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053.おぞましい出迎えの向こうには

2話目でーすノシ

 







 ◆◇◆









 結局、考えても仕方がないのとあまり時間もないからと一旦解散となりました。

 エディオスさん達は王様と王妃様のお出迎え準備や執務の後片付けの為に執務室の方へ戻っていかれ、僕はクラウを寝かしつける為に借りてるお部屋に戻っています。


「今日ーのご飯はなんだろなぁー?」


 鼻歌まじりにルンタッタと軽くスキップしながらお部屋に戻っていってるけど、周りに誰もいないからいいよね?


「ふゅぅ……」


 こてんと寝に入ってるクラウが答えてくれるかのように寝言をこぼした。

 夢の中でもまだ何か食べてるのかな? ちょいと覗き込めば口がもごもご動いてた。


「ご飯はもう今日はお預けだよ?」


 あれだけ食べたから、夕飯はお預けにした方がいいよね?


(でも、さすがに一食は可哀想かな?)


 神獣や聖獣って、一日三食なのだろうか。

 とりあえず、お腹がある程度満たされてお眠に入ってるからしばらくは寝かせた方がいい。ゲストルームまで来たらスキップをやめてとんっと地面に足をつけた。


「到着ー。クラウもうちょっと待ってねー?」


 お布団までもう少し。

 中には誰もいないはずだから、僕は躊躇いもなくドアを開けて……すぐに閉めました。


「あ、あれぇ? 僕が借りてる部屋ってここだよね?」


 廊下、隣はアナさんのお部屋などなど諸々確認したが、まだ泊まるようになって一週間のゲストルームはここ以外僕は知らない。

 もう一度ゆーっくりとドア半分を開ければ、黒い馬鹿でかい影がありました。


(さっきは見間違いかと思ってたけど、やっぱりあるー‼︎)


 おまけにさっきは気づかなかった金色のでっかいお目々に背筋に悪寒が走った。

 怖くなってもう一度閉めようとした時だった。


【何故閉める必要がある?】


 耳というか頭の中に低っくい声が響いてきた。

 後ろを振り返っても誰もいない。

 クラウと意思疎通出来たにしては腕の中で寝ちゃってるこの子は動く気配はない。

 まさかなと、正面の金色の瞳をおそるおそる見上げてみれば、縦に伸びた瞳孔がわずかに動いた。


【何かこちらに用でもあるのか?】


 間違いない。

 目の前の黒い影が僕の頭の中に話しかけてきたのだ。


(ぴぎゃぁああ⁉︎)


 声にならない悲鳴を上げてしまった。

 声が出なかったのは、口の中が渇いてたと言うかあまりの衝撃に忘れてた方が強いと思う。クラウを起こさずにすんだと言うのは良かったけれど、僕は怖くなって堪らずに固まってしまった。

 だって、ディシャスの時とは全然違った。

 あれは牙や鉤爪のトキントキン具合や圧倒される存在感で怖くなったんだと思う。だけど、まだ姿がわからない目の前の黒い影はそんなもんじゃない!

 今更になって、顎なんかがカタカタと震えだしてしまうくらいそれは『畏怖』のオーラを醸し出していたのだ。


【? どうかしたか?】


 なんて事のない声掛けでも、僕はびくんびくんと肩まで震え出してきた。

 バックターンしてセヴィルさんかエディオスさん達を呼びたい衝動に駆られてたけれど、足が地面に固定されたかのように動けないからどうしようもない。

 しかし、声をかけられたからには応えないといけないなと気を引き締めて、クラウを少し強く抱きしめた。まだ生まれて間もないこの神獣を守れるのは僕しかいないもの。


「……え……っと、あなたは?」

【こちらも聞きたいな。微弱ながらも稀な魔力を持っているな。何者だ?】


 質問したら質問返しされてしまった。

 話しかけられる度に瞳孔がギョロっと動くのが怖い‼︎

 だけど、質問にどう答えようか考えあぐねる。


(僕の魔力が弱いのは十分承知だけど、稀なって希少価値って意味だよね?)


 腕の中に抱えてるクラウのことじゃないようだけども。


「あら、窮奇(きゅうき)誰か来たの?」


 凛として透き通った声が今度は耳に届いてきた。


(お……女の人……?)


 このおどろおどろしい何かの向こう側で何故?


