表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻家族 〜五千年の怨恨呪詛 呪われた家族の輪廻の旅〜  作者: 喜遊元 我可那
身に付けるモノ身に付ける時
21/84

遺されたモノ

第21話 遺されたモノ


 今、龍乃瀬一家が向かっている所は、富士の麓にあるという洞窟。

 其処に行けば、安全に力や能力を増加する為の修行場があるらしい。

 信康が聞いた説明によると、この時代の自分達と一緒に、使者だけではなく、()()()()()から気付かれないよう、様々な仕掛けが施されているのだそうだ。

 分かり易くいうと、陰陽師とかの話に出でくる結界みたいな感じだろうと、信康は解釈して説明してくれたのだ。

 本当はもっと複雑で、理解出来そうにはないそうだ。

 富士山は、現代でも有名なパワースポットや、神的霊的にまつわる事で知られていたから、勿論自分達も知っていた。

 だからか、確かに富士の麓なら、力を磨ける気にもなるのだった。

 たが、其処に向かう気力が無いのだ。

何故なら、重い荷物を抱えながら、徒歩で向かっているからだ。

 しかも自分達が降り立った場所から、かなりの距離がある上に、険しい山道が続くからだ。

 大きく見えたからといって、直ぐ近くだとは限らないのだと、そう思い知らされた気がする。

 時折休憩をいれたりしたが、半日以上歩いている。

 正直全員がヘトヘトになり、ついに足が止まってしまう。

「はぁ…はぁ…信康…張り切っているのに悪いが、今日はここ迄にしないか?…皆んなヘトヘトになって、とても動けそうにないよ…」

 聖司が信康に、そう提案する。

 信康も其う思っていた様で

「うん…そうしよう…実はね、僕も疲れてたんだけど、皆んなにハッパかけた本人が、先に疲れただなんて言いだせなかったんだよね…あぁ助かったぁ〜」

 そんな信康の本音が聞けた一同は、ハハハっと笑いながら

「何だそうだったのか?見栄を張ってたのか…?」

 聖司が言った直ぐに、阿沙華も

「見栄だけじゃなく、意地も強いもんね!其う言うの程々にしないと、付き合わされる方も、堪ったもんじゃないんだからね!」

 と愚痴を言いながら、信康がよく無茶をしては体調を崩す事が心配なのだ。

「分かったよ阿沙華、今度から気を付けるよ。…っで、今日はここ迄にするとして、()()()宿()()()なんだけど、皆んな大丈夫?出来そう?」

 信康のその言葉にハッ!として、エェッ!?となる一同。

「えっ!?うそーっ!野宿〜!?」

 阿沙華が嫌そうな顔をしている。

「あらあら…野宿なんですか…どうします貴方?」

 弥夜が護都詞に意見を求める。

「野宿なぁ…流石にこの歳で、野宿はちょっと…辛いものがあるなぁ…」

 と、この2人も否定的。

 聖司と夕香は

「夕香、お前は野宿大丈夫そうか?出来そうか?」

「あら聖司さん、私は大丈夫ですよ〜!ちゃんと出来ますよ!」

 任せてと言わんばかりに胸を張って答えた。

「本当か?元女優のお前がそう言うだなんて、へぇ〜そうなんだ、夕香も逞しいところも結構あるんだね!凄いよ!」

 聖司が其う喜んで褒めたのだが

「野宿でしょ?そんなの簡単だわ!宿に泊まるだけですもの〜」

 其の言葉に全員が“?”と“宿?”に“ハァ?”が、頭の中で出て来る文字だった。

 また天然が発動したかと、信康が聞いてみた。

「ねぇ母さん…宿ってどういう事言ってるの?僕達、今日は野宿なんだけど…?」

 其の質問を不思議そうな顔をして

「ええそうよ?だから宿に泊まるんでしょ?」

「いやだから野宿だって!」

「ええ、だから野宿なんでしょ?」

 あっこれは天然では無く、ただの勘違いなのだと分かり、疲れるなぁ〜とも思いながら、優しく教える事にした信康。

「あのね母さん…野宿って、野に在る宿じゃないからね…建物の中ではなく、外の空の下で寝たり休んだりする事なんだよ…地面に横になってとか、木の上で寝るとかそういうのだから…」

