157.聖獣達の花園
クラウを抱っこしたまま手を繋ぐのは歩きにくかったので、一度離してから頭にクラウを乗せてから繋ぎ直した。
前に手を繋がれた時は恥ずかしくて焦ってたが、僕の体が子供サイズだからか物凄く大きく思えた。
男の人なのにすべすべで、でもしっかりとした男の人の手。
お兄ちゃん達と繋いだのは最後が今の身長くらいだったけど、なんだかお父さんと繋いでるみたい。失礼極まりないですが、彼氏?がいなかったんでそう思っておかないと意識しまくるから!
(でも、あったかい……)
秋だから風は涼しく感じるから余計にそう思うかもしれないが、人の体温ってこんなんだと実感してしまう。
僕らは樹々の間を通り抜けながら、上空から見えたルーキゥの花畑に向かっている。
「そう遠くないな、時期に着く」
「まだ見えないですけど……」
「俺も見えない。だがわずかに香りがしないか?」
「香り?」
少し嗅覚を鋭くさせて空気を吸い込めば、水気とは別にほのかな甘さと草の匂いがわかってきた。
「ふーゅふゅ!」
クラウもくんかくんか匂ったのかテンションが上がったみたいだ。
「ちょっと甘い匂いがします」
「ルーキゥは蜜の匂いが濃いからな。群生地に行けばもっと凄いはずだ」
「けど、セヴィルさん甘いものが得意じゃないのに平気ですか?」
「カティアが蜂蜜を食べやすくしてくれたお陰か前程毛嫌いしなくはなったな。気にするな」
その言葉は嘘じゃないようで、口元が少し緩んでいた。
無理してるなら嫌いな人の場合表情で隠しきれないことがあるけど、セヴィルさんはあからさまに嫌いな時の表情を見たことがあるから違いがよくわかる。
これも二ヶ月近く食事くらいしか一緒じゃなくてもわかってきたせいか……恥ずかしいからこれ以上考えるのよそう。
「着くな。茂みを越えるから手は離すなよ?」
「はい」
先にセヴィルさんが茂みをかき分けて歩きやすくしてくれても、顔や服に小枝とかがどうしても引っかかる。クラウは咄嗟に浮いてくれたので気にする必要はなかったが、時々小枝がかすって地味に痛い。セヴィルさんは大人だからぶつかることはないのに子供サイズの自分は損だ。
出た頃には、振り返ったセヴィルさんの目を丸くさせちゃうくらい傷だらけになっていたようだ。
「……帰りは抱えよう」
「……そうですね」
恥ずかしさよりも怪我を思えば素直に頷くしか出来ません。
とここで、クラウが頭に戻ってきてからセヴィルさんが空いてる手を僕の前にかざしてきた。
「煌めけ合わされ、幾許の鼓動。鈴焼け洗え、笹がけの衣ーー【吸癒】」
魔法を使う時にほとんど現れる白い光が視界いっぱいを埋め尽くし、思わず目を瞑ってしまう。
だけどほんの一瞬だったからか閉じた時にはもう眩しくは感じなかった。
「…………よし、消えてるな」
どうやら治癒魔法の一つみたいだ。
目を開けてからペタペタとほっぺやなんかを触れば痛くもないし、手に血がつくこともなかった。
「ありがとうございます!」
「今くらいならば自身にかけることも出来るが、高位魔法になると他者からでなくては無理だな」
「勉強になります」
魔法講義は主にフィーさんからだけど、こう言う日常編はまだ教わってはいない。
セリカさんの講義も昨日からだし、それ以前のフィーさんとのお勉強も主に文字や単語についてだったから。
「それより、見ろ。なかなかに凄い」
すいっと前に指を向けた方向には、さっきの魔法の光を具現化したような花々が広がっていました。
「ふーゅゆぅ!」
「うわぁ…………っ!」
奥にちっちゃく緑の群生地帯があるけれど、ほとんどが白一色で花々で埋め尽くされていた。
ここに足を踏み入れていいの!と思ったけど、既にファンタジー満載の獣ちゃんや妖精さん達が思い思いに遊んでいたから躊躇う気持ちはすぐに吹っ飛んだ。
(小っちゃい妖精さんや獣ちゃんって、この世界に来て初めて見た!)