【む。すまない、どうやら客人のようでな】


 きゅうきと呼ばれた黒い影は自分の後ろの方を振り返った。


「客人……? もしかしたら、今ここを使ってる人かもしれないわ。会わせなさい。詫びはこちらからしないと」

【そうか……?】


 女の人の声にきゅうきさんはようやく体をずらして中の様子がわかるようにしてくれた。

 ガチガチガクガクで動けない僕だったが、見えてきた光景に次の瞬間心を奪われてしまいました。思わず抱っこしてたクラウを落としそうになっちゃうくらい、僕はぽかーんとしてしまいそうになった。


「ほわぁ……」


 女の人は僕が使わせてもらっているベッドに腰掛けていた。何か読んでたのか、側には本らしきものが置かれてたけど。


(ちょ、超絶美人さん⁉︎)


 そんな言葉がすぐに出てくるくらい女の人は美人過ぎました。

 血色は通ってるだろうけど、僕以上に真っ白なつるつるお肌にすっと通った鼻筋に小さな桃色の唇。ディシャスよりはもっと濃くて深いエメラルドグリーンのつぶらな瞳。

 髪はとっても長くて地面についちゃうんじゃないかと思うけれど、傷んだ様子もない碧い艶やかなロングヘア。ところどころ髪飾り的な宝飾が付いております。

 服は洋装というよりチャイナドレスなんかをイメージしてある薄緑のもので、スリットすっごいけどレギンス的なズボンはちゃんと履いておられましたよ?

 美形や美人さんはセヴィルさんやアナさんで見慣れてきたと思いかけてたが、この女の人は一線を画していらっしゃいます!

 まさしくお人形さん的な美人さんなんて僕見たことない!


「あら、子供……?」


 お姉さんは僕を見るなり首を小さく傾げた。

 そんな一挙手一投足だけでも様になる。

 僕は相変わらずぽかーんって口開いちゃってるけれども。

 するとお姉さんは、ベッドから降りて僕ときゅうきさんのところへと歩いてきた。


(ふぉお⁉︎ お人形さんがこっちにやってくるぅ‼︎)


 わたわたしようにも、まだ足がガクガクの状態から回復していないのでうまく動かない。


「あなたが今この部屋を使ってる人なのかしら?」

「え、あ、は、はい!」


 お姉さんが真正面までやってくると僕にそう質問してきたので、僕は慌てながらも返事をした。

 この人女の人なのにアナさんよりも背が高い!


「あら、ごめんなさいね。ここは以前私以外使う人がいなかったから勝手に入らせてもらったの」

「ほえ?」


 以前は使っていた?

 待てよ、初日にアナさんがそんな事言ってたような……?



『次にクローゼットですが……いつもはお隣の国の王妃様しかいらっしゃらないので、少し変えますわね』



 たしかこんなようなことを言われていた気がする。

 とすると、この女の人はもしや。


「えと……ヴァスシードの王妃様?」

「私を知っていて?」


 あっていた……あれ?


(なんでお出迎えされる側の王妃様がゲストルームにもう来てるんだ⁉︎)


 とは言え、ここは今僕が使わせていただいてる方なのに、どうやって入ったんだろう?


「あ、はい。アナさん……アナリュシアさんから伺って」

「リュシアから?」


 なるほどと王妃様は顎に手を添えられた。


「そう……とりあえず、説明はするわ」


 と言って、僕に中に入るよう促してきた。


「ぴっ⁉︎」


 中に入った途端、きゅうきさん以外にも黒い影がいた事に僕は再び背筋に悪寒がはしった。

 ハリネズミのようなトキントキンの毛が生えた牛の姿が、おそらくきゅうきさんだと思われる。他の三匹は熊のような手があるでっかい犬に、人面羊だけど虎みたいな牙を持ったのとか人面虎だけど猪みたいな牙を持ったのとかなんじゃこりゃ⁉︎な存在が部屋の中でくつろいでおられました。


「ん? ああ、原型のままで居座らせてたわね。皆、この子が怯えてしまってるから人型になってくれる?」

『【御意】』


 王妃様がぱんぱんと手を叩き低い声が重なり合うと、目の前が真っ白に染まった。

 反射で目をつむってしまったが、すぐに光は落ち着いて目を開く事が出来た。


「…………え?」


 あのおどろおどろしい獣達の姿はなくて、代わりに男の人達がいました。

 思わず『ホストかぁ⁉︎』とか叫びたくなるくらいの美形集団だったけれど。

 横にいたはずのきゅうきさんも精悍な男前になっていた。

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