「えっ?そうなの?…あら嫌だ…私ったらてっきり野原に、草や花とかで作られた、かまくらみたいなのを想像してたわ…だから野原に行くのだとばかり考えてたわ…」

 やっぱりなと思うのだった。

 幼い子供とかが、よくする勘違いをこの歳でするとは、天然で痛いどころか、学も無いのだろうかと心配してしまう、信康達だった。

 一応その中に、権也も含まれている。

 既に、何も言う気が失せてしまった一同。

 其れでも聖司が

「夕香…そんな勘違いをする君も好きだよ…でももう少し、後もう少しだけでいいから、色々と学んでくれたら、君の事もっと好きになれるよ」

 子供の前で言うのは、とても恥ずかしく躊躇ったのだが、その方が素直に聞き受け入れてくれる気がして、そう伝えた。

 其れを聞いた夕香は

「えぇっ!?そうなんですか?…あらやだ、子供達の前で好きだなんて…ちょっと恥ずかしいけど嬉しいわ〜。私、もっと好きになって貰いたいから、頑張って色々学びますね!聖司さん♡」

 読み通りに、受け入れてくれたみたいなので、良かったと安堵する。

 これを機に、夕香の天然も少しはマシになってくれたならと、誰もが思った。

 聖司が大きな木に、寄り掛かりながらフーッと大きく息を吐く。

 自分達が住んでいた時代と、かなり違いがあるのだと、改めて感じた。

 発展し、建造物や乗り物、行き交う人の多さ、雑踏や騒音、発達した先進医療、通信やライフラインの充実さ、その他諸々の物に溢れていて、豊かに暮らせる時代に対し、この時代は現代を知る者にとって、不便の一言で済まされる程、何も無いと思えた。

 富士山までの移動も現代なら、車や電車にバスで移動すれば基本楽に行けるが、この時代にはまだ、そこまでの交通手段は無いので、基本徒歩か荷馬車、もしくは荷牛車にての移動になる。

 人の行き交う所に出れば、時代劇に出て来る人力車や籠屋もあるだろうが、自分達がどの辺りに居るのかも分からないから、下手に探索しても時間の無駄使いになるので、使者に気付かれ追われる危険の事を考えると、今は徒歩で頑張るしかないのだ。

 山は見えている。

 あの大きな目印を目指している限り、迷う事はないだろう。

 でもどう頑張っても、現代に慣れ切った今の自分達の運動能力を考えると、少なくとも10日は掛かりそうだ。

 ウダウダ考えてもしょうがないと、もう一度大きく息を吸って吐く。

 その時現代には無く、この時代にある物の1つが分かった。

 空気がとても美味い事。

 たまに森林浴をした時に、美味いと感じたりもしたが、それの比ではない程澄み切って、草木の香りも濃く感じ、瑞々しさに清涼感が加えられている様にも思えた。

「あぁ…とても空気が美味いな…」

 其の呟きに護都詞も

「本当にそうだな…まぁこんな深い山の中だからかもしれんが、やはりあの時代とは違うな…」

「父さん…あぁ本当そうだね、ここまで色々違うと、どうすればいいのかも、よく分からなくなるよ。徒歩で向かうのは良いとしても、体を休める宿とか、食事に飲料水の確保もしなきゃだもんな…」

 護都詞も同じ考えでいたのと、聖司に言わなければいけない事がある為に来たのだった。

「聖司よ、今一つ蒸し返すが、私の話をしっかり聞くのだぞ、いいか?」

「父さんの話を心に刻むから、あぁ俺からもお願いします」

 護都詞が何を言うのか、既に分かっている。

 信康と阿沙華の事だと。

「全部を言うつもりは無い、ただお前達夫婦の心の脆さと弱さが、私達の目的を成すのに支障となる事が、目に見えてる。特にお前だ聖司!お前はもっと心に芯を持っていて、強いと思っていたのだがな…立て続けに2度も同じ過ちをするなんて、とても信じられなかったよ…」

