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083.涙の奏で(序盤セヴィル視点)

昼の部の投稿でーすノシ

 







 ◆◇◆







「……以上が、カティアとの出会いについてだ。……カティ、ア?」


 話し終えてから視線をカティアの方へ戻すと、彼女は大粒の涙をぽろぽろと零していた。

 話し終えるまで気づかなかったそれに、俺は酷く慌てた。


「どうしたカティア⁉︎」

「だ……だって、ぼ、ぼぐぅ」


 手で拭うこともせずに大粒の涙を流しながら、カティアは俺の問いに答えようとしてくれた。

 俺は、そっと彼女の隣に座って懐から取り出したハンカチで乳母が昔してくれたように優しく目元に当ててやった。


「ゆっくりでいい」

「ひっく……ぼ、ぼぐ……ぅ」


 はらはらと溢れ出る涙はどこか綺麗に見えた。

 だが見惚れてる場合ではないなと、化粧が崩れない程度にぽんぽんと拭ってやる。

 やがて、量が少し落ち着いて来れば、カティアの嗚咽も収まってきた。


「僕……悔しいです」

「悔しい?」


 昔語りにそのような箇所があっただろうか?


「全部教えていただいたのに……全然思い出せないことがです」


 赤らめた頬を膨らませながら拗ねてるカティアは、なんだか可愛らしかった。思わず噴き出しそうになったが、なんとか堪える。


「話す前にも言っただろう? クロノソティス神がお前に何か封印の術を施したかもしれないと」

「ちょこっとだけは思い出せそうでしたのに」


 また膨れっ面になりかけていたので、俺は今度は我慢出来ずに噴き出してカティアを驚かせた。


「セヴィルさん?」

「い、いや……すまない。笑ったわけではない」

「⁇」

「カティアの今のような顔が愛らしいと思ってな?」

「え、え、えぇえぇえ⁉︎」


 正直に言う言えば、カティアは表情を一変させて湯気が立つくらい顔を紅潮させていく。

 それもまた可愛らしいが、言ってしまうと許容量を越えかねない故にやめておいた。


「ぼぼぼぼ、僕可愛くなんてないです‼︎」


 だが、こう言うところは何故か否定的だ。

 歳を経て何かあったのは容易に想像出来るが今は聞かないでおこう。

 でないと、カティアを貶した輩に異界越しとは言え呪詛をかけかねない。


「とととと、ところで、僕って本名は『かなた』って言うんですね?」

「意味合いは、先程も言ったが奏でる樹木だそうだ」

「漢字ですね!」

「カンジ⁇」

「こっちの文字にはありませんでしたけど、読み仮名がつく角ばった文字って言えばいいんでしょうか?」

「……書けるか?」


 瞬時に羽根ペンと羊皮紙を取り出して彼女に手渡せば、カティアは受け取ってからうーんと首を捻らせた。


「"かな"はわかるけど……"た"……た……」


 俺は助言をしたくても蒼の世界の言語文化についてはほぼ皆無だからな。何故あの時カティアと話せたか、今思っても疑問しか湧かないが。

 しばらく考えていたカティアだったが、思いついたように肩を跳ねてからペンを紙に走らせた。


「多分、セヴィルさんの言っていた意味だとこうなりますね」


 書き終えてから俺にペンごと手渡してきたので、ペンを消してから俺は紙を覗き込んだ。


(これが、カンジ?)


 この黑の世界の文字しか習得していない俺にとって、初めての異界の文字。

 羊皮紙には『奏樹』と書かれていて、率直に美しいと思った。ファルミアの場合は前世の名を聞いていないが、同じ国だったのなら似たものがあるのだろう。


「こんな綺麗な名前だなんて思いもよらなかったですよ」


 えへへ、とカティアは照れ臭そうに笑っていた。


(……やはりカティアには泣き顔より笑顔が似合うな)


 だが、すぐに笑顔を仕舞って、こてんと首輪傾いだ。


「どうして御名手(みなて)の儀式の時に僕の本名を言わなかったんですか?」

「…………それは、だな」


 やはり指摘されたからには言うしかあるまい。

 俺は残っていた茶をひと息で飲み干してから、少し息を吐いた。


「………………俺の勝手な独占欲だ」

「ほぇ?」


 素でわからないでいるようだ。

 こう言うところは、外見の頃のままだったあの時とほとんど変わりない。


「セヴィルさんの、独占欲…………えぇ⁉︎」


 口にしてようやくわかったらしい。

 また一段と頬に赤みが差していった。


「それに嘘の名ではない。"ティア"は確実に儀式で引き出されたものだからな? それにカナタの一字を当ててみた」


 これについては嘘はつきたくないので正直に言う。

 カティアはぱたぱたと手を上下に動かしていたが、すぐに両手で顔を覆った。


「ぼ、僕、ピッツァくらいしか特技ないですよ⁉︎」

「充分胃袋は掴まれたぞ? あちらでもこちらでも」

「う、うぅうう」


 鈍くても、意味合いはわかっているようだ。

 今はあの頃の率直さはないが、俺はどうやら嫌われてはないらしい。

 それがわかっただけでも、良しとしておかねば。


(帰る、ことはなさそうだからな)


 クラウのこともあるが、フィルザス神が俺を御名手に導いたのはきっと理由がある。それを、もう少し奴に聞かないとな。









 ◆◇◆







 あり得ない。

 僕にはあり得ないと何度も頭を巡っていく。

 さっき再開したお散歩兼お城案内にも、一応はセヴィルさんに受け答えはしてるが実際はあんまり耳に入って来ないでいた。


(独占欲って…………っ⁉︎)


 セヴィルさんが口にした単語がずっと頭を巡ってて離れない。


『………………俺の勝手な独占欲だ』


 落ち着こう、まず落ち着こう!

