076.逢引への準備
夜の部の投稿でーすノシ
「……おい、俺の都合を無視して勝手に決めるな」
僕が決意してたら、セヴィルさんからむすっと不機嫌そうな呟きが聞こえてきた。
「ゼル、何が不満だ?」
「不満と言う前に今日の執務はまだ終わっていない。せめて目処がついてからにさせろ」
「だいたいは近習らに振ってきただろ? お前が気にすんのも特になかったじゃねぇか」
「細かいのは無理だが、大雑把なのは俺もやれるからカティアの側にいてやれよ」
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
セヴィルさんが返答したら、包囲網が更に強固なものになっていく。
(あの、当人達の意見を無理矢理丸め込もうとしてませんか?)
僕も無理にデートと言うかお散歩は強要したくはないよ?
「お、アナ。カティアの今の格好じゃ男に見えなくもねぇからなんか動きやすそうなドレス見繕ってやってくれ」
「ええ、それはお任せください!」
え、恰好はこのままでいいんじゃ⁉︎
「僕、ヒールの靴は苦手で……」
「ピンヒールじゃなくて、ペタンコに近いローヒールの靴もあるわよ? カティの今の外見ならトゥシューズに近いのでも悪くないし」
「ファルミア様、でしたらドレスはいかがなさいます?」
「そうねぇ。目の色は無難な青とかに変えさせるんなら、ドレスも空色がいいんじゃないかしら?」
ああ、僕がドレス着ない選択肢は元よりないんですね。
◆◇◆
「で、どうして化粧まで?」
あれから約30分後の今。
僕はお借りしてるゲストルームにて恰好もろもろを弄られています。
「せっかくの逢引ですもの。おめかしは基本ですわ!」
「お散歩ですよね⁉︎」
「男と女が二人っきりで出歩くのよ? これをデートと言わずしてなにかしら?」
ファルミアさんもう自分が独身じゃないからって楽しんでませんか? 今も僕の顔にパフをつけながら口元がによによしているもの。
ちなみに服は既に空色のふりふりドレスに着替えさせられちゃっています。靴もペタンコタイプの子供用パンプスみたいなものをね。
昨夜の晩餐会に比べたら宝石類もつけてないし大人しめだけど、なんで完全装備しないといけないのか。
「それにゼルだって、リースの監修で仕事着じゃないのに着替えさせられてるはずよ?」
「へ?」
「宰相の服装ですと色々目立ちますものね」
セヴィルさんの普段着……そう言えばほとんど見たことないや。
「さて、こんなところね?」
パフが離れて目を開けるよう促された。
ぱちっと瞼を開ければ……あの、これ自分?と疑うくらいに昨夜のように綺麗にさせられていたよ。
目の色はフィーさんの魔法のが強力だからと既にマリンブルーのような真っ青な色に変えられていた。
それがドレスを引き立たせるかってくらいにキラキラエフェクトがかかってるのは気のせい?
金髪は念入りに櫛で梳かしておろした状態。
まさにビスクドールのような恰好。
「いいわいいわ! ゼルの惚けた顔が目に浮かぶわ‼︎」
「ええ、あとは紅だけですわ!」
と言ってアナさんに桃色のリップを塗ってもらいました。
塗り終わったら、お二人共更にテンション上がっちゃったけど……もう好きに観賞しててください。
コンコンコン!
とここで、やけに上機嫌さが窺えるノックが聞こえてきたよ。
「はーい?」
「ミーア、僕ー! セヴィル連れてきたよー?」
「ちょうど良かったわ。フィー、入ってきて」
応対したファルミアさんの返事のすぐ後に扉が開いたけど、セヴィルさんは入って来なかった。代わりにユティリウスさんが誰かの腕を引っ張ってて入れようと必死だったのが見えた。
「ゼールーーぅ、往生際悪いよ! カティだっておめかししてるんだからさ?」
「この恰好をカティアに見せれるか!」
「なーんでさ? 似合ってるじゃんセヴィル」
やっぱりセヴィルさんも着替えさせられたんだ?
そんな恥ずかしい恰好って、男の人でもあるのかな?
なんか逆に気になっちゃうな。
「まあ、ゼルお兄様の衣装をどう変えましたの?」
「ちょびっとエディの正装に近いの選んでみたら思いの外似合っててね? それが恥ずかしいのかさっきからこんな調子」
エディオスさんの正装に近いもの?
