意だから、サポートお願い。母さんはさ、こう言っちゃ悪いけど、その天然大切にしてね。その天然が、時には凄い力になるから、大切にしてね!でも程々にね。阿沙華には悪いけど、僕の代わりに、分析力と洞察力を磨いて、正解に導いてくれる?お願いするよ。父さん、父さんの過去を僕は知ったよ。想像出来ない辛い過去だったんだね…でもね、僕はそんな辛い過去を僕達に教えたいと思った父さんを誇りに思うし、大好きだと思うのは変わらないから!多分…僕達に、辛さと、自分の過ちだと感じた事を知ってもらって、同じ様になって欲しく無かったから、お爺ちゃん達に、その事託したんでしょ?僕は、しっかりその意思受け取ったから、安心してね。そしてその想いをありがとうね。…最後に、皆んな…大好きだよ…」

何処までも家族の事を想い、その意地らしさに誰もが声を上げて泣き崩れてしまう。

残された者は、信康の愛の強さを知るのだった。


信康の想いの強さに、涙で応えるつもりは無く、行動で応えようと誓い合うのだった。

もう何も語らない信康に、恥じぬよう…。

でも今は、泣かせて欲しい。

次へ進む為に…。


第26話 遺されたモノ その6 完

前話で終える筈の残されたモノは、今回で完了です。

正直、信康の事書いてて、悲しくなり泣いて書いてました。

少し情調不安定なのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