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ピッツァに嘘はない! 改訂版 作者:櫛田こころ

第一章 異界渡り

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035.神と神(フィルザス視点)

2話目ですノ
 




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(フィルザス視点)







「よっ……と、さて」

 木を乗り継ぎ目的の場所に降り立つと、僕は少しだけ気を引き締める。神の僕が普通はそう思わないけど、これから通信を試みるのは相手も『神』だからだ。
 樹々に囲まれた神域の泉よりは小さな水の溜まり場。岸辺にまで 僕は近づくと、少ししゃがんでその水に触れる。程よい冷たさが手に伝わってくるが、時間も限られてるからさっさと準備をしよう。

『……方位各弦』

 この世界でも僕しか使えない神の真言を紡ぐ。
 カティアは知らないから勘違いしているだろうけど、僕が本来使う詠唱はこちらに値するので聞き取れないのも無理はない。

『あまねく我らが恩恵。水音に降り落ちる彼方の雫石。併せて我はここに願う』

 浸した手から力が水に伝っていき、水面に波紋が拡がっていく。波紋から波が立ち、ザバザバと音が立ち始めると水溜り場の中央がごぼごぼと水が湧き立ってきた。

『我は黑きこの世界を治めるフィルザス。伝え請うは蒼き世界の我が兄ーーレイアークをここに映しださん!』

 湧き立つ水がザバァと水柱を上げ、落ちてくる水の滴が僕にも降り注いでくる。
 水に混じった僕の力と相手の力が滲み出てるのに少しほっとして、僕は立ち上がって水溜り場中央を見据える。

「……ごめんね、レイ兄様?」

 一応謝罪を先に言うと、いきなりばっと水の玉が勢い良く飛んできた。けど、受ける気はさらさらないので無詠唱で防御壁を築いてその壁に受け止めさせる。流れていく水の壁の向こうから、僕よりも遙かに体格の良い青年が侮蔑とした顔で僕を睨んでいた。

「詫びるなら無理矢理呼ぶな!」

 良く通る低い声が僕を窘める様に言葉を投げつけてくるが、これは良くあることなので無視する。
 水の上に立つ青年は僕の兄の一人であるレイアーク兄様。蒼の世界を統括するだけあって身につけているものはすべて真っ青。首あたりで縛っている長い髪だけは僕みたいに真っ黒だけどね。
 でも、あれは実体ではない。水を媒体にして創り出した幻影の様なものだ。水面の上に立ってるにも関わらず、沈む気配がないもの。
 レイ兄様は1つ溜め息をついてから僕の方へやってくる。歩いてくる傍ら、深い水底のような濃い蒼の瞳で僕に『動くな』と命令するかのように見据えてくる。

「……それで、俺を呼んだ理由は何だ? つい先日も話したばかりだろうが?」

 一切淀みがない口調。
 この様子からして、兄様はカティアのことは知らないみたいだ。まあ、これくらいは予想の範囲だけどね。

「兄様、こっちに異界渡りしてきた子がいたんだよ」
「は? 異界渡り……って、何でそっちで起こるんだ!」
「僕もわかんないから兄様に聞いてるんじゃない」

 堪らず肩を落としてみたが、兄様は目をおっきく見開いたまま固まってしまった。
 異界渡りなんてあったら何かしら兄様にも知らせがあるはずなんだと思ったけど、これはますますあの人(・・・)が関係してるんじゃないかと憶測が拭えなくなってくる。

「……まさかだとは思うが、俺のところからか?」
「じゃなきゃレイ兄様だけ限定で呼ばないでしょ?」
「なんで異世界トリップがこうも頻繁に起こるんだ!」

 よくわかんない言葉が出てきたけど、雰囲気からして異界渡りが頻繁にあちらでは起こってるような口ぶりだ。

「はぁ……行かせたら最後、戻すのに労力あるから基本ほっとくしかないが……そちらだと少しまずいな」
「あ、ごめん。緊急だったから仕方なかったけど、こっちに物質変換しちゃったよ」
「もう戻せないではないか!」
「そんなにも声荒げないでよー」

