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170.夢の通い路にて

 







 ◆◇◆








 帰る時間になるまで、出来るだけお互いについて話し合ったりしながら滝の周りを散策しました。

 奥地の自然にしては歩きやすい道だったので、思ったよりは疲れなかった。お水はリーさんが飲んで問題はないとは言っても、万が一のことがあってはならないからと、セヴィルさんがクード・ナップに入れておいた水筒のお茶や水を飲むことで、渇きは大丈夫でした。


「そろそろ城に戻るか。疲れただろう?」

「大丈夫ですけど……」

「甘くみない方がいい。その身体に補填はされていても体力の限界は思ったより早かっただろう? イシャールから報告があった」

「イシャールさんが?」


 あ、式典最中のほとんど、自分の終業時間になるとバテてたからだ。

 初日のようにならないようにって注意してても、もっと頑張ろうと無意識のうちに体が動いちゃって結局はバテてた。

 まさか、セヴィルさんに報告されてるとは思わなかったけど、なんで報告されたのかな?


「俺の御名手は秘匿事項だが、エディオスの客人としては伝えてあるからな? 何かあってからでは遅い。識札で出来る限り報告しろと言ってあったんだ」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、俺の勝手だ」

「え?」

「好いてる相手のことを気にしない男がどこにいる?」

「う」


 はっきり言われる時の、心臓を鷲掴みされるような衝撃には慣れない。


(な、なんか、今日はふっ切れてる気がするし……)


 昨日ファルミアさんが提案した時に脅し?のような言葉を言われたせいもあるからだろうか?


(でも、嫌じゃない……)


 自覚はちょっと出来たかもだけど、お風呂でファルミアさんが言っていたような御名手の大事さを実感してからにしよう。

 セリカさんの方も大変だから、お節介かもしれないけどそっちが優先。


(僕にとって、初めての恋かもしれないから)


 慎重にいきたいんです。臆病なところもあるから余計に。

 とにかく、帰る時間も考慮して速度を落としながらお花畑に戻り、お土産用のお花を摘んでクード・ナップに入れてからフェルディスに降ろしてもらった場所に向かう。

 途中、茂みの中になると問答無用でお姫様抱っこになったのは言うまでもなく。怪我防止のためだから思ったよりは羞恥心は込み上がらなかったです。

 エディオスさんがディシャスを呼んだ時に使ったのと似た笛をセヴィルさんが吹けば、フェルディスはすぐにやって来ました。

 あとは行きと同じように搭乗仕度です。


「飴の効力は約一日だから帰りは大丈夫だろう。少し速くするがいいか?」

「た、多分、大丈夫です」


 緊張感を持ってしまうのは仕方ないけれど。

 それから程なくしてフェルディスを飛ばして、僕らは帰ることになりました。


「ふーゅぅ……」


 やっぱり疲れたのか、クラウは飛行してからすぐに眠りに落ちてしまった。

 軽くお腹を叩いてあげてから寝やすいように抱え直す。

 僕は、緊張感はやっぱり出てきても、行き程激しくはなかった。


(なんか、安心するかも……)


 色々あったお陰か過度な緊張感がほぐれて、体ががちがちになったりすることもない。

 あとなんだか眠くなってきてうとうとすれば、頭上からセヴィルさんが『無理せず寝るといい』って言ってくれたから、僕はお言葉に甘えて瞼を閉じることにした。









 ◆◇◆








 意識がなんだか朦朧とした感じだ。

 フェルディスの飛び方が変わったのかと思って目を開けてみたら、何故か僕一人で真っ暗闇の空間にいた。


「せ、セヴィルさん⁉︎ クラウ⁉︎」


 大声で叫んでも、二人の声は聞こえずで僕の声が空間に反響するだけだった。


「こ、これ夢?」


 ほっぺをつねったら、神域の時のように夢じゃない痛みがじんわり伝わってきた。

 経緯はどう言うわけかわからないが、僕は帰還中にどこかへ連れ去られてしまったみたいだ。


「いいえ、違うわ。ここは夢路。私があなたの夢に介入してあなたの魂だけを実体化させたの」

「だ、誰ですか⁉︎」


 急に聞こえた可愛らしい女性の声に振り返れば、そこにはファルミアさんくらいに身長が高くて、リーさんの着てたギリシャ神話のような白い服と紺のケープを羽織った綺麗な女性がいらした。


(こ、この人ファルミアさん達の上を行く美女だ……!)


 真っ暗闇なのに薄い光の膜をまとってるのか髪や目とかもよく見えた。緑の黒髪って表現が正しいような綺麗な黒髪のストレートロングは足首まであって、目はユティリウスさんのようなライトグリーン。だけど、不思議な吸引力を感じて目が逸らせれない。


「ふふ。言われ慣れてはいるけど、そんな正直に思われると照れるわ」

「へ?」

「ああ、あなたの心はこの夢路じゃ伝わってくるのよ。残念ながら私のは無理だけれど」

「筒抜け⁉︎」


 なんと恥ずかしい!

