旅立ち
第18話 旅立ち
魂のタイムトラベルを開始した龍乃瀬一家。
時の流れに逆らっての時間移動は、不思議な感覚だった。
何故なら、目に飛び込んでくる風景が、動画の逆戻しそのものだったからだ。
それをリアルで体験するには、こんな目に合わなければ有り得ない事なので、貴重な体験だと思う気持ちと、辛い目に晒されたくは無かったと思う気持ちで、一同にとって良いのか悪いのか悩みどころなのだ。
信康に言われるまま、光の球に触れていると
「皆んな僕の声が聞こえる?聞こえたなら、念じるだけで会話が出来るから試してみて!」
と、信康の声が頭の中に直接聞こえてくる。
それぞれが、“凄い!聞こえる”と一斉に念じるものだから、頭の中がキャパオーバーし、割れそうになる。
堪らず
「煩い!一斉に喋らないでくれ!頭が割れる!頼むから、喋るなら1人1人交互に話そう…」
と、聖司が忠告する。
その聖司の言葉に、“は〜い”や“そうだな”に“了解”などと、また一斉に返ってくる。
これは慣れるか、誰か指揮する代表を決めて話した方が良さそうだと思った聖司だった。
そう考えた聖司が
「1つ提案だが、俺が会話の指揮をするから、発言する時は俺に聞いてからにしてくれないか?本当なら信康が適任だろうけど、任せっきりだと信康も疲れるだろうからな…」
その提案に、誰もが反論する事無く、了承する。
「それじゃ俺から、信康、まだ聞いていない説明とかあるのなら、聞かせて欲しいのだが、まだあるんだよな?」
その問いかけに、信康が
「あるよ、結構沢山!だから当分は僕の説明だけになるけど、タイミングをみながら、知りたい事があったら聞いてね、答えられるものは、ちゃんと答えるからさ」
そう言い終えて直ぐ、阿沙華が
「先に聞いてもいい?」
と聞くので
「早速?何だい阿沙華」
「あのね信兄ちゃん、今念で会話してるけど、これだけ近いのに、普通に会話しちゃダメなの?その方が話し易いと思うけど…」
尤もな意見だと思いながら、信康が説明する。
「それをしたいけれど、時間を遡ってるこの次元での会話は、言葉が聞こえる時に逆から聞こえてしまうから、この方が会話し易いんだよ。でもまぁ、その分力を消費するけどね…」
少し間を開け信康が、説明を続ける。
「この光が起点として、皆んなを導く事になるから、何かある時はこの光にアクセスしてね。今その為にも皆んなの情報を書き込んでるから。取り敢えずこの光の球が、僕達の生命線だと思っていてよ。後、先に言っておくけど、使者に僕達の存在を気付く要因の一つは、同じ時代の同じ時、同じ場所に全員が揃う事も含まれてるんだ。だから、これから向かう1つ前の過去では、なるべく迅速に行動して、一つに集まらない事も頭に入れといて」
本当は、まだ説明する事が有るのだが、1度にしても頭に入らない事と、そろそろ1度目のトラベルが終わりそうだという事もあり
「残りの説明は、一旦やめとくね。…ただ父さんには伝えとかなきゃいけない事が有るんだ…」
信康の迷う様な言い方が気になる聖司が
「何だか言いたくなさそうな感じだが、ちゃんと聞くから、どんな内容でも言ってみなさい…信康…」
それを聞いて、それならと気持ちを強くして信康が
「あの使者の事、僕は絶対に許せないし、許してやるかってくらいにムカつく内容なんだ…それはね…父さんが先に、1人魂になっていた時の事なんだ」
「ああ確かに、最初俺1人だけ空にういていたな…それがどうしたんだ?」
信康の言葉に少し騒めく気持ちになりながら、聞き返す聖司。
信康は辛そうな顔をしながら
「あれ、ワザとなんだ…」
そう言われ、目を大きく見開き
「ワザと!?…それはどういう…事だ!?」
と、騒めきが強くなる聖司。
「五千年前の逆をさせて、先に父さんを絶望させるのが、あいつの最大の目的なんだ…」
それを聞いた聖司や残りの家族は絶句する。
「父さんが絶望し嘆く姿を楽しみ、その後合流した僕達と共に、転生したのを確認し喜んでるって、そう説明にあったんだ…」
その説明に、とても珍しい者が怒りの声を上げる。
「ふざけないで!一体あの人は何なのですか!?私達だけじゃ無く、どうして聖司さんをそんなに苦しめるの!?そんなに楽しいの!?嬉しいの!?…嫌ー!嫌よ、嫌よ!嫌よー!!そんなの許せない!私は絶対許さない!!許すものですか!!今直ぐ問いだだしてやるわ!!」
誰でもない、妻の夕香だった。
夕香が怒りを顕にする姿を初めて見る家族達は、驚き過ぎて声も出ない。
あれほど優しくて、人を労いいたわり、かなりの天然ではあるが誰もに愛される、聖母の様だと思わせる人こそ夕香なのだ。
誰もが、夕香は怒った事なんて無いだろうと、思っていた。
実際夕香自身も、人生で初めて怒りの感情を爆発させたのだ。
