プロローグ ~どこかであたしが死んだ~
今回から、レベッカが語り手となります。
あたし、死ぬんだ。
◇
姉貴に引っ張り込まれて竜討伐だなんだってあちらこちらに連れ回されて、それなりに経験も積んで、このパーティなら勝てない敵はいない、なんて。思い上がって。
このダンジョンは手ごわかった。最奥の間まで行ったら戻れないって囁かれていた。行ってみたら納得で、道中には大量のコカトリスが巣食っていたし、果てはヒュドラまでいた。
姉貴はコカトリスを群れを巻き込んで自爆してロストした。
親父の忠実なる部下グスタフは姉貴の『石』を回収しようとして石化した。グスタフ自身も『石』もろとも砕け散った。
ブラッドはヒュドラとの戦闘中にいつの間にか消えてた。右足以外が。
この中で一番弱いあたしが生き残ったのは、ただの偶然だった。一番最初に危険を察知すべき斥候は、なんの役にも立たなかった。あたしは危険の徴候に気付くことができず、背後の本隊が襲われた。
「戻って態勢を立て直すべきだ」
カインが言った。ヒュドラとの戦闘で兜が割れ、頭を守るものが失われている。
けれどトリスは最奥まで進むべきだと強く主張した。
選べない。どうすべきか、あたしには分からなかった。ヒュドラは倒したけれど、ここで戻ってもコカトリスの群れを突破できないかもしれない。進んだ先にいるのは更に手ごわい竜だ。もう帰りたい。なにも考えたくない。
あたしたちの進路は、コイントスで決められた。最奥の間へ。なにもかも、間違いだった――
◇
ドラゴンの一撃であたしはふっとんだ。壁に叩きつけられる。足の感覚が消えてる。内臓が潰れ、口から血が零れて息ができない。背骨も折れたみたいだ。一瞬にして容量オーバーした痛覚は、もう何も感じない。
それでも意識は明瞭りしていた。トリスが駆け寄るのが見える。回復魔法をかけてくれるのだろうと、あたしはほっとする。トリスが哀しげに表情を歪ませる。振りかざされたのは、杖じゃなくてナイフ。
――え?
ざっくりとあたしの首筋にナイフが振り落とされる。喉元からすごい勢いで血が噴き出るのが見える。笑ってしまいそう。これはなんの冗談だろう? 心まで麻痺していくみたいだ。なにもかもひとごとみたい。意識が粉々に千切れそう。
――あたしがトリスに何をしたって言うんだろう? 薄れゆく意識の中で、あたしは思う。いや、した。したかもしれない。でも、殺されるほどのことじゃないと――思――