シュレインじゃ誰も守護獣を連れて歩いていなかったし、ギルドでもゲームか何かであったような契約妖精的なのを連れてる人もいませんでした。
だから、ファンタジーな世界に来て思いっきりファンタジックな風景を見てしまうと、テンション上がってきちゃう!
「聖獣が多いな……蜜を吸いに来たのか?」
「これ全部聖獣なんですか?」
「ああ、羽根が生えて人型に近いのも部類としては聖獣と捉えている。四凶達のような守護妖は少し特殊だが」
「妖精じゃないんですね?」
「ようせい?」
「え……っと、あそこにいる人型の羽根が生えてるのとかですかね? 蒼の世界だと想像した姿を絵に描いたりしてまとめた本があるんですよ」
定義はよくわかってないけど、僕が覚えてるのはそれくらいしかない。
指を向けた先にいた妖精さんぽい聖獣さんは、なんでかストローのような管をルーキゥの花に刺して他の聖獣さん達と楽しそうにおしゃべりしながら時々ストローを吸っていた。
「聖精か。生まれつき言葉を話せる稀有な聖獣達だ。好意的に接する分にはいいが、機嫌を損ねさせるととことん嫌味を言う奴らだな」
「……と言うことは、セヴィルさん怒らせたことが?」
「話しかけてくる連中だからな。無言で徹していたのだが逆に怒らせた」
容易に想像出来ますね。
「ふーゅゆゆぅ!」
クラウはじっとしているのが我慢ならなかったようで、僕の頭から飛び出してルーキゥの花畑にダイブしていった。
それから跳んだりはねたりを繰り返し、ぴょんぴょんぴょんぴょんリチェイラって聖獣さん達の方に行ってしまった。
邪魔しちゃ大変!って思ったけど、リチェイラさん達は少し驚いたくらいでクラウを受け入れてくれたのか、あの子の周りをくるくる飛んでいた。
「離れてても、仮にも守護獣だからカティアが呼べば戻ってくるだろう。少し、散策するか?」
「あ、は……い」
手を少し強く握られてしまうと、断るなんて出来ません。
僕らはルーキゥの花を出来るだけ踏まないように気をつけながら、花畑に足を踏み入れました。
「あっまい匂いですねー」
蜂蜜とは違う、草花の匂いが混じった独特の匂い。
ルーキゥの花自体は、四つの花弁があって中央はくぼんで雌しべとかは見えにくい。大きさは花のところは僕の手のひらよりちょっと大きいくらいかな?
全体的には僕の足首より少し上の高さ。
たんぽぽよりは高いかも。
一本抜こうとしたら、先に大きな手が伸びて来て抜いたと思ったら僕の髪に挿してくれました。
「……服が白いからよく似合うな?」
「…………っ⁉︎」
この人、本当に女性が苦手な人じゃないのだろうか。
髪に花を挿すってベタなコトって、平気で出来るわけがないと思う。
オプションに綺麗な微笑み付きとくれば、ドキドキしまくって言葉がうまく紡げない。
恥ずかし過ぎて俯けば、耳元で小さな笑い声が聞こえて来た。
『番ね?』
『番だわ。体の大きさがバラバラだけど』
『あそこの神獣様の加護が強いわ。金の髪なんて可愛らしい』
『黒の方は少し面倒そうね』
なんだ、と顔を上げて周囲を見渡せば、いつ来たのか羽根の生えた小さな人が僕の周りに何人か飛び回っていた。
「…………聖精か」
思いっきり不機嫌な声が降ってきたので見上げれば、久々にこっわいセヴィルさんのお顔がありました。
『あら、邪魔をしたのは詫びるわ』
『けど、稀有な魔力の持ち主。お前の番なのね』
『見た目は美しいけれど、その顔は怖いわ』
本当におしゃべりな聖獣さん達は言いたい放題に言葉を出していく。
それに比例するかのようにセヴィルさんの眉間のシワが深くなっていくから怖すぎます!
『お前の番が怖がってるわよ?』
『その表情は良くないわ、女子の相手なら特に』
「…………カティア、すまない」
僕の怯え方がよっぽど酷かったのか、セヴィルさんはすぐに形相を解いて元の?無表情になられた。
けどそれだけでも安心出来たので、答える代わりにこくこくと縦に首を振った。
また明日〜〜ノシノシ




