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047.神獣への名付け

2話目ですノ

「ふゅぅ……」


 顔を覗き込めばしょんぼりと小さなお耳を畳んでいた。

 どうやら、急にお腹が空いてきたみたい。


「うーん。神力吸い取ってても食料は必要になってくるからね。まして、生まれてくるまで2千年間も神力のみで育ってたから」

「「に」」

「2千年間もか⁉︎」

「うわぁ……そりゃお腹空き過ぎますね」


 ちらっと部屋の砂時計を見れば、夕飯にはまだ早く、おやつにはちょっと遅いくらいだった。

 これはちょうどいいかも。


「僕がこの子のご飯作ります!」

「カティア、疲れてないか?」

「大丈夫ですよ」


 心配はかけてしまったが、体力自体に問題はない。

 その旨を皆さんに伝えれば、セヴィルさんも納得してくれました。


「カティアの作るもんか? 八つ時の菓子なんか食ってねぇから俺も軽く欲しいなぁ」

「大して動いてないだろうが」

「獣舎とか浮き島周辺あれだけ回っただろうが!」

「ここはエディお兄様に賛成ですわ。わたくしも少しばかり必要です」


 多分セヴィルさんもちょっとくらいは空いてるだろうし、今からだとあんまり凝り過ぎるものは作れないけど。


「僕ピッツァ食べたいなぁ」

「……それは無茶言わないでください」

「発酵の時間操作なら僕がなんとかしてあげるからぁ」


 ダメだ。

 フィーさんがこう言ったからには是が非でも作らなきゃいけない感じになってくる。

 それと、フィーさんのピッツァ発言にエディオスさんやアナさんが唾を飲むのを見えたし。


(……仕方ないから、作るしかありませんか?)


 ただし、もっとおやつ感覚なピッツァにしますよ!

 だって夕飯前だからね。








 ◆◇◆









 場所は移りまして上層調理場。

 ただ、食堂側にエディオスさん達はいません。

 いくら発酵の時間を操作するからって、作るのは最低でも一時間は必要だと思うのでそれぞれお仕事の続きをしてもらうことになりました。

 エディオスさんは終わりがけで僕を探しに行ったから食堂で待つと駄々をこねたけども、宰相のセヴィルさんが追加の仕事はいくらでもあるからと引きずっていかれましたよ。

 アナさんも戻っていかれて、この場にいるのはフィーさんと僕と獣ちゃんだけです。


「こんにちはー!」

「おや、カティアちゃんにフィルザス様。……カティアちゃんその可愛いのは聖獣?」

「え……っと、そうです」


 事前に聞かれたらそう答えるようにフィーさんに言われたのを思い出し、僕はライガーさんの問いかけに答えた。

 ちなみに獣ちゃんは今僕の頭の上です。


「ふゅ?」

「えらく不思議な鳴き声だなぁ……」

「入れちゃダメですか?」

「まあ、基本はだけど。その様子じゃあ離れそうにないだろうしね」

「大作業の時は僕が抱っこしててあげるよ」

「ふゅ」

「ところで、今日も何か作るのかい?」

「あ、はい。ピッツァをフィーさんやエディオスさんに頼まれたので」

「そうなんだ。ちょっと待ってて、料理長呼んでくるから」

「はーい」


 待つには待ちますが、獣ちゃんの腹の虫が絶え間なく聞こえてるので出来るだけ早く取り掛かりたいのが本音。


「あ、そうだ。マリウスが来るまでにこの神獣と契約しようか?」

「契約ですか?」


 そう言えば、エディオスさんもディシャスと契約してるとかなんとか言ってたような?


「うん。意思疎通とかはまだ生まれたばかりだから無理だろうけど、主従契約くらいはしっかりしておかないとね。それと、名前必要だし」

「おお」


 いつまでも『獣ちゃん』じゃダメだもんね。

 とは言え、どんな名前にしようかな?


「ふゅ?」


 水色オパールの瞳をくりりとさせて僕らを見下ろす獣ちゃん。ペットとか飼ったことないけど、変なのはぜーったいにやめておこう。

 この真っ白な毛並みに薄金の翼。雲の上にいるかもしれない天使みたいな子だもの。可愛いのがいいよね?


「名前決めました!」

「じゃあ契約始めよっか?」

「どうすれば?」

「守護獣としての契約はまたでいいから、とりあえずは名付けのだね。単純につけたい名前を呼んであげればいいよ」


 じゃあ、言ってあげようか。獣ちゃんを卒業してちゃんとした名前を。

 僕は獣ちゃんを頭から下ろして正面で向き合うように抱きかかえた。


「君は『クラウ』だよ? 呼び名とかは『クー』だね」

「ふゅ!」


 ぴっと片手を上げたクラウは『はい』と言う風に鳴いた。


「中々に可愛らしい名前ですね?」


 とここでタイミングよくマリウスさんがやってきました。


「やっほー、マリウス」

「いらっしゃいませ、フィー様。カティアさんや小さなお客様もようこそ」

「今日もお世話になります」

「ふゅ?」

「……ライガーが言っていたように本当に不思議な鳴き声ですね」


 やっぱりそう思われますか?

