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160.女子会での考察(セリカ視点)

デート側から少しずれますノシ








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セリカ視点)








「今頃どうしてるでしょうね、あの二人」

「そうですわね」


 お茶会が始まって少し。

 ファルミア様お手製の焼き菓子を摘みながら、私達は三人だけのお茶会をアナお姉様の私室で開くことになりました。

 お姉様のお仕事は昨日までに切り詰めたので今日は休養日にしたらしく、急ぎのもの以外は受け付けないようにされてるらしい。

 私は侯爵家に戻ったばかりだが、カティアちゃんの家庭教師を除けば普通の貴族令嬢の生活とさして変わりはない。

 ただ、学園の職員見習いやミービスさん達の手伝いをしていた癖がすぐに抜けるはずもなく、体が動き出そうとするのはどうしようもない。慣れねば、とは思うけれど最低10年は様子見しなくては無理だろう。

 なにせ、ここからいなくなった歳以上に市井に馴染みすぎてたから。


(私のことよりも、カティアちゃんとゼルお兄様だけれど)


 香草茶をひと口飲んでから、考える方向を変えてみた。

 今日ゼルお兄様と逢引に行ってしまったカティアちゃんだが、事情を聞かなければ神童と間違えてしまうほどの利発的で可愛らしい女の子だ。

 本人は、容姿については無頓着でいるらしいが、成長……私と同世代の姿に戻ればきっと美しいことが予想出来るのに。どうも自信がないでいるようだ。

 金の髪だけでも充分目立つが、変幻(フォゼ)であった蒼い瞳を解除した虹の瞳。あれだけでも惹きつけてしまう相手は数知れないだろう。上層部でも厨房や食堂の者達にしか披露はしてないらしいが、元の姿に戻れば正式にお披露目するに違いない。


(ゼルお兄様のあの様子から、昔見てきたことと比べものにならないくらい彼女を好いてるのはわかるわ)


 気軽に微笑むことも、他人を気遣う態度を露わにすることなんてなかった。

 身内や幼馴染みを邪険にはしないが、進んで言うことなんてほとんどなかったもの。

 だから、美しいけれど私は少しお兄様を苦手でいたのだ。話す時も、事務的な挨拶以外意図的に避けてたくらい。


(……そんな相手が、たった一人の異性のおかげでああも変わるもの)


 不謹慎かもしれないが、楽しみでしょうがない。


「あら、セリカ。どうかして?」

「あ、いえ」


 顔に出してたようで、お二人の視線が私に向けられていた。


「もしかして、エディお兄様のことかしら?」

「ち、違うわアナお姉様⁉︎」


 し、四六時中、エディお兄様のことは考えては……ないとは言い切れない。記憶が戻ってからも含めて、片想い歴はそこそこ長いから。


「ぜ、ゼルお兄様とカティアちゃんのことよ。お兄様の変わりようにも驚いたけれど、良いことだなって思って」

「そうね。私も40年くらいしか付き合いはないけれど、ゼルの変貌ぶりには驚かされたわ。セリカの言う通りいい意味でね?」

「わたくしも思いますわ」


 うんうんと三人で頷き合った。


「あのゼルの初恋の相手だもの。しかも、異界同士故に二度と会えないと思ってた相手。これは手の届く場所に置いておきたいはずだもの。奥手ではあるけど」

「ゼルお兄様の、初恋の相手?」

「そうは伺いましたが、どう言う経緯でですの?」

「セリカにもリュシアにもまだ事情を伝えてなかったわね? と言っても、私も詳しくは聞いてないけれど……ゼル自身が蒼の世界に行く機会が一度だけあって、その先で匿ってくれたのがカティだったそうよ。その時は御名手とは、あの人わからなかったらしいわ」