ここまで激しく怒る夕香の念は、とても凄まじく強烈に響くのだった。
その強さに思わず悲鳴を上げ、頭を押さえて顔をしかめてしまう。
それに気付かない夕香の怒りは、修まるどころか更に強くなるのだった。
強くなる念に、耐えられそうにない子供達を見た聖司が
「夕香!夕香!聞こえるか夕香!落ち着いてくれ!」
力の限りの念で、夕香に呼び掛ける。
聖司の何度も呼ぶ念で、やっと夕香の怒りの念が止んだ。
息を荒くしながら、少しずつ落ち着きを取り戻す夕香。
「あぁ貴方…聖司さん…私今…一体何を…」
余りの激怒に、自分がどうなっていたのかも分からない様子だったが、元の夕香に戻ってきたと、一同は安心したのだった。
「あぁ良かった…いや、何も無いよ!…大丈夫、夕香が気にする様な事、何も無かったから。これまで色々あったから、きっと疲れたんじゃないか?」
自分のした事で、自分を許せないと傷付く事が分かっていた聖司は、何も無かったと優しい嘘をついて、夕香を安心させるのだった。
その聖司の想いを他の家族達も分かっていて、夕香にそれぞれが
「本当色々あったもんね〜」
と信康。
「そうだよね、信兄ちゃん!お母さんも、ヘトヘトだったみたいだね…」
ふわっと笑いながら言う阿沙華。
「夕香さん、いつも皆んなの事を気に掛けてるから、気疲れしてしまったようだな」
「そうですよ、私達の事ばかり優先してますから、少しは休まないとですね!夕香さん!」
護都詞と弥夜も、そう労う。
「お母さん、早く疲れとってね!疲れとれたら、ハンバーグ作ってね〜」
と、ねだる権也。
その権也の言葉で、ドッと笑いが起き
「本っ当お前って奴は、いつでも何処でもブレないやつだな!ある意味感心するよ!」
と、聖司が呆れながら
(有難う皆んな、それと権也!お前のそのブレなさが、今1番嬉しく思ったよ…)
と、心の中で感謝していた。
そして当の夕香に至っては
「そうね、どうやら疲れてたのかな…?皆んな、気を使わせてごめんなさいね、有難う〜。それと権也、ハンバーグの約束忘れてないから、今度ちゃんと作りますからね!それまで楽しみにしててね〜」
そう言って、いつもの優しい母の夕香に戻っていた。
だが本当は、夕香の記憶に微かに怒りの感情が残っていて、いつものように振る舞う家族に、ほんの少しだけの違和感を感じ、自分を庇っているのだと理解し、自分が何をしたのかを分かっていたのだ。
でも今は、家族にこれ以上、自分の為に心配させられないと、自分の為についた優しい嘘を受け入れる。
この一連の出来事で、少し重い空気がながれそうだったが、阿沙華かそうはさせないと
「ところで信兄ちゃん、今私達が向こうの時代に着いたら、色々ややっこしくならないの?」
「えっ?例えばどんな事?」
直ぐさま聞き返す信康。
「向こうの時代の私達に会っても大丈夫か?とか、着いた途端に、あいつから攻撃されたりしないのかな?って」
阿沙華だけではなく、聖司達もそれは気になっていた。
信康は
「確かにそれは、思う事だよね。でも今回は大丈夫だと思うよ…ある状況の後に向こうに着くから、過去の僕達の事は心配要らない筈。あいつの監視も、僕達が着いた時点では無い筈だから、不安がらなくても良いと思うよ」
と、説明する。
「えっ…それってどうしてなの?」
更に聞く阿沙華。
「今は知らない方がいいかな?多分知ると…」
信康はアイコンタクトで、チラッと夕香を見る。
それに気付いた阿沙華は
(言わないんじゃなく、言えないんだ…。きっと今知れば、お母さんがパニックになるからなんだ…)
そんな信康の解答からも、阿沙華はどんな状況下に着くのか、何となくだが予測出来た。
今知っても、後で知っても、パニックになるのは避けられないとは思うが、それでも心の負担が長く続くより、短く少ない方が良いのだろうと、阿沙華も思うのだった。
しばらくして、信康が皆んなに聞く
「ところで皆んな、ちょっと聞くけど大丈夫?」
また何か聞かされる事があるのかと、身構えてしまう。
その中で、元気印の権也が
「何〜?信兄ちゃん…まだ何かあるのぉ?いっぱい覚えるのあり過ぎて、もぅ分かんないよ〜」
嘆く権也の本音は、ただ単に面倒くさくなっただけで、夕香と弥夜以外は、あっ面倒くさくなったな、こいつは…と、直ぐにバレてしまう。
まぁいつもの事なので、幼児をあやす様に
「そっか…そうだよな…いっぺんに沢山言われても、分かんないよな。ごめんごめん!…そうだ!権也だけに、絵本みたいな物用意しようか?それとも漫画の方が良かったかな?」
少し意地悪な言葉を入れる信康。
その言葉に
「あっ!信兄ちゃん!馬鹿にしてるでしょう?大丈夫!僕だって頭良いもん!賢いもん!…でも漫画とかなら読みたいかも…」