 とまあ、クラウのことは一旦置いといてピッツァ制作の許可を改めてマリウスさんにお伝えする。


「わかりました。食材はお好きなものをお使いください。マトゥラーのソースはまだ残っていますから使われますか?」

「そうします!」


 それだけでぐっと作業工程減るし、今回のピッツァはマトゥラー(トマト)ソースしか使わないからちょうど良かった。

 なので、クラウを頭に乗っけて早速粉類から準備に取り掛かります。


「今日はどんなピッツァにするの?」

「具材はマルゲリータをメインに燻製肉のバラ肉とかで行くつもりです」


 ただ、普通に焼くわけではない。

 それは言わずに僕は生地の仕込みをささっと済ませて、発酵手前まで終えてから手を洗った。捏ねてる最中クラウはフィーさんに抱っこしててもらったよ?

 美少年がぬいぐるみを抱えてるような絵面はなんとも言えぬ光景で鼻血出そうになった。これがもしセヴィルさんだとしたら暴力的過ぎる。とは言っても、セヴィルさんがクラウを抱っことか想像しにくい。

 エディオスさんは興味津々だったから進んで抱っこしてくれそうだけどね。アナさんはお胸で潰しそうだから保留にしないとな。

 おっと、別の事考えてちゃいけないね。


「ん。じゃあ、時間操作してあげるね」


 クラウを頭に乗せたフィーさんは、両手を生地の上にかざした。


「この時間操作はさすがに複雑だから、詳しいことはまた今度教えてあげるよ」

「はい」


 と言うか、時間操作ってすんごい魔法なんか早々に扱えないと思うのだけど。

 フィーさんが一度深呼吸をすると、かざしてた両手が淡く紫色に光り出した。


「時の流れは細い糸のように千々に波打ってるものなんだ。それはこう言った食材なんかにも当然ある。それに魔力を通じて早めたり遅くすることも出来る。今回はこの生地が膨らむ時間を早めればいい」


 と言うと、かざしてた手の光がほわんと大きくなって生地の表面に触れていく。

 どうなるんだろうと思ってたら、ぷくりと生地が膨らみだしていきものの一分もかからない内に、普通なら二時間経過しないとならない発酵状態になってしまった。


「ふゅ!」

「すごいねー、クラウ」


 フィーさんの頭に乗っかってるクラウは、きゃっきゃっと手や翼をバタバタさせて楽しそうに笑っていた。


「こんなものかな?」

「ありがとうございます。これならすぐに出来ますね」

「けど、食材の成長なんかは出来るだけ自然の摂理に則った時間がいいからね。今回は僕のワガママもあるから急ごしらえだけど」

「なるほど」


 たしかに急な刺激を与えてダメになっちゃう調理法もあるくらいだからね。例えば、電子レンジで加熱し過ぎたら細胞破壊が進んじゃって味落ちがするとかも聞くし。この世界には電化製品すらないけど。

 とりあえず、このまま生地を放置するのはいけないから手早くガス抜きをして分割していった。


「次は具材ですね」


 ソースやカッツ(チーズ)なんかは準備出来てるけども、まだ加工出来てないのはあります。

 バラ肉ことベーコンを短冊切りにしてから温めたフライパンに入れて表面がカリっとするまで炒めるます。それが出来たら、小房に千切って茹でたコルブ(ブロッコリー)をベーコンの油ぎったフライパンで軽くソテーしてあげる。

 ヘルネ(ハーブ)だけじゃ緑と言うかお野菜ないのでこれぐらいは入れてあげないとね。


「なんかこれだけでもいい匂いだなぁ」

「ふゅ」

「味そこまでしませんよ?」


 コルブにはベーコンの香りがついたくらいなのに。

 さて、具材は準備完了。生地を伸ばそうと思ったが、先にすることを忘れてたのでマリウスさんに聞きに行くことにした。


「マリウスさん。揚げ物用の鍋とかってお借りしてもいいですか?」

「揚げ物のですか? でしたら、フライヤーを使ってください」

「おお」


 それならば揚げ物鍋でやるよりずっといい。

 ついていけば、石窯の側に馴染みあるフライヤーの姿がありました。油は透き通ったライドオイルがたっぷりと入っていた。もしや、油変えたばっかりかな?


「すぐに揚げますか?」

「そうですね。生地伸ばして準備が出来てからですが」

「……まさか、ピッツァを焼くのではなく揚げるんですか?」

「はい。そう言うピッツァもあるんですよ」


 僕が今回作ろうとしてるのは揚げピッツア。

 イタリアの惣菜パンたるジャンクフードの『パンツェロッティ』を作ろうとしているのだ。


「……すみません。どう言う風に揚げるのでしょうか。少し想像がつかなくて」

「あ」


 ……もしかしていつものように平ぺったいままのを揚げるとか思っちゃったかな?

 誤解は解かないとね。そんな状態で揚げたら油がソースなんかで真っ赤になって油交換しないとかになるから。


「生地をいつもよりは分厚くして、半分にソースと具材を乗せるんです。それを包み込んで中身が出ないようにしてから揚げますよ」

「……ほう。所謂惣菜パンのようにですか?」

「はい。パンツェロッティって言うんです」


 今回は数が少ないので調理場の皆さんには出せないけど、作り方は開示しました。是非ともまかないなんかで試してくださいな。

 フライヤーの温度調節はマリウスさんがしてくださったので、今度は給仕さんにエディオスさん達を食堂に呼んでもらうようにお願いします。

 なんたって、パンツェロッティは揚げたてが一番だから!


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