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朽ちる世界の明日から  作者: 大山 たろう
零章 終わりの始まり
1/6

終焉

 あの日あの時あの場所で。僕の運命が変わったんだ―――――


 なんて、そんな月並みな言葉、俺は信じちゃいなかった。

 少なくとも、あの時は―――――



「やべぇ遅刻した!」


 ベッドから飛び起き、時計をにらみつけた。

 針は八時三十分二十四秒を刺していた。

 その時計を乱雑に元の位置に戻すと、急いでバッグに授業の用意を入れ、ついでとばかりに朝食のカロリーフレンドをカバンに突っ込む。そして一つをポケットに入れると、自室のカーテンを開けた。


 いつもより高い位置にある太陽。憎たらしいぐらいの光が差し込んできた。


 もう遅刻は確定している。どうせならゆっくり行こう。何か新発見があるかもしれないし。


 高校三年生、幾度となく通ったその道に何か新発見があるはずもなく、何事もなくいつものっている地下鉄へとついた。

 いつも通勤ラッシュの時間帯に乗るから、この人が少ない地下鉄の改札が新鮮に映る。


 カロリーフレンドを口に詰め込み、トイレの隣にあった自販機で飲み物を買おうとして、財布を家に忘れたことに気がついた。


「マジかよ......」


 口の水分を吸われてイライラしてきた。

 携帯をちらりと見ると、八時五十二分という表示と、通知が二件。


 パスワードを二度間違え、いらいらしながらもその通知の犯人を開くと、友達と呼ぶのかよくわからない関係性の隼人からだった。

 どうやら連絡のない俺を心配した先生が連絡を取らせたようだ。

 見たら連絡を取る旨とともに、隼人の心配する一文が添えられていた。

 さて、どんな言い訳をしたらいいのだろうか。そうだな、恋の病とでも言っておくか。


 来た電車に乗る。

 いつもはぎゅうぎゅうに詰まっているのに、今は椅子が空くほどにがらんとした車内。


 ほとんどが椅子に座る中、一人だけ立っていた女性がいた。

 いつもなら別に意識を向けることはないのだが、その時は違った。


 同じ学校の制服を着ていたからだ。しかもロングの黒髪をポニーテールにした人が。

 しかし、黒いイヤホンをつけているため、話しかけられるのは嫌だろう。俺もこの空気の中話しかけるのは抵抗しかない。


 すぐに視線を離して、椅子に座る。


 電車は何事もなく動き出し、ゆっくりと、しかし確実にその速度を上げていく。

 いつもはこの電車が学校へと連行されるときの檻にしか見えてなかったが、今は快適空間のせいか罵る気分にすらならなかった。というより、今までにいらいらしすぎてやる気が失せた。


 カバンからこの時だけ使うイヤホンを取り出して、耳に着ける。

 たまに電車から降りるのを忘れてしまうので片耳だけつけるのだが、今日はもう遅れている。一駅ぐらい間違えたって問題ないだろう。


 そう考え、イヤホンを両耳に着けた。


 が、電車は早いもので、一曲再生したころにちょうどついてしまった。


 改札をくぐり、地上へと出る階段を上った。


 そして、ここで初めて、世界が変わってしまったと気づいた。

 隣にはさっきの女性が。というより同級生、未成年なら女の子のほうがいいのか?

 そんなばからしいことを考えたくなるくらいには、目の前の風景は現実とおおきくかけ離れた光景だった。


「どうかしてるだろ......」


 目の前にあったのは、窓ガラスがすべて割れ、塗装が剥げて、ところどころ崩れているビル群の姿だった。


 あちらこちらの道をふさぐようにして、ビルは今もなお倒壊し、震動がこちらに伝わってくる。

 晴れた天気のはずなのに、空は何かの粉で灰色に覆われていた。


 今もなお変わる外の環境。しかし、それと対称に室内の環境は全くと言っていいほど変わりがなかった。

 もちろん、変わり果ててこれ以上変わりようがない、という意味でだ。


 いつも空腹を誘うハンバーガー店も人はおらず、ただ照明が無秩序にあたりを照らすだけである。

 いつも本を買う本屋も、人がにぎわう人気のカフェも。

 何処にも、人の姿がなかった。


 まるで、世界から生命だけが切り抜かれたようで。

 切り抜かれていない俺たちのほうが、異常なようで。


「ねぇ、これ、どういうことだと思う?」


 そう、隣にいた彼女は聞いてきた。イヤホンを外し、目を見開いている。


「わかんねぇよ、何かの撮影って言われたほうがまだ納得できる、けど、撮影する人すらいないこれは異常だろうよ」


 そう、俺は返すしかないのだった。


 もし、これが夢ならば、すぐにでも覚めてほしい。遅刻でもなんでもいいから、早くこの悪夢から解放されたい。

 けれど、いつまでたっても終わらない。その崩壊は、止まることはない。


 これが、日常の終わり。これが、人類の長い歴史の終着点。これが、終焉の始まり。


 この状況を示す言葉には、終わりという言葉は切っても切り離せないものだった。

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