 あれは本当に仕方なかったもの。寝ぼけてた間に泉の水たらふく飲んじゃってたからね。止めようにももう遅過ぎたし。
 そこを説明すると兄様は大きく息を吐いた。

「……あの聖樹水を躊躇いなくそんなにもか。人の子は目先の欲望に忠実だからな。まあ、対処としては仕方なかったが、直ぐに処置出来たのは幸いだ」
「それがねー、泉の水が原因かわかんないけどその子の身体の異変が治んないんだよ」
「何?」
「年はそっちの成人年齢にもかかわらず見た目がこちらの80歳くらいの幼子。身体的特徴も色々変わっちゃってるみたい。髪は純金で瞳は虹色」
「……髪色はそちらでは珍しいだろうが、なんだその瞳の色は? コンタクト……薄い膜でも入れてるんじゃないのか?」
「ううん、あれはどう見ても自然の色だったよ?」

 念の為に兄様の横に水を媒体にしてカティアの幻影を創り出す。その幻影を見た途端、兄様はあっと口を開けた。

「色は違うが……あの時の子供か⁉︎」
「え、兄様この子知ってるの?」

 悠久の時を生きる僕達は基本人の子達とは関わりを持たない。
 僕とエディ達は偶然をきっかけにずっと交流しているけど、レイ兄様の世界では神と人の子は今じゃ交流を絶ってるに等しいと聞いてはいたのに。
 兄様は少し考えていたが、やがて僕に向き直った。

「フィー、この子供が異界渡りをどうやって来たかはわからないのか?」
「ごめん。寝てたから見てなかったよ」
「そうか……」

 異界渡りなんて昨日アナが言ってた通り夢のまた夢の現象だ。僕達異界の神同士でも、こうやって写し鏡のような連絡方法でしか交信が出来ないでいるのに。

「わからないのは仕方がない。が、これも運命と言うやつか? まさかこの子供がそちらに行くとは」
「兄様、いつ会ったの?」
「ん? そうだな、姿がこのままだったからわかったがちょうどこの姿の時にだ」

 じゃあ、この年齢で成長が止まっているのも何かしら意味があるかもしれない。
 そこで、僕はカティアの幻影の隣に今度はもっと大きい幻影を創り出す。

「兄様、この子はわかる?」
「……見た目若干俺に似てなくもないが。こいつがどうした?」
「うん。ちょっと待っててね?」

 指を鳴らしてその幻影を徐々にカティアより少し上くらいにまで小さくしてみる。収縮が終わると、またレイ兄様が息を呑む声が聞こえてきた。

「この青年は……あの時の『セヴィル』なのか?」
「うん。まーさか、蒼の世界に一時的とは言え『異界渡り』してるなんて僕も知らなかったけどさ」

 小さくなったセヴィルはカティアよりは少し背が高いが僕より小さい幼子の姿になっていた。
 切れ長の目だけは大人の今も面影を残してることがわかるくらい、その姿の時も同じだった。

「なら尚のこと、この子供がそちらに異界渡りしたのも頷けれるが……一体どうやってだ? 俺はその時以来こいつらに力は一切貸してなどいないぞ」
「それがわかれば僕だって苦労しないよ」

 だからって、まったくあてがない訳でもない。
 ここはひとつ兄様に聞いてみるしかないか。

「ねぇ、レイ兄様。この子はこっちに来たばかりの時に自分の名前が思い出せないくらい厳重に封印されてたんだ。その後僕が調べてセヴィルが『御名手』だってことがわかって昨日儀式をとり行ったよ。けど、その時びっくりすることがわかってね」
「み、御名手だと⁉︎ いや……端的に言え。封印とは穏やかじゃないが」
「わかったよ。セヴィルが導き出した真名の中にね、『クロノ』って出てきたんだ。これって絶対あの人が関係してるんじゃないかと思ってさ」
「クロノ……だと?」

