行き先 その2
第13話 行き先 その2
護都詞により、権也から伝えられた1つの謎であった、分からない言葉について、家族会議が始まろうとしていた。
先ず、護都詞が体験した記憶の内容は、権也と同じものだった事を伝える。
そして、言葉に関しては、多分と前置きして
「あれは、五千年前の言葉だと思うんだよ。セルジの時代の映像を見た時に、最初聞いた言葉に似ている気がするんだ…」
それを聞いた信康が
「お爺ちゃんがそう思ったのなら、間違いないよね。そう考えると記憶の解説は、翻訳しなくちゃ分からないままって事だね?」
テキパキと、話の流れを分かり易く組み立てていく。
「で、翻訳さえ出来れば、記憶を読み返してヒントを探せる…」
と言う信康に
「記憶を読み返してとは言うが、あの量の記憶を何度も読み取るのは、とてもじゃ無いが、かなりキツイものだぞ?そうそう何度も出来る様なものでは無いよ…」
と、護都詞が言う。
それに対して
「やっぱり無理してたんだね、お爺ちゃん!思った通りだったよ」
と孫に、そう誘導された事に気付く護都詞だった。
「でも大丈夫!多分、翻訳出来さえすれば、1度で済む筈だから」
と、言い切るのだ。
「おいおい、それはどういう事だ?何故1度で済むって言い切れるんだ!?」
今度は聖司が思わず聞いてくる。
その問いに信康は
「光の主の事、良く考えてみてよ。あの人、五千年もの間、ずっと強い魂に出会う為に、転生の記録をして来てたんだと思うんだ…。因果に打ち勝つ為に、転生毎の記録と対処方法をね」
軽く家族を見渡して
「もしかしたら今回こそ、強い魂に出会えるかもって思いながら、強い魂に出会うまで、毎回転生後に対処法を上書きしていたと思うんだ。そうすれば、何かトラブルがあった時のバックアップとして、1番強い魂に伝えられるからね」
ただただ圧倒される家族、そのなかでも阿沙華は兄の凄さに驚く。
流石の阿沙華も、ここまで分析し解析できてはいなく、ただ兄の信康に圧倒されていた。
「憶測だけど、多分正解だと思うんだ。だから、先ず最初に知るのは僕達の時か、その前の僕達だけで良い筈だよ!」
ここまでスラスラと核心を言い述べると、思わず拍手喝采する聖司達だった。
だが、その拍手を素直に喜ばない信康。
少し重い表情に気付く夕香が
「どうしたの、信康?…何だか浮かない顔をしてるけど…あっもしかして、トイレに行きたいの我慢してたりする?漏れちゃいそう?」
「!!───か、母さん!ちょ、ちょっといい加減にしてよ!違うよ!」
顔を真っ赤にしながら、夕香の問いを否定する。
「あら?そうなの?…それならお腹でも空いたの?」
「あぁー、だからそれも違うからー!」
涙目になって、この天然さんを如何にかしてくれ!と、無言で聖司を見る。
だが夕香の天然は、誰にもどうにも出来ないのだ。
またまだ天然を炸裂しそうな夕香に、やれやれと夕香の肩を叩きながら
「母さん…違うから、そこまでにしとこうか…。信康には、何か別の思う所があるみたいだから、それを聞こうじゃないか…」
やんわりと、夕香の天然暴走を止める聖司だった。
「あらそうなのね〜、良かった!何処か悪いのかと心配しちゃったわ」
素の夕香が繰り出す天然は、ある意味、破壊力の強い脅威でしかない。
やっと普通に話せると信康がヘトヘトになりながら
「…ふぅ…問題がね…未だあるんだよね…」
あれだけ解析に長けた信康の言う事だから、かなり難問なのだろと誰もが思うのだ。
「その問題とは?」
聖司が聞くと、その天然さんを暴走させない様に、しっかり見張ってくれよ!と、目で合図しながら
「翻訳する為の手段が無い事!」
えっ?そんな事、誰もが分かっている事だろう?みたいな顔をするので、それも分かってますよと
「良く思い出して良く考えてよね!僕達、どうやってあの言葉を理解したんだっけ?」
その言葉に誰もがハッとするのだった。
「そうよそうだわ、あの時は光の主が、私達に翻訳機能を施してくれてましたね。それであの時代の会話が理解出来ましたからね…」
弥夜が手を叩きながら頷く。