 僕は記憶が封印されてるからかほとんど思い出せないでいるけど、ぶっちゃけで言うと僕からセヴィルさんにアタックをしでかしていた。

 それにはセヴィルさんはご不満どころか、どうも初恋を芽生えさせちゃったっぽい?

 それが現在進行形(とんでもない年月)で、どう言う巡り合わせで出会った今の僕にも向いている?


(それで婚約には反対じゃなかったんだ……?)


 一個だけ謎は解けた。

 他はほとんど解けてないに等しいけど。


「カティア?」

「ふぇ、はい!」


 今はお城を案内いただけてもらってるんだ。私情を持ち込むのは後にしよう。


「疲れたようならどこかで休むか?」

「い、いいいいいえ、それは大丈夫ですから!」

「そうか?」

「はい」


 ここは嘘でもにっこり笑って誤魔化しです。


「ならいいが。カティアには下層と中層の調理場も案内しておけとユティリウスが言っていたんだが、どうする?」

「調理場!」


 単純な僕は調理場と言う単語だけで大興奮しちゃう!


「行ってみたいです‼︎」

「わかった。下層から順に行こう。…………その前に」


 何故かぴたりと足を止められたセヴィルさんは、振り返って僕から少し斜め後ろにある柱に目配せされた。


「いつまで隠れている?」

「ぴっ!」


 むっちゃ地を這うようなひっくい声に肩がぷるぷる震えたが何だろうと僕も振り返れば、どたどたっと何かが倒れる音がした。


「痛って⁉︎」

「こら乗るな!」

「いったーい!」

「ライア、乗るな⁉︎」

「……………………ほえ?」


 柱の陰からお兄さんお姉さんがトーテムポール状に倒れて出てきた。

 人数は四名様。ご年齢は外見だけだと高校生より上か大学生くらい? 髪や目の色はエディオスさん達くらい無茶苦茶配色ですが。

 その一人の山吹色の髪のお姉さんと目が合うと、お姉さんは水色の目を丸くされて僕をジーっと見てきた。


「か……」

「か?」

「むっちゃ可愛ええ‼︎ 肌無茶白いし化粧映えしとるし、洸石(イルマ)みたいな蒼の瞳もキラッキラしとるーー‼︎ 純金の髪も触りたいーー‼︎」


 お姉さん何故僕に対してその高評価?

 そして何故関西弁?


「おい、シェイル。地が出てんぞ?」

「おっと、ごめん」

「おーまーえーらー、俺一番下にいんぞ⁉︎」

「とにかく、閣下の前で不敬だよ僕ら」


 一番上にいたお兄さんがひょいっと退いてから、他のお兄さんとお姉さんも一番下にいた萌黄色の髪のお兄さんの上から退いた。

 皆さん、共通点なのは騎士っぽい服装。


「………………で? 職務を放り出して、いつから俺達をつけてた?」


 セヴィルさんご機嫌斜めだろうか?

 僕怖くてちょっとちびりそう……。


「中庭からこちらに戻られてからです!」


 開き直ったのは、下から二番目にいた赤茶の髪のお兄さん。わざわざ挙手して答えてくれちゃってるよ。


「四半刻前から方々で噂になってましたからね。閣下が可愛らしい幼子のお嬢さんと宮城内を散策していると」

「と言うわけで」

「一目見ようと探して見つけた時から」

「ずーっと尾行してました」

「…………………はぁーー……」


 お兄さん達の開き直りに、セヴィルさんは大きく呆れた溜息を吐かれた。


「何故お前達が俺と彼女を尾行する必要がある?」

「「「「閣下の笑顔を引き出せたからです」」」」

「はぁ?」


 もしかして、僕を褒めちぎったとこかな?

 あの場で尾びれ背びれついたかはわかんないけど、お城の中ではもう僕達のことが噂になってしまってるみたい。


「てか、むっちゃ可愛ええ‼︎ お嬢ちゃんギュッてしてもええ?」

「えぇえええ⁉︎」


 関西弁のお姉さん何を言い出すんですか⁉︎


「シェイリティーヌ……?」

「ひゃい⁉︎」


 今にも抱きつかん勢いだったお姉さんに、セヴィルさんのまたひっくいお声でお姉さん縮こまっちゃった。


「すみませんすみません‼︎ もう言いません‼︎」

「そ、それより、閣下はそちらのお嬢さんと何故城内を?」


 萌黄色のお兄さんがお姉さんの頭を軽く叩きながらそう聞いてきた。


「お散歩ですよ?」

「「「「お散歩?」」」」


 僕がちょっと子供っぽく言えばお兄さんお姉さん騎士さん達はこてんと首を傾げたよ。


「……こちらはフィルザス神がお連れになった料理人だ。まだ宮城内を案内していないのでな、陛下が俺を指名して案内していたところだ」

「ああ、それで調理場!」

「この年齢なのにもう料理人⁉︎」

「何が作れるんですか?」

「気になります!」

「お前達は近衛の仕事に戻れ! サイノス殿に識札を飛ばすぞ‼︎」

「「「「失礼しましたー‼︎」」」」


 これコント?ってテンポでお兄さんお姉さん達はスタコラサッサと僕達とは逆方向にダッシュして行ってしまわれた。


「………………あれで近衛でも抜きん出ている輩とは思えん」

「このえ、ってお城を護るお仕事をされるんですか?」

「……よく知っていたな?」

「僕がいたとこでもそう言う役職がないわけじゃないんで」


 天皇様をお守りするSPさんのような?くらいしかわかってないけど。

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