スタートライン
第15話 スタートライン
龍乃瀬一家が、円陣を組んで集まる。
長男の信康が、議長となって会議が始まる。
「皆んな心の準備はいい?」
その言葉に黙って頷く一同。
それを確認して信康が語る。
「僕達がするべき事は、皆んな分かってるから、その部分は省くとして、因果に立ち向かう為の何かしらの力が必要なんだけど、今の僕達には無いのが現状。だから、僕達は抗う為の力を身に付けなくちゃいけないんだ。そこまでは、皆んな理解してるよね?」
「あぁ、その為に色々とあったからな…実際大変だったよ…」
護都詞がトントンと、自分の片方の肩を叩きながら言う。
でも信康の語る次の内容に、愕然とする事になる。
「お爺ちゃん、あれはまだ序の口だよ…本当に大変なのはこれからなんだから」
「何だと!?あれ以上に大変とは、どう言う事だ?」
「僕が記憶を調べたところ、まだ全部分かった訳じゃないけれどね、あの使者のしつこさが、相当なものだって事と、僕達が身に付ける力を得る為には、生半可じゃ無い試練を乗り越えなくちゃいけないんだ…」
そう言われ、険しい顔になる一同。
「えっ?使者とか試練とか、それどういう意味なの?信兄ちゃん」
と、聞き返す阿沙華。
「使者の事は、取り敢えず後で説明するとして、試練なんだけど、五千年前のような力が使えないって事は、皆んな分かってるよね?」
信康の問いに、権也以外は何となく理解はしていた。
「セルジの死と共に、自然の力が無くなったからだよな?」
聖司が、確認の意味も込めて聞く。
「うんそう!…だから僕達は、それに替わる力を身に付けなくっちゃいけないんだ」
「替わる力…?それは一体…どんな…?」
と、困惑しながら更に問う聖司。
「う〜んそうだねぇ…今の時代でいうならば…霊媒師とか、サイキッカーとかかな?後、陰陽師でもいいかもね。何にせよ、超常現象を引き起こせる超能力者になる事が、先ずは僕達のなすべき事なんだ」
「ちょっ超能力!?」
サラッと言い放つ信康の言葉に、当然の反応だった。
「ちょっと待ってくれ、この歳で今からそれを身に付けろだなんて、私や弥夜には難しいんじゃないのか?どうやるかは知らんが、お前達子供3人なら、やれば出来るかもしれないが、聖司と夕香さんも、私達含めて無理だと思うぞ?」
護都詞の率直な意見に
「あっその事なら大丈夫!ここに居る皆んながなれるから!」
「ええぇーっ!?」
信康と権也を除く、一同全員が揃って驚く声を出す。
「マジで?やったぁー!」
権也だけは、そんな反応だった。
「信康、とても簡単そうに言うが、それは本当に出来るのか?」
聖司が驚きの顔をしたまま聞くと
「実践してないから確実だとは言えないけれど、記憶に残されてた光の主の解説を聞いたら、そう言ってた。だからその通りにすれば、身に付けられる筈だから」
光の主の言っていたヒントとは、この事だったのかと誰もが思ったのだ。
「まだ沢山、ヒントっぽい事言ってたけど、先ずは力を会得する事が先決!その上、その能力をそれぞれ最大限まで高めて使いこなせる様になる事。じゃないと、その他のヒントっぽいものを理解出来そうに無いんだ…」
とても凄い事を余りにも簡単そうに言うので、どうリアクションをとればいいのか、分からない聖司達。
分からない事を恥じる必要はないと
「まぁ正直僕も最初は、ヒントを知った時、皆んなと同じ反応になったよ…」
と、フォローをいれる信康だった。
フォローをした後、光の壁に近付く信康。
信康の行動に、何をし始めたのだろうと
「今度は何をしようとしてるんだ?」
と尋ねる聖司。
光の前で立ち止まり
「皆んなが力を会得できる様に、光の球を8つに分けるんだ」
「ハアァ──ッ!?」
また全員、同じリアクションをする。
「僕もそう思った!」
と、少し笑いながら信康が言う。
「そんな事出来るのか!?それにこの光の球を8つにも分けたら、この中に居る俺達はどうなるんだ!?」
当然の疑問を投げ掛ける聖司に
「順序よくすれば大丈夫らしいよ、そのやり方をこのローブがサポートしてくれるから」