 兄様の瞳が怪訝そうに細くなっていく。

「あの人がまさか関わって……いや、そうだな。セヴィルの時に無理に力を貸し受けたから……無関係ではないな」
「兄様、あの人に力借りたの?」
「行きはどうやって来たかは今でも不明だが、帰りはなんとか送り返すしかなかったからな。比較的早く見つけたから時空の歪みはほとんどなかったとは思うが」
「どー見てもあるんだと思うけども」

 こっちじゃ何百年も経ってるんだよ?
 それがわからない兄様ではないので、バツが悪そうに頬をかいていた。

「だが、成人しているとはおかしいな? 身体の色はともかくこのままの姿でそっちにいるのだろう?」
「ううん。最初はもうちょっと幼い姿で来たよ? 物質変換したからこの姿にまで大きくなったんだ」
「……悪い。俺にわかるようにもう少しまとめてくれ」
「はいはい」

 どうも僕の話し方はあちこちに飛びがちになるので、なんとか試行錯誤しつつもまとめてみる。その中で昨日と今日もピッツァを作ってもらえたことになってくると、何故か悔しそうに歯をくいしばっていた。

「ピザを昨日も今日もだと……しかも、完璧に手作りのを!」
「あれがピザって言うんだ?」

 言われて思い出したけど、呼び名が違うからすぐにわかんなかったね。どっちが正式名称かはよくわかんないけど、美味しかったからどっちでもいいやと思う。だからって、なんで兄様そんなにも歯ぎしりしてるのかな?

「羨ましすぎるぞ‼︎……っと、そうではなかったな。20歳の女が突然退化してから異界渡りか。まったくないケースでもないな?」
「本当にどんなけ異界渡りあるのそっちでは?」
「……言うな。色々あるんだ」

 まあ、互いの世界事情にあんまり首突っ込み過ぎちゃいけないものね。

「だが、身体の色がここまで変わるのもおかしいな? 元は黒髪黒目が普通の国で生まれて過ごしていたはずだったが」

 兄様はカティアの幻影に手をかざして少しいじりだした。一瞬でカティアの髪と目が僕らよりは薄いけど黒に変色する。
 たしかに、こう見るとしっくり来る気がするかも。今の色も昨日言ったように可愛いとは思うけどね。
 色合いを確認したところで、兄様は指を鳴らして元に戻した。

「それにしても実名を封印か。おまけに真名に『クロノ』を含ませる辺り、ますますあの人が関わりすぎてる気が拭えんな。ところで、何故それをミドルネーム……守護名にしたんだ?」
「えっとね。下手に他のをつけるよりは守護名らしくなるかなぁって?」
「なんとなくで決めるな‼︎ まあ、ゼヴィアークの『アーク』に俺の名前をつけてある限り力の供給はこちらにしてあるから、何かしらあった時は手を貸せれるが」

 それを使わないと意味がないわけでもなかったけど、あの人があえてレイ兄様の字を入れて通行手形みたいにさせたのかもしれない。
 元はレイ兄様の世界の子だもの。帰還できるかわからないが、魔力供給を得られるにはもってこいだ。
 兄様に言ったように下手な守護名につけるよりは『クロノ』を使った方が良いと思ったのも本当。一部とは言え強力な守護名になるでしょうよ。しかも、家名と合わせれば二重に魔力供給を得られる。なのに、あの魔力量の少なさには驚いたけどね? 一応今は真名がわかったから、そこを通じて平均量より少し多いか少ないかくらいにはあるようだけど。

「……フィー」
「なーに?」
「すぐでなくてもいいが、このカティアと言う子供の方を俺と会わせれるか?」
「ここのがいーい?」
「いや、神域の泉の方がいいだろう。お前が言うように聖樹水のせいで身体に異変が起きてるやもしれぬなら、水を通じて俺の力でなんとか出来るかもしれないしな」
「わかったよ。もう少し様子見してから一旦あっちに戻るね」

 近い内にヴァスシードのあの子達も来るってエディが言ってたからその後の方がいいだろうし。
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