行き先
第12話 行き先
別次元に残された龍乃瀬一家。
その家族全員が、セルジ本人だと思っていた光の主は、全くの別人であり、騙された感が拭えない。
だがその者は、何処か懐かしく、昔から知っているような、そんな気にすらするのだった。
それも一家全員が…。
その者が最後に残した“光の記憶を読み解け”の言葉に、困惑しているのが今の現状なのだった。
「あいつは、一体誰で何者だったんだろう…」
聖司の呟きに、夕香が
「本当に誰だったのでしょうね…でも何処か懐かしくてよく知っている人にも思えましたよね…。とても不思議な感じですよねあの方…雰囲気とかが、とてもセルジさんに似ていましたねぇ、あっもしかしたらセルジさんのモノマネが得意な方なのかしら…?」
ちょっとズレてる発言をする夕香に、ツッコミを入れる者はなく、そうかもね〜と笑って済ませる一同。
夕香のする発言は、計算などは一切なく、何時も思った事をそのまま素で話し、更にホワホワした雰囲気も手伝ってか、誰もツッコミを入れられないのだ。
更にいうと、誰もが予想もしない様な、人の斜め上からの発言や行動をとる天然中の天然さんなのだ。
その天然発言を上手くスルーし、話題を変える信康。
「そう言えば、光の記憶って言ってたけど、それってどれの事を意味してるのかな?曖昧過ぎて、理解が追いつかないよ…」
「そうだよな…先ず光の記憶を探しだす前に、その光を見付け出さなければって話だからな…そんなもの何処を探せば良いのやら…」
と、聖司も頭を抱えてしまうのだ。
ただそんな中で1人、暇で球体の中をウロウロしていた権也が
「ねぇお父さん、これって光だよね?僕ら光のボールの中に居るんだよね?」
光の壁を指差しながら、その鋭い指摘に目を大きく見開いて驚く聖司達。
「そっそれだ!光とは、きっとこれの事を指してるんだ!でかしたぞ権也!流石だな、お前の直感は!」
時折ではあるが、直感力がずば抜けて働く権也を、聖司が凄く喜んで褒めるものだから、“ヤッター”と体全体で嬉しさをアピールする末っ子の権也。
それを普通に出来るのは、やはり末っ子の特権なのだろう。
ただ何時も、調子に乗り過ぎて、必ず最後に程々にしなさい!と、叱られてしまうのだ。
だが今回は違ったのだ。
大はしゃぎしている権也に、そろそろ注意をしようかと思った時、権也がはしゃいだ勢いで、光の壁に触れてしまったのだ。
触れた瞬間、駆け巡る衝撃に声を上げて気を失ってしまう。
それを目の当たりにした聖司達が、青ざめながら駆け寄り
「権也!しっかりしろ!権也!!権也!!」
権也を抱きかかえて、必死に呼び掛ける。
「権也!おい、権也!」
何度も呼び掛けるのだが、一向に目を覚ます気配がない。
それでも一刻も早く目覚めて欲しいと、ただひたすらに名前を呼ぶ。
呼び続ける事およそ5分、すると権也が
「フニャムニャ…今日はハンバーグが…食べたい……スーッスーッ…」
寝息をたてて、夢を見ている様だ。
良かった…ただ寝てただけだったのか…と、安堵するのと同時に、沸々と怒りが沸いて
「あ痛っ!」
と、ゲンコツによる強制目覚ましをお見舞いする。
その事に驚きながら、権也が
「何突然…なんで殴るの…?」
と、頭をさすりながら涙目で聞く。
「なんでじゃ無い!自分が何をしたのか、どうなってたのか分からないのか!?」
キツク叱る聖司に代わり、夕香が優しく
「貴方ははしゃいだ余り、光の壁に触れたのよ…そして触れた途端に、気を失ったの!とても生きた心地がしなかったわ!」
えーっ?そんな事になってたの?と、権也は思った。
「どれだけ呼び掛けても目が覚めないから、本気で焦っていたのに、お前は何故か夢を見てたらしく、ハンバーグを食べたいって寝言を言ってたんだぞ!まったく呑気に人の気も知らないで、心配だけかけやがって…」
聖司の真剣な顔つきに、素直に謝る権也。
「ごめんなさい…でもお母さんのハンバーグ、美味しいんだもん!食べたいよ〜」
このブレないところが、権也の良いところでもある。
「ったく、本当にお前って奴は…」
呆れる聖司…
「あらまぁフフフッ、分かったわ、今度ハンバーグ作りましょうね」
優しい笑顔で、約束してくれる夕香だった。
このやり取りが、一家の笑いになるのだった。
権也を懲りない奴だなどと弄りながらも、阿沙華が権也に問う。
「ところで壁に触れた時、権也に何が起きたの?悲鳴を上げたかと思ったら気を失ったから、あの時何かあったんじゃない?多分だけど、光の記憶とか見たんじゃないの?」
阿沙華の冷静さと、観察力や分析力はズバ抜けている。
正にその通りだったのだ。
「阿沙姉ちゃん凄いね!なんで分かったの!?」