 ほんの少し俯いて話す護都詞から、愁色さが濃く感じられた。

「私達の魂は、五千年前の魂とは別物なのかとも思ったよ。ほんの少ししか知る事が出来なかったが、あの時代の聖司は、何処までも自分を犠牲にして、私には本物の聖人か神かとも思えたんだ…それからこの時代の聖司にも、セルジと同じモノを感じたのだが、今のお前には、それが感じられないんだ…何故だろう…」

 そこまで駄目な奴になっていたんだと聞かされて、呆れ果てていた聖司自身、気付くと涙が流れていた。

 止まらない涙、止めようにも止め方が分からない。

 ただただ泣くだけの聖司に、護都詞が

「今は泣きなさい…泣けるだけ泣いて、お前の中にある別のお前を出し切れるくらいに、泣き続けなさい。そんな聖司に1つ2つ教えておくぞ、向こうのほうで夕香さんが母さんに、お前と同じ様に諭されて泣いている事だろう…お前と同じ気持ちでな!後は子供達たが、お前達の子供は本当に凄い子達だ!今もお前達を気遣った上に、近くに民家や廃屋、寺などないか探しに行っているよ。本当は危ないからやめさせたかったが、凄いものだ、あの子達の方が力を上手に使って、迷う事なくこの辺り一体を探索し終えていたよ…」

 其う聖司に伝えたい事を伝え

「泣き止む事が出来たなら、その時は今のお前より、もっともっと強くなっているだろうよ、だからその為にも今は沢山泣きなさい、それじゃ私達は待っているから!」

 其う言い残して、聖司の所から離れて行く護都詞だった。

 護都詞の言葉が心に刻まれていく。

 父親の厳しい心と、優しい心に触れた気がして、父さんは、こんなにも偉大だったんだと知らされた事が、聖司の誇りとなるのだった。

 涙が流れている間、何も考えられず、ただ無心になりながら空を見上げていた。

 流れて行く紅く染まる雲、空の色も変わり始め薄暗くなり、夕焼けが綺麗に見えてきた。

 其れをただボーッと眺めていたら

「こんなにも夕焼けが綺麗だと思えたのは、どれくらい振りだろう…俺達の時代じゃデカいビルとかで、ここまで広く見えなかったからなぁ〜、それにしても本当に綺麗だ…」

 其う思えた時には、いつしか涙は止り、心がスッキリしているのを感じられていた。

 さぁ心の整理も出来たから、皆んなの元へ行こうと、立ち上がろうとした時

「ここにいらっしゃったのね、ちょっと探しちゃいました…」

 と、夕香がやって来た。

「夕香…?どうしたんだ?君がここに来るなんて…」

「あら駄目でしたか?…フフッ、私も聖司さんと少し話したくって来たのですけど…もう少しお一人の方が良かったかしら?」

ちょっとだけ、意地悪な言葉を入れてくる夕香に、聖司は慌てて

「いやいや全然!俺も夕香君と話したかったと思ってたら君の方から来たからさ、少し驚いたんだよ!ささっここに座って座って…」

聖司の慌てぶりを見て、クスクス笑いながら

「其れじゃ、お言葉に甘えて…」

と、聖司にピッタリとくっつく様に、横に座る夕香。

(驚いた…夕香があんな意地悪混じりの言葉を言うなんて、ちょっと意外だったな…何だか少し新鮮で可愛く思っちゃったよ〜)

 聖司は、ピッタリくっついている夕香に、ドキマキしながら、夕香への想いが増すのだった。

 そんな状態で、何も話し出せない聖司に、夕香が

「何もおっしゃらないのは、何故です?どうかされました?」

「えっいや、あの、その…」

「ウフフッ、少し意地悪しちゃいました♪ごめんなさい、聖司さん…」

 ズキューン…ズダダダダー!と、夕香の意地悪に、初恋の時の様に、心ブチ撃ち抜かれる聖司。

夕香の小悪魔ぶりが、こんなにも攻撃力があるとは、思いもしなかった聖司。

 やはり普段のおっとりとしてる上に、天然の破壊力に慣れてしまっていたからか、ギャップもプラスされた事で、聖司の中にまた1つ、今までに無かった趣向が生まれた。

(こんな夕香も魅力的だなぁ〜、素敵だ〜)

 お前には、反省する気はあるのか!先程迄の反省は、何処にいったんだー!

