351.この御名手
お待たせ致しましたー
僕は意味がわからなかったけれど……おふたりは、怪我はされていないようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「……え、えぇ」
「……おう」
さっきの勢いはどこへやら。
おふたりとも、少しどもってしまっている。
「…………カティア、ちゃん」
「はい?」
シャルロッタさんが僕の方に来ると、いきなり僕の肩に手を置いてきた。
「ど、どどど、どこでさっきの言葉を!?」
「へ?」
「と言うか、私……君に言った!?」
「何をです?」
「…………姐さん女房」
「……聞こえてたんですか?」
と言うことは、僕が勝手に暴露してしまったと言うことか。これには、流石に謝ったけれど。
「……あ〜〜……なんだ?」
まだお顔が少し赤い、イシャールさんが立ち上がった。
「り、料理長……」
「カティアの言葉で、いきなり離れたからびっくりしたが……お前、マジか?」
「ま、ままま、マジ……と言いますか!!?」
これは……場所は廊下だけど、ここで告白されるのか!?
僕は部外者だけど……居ない方が不自然なのでクラウを落とさないように抱っこしていますとも。
「…………その、なんだ?」
イシャールさんがこっちに来ると、シャルロッタさんの手を取った。僕は、お邪魔にならないようにすこーしだけ距離を取った。
「きっかけは……なんだが。俺はマジだ」
「…………料理長!?」
「いっつも、お前に尻敷かれているが……本気だ。俺はお前が好きだ!」
「!?」
やっと言いましたよ!?
拍手したいのを我慢して……僕はシャルロッタさんのお返事を待った。シャルロッタさんは、さっき以上にお顔を赤くされたけど……お返事しないわけではないようなので、ぎゅっと胸の前で手を握りしめていた。
「…………返事、聞かせてくれ」
僕、居ないように扱われていても……ドラマのワンシーンのようなこの展開を最後まで見ていたい!
わくわくしながら待っていると……シャルロッタさんが、赤くても決意の表情を見せた!!
「…………身分差が、大きいと。勝手に思っていました」
「気にするとこそこか?」
「私は伯爵家でも、料理長は六大侯爵家じゃないですか!」
「……まあな? で??」
「…………その。諦めようとしていました。けど!」
ぎゅっとさらに力強く、手を握られた。イシャールさんの表情が、どんどん明るいものに変わっていく。
「さっきの俺の言葉で、決心ついたか?」
「……胸に飛び込んでいいんですか?」
「ああ……」
ちらっと、僕を見たので。僕はゆっくりと足音を立てずに部屋を戻ろうとしたら……。
それは、いきなり起こった。
「ひゃ!?」
「なんだぁ!?」
振り返ったら、シャルロッタさんの体が光って浮いていた!?
そして……シャルロッタさんの顔が、どんどん真剣なものになっていく??
『……告げよう。この者の、誠の繋がり、縁』
「…………フィー…………?」
「フィー……さん?」
シャルロッタの身体を通して聴こえてきた声は……聞き間違えようがない。いつものおちゃらけているものとは違う、少年神様のフィーさんのものだった。
「!? マジか……これ!!」
「……イシャールさん?」
「御名手の……儀式だ」
「え!?」
僕の時とは全然違う……けど、ちょっと似てるかもと思い出した。サイノスさん達の時も、きっとこうかもしれないから……僕は黙っておくことにしたよ?
『失い人、繋ぎ人。今ここで結びを言い渡す。御名を取り合う手を引き寄せ、胸に抱け。永遠に』
「…………生涯、離しません」
これ……最早、プロポーズでは?
イシャールさんが、シャルロッタさん越しに……フィーさんへ誓いの言葉を紡げてすぐに。
シャルロッタさんは正気に戻ったのか、慌てた様子で落ちてきてイシャールさんにキャッチされたのでした。
次回は水曜日〜