173.ピッカンテオイルとタバスコ作り
今日からまたお料理タイムですノ
◆◇◆
翌日。
僕は午前の少しをセリカさんと勉強の時間に当ててから、厨房に彼女とフィーさんと向かいました。
エクレア作りと同様にマリウスさんにお部屋を借りて、とにかく材料を集めるに集める。
と言っても、そんなに材料は多くない。
「一体何を作るの?」
フィーさんとセリカさんには何を作ると言うのはまだ告げてない。
セリカさんはクラウを抱っこしてもらって、彼女もフィーさんと同じように首を傾げてた。クラウはいつも通りわからなくてもセリカさんに抱っこされてご機嫌さん。
「ピッツァに必要な調味料ですね」
「こんなカラナばっかなのに、セヴィルのためだけじゃないの?」
「き、昨日お話してる時に思い出したんですが、フィーさんピッツァをずっと食べてると味変えたいとか思いませんか?」
「思わないね?」
すぱっと返されたのは、僕としては嬉しいですけども。
「ピッツァ、ってカティアちゃんの得意料理だったわね?」
「セリカさんにはミービスさんのところでお作りした四角パンのあれがそうです」
「なにそれ、四角パンでも出来るの?」
「ちょ、ちょっと代用なんですが」
まだ生地使ってでのシカゴピッツァはフィーさん達には提供したことがないから、フィーさんの食いつきがすごい。
今日作って!とか言われそうでも、食パン使っていいかにもよりますが。
「あのカッツを使った美味しいのね? けど、あれだけでも美味しかったのに、まだ調味料がいるの?」
「蒼の世界でもピッツァをたくさん食べる国によるんですが、途中で刺激を与えるのにカラナと酢で作ったのやリンネオイルにカラナを漬け込んだのを、ほんのちょっとだけピッツァにかけたりするんです」
「大丈夫なのそれ?」
「ほんの一滴程度が目安ですね。麺料理にもかけたり出来ますし」
「ふーん?」
フィーさんは想像がしにくいようで、ずっと眉間にシワが寄っていた。
「それを今から仕込むのかしら?」
「はい」
「じゃあ、お昼かおやつにピッツァにしようよー」
「そう言うと思いました」
最初ピッツァは明日にしようかと思ったが、明日はいよいよヴァスシードの皆さんが帰国される日。
昼まで一応いるらしいけど、きっとばたばたされるだろうからゆっくり召し上がる時間があるか正直言ってわからない。
なら、今日作るしかないでしょう。
「でも、今から生地は大変ですよね……」
「四角パン使えるなら、そっちのピッツァにしたら?」
「そこを聞いてからでしょうか?」
なので、セリカさんとクラウにはお留守番してもらって、僕とフィーさんは厨房に突入。
「……四角パンですか? ええ、今日の昼餉のサンドイッチ用にと思ったのはありますが」
「マリウス、それ全部ピッツァにさせて!」
「全部は多過ぎますよフィーさん⁉︎」
「だってたくさん食べたいしー?」
「一人一斤で十分です!」
十分じゃない人にも我慢はしてもらわなきゃですけど、クラウとか四凶さん達とか。あの人?達は人間じゃないからそもそもの胃袋とかが違うもの。
「そんな大きいの?」
「具材をたくさん入れるんで食べ応えあるんですが、女性は半分も食べれるか難しいところです」
「へぇ?」
「生地を作らずとも、ピッツァが出来るのですか?」
「ウスターソース作りの時に試食したのとはだいぶ違いますが」
「ほぅ……」
あ、マリウスさんのスイッチ入っちゃったかもしれない。
ピッツァと言うより、僕やファルミアさんが作る蒼の世界の料理なんかを披露する時に、マリウスさんは他の料理長さん達と同じかそれ以上に料理への情熱が燃え上がってしまう。
イシャールさんのようにハイテンションにはならないのはもっと大人だからだろうけど、目の色は同じように好奇心の塊だ。
今も作りたいって意欲が溢れんばかりに伝わってくる。
「や、焼き時間結構かかるんですが作りますか?」
「ええ。私どものまかないにもよろしいでしょうか?」
聞いた途端、ほぼ即答。
これはもう作るしかないかと苦笑いしちゃう。
