169.真心を伝えられる
しっかりクラウを抱え込んでから、滝周辺を散策することになった。
「珍しいお花があるって聞いてたんですが」
「見当たらないな……?」
きょろきょろ辺りを見回しても、お花なんてなくて芝生とか苔ばっかり。
だけど、しばらくしてお花の蕾がある群生地帯が見えてきた。滝があるほんとすぐ近くの岸辺に。
「開花直前だが、この様子じゃすぐではなさそうだな?」
「ちょっと残念ですねー」
お花はルーキゥでいっぱい見たけれど、せっかくリーさんが見て来いって言うからとっても綺麗だろうなぁって少し期待してたので。
「……また来ればいい」
「え?」
小さな呟きに顔を上げれば、セヴィルさんは僅かに微笑んでいらした。
「ファルミア達にこれ以上動かれては敵わんからな。俺は俺なりに動こうと思う」
「え、え、え?」
それって、これからもデートを企画してくださるってことだろうか?
(な、なんだろう……)
胸の中がぽかぽかしてくる。
けど、あったかいと言うより熱い。火の当たった時のように体がかっかしてきた。熱でも出来きたのかって思うけれど、そこまで鈍くはない。
なので、
「う、嬉しいです……」
正直な気持ちを返そうと、クラウを抱っこしたまま彼に伝えてみた。
すると、セヴィルさんは瑠璃の瞳をこれでもかと見開いてしまった。
「? セヴィルさん……?」
「ふゅ?」
何故かそのままフリーズしてしまったので片手を彼の前で振っても一向に元に戻らず。
だから大丈夫かと体を揺すろうとしたら急にその手を掴まれた。
「え?」
次の瞬間、ぽすんと軽い音を立てて僕はクラウごと何か温かいモノに包み込まれた。
「……やはり、そのような顔を、俺以外に見せないでくれ」
至近距離の吐息混じりな美声。
アンド、顔を上げれば真近のご尊顔。
つまり、以前とは逆に真正面から抱きしめられてしまったわけで。
「せせせせ、セヴィルさんっ⁉︎」
慌てるのは当然至極。
離れようにも肩と腰はがっちりホールドされてしまってるので余計に密着するだけ。
それに僕が抱っこしたままのクラウもピンチだ。
「ぶ……ゅ、ぶゅぶゅぅ」
押しつぶされて変な声が出てしまうくらい。
さすがにこれに気づいたセヴィルさんはハッとして僕らを離してくれました。
「す、すまない、クラウ!」
「ぶゅぅ……」
よっぽど苦しかったようで、クラウの顔を覗き込んだら息絶え絶えになっていた。
「だ、大丈夫?」
「ふゅふゅぅ」
僕が声をかけてやると、ピコっと手を上げて元気回復になったから少しほっと出来た。
「ほ、本当にすまない……」
対するセヴィルさんは真っ青なくらいに落ち込まれていた。
「神獣を潰しかけるなんて俺は……」
「ふゅふゅ!」
まだ続けようとした言葉に、クラウが僕の腕からすぽんと抜け出して、セヴィルさんの頭にしがみついた。
それは、クラウが生まれた晩にヴァスシードの国王夫妻にもした行動だった。
「ふゅ、ふゅぅ」
「…………気にせずとも、良いのか?」
「ふゅぅ」
セヴィルさんの返事にクラウはすりすりと彼の黒髪に頬ずりした。
(ちょっと、可愛いかも……)
セヴィルさんはちょっと拍子抜けした顔をしているけど、クラウが甘えたな仕草をしてるから余計に可愛いと思える。
「……ふふ」
それとなんだかおかしく感じてしまう。
セヴィルさんが慌てるのだなんて久しぶりだったから。
「……そこまでおかしいか?」
「ええ」
今もクラウが頭にすりすりしてるから笑いが込み上がってくるのが抑えられない。
少しの間笑ってから、セヴィルさんは引き剥がしたクラウを僕に戻してきた。
「そのように笑うようなものでもないと思うが、カティアの笑う姿は久しいな?」
「そうですか?」
だが、考えれば彼と一緒にいるのもご飯を食べる時くらいだ。
あまり笑う機会を見ないのも無理ないかも。でも、この世界に来てからこんな風に笑うのも初めてだ。
(ここに来る前も、笑うって結構忘れてたかも)
接客時とかは別だけど、調理中とかは真剣に取り組むことだから笑顔を作ることしか考えていなかった。
「激務から程遠いところにいるから、気を張る必要がなくなったのもありますね」
「俺は想像しか出来ないが、執務と違って身体を酷使しがちになるのか?」
「入り立てはそうでしたね。家に帰って、軽くお風呂に入ってから寝るの繰り返しでしたし」
「それに比べれば、今はたしかに違うな」
「フィーさんや皆さんのお陰です」
あの時フィーさんが見つけてくれて、エディオスさんがお城に連れて行くと言ってくれなかったら、セヴィルさんや皆さんにも出会えなかっただろう。
「こんな幸せでいいのかなぁ……」
勉強は大変だけど、好きな事をさせてもらってる日々。
お城のお客様って扱いだけで随分と贅沢な事だ。
これからずっと続くと思うと幸せ以外のなにものでもない。
「幸せ、なのか?」
あれ、僕口に出してたのだろうか?
セヴィルさんがぎこちなく聞いてくる辺り、やってしまったと自覚。
すぐに顔が熱くなってきた!
「あ、いえ、そ、そそその、こんな穏やかな毎日がって意味で!」
慌てて取り繕うにもセヴィルさんは既にお顔が真っ赤っかな状態だった。
僕が訂正を入れると、少しして『そ、そうか……』と言いながら、軽く咳払いしました。
「だが、これだけは言わせてくれないか?」
「え?」
立ち止まったかと思えば、僕の前に跪いてきた彼の瞳は狼狽えてた様子なんてまったくなかった。
真剣な瑠璃の瞳に、僕は抱っこしてたクラウをきゅっと抱きしめる。
「俺は、前にきちんと言えずでいたが……カティア、お前だから愛しく思う。御名手だとはっきりしてから殊更気持ちは膨らんでいる。今すぐでなくていいから、お前の気持ちも聞かせてほしい」
まるで王子様のような告白をされてしまいました!
「え、ふぇ⁉︎…………っと、その」
お散歩の時に言われたのよりはっきりと告げられたので、僕の頭はキャパシティオーバーにまたなりそうだった。
気絶しなかったのは、セヴィルさんがじっと見つめてきてるせいか。
(い、急いでないって矛盾してるよぉ……)
鈍い僕でも、真剣な表情と瞳が物語ってるのがはっきりしてたら、僕だって焦っちゃうしどう返していいかわからない。
(で、でも、正直言って……)
嬉しい。
すっごく、嬉しい。
焦り以上にその感情が頭や体全部包み込んじゃうくらい、あったかなモノが広がっていく。
せめて、それだけでも伝えようと口を開いたら、何故かセヴィルさんの指が唇に添えられた。
「う?」
「急く状態にしてしまったのは、俺だったな。その顔を見れたのなら今は聞かないでおく」
「ん?」
顔って、さっきも言われたけど、どんな顔をしてるんだろう。
知りたいが、聞こうにも唇を抑えられてるので、とりあえず頷けば指は離れていった。
「時間も限られている。話しながらこの辺りを散策しよう」
そうして自然と差し伸べられた手に、僕はまた迷わずに手を添えていました。
告白です✩°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
セヴィルなりの、ですが。
カティア自身はいつになるかはわからない。兆候はあっても、ですけど(今更感w)
では、また明日〜ノシノシ