158.妖精からの救援
『ふふ、可愛い仔だわ』
『小さいけれど、可愛い仔』
『お邪魔をしてごめんなさい』
きゃぴきゃぴ騒ぐ二人?匹?より幾分か落ち着いた、チューリップに似たスカートのドレスを身につけてる赤茶髪のリチェイラさんが、僕らに向かって謝罪してくれました。
『番同士の逢引をわざと邪魔したのではないの。あなた……金の髪のあなたにお願いしたいことがあって、声をかけたの』
「僕に?」
自分を指せば、赤茶のリチェイラさんも後ろで手を繋ぎ合ってた薄緑とオレンジのリチェイラさん達も、しっかり縦に首を振った。
『神獣様の加護だけでなく、創世神様のお力も纏ってるあなただからなの』
「フィーさん?」
何かしてもらったっけ?とすぐに思い浮かばなかったが、思い返しているうちに彼の小屋で体を少し大きくしてもらったことを思い出した。
たしか、この世界に順応させる為に創り変えたって物騒なことも言われてたっけ。
「お前達が話しかける事は珍しくないが、事情持ちのようだな。俺も聞いていて構わないか?」
『お前はこの仔の番だもの。加護は等しくないけれど、創世神様とは知己のよう。むしろ、不慣れなこの仔のために一緒にいてちょうだいな』
『その方がいいわ』
『ええ、そうね』
セヴィルさんがいてくれるのは正直ありがたかった。
僕一人だけってもし言われたら、きっと頼み込んでたと思う。
聖獣さん達の頼み事でも、ディシャスが連れて出た時のように突然じゃないから、対処だって不慣れな僕には無理だ。
「えと……僕にお願いって、なんですか?」
頷き合ってるリチェイラさん達に聞けば、三人とも急に真剣な顔つきになって僕に向き直った。
『神霊様を目醒めさせてほしいの』
赤茶のリチェイラさんに告げられた言葉に、僕は飛び上がりそうなくらいに驚いた。
◆◇◆
クラウも呼び戻してからリチェイラさん達に案内してもらうことに。
セヴィルさんと僕は相変わらず手は繋いだまま。
と言うのも、
『聖精達を疑うわけでは無いが、万が一連れてかれてしまえば対処しにくい』
だそうです。
僕に価値があるなんて思っていないけれど、少し前に僕の魔力には稀少価値があるらしいとは聞いてたからそっちの方が危ないかもと頷いた。
ただ結構しっかりと繋がれてるのには内心悶えるのが治らないです!
『もうすぐ着くわ』
『あのウロよ』
オレンジ髪のリチェイラさんが指をさせば、樹のウロかと思ったらセヴィルさんでも余裕で入れるくらいの洞窟の入り口だった。
「聖獣達は穴のことをウロと言うことが多い。あれも一応は穴だからな」
「なるほど」
ただ中は真っ暗なので僕かセヴィルさんが明かりの魔法を出そうとしたら、リチェイラさん達が指を軽く振っただけで蛍の光のような明かりをたくさん出してくれた。
『これだけあれば、お前達には事足りるはず』
先に赤茶髪のリチェイラさんが中に入って行き、少し間を置いてから反応が他の二人も続いた。
「ふーゅゆ?」
頭に乗ってるクラウは、ほとんど事情を聞いてないからかよくわかっていない。
とりあえず大人しくしててと声をかけてから軽く撫でてあげました。
「行くか」
「ですね」
しっかり頷き合ってから、足を中へと踏み入れた。
不規則に浮かんだり、ゆらゆらと揺れてる白っぽい小さな光達は眩しくない光量で洞窟内を照らしてくれている。
お陰で足元は明るいからつまずくことはなかった。
洞窟は細く長く道が続いていて、ディシャスと歩いた聖洞窟くらいあるかなって思ったけど……割りかしすぐに目的地らしき場所に到着しました。
「……あれか」
到着した場所には、花に囲まれたセヴィルさんくらいの大きさの人がいました。
寝てるのは目を閉じてるからわかるけど、なんでか仏像みたいにあぐらを掻いて、手は合掌の姿勢。
失礼だろうが、なんだかテレビの歴史番組で紹介されたような日本のミイラに似ているように感じた。干からびてはないし、お肌羨ましいくらい真っ白でつるっつるだけど!
「耳、尖ってますね……」
薄青の長い髪にリチェイラさん達と同じような尖った耳が特徴的だった。
顔は俯いてて見えにくいが、ほとばしるオーラのようなもので光り輝いて見える。服はギリシャ神話に出てくるような白っぽい衣服。胸はないから男の人?なのかな?
僕らが近づいても、その人?は起きる気配はなくて囲まれた花達の前で立ち止まっても変わらなかった。
『この方を起こして』
『あなたなら出来ると思うわ』
『この方はこの地の守護者なの』
口々にそう言うけれど、僕なんかでこの人を起こせるなんて思えない。
でも、真剣な眼差しには滅法弱い自覚はある。
一度セヴィルさんに繋いだ手を離してもらってから、リチェイラさん達に向き直った。
「僕、元々はこの世界の人間じゃないから魔法とかほとんど出来ませんよ?」
『魔法とも違うわ。出自の善し悪しはこの場合問わないの』
「魔法じゃない?」
じゃあ何を、と紡ごうとしたら、
【ーーーーほぅ、そちが我を目醒めさせてくれるのか?】
低い声だからセヴィルさんかと勘違いしかけたが、口調が違った。
それに、聞こえてきた声は耳でなく頭の中に直接響いてきたから。
(……まさか)
セヴィルさんじゃなく、神霊さんの方を見ても姿勢も何も変化は見られない。
リチェイラさん達も特に反応は見せてないから、聞こえてきたのは僕だけだろう。
(と言っても、テレパシーって初体験だし……)
どう返事をすればいいのやらと内心困ってしまったが、またすぐに喉の奥で笑うような低い声が頭に響いてきた。
【見るに、そちは創世神様の教えを受けたばかりと思うな。こやつらに我の眠りを覚ます方法を請うても、紡ぐコトは我が告げねばならぬ】
今度は長い言葉で説明はしてくれたが……レストラーゼさん以上に古めかしい言葉を使うからどうも理解が何歩か遅れてしまう。
要は、この神霊さんご自身が解呪なんかの方法を教えてくれるそうだ。自分で出来ないかと思っても、出来たらリチェイラさん達が僕に頼むはずもないかと納得はした。
「どうした、カティア?」
ずっと黙ったままの状態だったからセヴィルさんに心配をかけてしまっていた。
なので、誤解を解くために今さっき起きたことを簡単に説明しました。
「……自身で解けぬから、か。方法はまだ告げられてないのか?」
「ええ」
セヴィルさんと話してるからか、神霊さんらしきテレパシーは聞こえてこなかった。
こっちが聞こうにも直接話しかければいいのかな、って悩んでいたら、再び低い笑い声が頭に響いてきました。
【やり方は告げよう。そちの手をどちらでも構わぬから我の手に触れよ。然すれば、自ずと体現出来ようぞ】
こんな綺麗な人にいきなりタッチするの⁉︎、と恥ずかしがってたり躊躇ってる場合じゃない。
一度大きく深呼吸をしてから、クラウをセヴィルさんにお願いして神霊さんの方に距離を詰めた。
近づいても、声は聞こえなかったがやるしかないと覚悟を決める。
そっと右手を伸ばして、合掌してる手の右の甲に触れてみた。
体温が感じられず、冷やっとした感触に声を上げそうになったが……すぐに意識がすーっと遠退くような感覚が体を駆け巡った。
また明日〜〜ノシノシ