昨夜の晩餐会の正装はセヴィルさんはお仕事着をちょっとかっちりした感じだったけど、エディオスさんはどうだったっけ?
エディオスさんすいません。緊張してたのと足痛かったから色々とあやふやだったんです。
「渾沌、ゼルもっと押して!」
「御意」
「こら、そんなに押すな! マントに引っかかる!」
押されて観念されたのかセヴィルさんが渋々部屋に入ってきました。
ドキドキワクワクとドレッサーの影からそろっと顔を覗かせれば、すぐにバチッとセヴィルさんと視線が合っちゃった。
(なななななななな、なんですとーー⁉︎)
なにあれなにあれ‼︎
僕はセヴィルさんの服装をちらっと見ただけで頭がパニックを起こした。
咄嗟に恥ずかしくなって、その場に縮こまったよ。
「まあ、カティったら」
「初々しいですわ」
なんとでも言ってください。
それよりも瞼に焼きついたセヴィルさんの恰好が素敵過ぎた。
も一回顔を上げてそろっとセヴィルさんの服装を見れば、顔が火照っていくのがわかる。
「…………黒王子様」
そんなワードが出るくらいセヴィルさんの服装は髪もそうだけど全体的に真っ黒。
でも、マントだけは暗褐色で内側は濃い紫。
服も騎士風な感じで縁取りに銀糸を使ってるからか、怖い印象は受けない。
むしろ、超絶似合いすぎてます!
なにあの美形過ぎる王子様⁉︎
「カティ、いい加減出てきてちょうだいな」
とここで、僕はファルミアさんに手袋をつけた手を掴まれて引っ張り出された。
「ちょっ、こんな僕がセヴィルさんの隣に立てません!」
「何言ってるの? お似合いじゃない。外見年齢だけが残念だけど」
「それも変幻させちゃえば?」
「ダメよ。カティがとりあえず客人としてエディに招かれてることになってるんだから、年齢くらいはそのままにしておかないと」
「あ、そっか」
そうこうしているうちにセヴィルさんのリバーシブルマントが目前にまで近づいてきた。
到着するなり、ファルミアさんにセヴィルさんの隣に立たされたけど。
「……これは」
「いいねー?」
「早くカティの身体が戻れば文句ないのに」
「素晴らしいですわ!」
「我らもなにかしら言った方が良いか?」
『なくて良いだろ』
最後は四凶さん達。安定の冷静さですね。
ただ一人?だけ姿がなかった。
「そう言えばクラウは?」
「ああ。寝ちゃったから僕が借りてる部屋に置いてきたよ?」
昨日と同じパターン……まあ、その方がいいかもね。うっかりついてこられて説明する方が大変だもの。あんなに可愛いから僕達以上に注目の的になる可能性大。
「ってことで、散歩ルートはゼルに言っておいてあるからいってらっしゃーい」
「……はぁ、仕方ない。こうも用意されたのなら行くしかないな」
「ですよねー……」
なんで、皆さんに行ってきますと言ってから僕とセヴィルさんはゲストルームを後にしようとした。
「あ、どうせなら手繋いでいけば?」
と、ターンして背を向けたらフィーさんからの爆弾発言。
「……何故そうせねば」
「歩幅合わせるだろうけど、せっかくの逢引じゃない?」
「案内を兼ねての散歩だろうが!」
セヴィルさんお耳真っ赤っか。
僕も多分顔込みでなってるだろうけど。
「けど、必要時にはその方がいいこともあるんだから。片隅に置いておきなさいな?」
「……そう言うものか?」
「そう言うものだよ」
先輩の言うことは聞くように、ってユティリウスさんは顎に手を添えながらニマニマされてた。
あ、王子様風に見えるけどこの人の方が結婚されて長いもんね。
僕もケースバイケースによって対応してもらうしかないか?
けど、昨日みたいにお姫様抱っこ?されるような状況には極力なりたくない。恥ずかしくて死ねる!
「じゃ、じゃあ、今度こそ行ってきます……」
『いってらっしゃーい(ませ)!』
皆さんに見送られて、今度こそ『お散歩』開始です。
デートじゃないからね、絶対!
また明日〜ノシノシ