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【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版  作者: 櫛田こころ
第六章 実り多き秋の騒動
214/616

214.速まる鼓動達(セリカ視点、セヴィル視点)

今回は別々の視点ですノ


(お互いの、ではないので悪しからず((。´・ω・)。´_ _))ペコリ)

 








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セリカ視点)








 どうして、サイノスお兄様はあんな事を言い出したのだろうか。

 行く直前までは、エディお兄様とご一緒に向かうなんて一言も言ってなかったのに!


(どの道、神域ではお兄様とご一緒なのだけれど……)


 それも伝えていない、今。

 これから久しぶりに乗る事になるディシャスを前にした時、エディお兄様は立ち止まれてから右手で軽く髪を掻かれた。


「あー、まあ、もう俺らだけだし行くぞ」

「あ、は、はい」


 振り返られた彼の表情は何故か苦笑いだった。

 どうしてだろうと思っていたら、お兄様はどんどん私の方に近づいてきて目に前で止まると軽く腰を落とした。

 そして、さっと言う勢いで私を逞しい腕の中に抱え込んでしまった!


「ひゃ⁉︎」

「跳ぶから暴れんなよ?」

「は、はい!」


 首に手を回すなんてとても出来ないから、せめてもと思ってエディお兄様の皮マントを掴むことにした。

 私がじっとしていると、お兄様はすぐに跳び上がったのか浮き上がったように感じる。

 恐る恐る目を開ければ、景色がどんどん空に近いように映り込んできた。


(同じ、だわ……)


 あの事件の少し前、今よりもっと幼くてカティアちゃんの外見くらいの時にも、エディお兄様に無理を言ってディシャスに乗せていただいた。

 あの時も、こうやって抱えていただいてからディシャスの身体を跳んで移動した気がする。

 思い返してる間にもう到着してしまい、ディシャスの首根辺りに着くと私を一旦降ろした。


「手綱取ってくっから待ってろ」


 と言っても本当にすぐに手綱を掴んで戻って来られて、今度は私を脚の間に乗せてしまって手綱をしっかりと持った。


(し、心臓に悪いわ!)


 子供の時は『大好きなお兄様』として甘えていたけれど、成人して想いを自覚してる今では全く違う。

 アナお姉様もカティアちゃんも同じでしょうけど、想っている相手とこんな近距離で、息遣いもわかるくらい近いところでなんて、心臓が鼓動どころか破裂しそうだ。

 変な声が漏れてないだろうかと咄嗟に手で口を塞いだが、エディお兄様は特に気にされずにディシャスを動かした。

 一瞬の浮遊感と地に足をつける時の振動音。

 どうやら、浮き島に乗ったようだ。


「急ぎはしねぇが、揺れが酷いようなら……って、なんで口塞いでんだ?」


 今気付かれたようで、お姉様よりももっと濃い紫の瞳が丸く見開かれていた。


「もう気持ち悪くなったか?」

「い、いいえ」


 念のために、酔い止め用の薬飴は舐めておいたからその心配はない。

 実際、特に吐き気とかも感じないでいるもの。


「ま、薬飴舐めてても具合悪きゃ言えよ?」


 先導役だから、そろそろ発たれるらしい。

 片手で手綱、もう片方は私を落とさないように腰に腕ごと回された。

 い、一応簡易的なドレスではあるけれど、コルセットはない方がいいと言われたので付けていないが、腰回りのお肉がバレてしまった!


(ふ、太過ぎじゃないと思うけど、戻って来てからカティアちゃんの作る料理が美味し過ぎるから!)


 シュレインにいた頃より、絶対食べ過ぎている。

 その羞恥心も耐えねばならないが、落ちるのはもう二度と嫌なのでお兄様の皮マントをまた掴んだ。


(落ちたくは、ないもの)


 あの事件の時、走らせていた馬車の通りにあった谷底に落ちたのは未だに覚えている。

 飛ぶのではなく、ただただ落下して行くだけ。

 地面ではなく河に落ちたので大きな怪我はなかったが、落ちた衝撃で記憶を失う事にはなった。

 イシャールお兄様と同じ魔眼が覚醒するまでは、ずっと思い出さずに済んだのに、戻った直後に思い出したのがそれだった。


「ぜってぇ落とさねぇよ」


 上から、力強い言葉が降ってきて思わず顔を上げてしまった。

 すぐ目の前に、苦笑ではなく優しい笑顔のエディお兄様が私を見下ろしていた。


「何がなんでも落とさねぇよ」


 もう一度、はっきり言ってくださった。

 その言葉とお兄様の笑顔のお陰か、あの嫌な記憶がすっと引いて行くような感覚を得た。


「エディお兄様……」

「ま、心配すんな。お前落としたら、イシャールにどやされるだけで済まねぇからな?」


 あのお兄様のことだから、もし私が多少の怪我をしただけでもエディお兄様に殴りかかって来るだろう。

 そう思うと、背中に冷や汗が流れていった。


「し、しっかり掴まります!」

「おー、昔みてぇにがっつり来いよ」

「で、出来ないってば!」


 一応淑女なのに出来るわけがない!