そう返答するのだ。
「あっそうだった、皆んなにローブの事教えておかないとって、思ってたんだった。スッカリ忘れてた…」
申し訳なさそうに笑顔で言う。
ここに来て、色々知る事が多くなってきた事に、少々ゲンナリする一同だった。
「で、ローブについて、何を教えてくれるんだ?」
「ローブの性能について、幾つか説明する必要があるんだ」
「ん?性能?…そんな事?えっ、今更?」
不思議そうな顔をしながら聞く聖司に
「あっその顔、父さん…今こう思ってるでしょ?色んな力が使える、まるでド◯エもんの便利道具や、魔法の道具みたいだって、そう思ってるでしょ?」
正にその通りにしか思っていないので
「あ、あぁそうだけど?」
その返答に、額に手をあて頭を振る信康。
「ふぅ…違うんだよ父さん…それと皆んなもそう思ってるよね?それは違うから!」
自分達はそんな事思ってないと、しらを切ろうとする前に、それを察知した信康に釘を刺されるのだった。
「ローブと光の球の特性や機能を先ず説明するよ。光の球は、僕達を敵や異空間から守ってくれるだけじゃなく、様々な力を秘めた超エネルギー体なんだ。その1つの機能が光の記憶なんだ。まだ沢山機能はあるけど、長くなるからそのうち分かれば良いと思うよ。特性としてはそんなとこかな?」
光の球の簡単な説明に対して
「光のローブなんだけど、皆んな不思議に思う事はない?特にお爺ちゃん、1度使ってるから思いあたる事はないかな?」
急に振られた護都詞は
「おぉ、私?私か?…いや特にこれといって…」
「分かったよ、ではハイそこ!阿沙華!観察力や分析力があるお前なら、何か思いつく事ないかい?」
そう言いながら指をさす信康。
その立ち振る舞い方は、学校の先生の様だった。
「………う〜ん、ダメ降参…全然分かんない…」
阿沙華ですら、お手上げ状態だった。
「先に説明する事にして正解だったみたいだね…知らないままだと、突然の出来事に、迅速に対応出来ないからね…」
それ程重要な役割を持っているのかと思うのだった。
「ねぇお爺ちゃん、お爺ちゃんが使った時、どんな感じだった?」
また話を振られる護都詞は
「急に振らないでくれよ…そうだな、思った事を意図も簡単に出来たくらいだな…それ以外は別段何も思わなかったが…」
その答えに
「有難う、その感想で説明し易くなったよ。後は1人犠牲になって貰うだけなんだけど、誰がする?」
平然とした顔で、犠牲になれと言う信康に少し恐怖を覚える。
「犠牲って、何をするつもりなんだ?」
恐る恐る聞く聖司。
「えっ、怖がる事ないよ!ちょっとビックリするくらいだから!」
キラキラした目で言う信康の言葉には、安心出来る要素など一切感じられはしない。
「誰も進んでやろうと思わないなんて…しょうがないなぁ…」
と話しながら権也に、ローブの一部分を触れされる。
「ピィヤッ!」
変な鳴き声を出す権也に
「どうだった?何か感じた?」
何食わぬ顔で聞く信康に聖司は
「お、お、お前は鬼か悪魔か!何をしれっとした顔で…い、いきなり何をするんだ!怖いわ!…っ本当に…で、大丈夫か権也…!?」
思わず権也を抱きかかえ、信康から遠避かる。
「だって誰もやろうとしてくれないんだもの、それなら気付かれないうちに、実力行使した方が手っ取り早いでしょ?この中で1番無防備なのは権也だけだったから、権也に犠牲になって貰っただけなんだけどね」
そう答える信康に悪びれた様子はなく、信康のサイコパスな一面を感じたのだった。
魂になってから、色々と知らされる子供達の一面に、こんなにも知らない事が多かったのかと、親としての難しさを思い知らされるのだった。
サイコ…信康が、権也に尋ねる
「ごめんな権也、尊い犠牲になって貰って…で、聞きたいんだけど、ローブに触れた時、どんな感じだったか、詳しく教えてくれないかな?」
ビクビクしてはいるが、実は聖司がいない時の毎度の光景なので、権也も信康の行いになれているのだった。
ブスッとした表情で、信康の問いに答える。
