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新説! 劉邦伝-2-

 数分後、別室に移った彼らは円卓を囲んでしばし閑談した。


 漢王と(いえど)も元は田舎の出身。


 当初こそ権威付けのために尊大に振る舞うよう側近に吹き込まれていた劉邦も、多少の酒が入ると饒舌(じょうぜつ)になり本性が露わになる。


 おかげで司馬も必要以上に卑屈にならずにすんだ。


「さて、ところでそなたが訪ねてきた理由は何であったかな?」


「取材でございます。陳平(ちんぺい)様より推薦を受けて参ったのですが……」


「陳平殿は別件にて不在ゆえ、私が説明いたしましょう」


 他の者よりやや遅れて食事を終えた蕭何が言う。


「漢王朝が誕生して日も浅く、辺陬(へんすう)には今も漢楚が戦っていると思っている民も多くおります。また閭巷(りょこう)に問うても漢王のお顔はおろか名すら知らぬ者もいると聞いております」


「うむ……」


「そこで漢楚の争いが終わったことを巷間に知らしめるとともに漢王の雷名を轟かせるため、書を頒布してこれを成そうと考えたのです」


 なるほど、と唸った劉邦は一呼吸おいて言った。


「もう少し分かるように説明してくれんか」


「つまり田舎の人は世の中のことに疎くて、漢王様のお顔もお名前も知らない人も多くいると。だからそれらを記した書を皆に配って周知しようというワケです」


 司馬が身振り手振りを交えて要約した。


「おお、そういうことか。いや、さすが文筆家だ。今のは分かりやすかったぞ」


 褒められた彼は鼻を高くした。


「ようやく合点がいったわ。儂のところに来たということは半生――自伝だったか……? それを書こうというのだな」


「概ねはそのとおりでございます。実際に書くのは(それがし)でございますから厳密な意味での自伝とは異なりますが――」


「よいよい。儂が書くよりその道に長じている者が記すほうが体裁もよかろう」


 ここからは長くなりそうだと思った劉邦は追加の料理を持ってくるよう命じた。


「ところで司馬よ。先ほど見た身分証明書と名前が違うようだが?」


「言皆は筆名でございます。本名は司馬武断と申しますが、これでは物騒な印象を与えますゆえ――」


「なるほど、そのようなものか」


 司馬が国の大事を成そうとしていることを知った劉邦は彼を歓待した。


 政務に次ぐ政務で気の休まることのなかった彼にとってこの来訪は新鮮だった。


 これまでも徳を慕って面会を求めてくる者は多くあったが、それも数多ある政務の一環でしかなかった。


 しかし司馬とはまるで気の置けない朋友(ほうゆう)のように打ち解けている。


 酒と料理でよく舌が動くようになり、劉邦は久しぶりに漢王という冠を脱いだような気分になった。


「――それではまず、沛県での暮らしぶりからお教えいただけますか?」


 卓上に竹簡を並べた司馬は一言一句聞き漏らすまいと筆を走らせた。

辺陬……辺境のこと


閭巷……ちまた

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