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輪廻家族 〜五千年の怨恨呪詛 呪われた家族の輪廻の旅〜  作者: 喜遊元 我可那
終わりの始まり
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始まりへと

第11話 始まりへと


手も足も出ないとは、きっとこの事なのだろう…。

万全では無かったにしろ、出来得る限りの抵抗をしたのに、ここまで一方的に、相手のなすがままに殺されて行く民達を見て、助ける事も救う事も出来ないまま、力尽きていくセルジは、悔しさと歯痒さで相手を睨み付けるのだった。

睨み付ける相手とは、消滅した筈の使者その者だった。

その使者が、更に強力な力を得て、今目の前にいる。

何故生きているのか、何故これ程までの力を得ているのか、理解が及ばない。

深い傷を負い、疲弊しているセルジ達は、息も絶え絶えなのだが、何とか辛うじて生きていた。

「お主はどうやって生き延びた?しかもこれ程までに強い力を身につけられたのだ!?」

少しでも時間を稼ぎたいセルジ。

その問いに

「私の事お忘れですか?以前どの様に生き延びたか、教えてあげたでしょう?」

「まっまさか!?お主また同じ事を繰り返したのか!!」

「そうですよ、今回はラバンの全ての者の魂を頂きました」

「!!」

「貴方のおかげで楽に頂けましたよ。更に今も、各都市の者達の魂も、私が頂いている最中です」

何とも卑劣極まりないが、それよりも未だに増し続ける力に焦りを感じるセルジ達。

セルジは如何にして突破口を開き、あの使者を倒すか封印する為に、残された力を温存していた。

その考えは、他の家族達も考えは同じで、アイコンタクトで合図を送り合う。

自分達の最後の力を全てセルジに譲り渡し、委ねようと決めていた。

残された力全て集めても、倒すなり、封印するにしても、一度が使用限界だろう…だからチャンスは一度。

セルジが確実に、あの者を倒すまたは封印出来る様に、それぞれが捨て駒になってでも、チャンスを作る為の行動を起こそうと、各自覚悟を決めた。

何も言わなくても、その覚悟はセルジに伝わる。

駄目だ!と言いたいのだが、本気の覚悟なのだという事と、それをしなければ倒せない相手の強さに、言い出せないセルジは、自分の弱さと情けなさに辟易してしまうのだ。

せめて事の真相を聞き出せないかと

「最後にお主に聞きたい…本当に我がお主の一家を虐殺したのか?…我は事の真相を探る為、大地の記憶を覗いたのだが、その様な事実は無かった…」

この言葉に激怒し

「私が嘘を申してると言いたいのか!?私は嘘など言ってなどないわ!!」

更に強い力が込められた言葉が、家族を襲う。

その強さに声に出来ない。

「いいだろう!そこまで信じられないのなら、私の記憶を見せてやろう!そら、見るがいい!!」

そう言って黒い光の線をセルジ達に繋げ、その者の記憶を見せられるのだった。

そこには、確かにその者の仲睦まじい家族と家があり、幸せそうに過ごしている姿がみられた。

その家族に突如と現れた者によって、この世の地獄と化す。

その者は笑みを浮かべて、突然襲われて逃げ惑う一家を1人ずつ殺し始めるのだった。

突然過ぎて、誰が襲ったのか分からないまま、両親や最愛の妻、更に未だ幼い妹が殺される。

最後に残されたのはあの使者で、自分が殺される瞬間にようやく、自分達を襲った者を見た。

その者はセルジそのものだった。

「な…何故貴方が…私達を…何故…ですか…我らが王セルジ…様…」

その問いに、ただ笑うだけのセルジの姿が、使者の最後の記憶となった。

衝撃的な事実に言葉を失い、頭の中が真っ白になる。

全く記憶の無い出来事なのに、事実はそう語るのだった。

「どうだ?これで理解しただろう!私が嘘偽りを言っていない事が!」

その言葉に、誰1人も反論が出来ない…

だがセルジだけは

「偽りでは無いにしろ、真実では無い!あの者は我では無い!断じて違う!何者かが我を陥れる為に、姿を真似たのかも知れん!」

「まだそんな事を言うか!そんな戯言を!…もういい…、本当ならただお前に、同じ気持ちを味合わせて殺すだけにするつもりだったのだが、気が変わった。お前達には未来永劫、同じ苦しみを何度も繰り返し、味わってもらう事にしよう!」