「「ゼルお兄様が異界渡りを?」」


 いつの頃だろうかとお聞きしたところ、180年前ではあっても、私がいなくなる前か後かはファルミア様にもわからないそうだ。

 いなくならなければ変化は見られたかと思うが、つい先程ファルミア様が変わりないことを口にされてたからその考えは隅に追いやることにした。


「ですが、それでもカティアさんの記憶は一部封印状態。解呪は難しいでしょうか?」

「フィー自身が解けないって言うもの。実名のこともだけど、外部の介入者は私達じゃ太刀打ち出来ないはずだわ」

「何故ですの?」

「考えてもごらなさいな? フィーが無理と言うならその最上級……彼の身内の神々の誰かが手を差し伸べたはずよ」

「創世神様のお身内……」


 昔、フィルザス神様が手なぐさみにお話してくださったことがある。

 ご自身は、神の中では最下位の位置にいると。

 理由は御生まれになられた順番で決まるそうだ。



『直接会えないのは寂しいって言ったら嘘になるけど、兄様や姉様は皆何かしら僕を構ってくれるから』



 この世界の管理者として、たったお一人しか存在しない神。

 ずっと少年の姿を保ったまま、我が国だけでなく世界を管理される存在だ。

 幼い頃はその凄さを理解はしてても今のように実感はしていなかった。なので気安く敬語抜きで話していたが、もう出来ない。

 それはさておき、彼でも破れない封印がお身内の方によるものなら……カティアちゃんの記憶もだが身体もすぐには元に戻らないだろう。

 彼女がこちらへ異界渡りしてきてひと月程は経つらしいが、特に目立った変化はないそうだ。


「封印については、フィーに任せるしかないわ。あの人、表立っては動いてないけれど何かしら策は練ってるそうだから」


 それがわかるのは、この方が暗部の家柄の出身者だからだろう。

 フォックスさんは直接的に教えてくださったことはないけど、彼が言うには『察しが良過ぎて警戒心を持たせるのが嫌だ』と。

 探り、導き出して正しい答えを主人に伝えるのが仕事の一つだとよく言っていた。王妃になられる前のファルミア様の事を知らないのは当然だが、昨夜の湯浴みの際に伺った事から大変な道のりではあったはず。

 私なんか比べ物にならないくらい、過酷な道のりだっただろう。


「それはさて置き、あの二人奥手過ぎないと思わなくて?」

「ええ、そうですわ!」


 話題を変えた途端、アナお姉様が卓に手を叩きつけて立ち上がった。


「お、奥手?」

「あなたもだけれど、あの二人ほんとに誰かが介入しないと意識し合わないのよ。まだ二日程度だけど、セリカから見てどうかしら?」

「そう、ですね……」


 ファルミア様に聞かれたので、とりあえず思い返してはみるが……初日のあの強烈な一撃をエディお兄様方にお見舞いする以外でカティアちゃんと……昨日の夕餉も一度振り返ったが、積極的にお互い会話してるようには見えなかった。

 むしろ、ただの知人の範囲でしか。


「ね? あなたが思い出しにくいくらいないのよ! ゼルお兄様はまだわかるけど、カティアさんはもっと積極的でもいいのに!」

「カティの性格から積極的になるのは料理くらいね」

「ですわよね……」


 ずっと見てきたお二人でさえ嘆息する程。

 よっぽど、カティアちゃんは恋愛面に関しては積極的じゃないようだ。


(それでファルミア様が言い出さないと、ってくらいに逢引すらないなんて)


 市井で生活してきた私の場合、自由恋愛が普通だったから周囲の同性は割りかし自由に異性同士で約束事をしていた。

 別れたり、付き合ったりは様々だったが……年頃になれば意識する人は多くなって、気になった相手には逢引を持ちかけるのは男女問わず。

 私はと言えば、年頃の時に記憶を戻したから……エディお兄様のことが諦められなかったのと御名手の重要性を思い出したから軽々しく応じてなかった。

 とは言え、御名手自体がない世界から来たカティアちゃんならゼルお兄様の美しさに魅せられて、いくらかは積極的になるだろうと思ったが、実際は真逆。

 下手すると私以上に奥手じゃないだろうかと心配になるが、今日は本当に大丈夫だろうか。


「カティアちゃんは、ゼルお兄様の事をどう思ってるんでしょうか?」


 御名手は決定事項でもそれは重要だ。


「そうね。外見には惑わされてるようには見えないわ。内面をどう見てるかは私もずっとは見てないからわからないけど……多少は意識してるようね。考え方が、食べ物の好みについてだけど」

「食べ物?」

「彼女の職業病ね。セリカになら少しはわかるでしょうけど、苦手なものや体質に合わないものを気にしてなくてはいけないのよ。あとは好みに合わせて提供するとか。カティの場合は、ゼルが甘いものが得意じゃないから出来るだけ食べやすいものとか辛いものを作ろうと思ってるのよ」

「でも、それはどちらかと言えば給仕や調理人の考え方ですね……」

「実際調理人だからしょうがないわ」


 カティアちゃんは元の世界では、バルよりはレスティに近い店で雇われて修行をしていた調理人だったそうだ。

 レスティに行く回数は私の場合限られていたが、今の身体でもあれだけ手際がいいから本当に腕の良い調理人だと納得は出来る。


「まあ、一回目でゼルがカティを抱きしめてたから今日も何かしらあるんじゃないかしら?」

「「ええっ⁉︎」」


 あ、あのゼルお兄様からそんな行動を⁉︎

 アナお姉様と顔を見合わせても、彼女は藤色の瞳をこれでもかと丸くされていた。多分、私も同じだろう。


「だーからじゃないけど、深く心配し過ぎても良くないわ。成り行きに任せるしかないもの。それと」


 一旦言葉を切ってから、ファルミア様はカップを傾けた。


「あなた達も結婚適齢期に差し掛かってるんだから本気で御名手を見つけないと! お互い好いている相手がいるのならそれが御名手なのか確かめなくちゃ」

「で、でででででも!」


 エディお兄様がそうと決まった……私だけじゃない?


「アナお姉様も?」


 慌てるのもやめて彼女に振り向けば、御髪に違わないくらい頬や首元が紅に染まり上がっていた。


明日もデートとは違うお話になります、お楽しみにノシ



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