 言い合ってるうちに浮き島は最高地点に到達したようで、私達は言い合いをやめて飛ぶ体勢になる事にした。

 と言っても、私が座り直してエディお兄様に背を預ける形になっただけだ。


「んじゃ、行くぞ」

「はい」


 マントじゃなくて、邪魔にならない方の腕にしがみつくと何故かお兄様に手が私の手を握りしめた。


(エディお兄様……っ⁉︎)


 見上げようにも、体勢の関係で振り返れない。

 だから、自分の鼓動が速くなるのを感じながら前を向くことしか出来なかった。










 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セヴィル視点)








「ふーゅゆ、ふゅゆ、ふゆゆ!」

「ちゃんとしたお外久しぶりだもんねー?」


 俺の脚の間に多少慣れてきたのか、カティアはクラウとのんびり会話?していた。

 クラウはまだ念話が出来ないでいるが、カティア曰く『僕の世界じゃ、しゃべれないのが普通なのでなんとなくです』だそうだ。


【神獣殿の歌のようなものは聴いた事がない】


 フェルディスの種族は耳が非常に良いので、どれだけ小さな音も風に混じって聞こえるらしい。

 久しい守護獣との念話で、奴は楽しそうに笑っていた。


【わかるのか?】

【聖獣の間で伝わってるものとも違うな。主人の御名手殿がお伝えしたと思われるが】


 これにカティアが御名手と言うのはすぐにバレた。

 と言うのも、聞くに聖獣もだが守護獣となった獣達は特に主人とその他の者との繋がりに敏感でいるらしい。

 この前の逢引の時にフェルディスがカティアへ親愛の態度で接したのは、ディシャスが言っていたようなカティアが持つ稀有な魔力に惹かれたのと、カティアが俺の御名手とわかって嬉しかったからだそうだ。

 俺に似て、女子供を苦手としてるフェルディスでもカティアは別格な存在らしい。

 この前の時に念話でカティアの素性は大体話したが、余計に嬉しさを煽っただけのようだ。

 今日も嫌がる事なく乗せているしな。


(嫌がることなく……俺はともかく、エディオス達は大丈夫だろうか)


 二日前にカティアから告げられた真実について、疑うのではなく男の心情として未だに困惑しているのだ。


(俺は二回目なのとまだカティアが幼児の姿だから手を出せないが……奴らのどちらともが成人の女性だ)


 いきなり手を出すわけがないと思うが、実はどちらとも俺とカティアのように御名手同士。

 その事実をお互い知らずでいるので、ただ想い合っているだけでも耐えられるか怪しい。

 俺だって、カティアに片腕を回してるだけで鼓動が高鳴るで済まない状態だがまだ幼児を抱いてる感じでしかない。

 二人の場合は、くどいが成人女性を抱えているのだ。

 密着する女性特有の柔らかさを感じてしまうのは、むしろ俺以上。

 サイノスは自制心でなんとかなりそうだが、エディオスは心配だ。

 何せ、俺やサイノスと違って想い人を自覚したのがつい最近だからだ。

 あれ以来荒れる事はないらしいが、先日の晩酌は酷かった。

 フィルザス神がわざとらしく退席してから、それはもうセリカへの想いがどうしようもないと吐露しまくった。

 逃げようにも、残せば暗部の者らが警護でやって来てしまうので、奴の独り言で下手な事を聞かれたら元も子もない。

 仕方なく、エディオスが酔い潰れるまで付き合うことにした。

 その翌日からは、また執務に忙殺されて恋に考えを傾ける暇はなくなったが、今日から三日間は違う。

 完全に仕事を休み、王太子以前の王子時代のようにのびのびと休暇を過ごせるのだ。

 しかも、理由を奴とアナが知らない三組の逢引計画に巻き込まれて。


「セヴィルさん、どうかしましたか?」

「ふゅ?」


 考えに耽っていたら、何も話さない俺が気になったのかカティア達が声を掛けてくれた。


「……いや、エディオスやサイノス達が大丈夫かと思ってな」

「あー……お互いの好きな人ですしね」


 俺もそうなんだが、慣れてきたのか前のような羞恥心を露わにした態度が見られない。

 もしくは、彼女なりに隠して気遣ってくれたのか。

 どちらにしても、俺も会話出来る方がいいので聞かない事にした。


「けど、着くまでは大丈夫だと思いますよ。だって、落としたら一大事で済まないですもの」

「そうだな」


 特に、セリカの方はあの事件のこともあるから余計に。

 前方を向いても奴らは黒い粒のようにしか見えないし、遠視の魔法を目にかけたところでエディオスの背しか見えないだろうから覗くつもりもない。

 だから、あれこれ考えていたモノ達を一度隅に追いやり、カティアが言っていたように今は大丈夫だと思う事にした。

 俺が考えたところで、何も出来ないのは当然だ。

 それより、


(着くまでに、カティアと語らう方を大事にしよう)


 奴らも気にかけてはおくが、俺とてこのようにまとまった休みを取るのは久しいからだ。

では、また明日〜〜ノシノシ

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