スタートライン その2
第16話 スタートライン その2
ごたついて、かなりの時間を要した聖司達。
さてこれは、最初に課せられた試練だったのだろうか…?
そう思えるほど、次に進まない家族のグダグダ感。
それだけ仲が良いという事でもあるのだが、それぞれが個性豊か過ぎて、話が進む気配が無い…。
その状態を打破したのは、天然さんの夕香だった。
「そういえば私、権也にハンバーグ作るって約束したのよね…ちゃんと作ってあげなきゃダメね」
そう言って、1人トコトコ光の壁に向かうのだった。
それに気付いた聖司と信康が、慌てて駆け寄り
「母さん、どうしたの!?」
「そうだぞ夕香、一体何をしようとしてたんだ?」
そう言われ、素直に
「権也との約束を守ろうと思いましてね、ハンバーグを作ろうかと…」
と、答えるのだ。
また唐突に、天然モード発動していると思う2人。
「ハンバーグって、今それどころじゃ無いでしょ?それ以前に、道具も材料も無いのに、どうやってつくるつもりだったの?母さん…」
「あらそうなの?何だか皆んなワイワイしてたから、お腹空かせてしまうかもって思ってね、道具や材料を光さんから出して貰おうとしたのだけれど…」
「光に出して貰う?どうやって?」
夕香の話に、信康は少し強めに聞いてしまう。
「あら、だって先程言ってたじゃない。光さんにお願いすれば何でも出来るって、だからお願いしに来たのよ」
またとても優しい顔をして話すものだから、キツい事を言えなくなるのだ。
「母さん、それは間違いじゃないけど、間違ってるよ…」
「あら?そうなの?何処が間違いなのかしら?…あっ分かった、光さんじゃなくて、光様って言わなくちゃいけなかったかしら?」
そこじゃな───い!って叫びたかった信康と聖司。
「あの…母さん、光さんで大丈夫だよ…」
「そうなの?あぁ良かった!」
パンッと手を叩いて喜ぶ夕香に
「…母さんあのね、今はまだハンバーグ作れないんだよ、その為の力を僕達、未だ身に付けてないから今は無理なんだ…残念だけどまた今度ね、ごめんね…」
「ふぅ〜んそうなのねぇ、残念だわぁ…ねぇ信康、その力って何時使えるの?まだまだ先なのかしら?」
このやり取りで、ああ!そうだった!!と、スッカリ忘れていた信康は
「有難う母さん!スッカリ忘れてた!皆んなに早く光の力を渡さないと…!」
そう言ってこの場所に、皆んなを呼ぶ。
ただ黙ったまま横にいた聖司も、完全に忘れていた。
たまにこの夕香パワーが役に立つ事もあるのだ。
信康に呼ばれ光の壁付近に集まった一同は、これから行われようとしている光の力を得る為、ただ静かにその時を待っていた。
その力を得て、超常現象を思うがまま、扱う事が出来る様になる事に、やはり不安が纏わりつくのだった。
ビジョンで見たあの力が、とても脅威に思えてしまうのだ。
そんな強力な力を自分の意思で、しっかり扱えるのか、自分なんかが使っても良いものなのだろうかと、それぞれがそんな思いでいたのだ。
流石に権也も、記憶の衝撃を2度も体験した事により、違う意味で不安になっていた。
そんな沈黙の中、信康が
「皆んな、これから光の力を1人ずつ分け与えるから、名前呼ばれたらこっちに来てよね!」
と、伝えるのだった。
「あっそうだった、追加で説明を先にするんだっけ…あのね皆んな、今から分け与えられる力の事なんだけどさ、それぞれに与えられる力は、同じものじゃないからね」
同じものじゃないとは、どう言う事だと
「信兄ちゃん、それってどう言う事なの?あぁ後なんかさぁ〜、本気で忘れてるのか知らないけれどさ、後出し多くない?学年トップなのに、なぁ〜んかいまいち、そう感じられないんだけど?ねぇ本当大丈夫なの?」
阿沙華のズバズバ切れ味の良い、言葉のナイフに切り裂かれる信康。