 と、言いたくなる。

 ほんのり薄っすら恍惚の表情を浮かべていた事に、気付かない夕香が

「ねぇ聖司さん…私達…いえ私は、本当に駄目な母親だと、今回の件で、充分過ぎる程に思い知らされたわ…。お義母さんに諭されて、其れを強く思えたの。私、如何してこんなに弱いのかしら…あの子達に申し訳ないわ…」

 悲痛な面持ちで、今にも消えそうな気がした聖司。

「夕香、それは俺も同じだよ…俺なんて、夕香以上に取り返しの付かない事をしたんだ…。どれだけ悔やんでも、どれだけ反省しても、償えない傷を与えてしまった事は、この先、もしまた転生して全てをやり直す事になったとしても、許されない、許されてはいけないんだ…。俺こそ駄目な父親だ…出来れば今直ぐ消えてしまいたいよ…」

「何を言っているの!?貴方、聖司さん!そんなのはダメよ!消えるなんて、考えても言ってもダメよ!」

 激しく叱る夕香に

「夕香…」

 其れ以上の言葉が出ない。

「貴方は良くやってるわ、誰にでも誇れる素晴らしい父親よ、子供達もそう思ってるから、()()()もあの子達が、私達を慰めてくれたのよ?其れを分かって、聖司さん!」

 夕香の伝えたい気持ちが分かり、聖司も

「それを言うのなら、お前もだよ夕香…。君程素晴らしい母親なんて、何処にも居ないよ!子供達もそんな君だから、心から安心していられるんだ。何時もあの子達を守ってくれて、有難う。夕香、君は俺の誇りで全てだよ…」

 聖司の言葉に、少し赤面しながら、目に涙が溢れそうになる。

「だからお互いに、これからしっかりとあの子達を守り抜いて、あの子達が誇ってくれる様な親にならないとな!」

「…其うですよね、聖司さん…」

 お互いをじっと見つめていたが、聖司は素早く周囲に誰もいない事を確認し、今しかない!其れでは!

「夕香…愛してるよ…」

 と、キメ顔で口付けをするのだった。

 夕香はそのキスで、完全に赤面して俯いて仕舞う。

 聖司は、久々の夕香とのキスで、天に昇りそうな幸福感を味わっていた…が

「チューしたチューした!今チューしたよね?ね?」

 権也のその声に、心臓が止まりかけた2人。

「あっバカ!静かにしてなさいって言ったでしょ!気付かれちゃうじゃない!」

 阿沙華の声もして、驚愕しながらゆっくりと声のする方に、顔を向ける。

「阿沙華、お前の声も大きいよ…もう既に気付かれてるから…」

 信康が阿沙華にツッコむ。

「ハッハッハッ、な?良い物見れただろう?」

「えぇ其うですわね〜、出来ればその後の続きも気になりますね〜」

 全員の覗き見の元凶は、護都詞だと判明する。

この状況になりそうだと、護都詞が予め予想していたみたいで、全員でこっそり覗き見決行しようと言った事に、誰も反対しなかった事が、団結力の為せる業。

夕香は完全に両手で顔を隠し、背を向け蹲って亀になる。

聖司は、口をずっとパクパクさせながら

「おぉぉぉ…お前達…父さん?母さん?…えっどうして…」

 驚きと唖然とが混ざり、空いた口が塞がらない。

 其れを護都詞が

「これは、お前達の罰だと思いなさい!」

「えっ何?…罰…?」

「其うだ、其う思って諦めなさい…」

[本当は楽しんでただけなんだがなぁ〜…]

 と、小声で言う護都詞。

 でも弥夜が

「貴方達の事、楽しませて見せてもらったわね!また楽しませて頂戴ね〜♡」

 と、言わなくてもいい、トドメの言葉をしっかりと伝えたのです。

 其の後直ぐ、聖司の

「ふざけるなぁーーー!!」

 の叫びが、山彦と共に響くのだった…。


 もうじき、完全に夜の暗闇になるというのに、その準備も出来ないままのこの者達。

 夜の山を甘く見てはいけないのだが、大丈夫なのだろうか?


第21話 遺されたモノ 完

ここからが、第二章です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