224.ラストスパート
ようやく、収穫祭終わり
ドミノ倒しには幸いならなかったものの、セヴィルさんは背中に大ダメージを負ってしまった。
「だ、だだだ大丈夫ですか⁉︎」
「……少し、背が痛む程度だ」
そうは言っても、セリカさんを抱えたエディオスさんがぶつかってきて、その上にアナさんを抱えたサイノスさんの重みも加わったんだ。
ただでさえ体格が良過ぎる男の人がいきなり乗ってきたら、痛いだけで済まない!
今は皆さんどいてくださったのでもう重みはないけれど、やっぱり痛そうに見えるよ……。
「まーさか、同時に戻って来るとは思わんかったしなぁ?」
最初にぶつかったエディオスさんは左側で苦笑いしてた。
着地点で僕らがいるのは予想外だったのは仕方ないにしても、もうちょっと謝罪していただきたい。
セヴィルさんまだ背中が痛いから少し猫背になってるんだもの!
「つか、エディはともかく俺のが重かっただろ? 大丈夫か?」
右側にいるサイノスさんは本当に心配してくれている。
そう、これが正しい反応なのに。
抱えられてるアナさんも少しおろおろされていた。
「ゼルお兄様、だ、大丈夫ですの?」
「……心配するな。それより」
丸めてた背をピシッと伸ばしてから、セヴィルさんはエディオスさんとサイノスさんを交互に見た。
「ここから改めて競うのに待っていたのか?」
「おう、公平じゃねーしな?」
エディオスさんを見れば、実にいい笑顔でした。
「先に行っても良かったかもしんねーが、カティアに睨まれたくねぇしな?」
「そこですか」
「ま、ゼルも多少回復したんならいっせいに行こうぜ?」
サイノスさんがそう言うと、足で僕らの前に一本の線を引いた。
芝にとりあえず線がついただけにしか見えないが、今からスタートするのならちょうどいい。
エディオスさんもその線の後ろに立ってセリカさんを抱え直していた。そう言えばセリカさんが何も言わないので振り返れば、彼女は顔を真っ赤にしながら固まっていた。
「せ、セリカさんどうしたんですか⁉︎」
僕が声をかけても、彼女はまったく動かなかった。
「あー……俺達の方にいた神霊がちぃっとからかってきてな?」
何を言われたかは、エディオスさんでも答えてくれなかった。
それよりも、とスタートダッシュ出来るように男性の皆さんは構える。
「行くぞ……せーの!」
サイノスさんがかけ声をかけてすぐに、僕は強風の中に身を投じることになった。
◆◇◆
速い。
どの組も速すぎる!
あのお化け森みたいなとこで抱えられてた時も結構速かったのに、セヴィルさんはまだ全速力を出してなかったみたい。
それくらいの速度で移動するので、今度は舌をかみそうになっちゃう!
「ぶーゅぶゅぅ!」
腕の中では相変わらずクラウがきゃっきゃはしゃいでても気にしてられない。
とにかく、まだ持ったままの地図を握りながら口をしっかり閉じてるしかなかった。
「鈍ってる割には速いんじゃねーのお前ら?」
この高速移動中に、少し前にいるらしいエディオスさんは余裕で振り返ってきた。
すると、少し後ろにいたサイノスさんも声を上げながらセヴィルさんの横に並ぶ。
「こん中じゃ、俺が一番鍛えてるのにお前さんらやっぱ速いな?」
「適当に鍛えてるだけだ」
「俺らがお前より若いからじゃねーの?」
「何ぉぅ⁉︎」
単体で走ってるわけじゃないのに、よく会話出来るなこの人達!
アナさんやセリカさんは大丈夫かなと思っても、風に正面から圧迫されてるために首が動かせない。
「んなら、全速でいかせてもらう!」
「げ」
「……煽ってどうする」
横からつっよい風が!っと思ったら、セヴィルさんもまた速度を上げていく。
競ってるのか置いてかれないようにかはわからないけど、風が痛いです。
「負けるかよ!」
エディオスさんも大声を出しながらサイノスさんを追いかけていく。
もうこの勝負、どうなってもいいから抱えてる人の体調を気遣って欲しいと切実に思いました。
◆◇◆
「あ、おっ帰りー!」
小屋の前でフィーさんはのんびり待っていた。
そんな彼の前に、どの組もほぼ同時に到着したので、順位なんてもうどうだっていいくらい皆さんお疲れ状態でした。
「……すっごい息切れてるけど大丈夫?」
大丈夫じゃないです。
抱えられてる方もだけど、走り続けてた男性側も肩で大きく息をするくらい。
唯一クラウは平気だったんで、クラウは僕の腕からすぽんと抜けるとフィーさんの方へ飛んでいった。
「ふーゅふゅぅ!」
「あ、お帰りー。……順位は後で教えるから、とりあえず中入ってよ」
あの速さで来たのに、誰が一番だったかわかったんだ。
さすがは神様です。
まだ固まったままのセリカさん以外は降ろしてもらい、息を落ち着かせてから小屋の中へ入らせてもらった。
入る前に見上げた空はほんのり赤く見えたから、そろそろ夕方が近いんじゃないかな?
「夕餉は本邸の子達が用意してくれてるから、小休止だね」
まだ残ってたリビングのテーブルには、アイスティーがメインのティーセットが用意されていた。
少し涼しくなってきたけど、今は冷たいものがありがたかったです。
クラウはフィーさんに抱っこされてるからお任せして、ぼくは自分の席に着いてからシロップポットの中身を半分くらいアイスティーに注いだ。
「はぁー、美味しい」
甘くてもスッキリした紅茶が喉を潤してくれる。
他の皆さんもシロップを入れてたりしてたが、セヴィルさんはやっぱりストレートで飲んでいた。そしてもう一人、まだ固まったままのセリカさんは座らされても正気に戻らない。
ほんと、神霊さんに何を言われたんだろう?
「セリカ、ほんとどしたの?」
フィーさんも気になって、アイスティーを一気飲みしてからエディオスさんを見た。
「お前が連れてきたって神霊に盛大にからかわれただけだ」
「ミュラーに?」
「っつっても、似合いの番だな?くらいだが」
その言葉に、エディオスさんが少し照れたのを見てセリカさんとクラウ以外思っただろう。
(両想いならもうくっつけばいいのに!)
御名手って事実は、サイノスさんとセヴィルさん以外知らないので言えませんが。
「そのように言われまして、セリカはこのままですの?」
隣にいるアナさんがほっぺをつんつんしても、セリカさんは正気に戻らない。
「これで戻そうかー?」
「「やめてください(ませ)‼︎」」
フィーさんが例のハリセンを取り出したので、僕とアナさんは同時に声を上げた。
「女性に何しようとしてるんですか!」
「かるーく叩くだけだって」
「フィーさんの軽くは信用出来ません!」
セヴィルさんの時や、レストラーゼさんやフォックスさんの時だって軽くても痛そうだった。
セリカさんが女性だからって加減したとしても、やっぱり信用出来ない!
「えー、傷つくなぁ?」
「お前さんの日頃の行いが原因だろ? おーい、セリカ。起きろって」
けれど、サイノスさんが肩を揺すってもセリカさんはそのままでした。
「おい、どーすんだ? 責任は半分フィーでも、半分はエディだろ?」
「は、俺?」
自分に矛先が向くと思わなかったエディオスさんは、お茶請けのクッキーをごくんと飲み込んだ。
では、また明日〜〜ノシノシ