ただし、生地の仕込みが必要ない分材料の下ごしらえと食パンのくり抜きとかはマリウスさん達にお願いしました。
「僕達は、その間にタバスコ作りです!」
それとイタリアンらしいオリーブオイルに唐辛子を漬け込んだのも用意しよう。
それは煮沸した口の狭いボトルにハサミで刻んだ唐辛子と黒胡椒の粒を詰め込んで、ゆっくりオリーブオイルを入れておくだけ。
「これだけでいいのかしら?」
「ふゅぅ?」
セリカさんとクラウはその瓶を覗き込みながら首を傾げた。
「オーリオ・ピッカンテって言う立派な調味料なんです」
「可愛い名前ね? これも蒼の世界の?」
「国は僕のいたとこじゃないんですが、輸入されて一部の料理屋さんでは使われています」
呼び方は他にもペペロンオイルって呼ばれてるし、作り方も人それぞれ。
今回は、簡単な方法で作りました。
「フィーさん、あとでいいんですがこれを一週間後に時間操作してくれますか?」
「まあ、このままじゃ辛味とか移りにくいもんね?」
「加熱して作る方法もあるんですが、僕としては熱を加えない方が好きなんで」
と言うことで、こっちは魔法での加工以外終わり。
「乾燥か、生か」
どっちの唐辛子の方がよりセヴィルさんの好みかわからない。
昨日聞いておくべきだったなぁ……。
「ゼルお兄様なら、カティアちゃんの作るものならなんでも大丈夫よ」
「そ、そう言いましても、エクレアの時のような辛さって味見してませんし」
「どっちも作ったら?」
「そうですね」
フィーさんも手伝ってくれるようなので、セリカさんもまじえて三人でタバスコ作りをすることにしました。
クラウは僕の頭に乗っかって見学。
「生は青い唐辛子にしましょう」
ただこれグリーンじゃなくて本当に真っ青だけど。
緑は収穫されたのがないのか見当たらなかった。
「乾燥は少し種が入ってもいいので計った分に塩を小さじ1を入れます」
だいたい10gくらい。
多めに作っても、一回でどれほど消費するかわからないから少なめで作ります。
「これをボウルに入れて、さっき沸騰させたお湯を注いでふやかします」
注意点は、ボウルの口と同じ大きさの陶器か何かで蓋をすること。
でないと、お湯が温くなって唐辛子がふやけなくなるから。
それと、
「湯に入れたカラナが熱気に辛味が移るので、無闇に顔を覗き込まないでください。目が痛くなるだけじゃすまないので」
「気をつけるわ」
「まずこう言うの作る以外ないけど……」
「生の方でも似た部分があるので作りながら説明しますね」
ふやかすのと冷める時間が必要なので、こっちはしばらく放置。
「生の部分は、ヘタを取って全部ボウルに入れます」
地球でならこれをミキサーなんかに入れるけれど、ここは黑の世界だからそれはない。
だけど、ない代わりに魔法が存在する。
「輝け包め、囁きの布束」
両手をボウルにかざして呪文を唱えれば、緑のベール出現してボウルの上から半円状に包み込んだ。
この魔法は中のモノを外に出さないための防御結界の役割をします。あと、匂いもだけど湯気と同様に顔を近づけたら大変なことになる。咽せるだけですみません!
「次は……縦横無尽に廻れ、斬切!」
僕の十八番になりつつあるフードプロセッサー並みに切り刻んでくれる風魔法。
ボウルの中に風の球体が出現し、呪文通りに鋸歯を出してあらゆる方向から中の青唐辛子刻んでいく。
けど、いつものジェノベーゼなんかより段違いに真っ青だったんで、クラウも含めて全員ぞっとするくらい引いちゃいました。
けれど、作らないわけにはいかないからそのまま続行することに。
「ある程度すり潰したら、お酢を入れてまた混ぜます」
この結界は僕のやり方だと内側のモノは弾き出せないけど、外からの衝撃は通過して食材を追加するのにちょうどいい。
戦闘中じゃ意味ないけど、僕はそんなことにはなりたくないからいいと思ってる。今は、だけど。
「それとすりおろしたオラドネも少し加えて」
ある程度混ぜたらこれで完成でもいいんだけれど、まだまだ時間があるのでもう一手間。
また明日〜〜ノシノシ