「……ハハッ、大丈夫だって!勝手の違う事が色々あり過ぎて、ちょっと本調子出ないだけだから、これからは気を付けるよ…」
そう言って、誤魔化した様にもとられそうなのだが、実際のところ、本当にする事が多く、他の家族達の負担にならない様、ほぼ全ての事を1人でこなしていたのだ。
記憶の情報の整理や、力の使い方を覚えたり、安全対策としての下準備など、数多くの事をやっている上に、平気そうにしているが、ローブのコントロールをする為に、かなりの精神を費やしていたのだ。
それを知らない阿沙華の言葉に、とても深く傷付いたのだが、兄として寛容な心で接していた。
その事を阿沙華は、後に夕香により知らされて、自分がした事を恥じ、心改める事になる。
そして信康の説明が始まる。
「ここにある光の球が、全ての力を持っているんだけれど、分配するにあたって、それぞれ異なる力のみしか使えなくなるんだ。例えば、水を操る力だったり、火の力だけとかそんな感じなんだ」
その様な説明を聞き、護都詞が
「この光の力は、万能だと思っていたが、そうじゃ無いのかい?」
と聞かれ
「このままの状態なら、万能に近いとは思うけど、全ての事が出来る訳じゃないんだよ。それを更に8つに分けて使用するから、弱体化しちゃうんだ…」
と、信康が更に補足説明を足す。
「一応基本の力は同じなんだけど、それぞれに適した能力が自動で渡される筈だから、それを各自確認して特訓してよね。それと力の受け渡しとか、合体技みたいな事も出来る筈なんだ。状況に応じては、それをしなくちゃいけないって、説明があったんだ。だからその訓練もするつもりでいて。後、渡される力は基本、僕達自らの力を発動させる為のサポートだと思っててよ!だから、光の力を頼り過ぎないでね。」
補足の説明がやっと終わったかと思ってたら
「多分皆んな分かってないだろうから、忠告の意味も込めて言っておくよ。この光の力って、五千年前の自然エネルギーの集合体なんだ!今は失われた力だから、消耗しても補填出来ない事覚えといてね!…それと五千年もの時の中で、そのエネルギーも使われてるから、残りは余り無いって事も頭に入れておいてね!」
信康からの説明に、この光の力も無限じゃないんだと教えられ、よく考えて使わないとと、肝に銘じる一同だった。
ただし権也だけは違い、バトル漫画や戦隊ヒーローものの様な、必殺技を考えてるだけなのだ。
「それじゃ始めるよ!先ずはお爺ちゃんから!」
そう言われ、前に出る護都詞。
「じゃあ僕と手を繋いで、出来るだけ無心でお願いね!」
そう言われた通りに信康と手を繋ぎ、無心になる為に目を閉じる。
その後信康は、光の壁に片手を添え、光の壁の一部を1つの球体に作り上げる。
バレーボール程の大きさになった光の力。
それを護都詞に渡すと、光の球体は護都詞の中に、更に小さくなりながら入って行く。
凝縮された力に、一瞬大きな鼓動を感じ、それが自分の中で一つになるのが分かるのだった。
「!、おおっ!!これは凄いな…力が内側から溢れてくるのが分かるよ!」
護都詞の感想に
「へぇ〜そうなんだね!…お爺ちゃん、これでこの光の球から出ても大丈夫だよ!その力が守ってくれるから」
と信康が、上手く行った事に、安堵した表情で言う。
「ほぉ何と!…あぁそれであの時大丈夫だと言ったのか…1人1人順序よく行えば、問題ないと…」
そう感心する護都詞。
だがここで、1つの疑問が出てくる事に、阿沙華が気付き
「ねぇ信兄ちゃん、そうなると最後の人はどうなるの?光の球体を作って力を貰う前に、異空間に曝される事になるんじゃないの?」
最もな疑問だと言いながら、信康が
「その為のこのローブ!これを身に付けていれば、守られるからね!だから最後の人は僕なんだよ…」