「な、何をするのだって言うのだ!?」

「だから私が味わった苦しみを、未来永劫転生を繰り返させ、同じ様に、何度も何度も味合わせてやると言ったのだ!」

「貴様にそれが出来ると申すのか!?」

「ああ、今の私なら出来るさ!これ程の力が有るのだから!」

「なっま、待て!待ってくれ!」

「誰が待つか!慈悲などくれてやるつもりなど一切ないわ!」

怒りに包まれた使者に、セルジの言葉は届くはずもないのだった。

「最後に1つ教えてやろう、今日は何の日だったか分かるか?」

その問いに直ぐには答えられないセルジ。

「お前の父と母親の生誕の日だろう?」

使者に言われ、そうだったと気付く。

この時代、生誕の祝いは、皆一様に年の最初の日にまとめて行うので、忘れていたセルジ。

更に使者が言う

「前の襲撃の日、そう4年前の和睦交渉が同じ日だったのも、それにお前に一家を虐殺された日も、偶然か必然なのかは分からないが、同じ日だったのだ!全く運命とは分からないものだな…」

そんな偶然が重なるとは、最早偶然では無い気がする。

「これからの永劫の転生で、今日と同じ日に、同じ時間で同じ様に、何度も繰り返し苦しむがいい!」

そう言うと

「先ずはお前の父母から死ね!」

その瞬間に、黒い光の線から放たれる電撃により、父と母が一瞬にして蒸発する。

「続いて息子達3人まとめて…」

また目の前で、同じ様に今度は3人が蒸発するのだった。

「───っあぁ、うぁぁぁ───!ゴゼキ父上ー!ヤル母上!ノムリス!アルサ!ケネラー!」

狂乱するセルジ、それを見て嬉しそうに笑う使者。

涙を流しながら、蒸発した5人の名前を叫んでいるセルジの手に、妻の王妃が()()をそっと手渡し

「私達は大丈夫ですよ、貴方を信じてます。貴方はあんな事はする人では無い事、皆分かってますから…来世でまたお逢いしましょう…そしていつか…」

最後まで言い切る前に、王妃も蒸発された。

「…ユイナ…………うわぁ─────!!」

セルジを1人残し、家族全てが使者によって殺された。

悲しみと絶望で、立つ事も出来ないセルジに、使者が

「どうだ?大切な者を殺された気分は?壮絶なものだろう?…良いぞ、良いぞ!もっと苦しめ!フハハハハッ!」

歓喜のあまり、高笑いが止まらない使者は

「その苦しみを後1年味わうが良い!そして1年後にお前も死ぬのだ!」

と、セルジに呪いを施す。

そして使者は、笑いながら消えて行くのだった。

それから1年後、使者の言った通りに、セルジは呪いにより命を落とすのだった。


プツン…

そんな音をたてて光の線が、聖司達から抜き取られる。

聖司達は、余りの過去の出来事に、ショックを隠しきれなかった。

これが、自分達の終わりの始まりだったなんて、信じられそうにない。

だがやはり何処かで、本当にあった事なんだと理解してしまう。

それは魂に刻まれた記憶なのだと、改めて思わされた。