「最初に壁に触れた時みたいに、過去の映像が流れてきたよ。ただ凄く少なくなってたけど…」
その答えに満足そうにする信康が
「本当にごめんな…今度お前の好きなお菓子買ってやるから、それで許してよ!」
その言葉に、将来本当にサイコになりかねないと、冷や汗ものの聖司達だった。
「で、一応これで検証は終わったんだけど、何か気付かない?僕とお爺ちゃんと、今感想を述べた権也の違いなんだけど」
その問いに
「あっ分かったかも…信兄ちゃんが言いたい事…」
やはり最初に阿沙華が、何か気付いたようだった。
「じゃぁ言ってみて、多分正解だから!」
そう言われて、阿沙華は違いについて説明する。
「ローブを使ったお爺ちゃんと信兄ちゃんは、ローブに触れてるのに、記憶が流れ込んでない…のよね?でも権也は流れてきた…多分意識の違いなんじゃない?」
期待した答えが聞けて嬉しくなる信康が
「凄いじゃないか!流石阿沙華だね!違うところがあれば訂正するから、そのまま説明してくれるかい?」
何処か素直に喜べないが、言われたまま説明を再開する。
「お爺ちゃんと信兄ちゃんは、使用目的を明確にしていたから、ローブが無駄な機能として、記憶を停止している?んだと思うの。でも何の目的も無い状態で触れると、光の壁からすれば先ず最初に、絶対知ってもらわないといけない情報だからと、強制的に見せられるって事…であってる?」
「本当流石阿沙華だね!ほぼ完璧!補足するとしたら、光のローブを纏わなくても、直接光の壁に指令するなりイメージを強く持てば、力を使えたんだ。今更だけどね…」
かなり衝撃の事実を聞かされた聖司達は、愕然としながら怒りが沸いてくるのだった。
あれ程の苦痛を味わったのに、実は無駄な努力でしただなんて家族一同、聞きたくはなかったと、特に聖司と護都詞の抱いた一際強い本音であった。
聖司は、考えるのをやめる事にした。
その方が、心のダメージが少ないからだ。
「ところで信兄ちゃん、そのローブ今の話だと、別に羽織る必要は無いんだよねぇ?サポートも必要ない筈だよねぇ?う〜ん?…で、何故今も羽織ってるの?」
額に米マークを散りばめながら、満面の笑顔で聞く阿沙華に、“あっギクゥッ!”みたいな顔をする信康。
「まぁなんだろ〜ぅ、そうあれでしょ〜ぅ?それを纏ってたら、自分がヒーローにでもなれた気になったんじゃないの〜ぅ?男子ってヒーローに憧れるものねぇぇ〜」
その鋭い言葉に、タジロギながら
「いやそんな事…全然違うよ?ただ色々と性能を試そうと…」
両手を前にしてパタパタ振りながら言う姿は、何処か滑稽にさへ思えてくる。
「別に言い訳しなくても良いじゃない?好きなだけ堪能しなさいね、我が家のヒーロー!」
「―――!!」
赤面し言葉にならない信康は、実際に中学2年なのだが、今後違う意味の厨二病にはならないでおこうと、心に固く決意するのだった。
その様子を見ていた聖司は、信康はまだまだお子様だった事が分かり、そのまま変わることなく成長するのだろうと、将来彼がサイコになる事は無いだろうと、少し安心するのだった。
そして光の壁を見つめる、少しだけ怒る気持ちを持ちながら。
この光が、自分達の助けとなる事を理解した聖司は、五千年も自分達に出会うまでこの光を護り、託してくれたあの光の主に誓う。
光の力を十全に使いこなせる様に努力し、幾多の試練に打ち勝ち、迫り来る全ての苦難を乗り越えようと、そして家族を護り、因果を終わらせる事を…。
色々馬鹿をやらかす子供達や、それを慈しみ見護る妻と両親を見ながら、そろそろ先へ進めようと言いながら、家族のもとに向かう。
その直ぐ近くに、同じく向かうものがいる事に、誰も気付かないまま…。
第15話 スタートライン 完
僕の投稿ペースは、早いのか遅いのか、どっちなんでしょうか?
稚拙な小説を最初から読んで下さっている読者の方達には、遅いと思われてたりするのかなぁ?などと、考えたりします。
話は、まだまだ続きます。
かなり長くなると思います。
こんな小説ですが、良ければ続きを読んで下さいませ。