そう説明されて、先程厨二病と思いヒーローとからかったが、あれは本当にこの為に付けていたのだと気付いた阿沙華だった。
「あ、あの…信兄ちゃんごめん…さっきヒーローとか言って、からかって…」
申し訳なさそうに言う阿沙華に
「もぅ良いよそんな事!全然気にして無いからさ!」
と、本当は気にしていたが、阿沙華の素直な謝りに、平気と気遣う姿は、立派な兄の姿だった。
その様子を聖司や夕香に、護都詞と弥夜も、立派になったものだと嬉しく思えていたのだ。
それから順序よく、次々と光の力を与え続けた信康。
少しハードワークだった様で、最後になった自分の分を作らずに一端手を止め、一息入れるのだった。
「済まないな信康…本来なら父親の俺がするべき事なんだが、お前が俺以上に出来るからと、全てお前に任せっきりにしてしまって…本当に済まないな…」
心から申し訳なく思ってる聖司に
「阿沙華に続いて、父さんも謝らなくて良いのに…ただ精神コントロールに慣れてないから、少しへばっただけだから。それにこういうのって、結構好きだから平気だし、なんか男のロマン感じるもんね〜!」
本当は、かなり無理をしている事くらい分かっている聖司なのだが、この歳で、自分の事を二の次にし、人を気遣う事が出来る信康に、グッとくる聖司。
「男のロマンかぁ…それ、わかるよ!感じるよな!」
と言いながら、笑い合う2人だった。
「父さんと話してたら、だいぶ楽になってきたよ!それじゃ僕の分に取り掛かるね」
本当はまだ辛い筈なのに、人の事を持ち上げながら、作業に戻る息子の姿に、敬愛の念を感じ思う聖司が
「もうちょっとだ!しっかり頑張れよ、信康!」
と、励ます。
その励ましに
「うん!分かったよ、父さ…」
途中まで言いかけた信康の言葉を遮る様に、落雷が轟音と共に突然信康を襲う。
余りにも突然の出来事に、理解する事が出来ない。
一体何がどうなって、どうしたのだと、考えを巡らせ理解しようとしても、理解する事など出来なかった。
ただ、そこに居た筈の信康が消えて居なくなっていた。
誰もがその事に気付くまで、しばらくの時間を要したのだった。
信康が居ない事にようやく気付き、聖司達は
「信康──!」
「お兄ちゃ──ん!信兄ちゃ──ん!」
「イヤアァ──っ、信康ー!信康ー!」
と、それぞれ悲鳴をあげて、信康を呼び探すのだった。
だが何処からも信康の返事が無い。
未だ何が起きたのか、全く理解出来ない聖司達。
「貴方!聖司さん!あの子が!!信康がぁ──っ!」
今まで見た事のない、夕香の取り乱し方にとても驚きながら、聖司は力の限り夕香を抱きしめ
「夕香、夕香!ああ分かってる…分かってる!信康が…」
一旦落ち着いてくれと言おうとするのだが、それが言えない聖司だった。
聖司に抱き留められても、泣きながら取り乱す夕香。
それを見ているだけで、胸が張り裂けそうになり、何も言えない護都詞と弥夜。
阿沙華と権也は、ただ“信兄ちゃん!信兄ちゃん!”と名を呼び続けながら、泣き叫んでいた。
何故この様な事態になったのだと、誰もが思うのだが、それを知る事は今は出来そうもない…。
未だ、この異空間に鳴り響く轟音。
その音は、家族の泣き叫び、悲しみを掻き消していた…。
まるで、悲嘆する者達を嘲笑うかのように…。
第16話 スタートライン その2 完
もう少しで、この章が終わる予定です。
そのもう少しが、後何話になるかは、僕自身予想がつきません…。
一応、話の構成は決まってますが、書いてくうちに、色濃くなるキャラクター達になってきて、気付けばついつい話がそれてしまってます。
話の流れに戻そうとすればする程、段々と話数が増えてしまいました。
既に序章じゃない感じですが、僕的にはまだ序章です。
僕が言うのは何ですが、こんなに長い序章は無い!ですよね…。
では続きが出来るまで、お待ち下さい。