ただ気になった事が幾つかあった。

それを光の主に尋ねてみる。

「幾つか聞きたいのだけれど、聞いても大丈夫か?」

「あぁ聞くが良い。答えられるものは、全て答えよう」

「それじゃ先ず1つ、セルジの王族なんだが、あの王族達は俺達の最初の者なんだな?」

「そうだ!お前達の始まりの者達だ」

「なる程…だからか…、姿形が生き写しの様だったのは…、それじゃ名前は?何処となく名前も国名も、俺達の名前に似ていた気がしたのだけれど…?」

その部分は他の家族達も思っていた様で、皆そうそうと相槌を入れる。

「それも偶然では無いだろう…、因果は巡るのだから…」

因果の一言で、納得する家族達。

それ程にまで、長い間の刻まれた記憶がそうさせていたのだ。

過去のセルジに思いにふける聖司達。

その沈黙を

「答えづらい事を聞いても大丈夫だろうか?」

と、今度は護都詞が話を聞こうとする。

「あぁ構わない…あの現実を知る者に、知りたい事をわざわざ今更隠しても意味がない。我が答えられる事なら、全て答えよう…何が聞きたい…?」

そう快く答えてくれたので、少し心が楽になり、気は重いが

「セルジ以外が殺され、ただ1人、セルジが死ぬまでの1年間の事なんだが、いきなり1年後に映像がとんで、間の内容が見られなかったのが、とても気になったんだ…セルジがどんな1年間を過ごしたのかと…」

「それは、私も思いました!」

弥夜もだが、残りの家族も同じ事を思っていた。

「隠すつもりも無いのだが、答えられそうにない…」

「えっ?何故!?」

弥夜が聞き返す。

「我にもその間の()()が無く、何故か空白なのだ…もしかすると、余りにもショックが大きくて、記憶が無いのかもしれん…それも憶測でしかないのだがな…」

確かにあの出来事なら、記憶が消し飛ぶ程のトラウマになっていても、おかしくはない。

皆んなそう納得する中

「私も聞いちゃって良い?」

と、次は阿沙華が聞く。

「私達が死んだ後の事なんだけど、あの世界はどうなったの?…確か自然の力と共存してたんだよね?王族達や民達がその力を使って、自然や世界の秩序を護ってたと言ってたじゃない…」

「あぁ確かにそうだ、そう説明した通りだが?」

「それじゃさ?民も王族も全て居なくなって、自然の力が使われないまま、自然の力がそのまま残されてるんだよね?だとしたら、今のこの時代にその力は残らなかったの?少しでも残されていたなら、違う世界になってたと思うのだけれど…」

相変わらず、冷静に物事を見て考える阿沙華だった。

「なかなか鋭い指摘だ!着眼点が素晴らしいのだな」

と褒められ、ちょっと照れてしまう。

「本来なら其方が言ったように、自然の力は残り、後の世にもその恩恵を与えてくれたであろう…だがそうはならなかった。各都市が滅ぼされ、次々と崩れ消え去り、世界にただ1人残されたセルジが死した時、この世から全ての力が枯渇し、2度とその力を使う事が出来なくなったのだ」