 けど、それじゃあ今羞恥心に駆られてるのも筒抜けだろう。

 綺麗なお姉さんは、手で口元を押さえながらもくすくす笑っていたから。


「自己紹介がまだだったわね? 私の名前はサフィーナ。(みどり)の世界の管理者で、フィーの姉よ」

「ふ、フィーさんのお姉さん?」


 自分が言おうにも、彼女の最後の言葉が頭を埋め尽くしておうむ返しのような質問をしてしまった。

 でも、気分を悪くしたそぶりもなく、彼女はこくりと頷いた。


「ええ。あなたが元いた世界の管理者であるレイアークは弟よ」

「そ、そうなんですか」

「疑問はそうではないでしょう? 何故夢路……あなたにわかりやすく言えば夢の中でわざわざ呼び出したのか。それには答えてあげるわ。立ちながらもなんだから、座りましょう?」


 と言って、軽く指を振った後に僕とサフィーナさんの前にそれぞれごく普通の木の椅子が出現。彼女が腰掛けてから僕も座った。


「まずは、ごめんなさい。疲れてるところに無理に押しかけて」

「い、いえ」

「少し急ぎだったの。あなたの記憶にかけた封印を解くのに、クロノ兄様とレイが動き出したから」

「え?」


 例のお兄様方が動き出した?


「ああ。あなたが知らないのも無理ないわ、あちら側の事情なの。私が出向いたのは、ちょっと別の事情よ」

「別の、ですか?」

「あなたの御名手。例の彼に抱いた気持ちが蘇りそうでしょう?」

「え、あ、う⁉︎」


 そこまで筒抜けなんですか⁉︎

 まだ自覚しかけて少しなのに、この空間にいる限り全部筒抜けになってしまうのか。なんて拷問……。


「筒抜けなのは我慢してちょうだい。本題は、はっきり自覚した後に起き得るあなたの今の身体と魂が耐えられるかわからないのよ。その変化を少しでも緩和させるために、祖父に言われて私が出向いたの。夢路を渡って他者の意識に介入出来るのはクロノ兄様を除くと私だけだから」

「体の、変化?」

「フィーが色々頑張ってるようだけど、身体が蒼の世界で生活していたように戻らないでしょう? 理由は私も詳しくは聞かされてないけれど、この場にいるからはっきりわかるわ。記憶の封印と連動して、その封印がもし解けたら戻る可能性はあるけれど、聖樹水を抜いた今でも身体が変化に耐えれるかわからない」


 かなり遠回りに説明されたが、要するに僕の今の体と記憶の封印はやっぱり関係があるみたい。

 封印を解除すれば元の大きさに戻れる可能性はあっても、リスクなしに戻れる可能性も低い。

 わかったのは、この二点だ。


「そ、それとセヴィルさんへの気持ちを自覚した時とどう関係が?」

「その想いが鍵だからよ。眠りに落ちる前に芽生えた想いは、少しずつ封印に影響しているわ」

「じゃ、じゃあ……」

「兆しは、セヴィルがあなたに記憶の話をする少し前……いいえ、違うわ。黑の世界でセヴィルに再会してから綻びは出来た。思い当たらない? 何か既視感を覚えたのは?」

「え、えーっと……」


 あ、あった。

 セヴィルさんの寂しそうな表情とか考え込む時とか。

 あれを見た時、ふわっと見覚えがあるかもって何度も思っていた。

 頷けば、サフィーナさんは小さく息を吐いた。


「祖父は言ってたわ。あなたの記憶はもうしばらく時をかけて封じておく必要があるの。気持ちについては止めようがないけれど、私が介入すれば封印は強固に出来る。あなたへの負担は、継続してその身体のままってところかしら?」


 元に戻る兆しが来ても、さっき説明してくれたような状況になりかねないのだろう。

 僕としては残念ではあるが、わざわざ神様が出向いてくれたんだ。きちんと元に戻るために、例のお兄様方だって動き出したって言うから。


「あ、あの」

「どうぞ?」

「か、体は、いつかは元に戻るんですよね?」

「ええ。そのために私達は動き出したから」


 きっぱりと言ってくれた。

 なら、僕もうじうじせずに決めよう。


「じゃあ、待ちます。もう帰れないし、多少不便はあってもなんとか出来てますから」


 一年や二年どころか、何百年も生きる体にまでフィーさんに創り変えられちゃったから、急ぐ必要もない。

 セヴィルさんを待たせるのに変わりはないけど、僕の気持ちが加速し過ぎて自分を壊す原因にしては意味がない。


「いい覚悟だわ。こちらも急ぐけれど、時間流は等しくないの。世界の間に流れる時間はすべて同じではないから、そちらで何年かかるかわからないわ」

「わかりました」

「けどまあ、あれくらいの年頃が幼女趣味に勘違いさせられてるとなると色々後ろめたいわね。レイの世界風に言うとロリコン?だったかしら?」

「せ、セヴィルさんはロリコンじゃないですよ‼︎」


 単に僕の今が8歳児の状態だからそう見られるかもわけで。


「ふふ、ごめんなさい。じゃあ、目を閉じて? 私とここで会った記憶は起きると消えてるでしょうけど、もし次があったら蘇るわ。私は管理者以外に夢を渡る能力があるから記憶に残りにくいの」


 今から封印の強化の術をかけるからと、サフィーナさんは僕に近づいてきて長い人差し指を僕の額に置く。

 すると、自然と瞼が降りた。


「また会う機会があるならば」


 その言葉を聞いた直後、僕の意識はふつりと途切れた。

また明日〜〜ノシノシ

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