「そうそれ!正にそれ!その翻訳機能が今の僕達には無いって事と、あの光の主の様な力が無いから、今のままじゃどうしようもないって事なんだよね…」
その言葉に一同、サーっと血の気が引いていく気がしていた。
「更に言うと、五千年前の言葉を自力で翻訳しようとしても、先ず出来ないと断言出来るよ…。何故なら、光の主が言ってた事を引用すると、今の時代と違うあの時代は、自然や霊的なんかの精神を共有して、言葉にしたものだって言ってたでしょ?共有出来ない僕達には、理解する事すら難しいって事なんだよね…」
ここで一呼吸を入れて
「もし翻訳出来たとしても、気の長い時間を費やさなくちゃ無理だそうから、そんな時間は、僕達には有るとは思えないのだけれどね…」
信康の説明を聞いて、1つずつ増えていく問題に、頭を悩ませるしか出来ないのだった…。
それぞれ思う事や考える事があり過ぎて、無言の時間が過ぎていく。
その中でもやはりブレない権也。
暇を持て余し、1人でウロウロしている。
それに苛立つ阿沙華が
「権也!じっとしてなよ!…本当もぅ、自由人なんだから!」
そう怒られながらも
「は〜い…あっでもさ!あの光の人の力凄かったよね!」
うん?何か話が違うところに飛んだぞ?と、阿沙華は思ったのだが、もしかしたら権也の直感か何かが働いたのかもと
「うんうん、そうだよね!あの人の力凄かったね!」
と、話を合わせる事にした。
すると
「僕も、あの人のあんな力が欲しいなぁ…、あっそれとね、僕思ってたんだけどさ、あの人王様のお父さんだって、ずっと思ってたんだよね!」
それを聞いた一同も
「本当それ!思った思った!」
と阿沙華
「でも違ってたんだよな…」
と護都詞
「最後の時、お前誰?ってなったもん」
と信康。
いつの間にか、光の主の話題で盛り上がる。
「だって始めの頃に、自分が因果の原因の1つみたいな事言ってたから、セルジ本人だろうって、普通思うよなぁ…」
と、聖司も述べた。
「本当誰だったんでしょうね…」
夕香も弥夜も、同時に呟く。
ただこの会話に、あれ?何か違う感じになって来ている、権也の直感がもたらし解決へ導く道筋な筈が、核心へと繋がらない状況に、間違ったのかもと焦る阿沙華。
だかそれも杞憂に終わる。
「光の人って、誰でもなれたのかなぁ?なれるのなら、僕なってみたいな!そしてあの力をつかってみたい!」
その言葉に反応したのは、やはり信康だった。
「…権也、お前凄いな!本当凄いよ!お前のその発想いけるかも!」
突然そう言い切る信康に、困惑しながら聖司が聞く。
「おいおい、どうした突然…凄いとか、いけるかもとか…何が凄くていけるんだ?」
聖司の問いかけは、ごく当たり前のものに過ぎない。
信康以外の誰もが、突然何を言い出したのか、理解できないからだ。
「あっごめん、つい興奮しちゃったから、騒いじゃった」
「で、どうしたの?凄く嬉しそうにして…あっもしかし…」
また天然暴走になる前に、聖司に口を塞がれた夕香。
話の腰を折られる前に
「解決策が分かった気がする!多分何とかなると思うよ」
そう言う信康から、頼れる逞しさが感じられるのだった。
その信康に、護都詞が
「で、その解決策とは一体どんなものなのだい?」
「それはね、この中の誰かが光の主になる事なんだ!」
突拍子もない事を言う信康に
「はぁっ?お前…突然一体何を言い出すんだ?意味が分からない…どうした?頭が変になったのか?」
と、心配になってくる聖司達。
それをちょっと不機嫌そうに
「失礼な…僕は至ってまともだよ!」
「だがなぁ、光の主になるなんて、そんな事出来るのか?そんな訳ないだろ?」
と、全く信用していない。
そんな聖司達に向かって
「はいはい、それも想定済み…そう言うと思ってたよ…」
ちょっと呆れた感じで返答すると
「このっおまっ…」
と、言葉に詰まる聖司。
「えっとね、結論から言うと、誰でも光の主になれるんだよ。その為に、一手間掛かるけれどね」
そう言い切る信康に、それ以上何も言えない一同。
「今度も良く思い出してみて、僕達が勘違いしてた光の主は、セルジ王じゃなく別人だったって事…」
それは先程、皆んなで話していた内容だ。
