262.ファルミアの葛藤①(ファルミア視点)
お待たせ致しましたー
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(ファルミア視点)
あれは夢だった。
王子様に直接会ったのはそれっきりだったから。
だから私は、あの時に感じた『一目惚れ』の感情を封じた。いくら伯爵の人間だからって、運命共同体とも言える御名手の相手が……もしかしたら、王子様だなんておこがましい……。
四凶達は、あの日に私が理由を聞くのを拒絶したから、王子様が私なんかに会いに来た理由を言わないでくれている。
そのお陰で、私は勉学に趣味の料理……それ以外は家業の警護部隊の訓練に明け暮れることが出来たわ。
弟のバスティスについては、私の事を敬遠することもなく、むしろ家ではべったり。小さかった時もだけど、大きくなってからも私と訓練を一緒にやったり、お菓子試食の常連にもなった。
「姉上の料理は本当に美味しいです!! シェフ以上ですよ!!」
「……あらそう? ティスは褒め上手ね?」
「事実を言っているだけですが」
そんな今日のおやつは自家製レモンことリモニで作ったピール入りのフィナンシェ。バスティスは特にこのお菓子が気に入っているので、週に一回くらい作るから分量も雑でも出来るくらい。
「私もそろそろ卒業だし……ムスタリカに尽くす時間が増えるから、あんまりお菓子作りの時間が取れなくなるわ」
「……仕方がないですが。姉上の御名手がまだ見つかりませんからね?」
「……そうね」
可能性としては、やっぱり王子様……最近王太子になられたあのイケメンさんだけど。彼と会ってから、そこそこ位の良い貴公子で顔が良い人達と出会っても、トキメキすら起きないでいる。顔は良いと思ってもそれだけ。
だからって、両親にも王子様は相手だなんて、とてもじゃないが言えるわけがない。
王家直属の護衛部隊を輩出する家の娘が、将来このヴァスシードを束ねる国王となる存在の王妃になれるだなんて。
身分もだが、私には荷が重すぎる。ただでさえ、他の世界からの転生者で記憶持ちだ。英才教育は受けていたって、王妃になるだなんて無理。
御名手だったとしても、そんな王妃は暗殺などで狙われやすいはずだわ。四凶の主人であるから余計に。彼らは聖獣と呼ばれる存在でないため、畏怖をヒトに与えてしまうから。
そんなこんなで自分の気持ちを殺して、生涯独身でいる事を覚悟していたのに。
学園の卒業を迎えてしばらく経った頃、王子様は何故かムスタリカの家にやって来たのだ。
「二百年振りだね、ファルミア??」
それくらい月日が経つと言うのに、あの王子様はあの頃よりも大人びて素敵に成長されていたわ。
その姿を目にした途端、やっぱり忘れていたトキメキは身体中の回路全域に行き渡る……あの甘酸っぱい気持ちを感じた。
「…………迎えに来たよ?」
だなんて、いきなり言われて発狂しかけた私は……大慌てで、王子様や家族の前から逃げたのだった。
次回は月曜日〜