不貞腐れて文句を言うのだが、やはり権也、自分の気持ちに正直でブレない。
ブレない権也にクスクス笑いながら
「そうだよな!権也も賢いんだから、今から聞く事も直ぐ理解出来るさ!」
と、褒めて伸ばす信康だった。
「改めて皆んなに聞くよ?聞きたいのは与えられた力なんだけど、自分の中でしっかり感じとれてる?」
その問いに、全員が頷き肯定する。
「それなら良かった…実はその力に、あいつから存在を感知出来ないように、カモフラージュ機能を付けてあるんだけれど、回数制限があったり、僕達が力を強く使ったりすると、カモフラージュ効果が効かなくなって、身バレしちゃうんだ」
信康のその説明で、聖司が
「だからか、あの時信康だけ攻撃受けて、俺達は受けなかったのは…」
その言葉を聞いた信康が
「その通り!でもその後、結構早く見つかったでしょ?あれはタイムトラベルに力を使おうとしてたからなんだよね…で、今から行くところで、僕達は過去の僕達の生業としてた事を学んで、力の使い方や鍛え方を覚えなくちゃいけないんだ。その時に、力のコントロールが出来なかったら、暴走状態になると思うから、あいつにバレちゃう可能性が高いんだ…」
ここまでの説明を理解したかを軽く確認し、更に続ける信康。
「そうなった時の為に、一度バラバラになって、決められた場所に集合しようと思ってる。その場所はこの最後の光の球にするから、各自自力で戻ってきてね!」
信康にしたら、分かり易く簡単な説明だったのだが、聖司達にはちょっと難しく思えたのだった。
「自力でって、やり方分からないんだけど…それと前の私達の生業にしてたって言ってたけど、どんな事を生業にしてたの?信兄ちゃん…」
阿沙華が聞くと、少しニヤ顔の信康。
「集合する時は、与えられた力に意識を集中すれば、分かるから安心して!それと…前の僕達なんだけど…聞いたら驚くよ〜」
「あぁ!勿体ぶらなくて早く教えて!時間も無いんでしょ!?」
少しキレ気味で答えを急かす阿沙華。
分かった分かったと、信康が
「ごめんごめん!ではお答えします。それはズバリ“退魔師!霊能者一家”なんだって!」
信康は、得意気に言ったフレーズに、色んな意味で困惑する一同。
「退魔師!?そんなアホな!って言いそうだよ…」
と、護都詞。
「言ってるじゃん…お爺ちゃん…」
信康のツッコミに、舌を出しテヘッとする護都詞に、ジジィが何してんだと、少し苛つく聖司達。
苛つきながら、聖司が
「退魔師って、本当に居るのか?そもそも自分達の前世が、霊力使えたなんて…信じられないな…。TVとかでやってる霊媒師とか、何処か胡散臭くって信じられないんだよな…」
その意見に自分も賛成と、ほぼ全員が賛同する。
その意見を聞き、“何だよ皆んな驚かないし、信じないのか”と思いながら、皆んなの意見を否定する信康。
「一応、本物の退魔師だったみたいだよ!光の説明が本当ならね…。それもちゃんとした理由が有るんだけど、もぅいいや、教えない…」
完全に拗ねて、面倒くさくなってきた信康だった。
今信康のアドバイスが無いと、とても困る一同なので、すいません!と許しを乞うのだった。
「ふぅ…それじゃもう直ぐ過去の僕達の所に到着するから、気を引き締めて、力のコントロールをしっかりやってね!…後、これから僕達がする事に驚くと思うけど、冷静になって、驚いたり、パニックにならない様にね。まぁ無理だと思うけど、そのつもりでいてね、冷静にだよ!?」
そう言い終えると、高速逆再生の映像が、ゆっくりしてきた。
本当にもう間も無く、前世の自分達に会うのだと思うと、胸がザワザワしてくるのだった。
そして逆再生が完全に止まり、
「さぁ皆んな、今着いたよ!心の準備はいい?」
信康がそう聞くと
「何とかな…ここまで来たら、するべき事しないとな!」
と、聖司が全員の気持ちを代弁する。
気持ちの確認も出来き、自分自身の心構えもしっかり持ち直す信康が
「それじゃこの空間から出るからね!行くよ皆んな!」
その言葉を合図に、過去の現世へと飛び出すのだった。
これから行う内容を知らない者達は、心構えを強く持っていても、するべき事に対して、心が砕かれるかも知れない…。
するべき事を知る信康と、薄々気付いている阿沙華も、心乱される事になるのだろうか…。
ただ、そうならない事を祈るしか今は出来ない。
第18話 旅立ち 完
後1話で、第一章が完了する予定です。
予定なので、未定でもあります…。
今回の投稿するまで、意味は分かっているのに、言葉が分からない為、文章を書くのに手間取りました。
こんな事なら、意味から調べられる事典でも購入しとけば良かったと、悔やんでます。
語彙力が無いと、本当不便ですね…。