阿沙華が言い当てた事に、驚くしかない権也。
実は聖司も、密かに驚いていた。
「そんなの当たり前じゃない!だって今迄の話の流れをちょっと考えれば、誰にだって分かるでしょ?正直権也が何かをしでかして、それをキッカケに事が進むってパターン、いつもの事じゃない…権也のまるで意味のない行動も、結構権也の直感力が働いての事なんだから、今回もそうなるだろうと思ってたわけ」
そこ迄言い切る阿沙華、それを凄いと関心する一同。
そう関心している一同を他所に、更に畳み掛ける様に
「大体単純なのよ、あんた達って!その中でも権也!あんたが1番単純なんだからね!」
ピシャリっと言い切る阿沙華。
その言い切りに龍乃瀬一家の男性陣は、阿沙華のあんた達というフレーズに、思わずビクッと身が引き締まる。
そのあんた達の中に、自分は含まれては無いよな、頼むから含まないで欲しい!と。
だがその思いは、無惨に打ち消される。
「男って、誰も彼も同じ単細胞なのよ!特に家で家事の手伝いしてたら、本当良く分かるのよね!誰が何をして欲しいのかとか、何をしたいのか、ちょっと観察してるだけでモロ分かりなんだから!」
やはり自分達も含まれている事に、聖司だけではなく、護都詞も信康も、その鋭利な言葉に、グフゥッ!と精神を切り裂かれるのだった。
あんなに可愛い愛しの阿沙華が、未来の女帝になっている姿が目に浮かんでくるようだと、聖司達は思わずにはいられない。
そんな阿沙華に弥夜が言う
「阿沙華…そんな事言ってはいけないわ…」
優しく諭す弥夜に、男性陣は流石!と思ったが
「そういうのは言葉にしないで、悟られない様に手の上で操るものよ♪」
我が家のボスの言葉に、(流石は我が家のボス!ですよね〜…)と、考える事をやめた男性陣。
逆に阿沙華はなるほどと、(流石お婆ちゃん、タメになるわ!)と、とても納得している。
「で、何があったの?」
辛辣な事を言われて恐縮しながら
「バァーと沢山の言葉や映像が頭の中に入って来てね、それが凄く多くて、頭が痛くなってビックリしたの…」
「うん、それで?」
「それでって…僕が分かるのは、それくらいなんだけど…」
少し阿沙華の威圧に、ビビりながら答えるが
「いくら能天気なあんたでも、何かもっとあったでしょ!?権也なりに感じた事!」
ここまで来ると、最早恐怖の対象でしかない。
「えぇっと…」
「サッサと言う!」
未来の女帝ではない、既に女帝だと恐怖を覚える。
「〜〜あのね…あの時、あの時代からの記憶と、何か難しい言葉で解説みたいなの言ってた…。それででね、よく分かんないまま、僕達の映像が出て来てさ、お腹が空いた僕がね、お母さんにハンバーグお願いしてたんだ…」
少し泣きそうになりながらも、権也なりに分かり易く説明する。
その説明に、何となくどんな事があったのか、ある程度理解出来た。
権也が夢でハンバーグをねだった件も、なる程なとも思うのだった。
権也の話した内容をよく考えてみる。
光に触れた途端に、あの時代から今迄の記憶が瞬時に流れ込んでくる。
しかも、権也には難しくて分からない言葉の解説付きとの事。
権也が悲鳴を上げて気を失ったのは、多分ではあるが、余りの情報量により処理が追いつかなかったからだろう。
でもその記憶の中に、あの者が言っていた成すべき事へのヒントがある筈。
それを見つけ出さなければならない。
五千年もの記憶からヒントを見つけるには、どれだけの時間と労力が掛かるか、それに権也の様に、膨大な情報量に耐えられるのかも、不安要素なのであった。
そんな不安で危険な行為を一体誰がするのか、決めなくてはならない。
権也はもちろん、子供3人は論外。
そうなると、大人の4人の中から選ばなくてはならない事になる。
女性の弥夜と夕香には、負担を掛けたくない。
高齢の護都詞にも、その負担は厳しいだろう。
そうなると聖司のみとなる。
そう消去法で考え、自分しかいないなと聖司が思い、壁に向かって一歩踏み出そうとした時
「待て聖司、お前の考えは良く分かる。だがここは私に任せてくれないか?」
と、護都詞が聖司を止めた。
「えっ?…父さんどうして?…俺がするのが1番良いと…」
聖司の言葉を途中で遮り
「いや、ここは私がした方が良いと思うんだ。何故なら、権也が分からない言葉だと、そう言ってただろう?だからだ…ある程度古い言葉なら、私なら分かるかも知れないからな…」
そう言って、その役目を自ら申し出る。
(そうでもしないと、この先も阿沙華に単純だと思われたままなんて、そんなの絶対嫌だもん!少しでも良いところ見せて、お爺ちゃん凄い!って思われたい!)