「それがどうした?別人ってだけの事だろう?」
聖司のその問いに
「チッチッチッ、そこが重要なんだよね!それこそ答えなんだよ!」
少し小馬鹿にされた感はあるが、理解が追い付かないので素直に聞いてみる。
「済まないが、もっと分かり易く教えてくれるかい?」
その言葉にニヤッとしながら
「光の主本人がセルジ王だったなら、父さんがセルジ王の力を身に付けるしか無かったと思うけど、光の主の正体は別人だった。その別人が光のローブを身に纏って、様々な力を使ってたんじゃないかな?と、考えたわけ。だってよくよく考えたらセルジ王の魂は、転生していて、この世には存在してない筈なんだよね。それなのに、光の主が五千年も存在している事自体、セルジ王本人だと、説明が付かない。だから別人だと確証が持てる訳。そうなると、その者が光のローブを身に纏って様々な力を使ってたと、推測できるんだよね」
信康の説明を聞くだけで、良くもここまで推測出来るものだと、ただ感心するしかなかった。
この説明を聞いて、反論する者などいなかった。
反論するどころか、納得してしまうのだ。
我が子ながら恐るべし!と、聖司は思うのだった。
「それでね、問題が1つまた出て来たんだけど、話しても大丈夫かな?」
また問題があるのかと、誰もが思うのだが、他に解決法が提示出来ないのだから、今は信康の話を聞くしかないのだ。
「その問題とは?」
聖司が聞くと
「えっとね、どうやって光の壁から、一部分だけでもローブ用に、取り出せるかって事なんだけど…触れたら記憶が流れてしまうでしょ?それを回避しながら一部分だけ、取り出せないかなぁと。後それに、光の壁全部身に纏ってしまうと、僕達のいるこの空間が消えちゃうしね…だから一部分だけをどう取り出すか、考えなくっちゃ…」
これはこれで、また難問だと思うのだった。
再度沈黙が家族を包む…
包む筈だったが、またもや権也により打破されてしまう。
ただひたすら、光の主の真似をしているのだ。
今年小学4年の権也。
ここ迄くると、3歳〜5歳児の様にも思える。
精神年齢5歳児の権也なのだが、何故か直感力が働く時は凄まじく、次々と問題解決に貢献するのだった。
今回もまた権也の直感力が発動したようだ。
「ねねっお父さん、あの光の壁、皆んなで触れたらどうなるのかな?やっぱり皆んな同じ記憶が流れてくるのかな?」
その問いに、信康だけでは無く、聖司も護都詞も、そして阿沙華まで反応するのだった。
顔を見合わせた4人は、コクっと頷き
「権也の意見、試す価値有りかも…」
と信康が言うと
「その為に、最初に誰かが触れて、記憶を読み取ってる間に、別の誰かが光の一部を抜き取るって事ね?」
阿沙華が確認する。
「それじゃ今回は、俺が最初に触れるよ!」
そう言う聖司に
「1度経験した私がやった方が良くないか?その方が多少要領も分かっているからな…」
と護都詞が言うのだが
「いや今回は、絶対俺がする!未だ回復しきってないだろう?そんな父さんにさせるなんて、出来やしないよ!」
「…聖司…」
「俺が失敗したら、その時は父さんに次任せるよ!それまで回復に専念しておいてくれ!」
「あぁ分かったよ聖司」
「そして俺が触れてる間に信康、お前が光のローブを取り出すんだぞ!いいな、お前なら出来るから!」
そう信康に、檄を飛ばすのだった。
それに応えるように
「うん!任せて父さん!」
力一杯の返事を返す。
「さぁ始めよう!信康、一発で決めるぞ!いいな!?」
「OK!」
「それじゃ行くぞ!!」
それを合図に、2人は壁に時間差で触れるのだった。
流れ込む記憶に、これ程までの苦痛がくるのかと実感する聖司は、良くぞ耐えてくれた父と、事故とはいえ、気を失う程度で済んだ権也に、感服するのだった。
「こんなもんに、負けてまたるかー!」
そう声を張り上げ、流れ込んでくる終わらない激流の記憶に、聖司は耐え続けるのだった。
ようやくヒントへの手掛かりを手探りではあるが、見付け出した聖司達。
何としても、ヒントを物にしなくてはいけない。
未だ旅のスタートラインにすら、立っていないのだから…
第13話 行き先 その2 完