167.不機嫌な神霊
到着した時には、リーさんは超絶なくらいに不貞腐れてた。
どれだけって、お花の絨毯の上で寝そべってほっぺ膨らませてるって感じで。フィーさんより年下なのはわかってるけど、仕草とかが彼にそっくり過ぎで一瞬フィーさんががここにもいるんじゃないかって勘違いしそうな程だった。実際は体の大きさや服装含めてリーさんの方が大人の体格ではありますが。
「……おーそーい」
「す、すみません……」
たしかに待たせ過ぎちゃた自覚はある。
主に僕のお腹の空き具合なせいで。
お話出来たこととお弁当の話を隠さず話せば、リーさんの尖ったお耳がピクピクと動き出した。
「食事⁉︎」
「え、あ、はい」
もしかしてお腹が空いているのだろうか?
いや、聞くまでもないかも。
好奇心に満ち溢れた薄金の瞳は、『ご飯欲しい!』って言うのがわかりやすいくらい輝いていた。
「の、残りがまだありますが……食べますか?」
「食べるっ」
やっぱり即答でした。
セヴィルさんと頷きあって、魔法袋からまとめた方のバスケットや使ってない銀食器などを取り出した。
「嫌いなものとかありますか?」
「特にないな!」
なら遠慮する必要はない。
セヴィルさんには食べたがってるクラウを押さえてもらい、僕が取り分けてから差し出した。
「作ったのは僕じゃないですが」
「カティアは食事が作れるのか?」
「元いた世界では、見習いくらいですけど。一応、料理人です」
「じゃあ、今度作ってきてくれないか?」
「え?」
またここに?
聞こうにも、既に美味しそうにサンドイッチやおかずなんかをフォークを使いながら食べてたので少し待った。
「うん、悪くない。けど、魔力の質だとやっぱカティアのが段違いに上だな?」
「あ、ご飯に魔力が染み込むんでしたっけ?」
自分じゃわからないけれど、フィーさんが言うには聖獣さん達やクラウのような神獣はそれを糧にお腹を満たすって。
「そう。俺の場合は神力が主だが、魔力も普通に受け付ける。カティアのなら、ちょっともらっただけでも300年は眠らずに済むからな! 出来ればの話だがどうだ? もちろん無償とは言わんぞ」
「ぼ、僕の一存で決めていいかどうか……」
ここに来るのは偶々だったし、セヴィルさん達のように騎獣なんて持ってないから自分一人で来れない。
セヴィルさんを見れば、彼は軽く肩を落とした。
「俺も度々休みは取れなくないが、頻繁には難しいな。それならまだフィルザス神と共に来た方がいい」
「ですかね」
「ふぃ、フィー様……一緒に、いるのか?」
おや、何か後ろめたいことでもあるのかな?
これにはリーさんじゃなくて、彼の上で浮かんでるリチェイラさん達がくすくす笑っていた。
『創世神様の小言が嫌なのよね?』
『リージェカイン様はサボりがちだもの』
『以前起きた時は、あの方に散々言われてたもの』
ねー、って揃いも揃って頷きあえば、リーさんは白い肌を真っ赤にさせながら歯ぎしりしまくってた。
「うるさい! 俺の勝手だろ!」
「「『あら怖い』」」
空いてる手でしっしと振れば、リチェイラさん達は笑う事を止めずに僕の後ろに飛んできた。
(僕を盾にしないで!)
リーさんの睨みって、セヴィルさんに匹敵するくらい怖いから!