と、どちらかというと、その思いの方が強いのだった。
(お爺ちゃん、単純って言われたのを気にして、必死に挽回しようとしてるわね)
と、阿沙華にしてみればお見通しなのであった。
「では試してみよう」
恐る恐る光に触れる護都詞。
触れた途端、流れてくる映像と音声。
確かに膨大な情報量で、言葉も分からない。
限界ギリギリになりながら、なんとか映像は見る事が出来た。
だがやはり説明らしき音声は、権也が言っていた通り、何を言っているのか全く分からないのだった。
でも何故分からないのかは理解する。
「ふーっ、これ程までとは…確かに凄い量の記憶だな…」
疲れ切った様子に聖司が
「父さん大丈夫か?何処か具合の悪いところは無いか?」
と、心配する。
「そうですよ、余り無茶はしないで下さいね貴方…」
「お義父さんに、何かあったら困りますから、私からも無茶しない様お願いします」
優しい言葉を掛ける弥夜と夕香。
「あぁ、有難う…大丈夫だよ。頭が痛いくらいで、後は何とも無いから」
そう言いながらも、権也の時とは違い、青ざめ息を切らす姿に、平気な筈は無いと
「何言ってるんだ!大丈夫な筈は無いよ父さん!かなり辛そうにしてるじゃないか!」
心配する余り、声が高くなる聖司に
「いや…心配させて本当に済まない…。だが本当に頭が痛いだけで、後は平気なんだ…。少し休めば楽になるよ…」
本当は、体中が辛くて堪らないのだが、それを伝えてしまうと、今後も光の記憶を調査する時に、躊躇いが生じてしまう事や、次は自分もするんだと、進んで子供達が言いかねないから、そんな事はさせられないと、護都詞は見栄をきるのだった。
その見栄に、権也以外は気付いていた。
その見事な見栄に、単純だと言っていた阿沙華も
「流石はお爺ちゃん!…格好良いよ!」
と、誰にも聞かれない様な小さな声で呟くのだった。
少し時が経ち、気持ち回復した護都詞が聖司を呼び、2人だけで話をすると言って、家族を少し遠ざける。
そして自分なりに、光の記憶に関して分かった事を話す。
その内容は、権也とほぼ一緒なのだが、違うのが
「五千年前から今日までの記憶が全て記録されていて、確かに解説か何かをずっと話しているんだが、何を言っているのか分からない。それは権也と同じ感想なんだが、何故言葉が分からないのかは、分かった気がするんだ…」
「本当かい?父さん!流石父さんだな、凄いよ!」
「いや多分、分析力に長けてる阿沙華だったら、瞬時に気付けただろうが、私が気付いたのは、全て見終えてからだっんだ…でもあれを阿沙華にさせられないからな、させるつもりもないが…」
「それ程負担が大きくキツいんだね!?…」
「あぁ、正直かなりな…」
ハハっと笑いながら答える護都詞に
「済まない父さん…有難う。で、一体何が分かったんだい?」
「確証は無く多分なんだが、言葉が分からなかったのは、セルジの時代の言葉だったんじゃないかって事なんだ。あの時の映像で聞いた時の言葉に、とても似ていた気がするんだ…」
「なる程!それなら俺達に分かる筈もないよな…」
「そういう事になるな、もしそうだとしたら、今の私達にはどうする事も出来ん…」
「これは一度、皆んなと相談した方が良さそうだな…」
「そうだな、そうしよう」
と、2人の意見が一致し、家族を呼び寄せる。
そして家族と、護都詞によって分かった事をどうすれば良いのかと、家族会議を開始する。
この家族なら、どんな事でも解決出来るだろうと、聖司は思うのだった。
第12話 行き先 完




