616.ピッツァに嘘はない(???視点)
完結です
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(???視点)
俺の母上には、少し秘密がある。
俺と妹がちょうど百歳になってから、母上に教わったんだ。
『母上はね? 異界から転生してきた人間なんだ。お父上と出会うために』
今までにない美味い料理の天才とか言われてきたのは、それが理由なんだって。先達の知識を拝借したり、経験してきたことを伝えただけだから天才でもなんでもないってことを。
けど、俺はそんなことないって思ったんだ。
母上は、神王国を中心にたくさんの料理を広めた偉大な人物だって。
いつも作ってくれる料理はどれもこれもがとても美味しくて……俺は、宰相の息子でもあるけど母上のように料理人になりたいって、その秘密を聞いた時に決心した。
たくさん母上や父上と話し合って、イシャールの小父上にも意気込みを伝えて。
俺は厨房の見習いとして就職する前に、たくさん勉強することから始めたんだ。
「はい。生地のこね方からやり直し」
「うぅ……」
イシャールの小父上からは羨ましがられたんだけど。俺は今、母上に直々に修行をしてもらっている。座学が終わったら、一番作りたいと自分で言い出した『ピッツァ』の仕込みからだ。
「焦らなくていいんだから、丁寧にしっかりこねて行こうか?」
「母上は早いから……」
「母上はたくさん仕込んできたから、慣れてるだけだよ」
「俺も頑張るぅ」
「イシャール料理長に負けたくない気持ちもわかるけど、食べてほしい相手のことを思って作るんだよ?」
「はぁい」
母上には、父上って御名手がいるからそうなんだけど。俺にも見つかるんだろうか? 父上が母上を見つけたって年齢がもうすぐなんだけどなあ?
別に神王家とかにこだわる理由もないし、親戚もいっぱいいるけど……これって相手もいないし? フィー様にも聞いたけど、『見てわかる』っていうのがわかんないのは俺がまだ子どもだからかな?
「カウィル? 君の人生の選択は早いうちにに決めたとしても、道筋を違えちゃダメだよ? ただ美味しい料理を提供するのが料理人の仕事じゃないんだから」
「……はぁい」
母上には敵わない。料理については、イシャール小父上もだけどひいじい様のレストラーゼ様も全然敵わないって言ってた。母上の料理は、ピッツァを筆頭にどれもこれも素晴らしいものだって。
(俺も、それを作れて食べさせたい相手って出来るかなあ?)
政治側の継承権は保険のようなもので一応あるけど。実質は妹のセラティナに移してあるから俺の地位なんて大したことはない。顔はものっそ父上似だから、群がるバカ女どもは多いけど。
とりあえず、今日の修行を終えてから俺はフィー様のとこに行くのに中庭を通ろうとしたら、泉の近くに探してたフィー様がいたんだ。
「やぁ、カウィル。お疲れ様」
女にも見えそうなくらいだけど、ずっと美青年のまま存在している父上以上に綺麗な黒髪を持つ創世神様。今日は、何かを抱っこしてたんだ。
「何抱っこしてんの?」
「ふふ。僕とシアの子ども」
「は? 神様の子ども??」
「そうそう。まずは女の子」
「いや待って!? 母上たち知らないと思うんだけど!?」
「だって、さっき誕生したんだもん」
「……はぁ」
相変わらずマイペース過ぎるけど、どんな赤ちゃんか見せてもらえることになったんで顔を見たら……俺の頭の中に、綺麗な鈴の音が響いた。
「ふふ。やっぱり、カウィルが最初で正解」
フィー様はわかっているのか、俺に赤ちゃんを抱っこさせてくれた。小さくてふわふわしてて、可愛い。ふわふわの白の髪もすごく可愛い!!
「……俺の、御名手?」
「神と人間の婚姻て事例はないけど。うちのじい様が予測してたんだ」
その言葉のあとに、赤ちゃんから白い光があふれて……気が付いたら、真っ白な長い髪と黒い綺麗な瞳の女の子が俺に抱きついていたんだ!?
「……会えた!」
赤ちゃんだったらしい女の子が、俺へ嬉しそうに笑顔を向けてくれた。その表情を見て、ああ俺は……と、すぐに抱きしめ返した!
「君に、最高に美味しいピッツァ作らせて!」
母上に言われた、食べさせたい相手に作りたいと思う気持ち。
信じられない相手との御名手の決定だけど、俺は実感したんだ。
『美味しいピッツァに嘘はない』って、母上が教えてくださった言葉を胸に。
俺は、大事な相手と生きていく道筋を……この日から、きちんと歩んでいくんだって。
そこから、二百年後に俺はフィー様のご息女『リアリナ』と婚姻を結んだ。いっしょに厨房に立って、いつも最高のピッツァを作ったりもしていくんだ。
長い間応援ありがとうございましたー