でも、割とすぐに目くじらを引っ込めて食事を再開させた。
「しょーがない。フィー様に伝えるのはまあ仕方ないが……たまには遊びに来てくれよ?」
「それも僕の独断じゃ決めれませんが……ところで、お話ってなんですか?」
「おー、そうだったな。ちょっと急いで食べる」
そこからは一心不乱に食べ出して、パン屑一つ残さずに綺麗に食べきってくれました。
「ごちそーさん! で、話だったか? 少し長くなるから、聖精達。また出してやってくれ」
「「『はーい』」」
少し前に出してくれた敷物は彼女達が言ったように消えてしまったので、再び呪文を唱えて新しい敷物を出してくれた。
その上に僕達が座ってから、リーさんはリーさんでお花の上であぐらを掻き直した。
「カティアの身体なんだが、魔力の流れがところどころ詰まってる。簡単な魔法を使うには問題はないだろうが、不便なことはないか?」
「最初に、椅子が引けなかったくらいですが」
皆さんのように頻繁に使うと言っても、ほとんど料理に関するものばかり。
「物に宿る力との相殺か? 他は?」
「え……っと、料理に使う魔法は特に問題なく使えてます」
「火をつけたりくらいじゃ?」
「いいえ。食材を風で細かく砕いたりとか、冷やしたり結界で温熱を保ったりとかは」
「……魔力の量は少なくて済むが、なかなかに緻密な技術がいるけど出来てんだな?」
「そこは失敗せずに割と普通ですね」
「それは、神獣殿……じゃなかった、クラウ殿がいるからか?」
「クラウが生まれる前からですよ?」
「んん?」
事実を言っただけなのに、リーさんは首を捻っちゃった。
「それだけの魔力の保有量で大して失敗もせずに、神獣殿の加護も関係なく魔法が使えてるのか……一度失敗したのは物に宿る魔力との相殺だけ」
「あ、あの?」
「ああ、すまん。フィー様も疑問に思われてるはずだが、何かしらの術も施さずに放置しているのが気になってな? 何か、訳でもあるのか?」
「えーっと……?」
何かあったっけ?と首を捻っていたら、答えたのは僕ではなくセヴィルさんだった。
「たしか、神域の聖樹水を大量に飲んだとは聞いてるが」
「あ」
「聖樹水を? フィー様の許可なくどうやって?」
「じ、実は……」
うっかり忘れてた重大なことを、異世界トリップも含めて大雑把に説明したら……リーさんは大袈裟なくらいにため息を吐いた。
「フィー様もフィー様だが、こちらの常識を知らぬ者に問い詰めても無理はないか。しかし、フィー様が身体の創りを変えられてもその大きさに、魔力の不調。俺で出来るかわからんが試してはいいか?」
「と言うと?」
「簡単に言えば、滞ってる部分を治すってことだ。俺を目醒めさせてくれたんだから、礼としてそれくらいさせてくれ」
「フィルザス神はやめておくように言ってたが……」
「まあ、そうかもしれんが聖樹水に関してはあの方よりも俺達神霊の方が身近だ。俺達の神力の源はあれそのものだからな?」
と言って、僕に来い来いと手招きしたので彼に近づいた。
僕が前に着けば、右手を優しく掴んできた。
「穴埋めの部分は染み込んでるから消されることはない。あくまで、水そのものを抜いて魔力の詰まりをよくさせるだけだ」
言い終えてから彼は目を瞑り、ゆっくりと口を開けた。
〽︎集え靡け 葉の乙葉達よ
奏でろ繋げ 山査子の片穂
此の者に宿りし我が欠片
流れよ抱け
流れよ疾れ
繋げ繋げ箒星
血脈より導け
滞りし 彼の御方のせせらぎを
淀みない綺麗な低音が歌を紡いだ。
僕は少し前に歌った時のように意識が朦朧とするのはなかったが、体の中がリフレッシュしたかのようにすっきりした気分になった。
リーさんが歌を歌い終われば手を離され、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「気分はどうだ?」
「なんか……すっきりしました」
「そりゃ、聖樹水を抜いたからな?」
ほらっと、空いてる手を僕の前に持ってきて握り込んでたそれを開けば、青い球体がありました。
「これはカティアから抜いた聖樹水の集まりだ。力の影響が残るのはしょうがないが、まだ中に残ってる水だけは抜き取ったんだ。これは」
「え」
その球を何のためらいもなく口元に持ってったかと思えば、パクリと口に入れて飲み込んでしまった。
「これは俺達に必要な神力の一つだからな? ヒトの仔がしばらく体内に入れ過ぎると身体に良くない。フィー様がそれを取り除いてても、魔力に影響してるんじゃな」
「無闇に抜くなとは言ってたが……」
「様子見はされてたんだろ? けど、結構経っててこのままじゃ何かあってからじゃ遅い。聖樹水は、本来俺達神霊か神獣殿以外を除けば、フィー様だけしか身体に取り込めない。ヒトや聖獣とかには毒だからな」
「「毒⁉︎」」
「神力の塊だからな? ヒトでもそこそこ長命だからって身体に取り込んだ後何が起こるかわからない」
それで、あの時フィーさんは急いで僕の体をなんとかしてくれたんだ。
また明日〜〜ノシノシ