「えぇ!なんで!?」

「我にも分からぬのだ…すまぬ…」

しっかりと答えられない事に、ばつが悪そうな光の主に

「分からないのは仕方ないかぁ…あの力、使ってみたかったなぁ〜」

「それ僕も思ったよ、阿沙姉ちゃん!」

と、阿沙華と権也が残念そうにする。

そのやり取りに、ちょっとほっこりする一同。

だがその時、信康が何処からか聞こえるししおどしの様な音に

「段々近付いてきてる?何この音?」

と言うのだが、信康以外には聞こえていないみたいで

「何も聞こえてこないが、どんな音なんだ?」

そう聖司に聞かれ

「前にもあった、ししおどしの様な音!…確か前は、この光の主が現れる前にしてた音だっと思う」

それを聞いた光の主が

「誠にその音が聞こえると言うのか!?」

かなり焦っている様子で聞かれ

「う、うん…まだ遠くからなんだけど、コ───ン…コ───ンって感じの音が段々大きく、こっちに近付いてる気がする…」

そう答えた途端

「なんて事だ!…クッ…上手く隠れる事が出来たと思ったのだが!…」

驚きと焦りを隠せないでいる光の主。

相当動揺している事が伝わり、何事かと

「どうしたんだ!?光の主よ!その狼狽えぶりは、一体何に狼狽えているんだ!?」

何やらブツブツ呟いていて、聖司の問い掛けを聞いていないようだ。

これ程動揺する光の主から、只事では無い状況に直面している事が、強く伝わるのだった。

「おい!おい、おい!!…主、光の主!!」

そう強く呼び掛けられて、我にかえる光の主。

「どうしたんだ!?何か不味い事でも起こるのか?」

聖司の問い掛けに、光の主は

「大変不味い…いや、危険が迫って来ているのだ!」

「?…危険?とは…一体どれくらいのものなんだ?」

「お前達の消滅だ!」

消滅の言葉に、どよめく一同。

「あの音は、この別次元に造られたこの空間に、何者かが干渉してくる時に聞こえる、警告音の様なものなのだ!…ここは我が造った空間であり、我がここに居るのにあの音が響くという事は、別の何かが干渉しているという事になるのだ!…それは即ち、あの使者以外の者とは、考え難い…」

それを聞いても、今の聖司達には、なすすべが無い。

だが一応聞いてみる

「もし今消滅されても次の転生で、今以上に魂が強くなれるのだろう?その方が対抗し易いんじゃないのか?」

と…だがその答えは

「それは無いだろう…何故ならあの者が既に、お前達の魂の強さに気付いている様だ…。今回消滅させると同時に、少しづつ刻み込んで作られた、抵抗する魂の力をも消去れる事になろう…。そうなれば、今後2度と抗う事も出来ずに、輪廻が永劫に続く事になろう…」

その様になってしまっては、セルジ達の事を思うと、それだけは駄目だと

「ではどうすれば良い!?俺達家族全員で立ち向かうには、何か手立ては無いのか!?」

家族一同が心一つにして、あの使者に立ち向かう事を決意し、光の主に強く願い出るのだった。

その言葉を聞き、本当に強き魂になったのだと嬉しく思う、光の主。

「本当ならもう少し時間を掛けて、其方達の魂を強化する方法を教えるつもりだったのだが、それも無理そうだ…」

使者から攻撃を受けているのだろう、空間が轟音をたてていびつに歪む。

この空間も、もう持ちそうにないのが分かる。

次の攻撃で、この空間が破られそうだと思ったその時、光の主が

「ここで一度さらばだ!各々魂を強く!絆を強く!輝き燦めく程に強くなれ!」

そう言って、聖司たちを光の球体で包み、この空間から切り離すのだった。

この光の球体は、あの光の主の発していた光で作られ、光のベールを脱いだ主の顔は、穏やかで優しい表情をしていた。

家族の誰もが、光の主の正体はセルジ本人じゃないかと、憶測していたのだが、全くの別人だった事に驚く。

また一つ、謎が増えた気がする…。

それに、光の主だった者が最後に発した言葉が、

()()()()()()()()を読み取れば、各々のすべき事が分かる様になっている。しっかり読み取り、続く苦難を乗り越えよ!…さぁ始まりへと進むのだ!」

と、分かるようで分からない言葉を残して、空間ごと消えてしまったのだ。

取り敢えずは、自分達のやるべき事だけは理解した。

先ずはその為の方法を知る事が、最優先事項だと理解もしたが、方法を知る為の方法が分からない家族一同は、少し気が重くなっていたのだった。

これからやるべき事が沢山ある一家は、光の球体に包まれながら、別次元を彷徨う。


これから先、誰の手助けもなく、自分達で苦難に立ち向かい歩を進めて行く家族の旅が、今始まるのだった。


第11話 始まりへと 完

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