155.セヴィルの守護獣
デート当日‼︎
◆◇◆
翌日、デート実行日。
実行って単語はおかしいかもしれないけれど、今日のも外部からの計略?によって決行しちゃったものだから間違ってないと思う。
セヴィルさんは宰相さんのお仕事で忙しいし、僕だって進んでお誘いするタイプじゃない。
どっちもこう言うことに関しては消極的だから、周りにはやきもきさせちゃうんだろうね。
前置きは長くなったが、現在自分の部屋で待機中です。
朝ご飯はいつも通り皆さんと食べたけど、その後すぐにファルミアさん達によって全身コーデとマッサージにメイクを施されてからクラウと自室でぽつねんとすることに。
前回はお城の中だったからクラウの同行はしなくてもよかったが、今回はお外だから守護獣は連れてかないと万が一の時の対処が予測出来ないんだって。
「セヴィルさんまだかなー?」
「ふゅぅ」
獣舎に直接行くと、目立つ上に飼育員さん達の質問攻めにあうからとセヴィルさんがお迎えに来てくれるのを待ってるのだ。
コンコン。
クラウと頷きあってた時にノックが。
すぐに返事をして扉に向かえば。
「……遅くなった」
「い、いえ……」
扉を開ければ、たしかにセヴィルさんがいらした。
いやそれは当然なんだけど、恰好です恰好!
いつもの宰相さんの出で立ちじゃなく、前の黒王子様とも違うもっとラフな恰好に目が釘付けになってしまったのだ。
ラフでも遠出で万が一のことが起こっちゃいけないから、簡易的な防具は身につけてるけど……エディオスさんが着てたような騎士服とも違う冒険者さん風だ。
セヴィルさんがこう言うの持ってたことがちょっと意外でした。
「ふーゅふゅぅ!」
クラウは僕の腕から飛び出さんくらいにバタつくので、押さえ込むのにちょっと大変に。
セヴィルさんに抱きつきに行こうとするのは少し珍しいが、セヴィルさんそう言うのは苦手そうだからクラウには我慢してもらったよ。
「では、行くか。……………その」
「はい?」
さあ行こうと部屋を出ようとしたところで、セヴィルさんが少し言い淀んだ。
と同時に僕の目線までしゃがんで来て、
「……その装いも……似合って、いるな?」
「そ、そそそうですか……?」
わざわざしゃがんでから言うなんて、この人はずるい。
しかも、ちょっと照れ臭い表情を隠しもせずに口元を緩めるなんて、こっちまで恥ずかしくなってしまうのに。
(心臓に、悪いよ……)
けど恥ずかしがってちゃ時間も過ぎるので、セヴィルさんに転移の札を使ってもらってから獣舎へ瞬間移動。
到着すると、鼻にぷんと獣臭が漂ってきた。
ディシャスのいたところも臭ってはきたけど、ここみたくわかりやすい独特の臭いはしてこなかったから。なんと言いますか、毛が凄いあるような犬とかの臭いや鳥とかに似てるような……?
「俺の守護獣を見せるのは、初めてだったな?」
来い来いと手招きされたので、置いてかれないようについて行く。
途中で獣の大きい鼻息とか唸り声とか色々色々聴こえてきたけれど、すべて無視してセヴィルさんについて行く。でないと怖いだけで済まないから。
「フェルディス」
おっきな柵の前で止まると、突如風が強く吹いてきたので地面で踏ん張るのが大変だった。
セヴィルさんは普通だったけど、僕やクラウは体が吹っ飛びそうだったんでとっさにセヴィルさんのマントを掴んでしまう。彼は気にせずに呼んだ何かに向けて止めるように言うと、風が徐々になくなっていった。
「興奮するのは構わないが、落ち着け。今日一緒に行くことになったカティアとクラウだ」
「くぅるぅうううう!」
ディシャスに負けないくらいの大っきな鳴き声。
ひと声鳴いてからどしんどしんと足音を立ててきて、柵の前に少しずつ姿を見せてくれた。
「……これって」
ワシのような獰猛な顔つき。
でも体はディシャスより少し小さくても巨大な鳥の羽に覆われたライオンの胴体。背にはクラウとは比べものにならないくらい立派な翼。
映画やゲームで二次的に見ることはあったが、現実でお目にかかれるとは思わなかった幻獣だ。
「鷲獅子のフェルディスだ。蒼の世界ではいないはずだが……」
「ディシャスの竜と同じで、架空の幻獣としては有名ですね」
「そうか。今日はこいつに乗って目的地まで行く」
「はい」
「ふゅ!」
ここで転移するかと思いきや、飼育員さんがすぐにやってきたので彼が柵を開けてフェルディスを出してから浮き島が降りてくるとこまで誘導してもらいました。
そこまでは徒歩だったけど、出来るだけセヴィルさんがゆっくり歩いてくださったので置いてかれることはなかった。
「お気をつけてー」
飼育員のお兄さんがそう言ってくれたので、僕とクラウは軽く手を振ってお礼代わりにした。
すると、お兄さんははにかんで笑ってくれたんだけど、よっぽど嬉しかったんだろうか?
「……降りてくるな」
その言葉とほぼ同時くらいに、浮き島の一つが地面に降りてきて止まった。
それまで歩いてたフェルディスは軽く嘴を上下させてから、翼も使わずに跳躍だけで浮き島の岩に飛び乗っていく。
ライオンってネコ科だから体が大きくても身軽なんだと関心。
ただここで、僕の体が急に宙に浮いて『え? え?』と驚いたが。
「お前じゃ、あそこまで行けないからしっかり掴まってろ」
セヴィルさんにお姫様抱っこされちゃった模様。
声を上げる暇もなく、たんったんっと跳躍するセヴィルさんがあっという間にフェルディスの翼の間まで跳んでしまうから、ぽかんとしてるしかなかった。
「……エディオスと幾度か出かけたと聞いていたが、慣れてなかったか?」
「お、驚きますよ……」
セヴィルさんがだからとは恥ずかしくて言えないが、文系のイメージしか持ってなかった彼への意外な身体能力を目の当たりにしたら驚かないわけがない。
お城に来たばかりの時にエディオスさんが珍しくないと言ってた意味が少しわかったかも。女性はわからないが、男性のほとんどが普通となるとコックさん達でも同じなのかなと少し現実逃避。
だって、少しでも意識してる人にお姫様抱っこって、二度目とは言え緊張しないわけがない。
(一度目は気を失ってた時らしいけど……)
なんか慣れてないだろうか?
皆さんからは女性や子供が苦手にしてると豪語してたのに、この安定感はフィーさんやエディオスさんとあまり変わらない。
けど、気にしてる間に今度は彼の脚の間に降ろされてしまって慌てる気持ちがぶり返してきた!
「え、え⁉︎」
「出来るだけ速度は落とすが、竜と鷲獅子では揺れが違うからな。クラウはしっかり抱えててくれ」
「あ、は、はい!」
とは言っても、僕がクラウを抱っこしてる下辺りに片腕を回してるから落ちる心配はないと思う。
それより密着度が!
背中に鎧の感触が伝わってくるくらい近い近い近い⁉︎
「ふーゅゆぅ!」
クラウは相変わらず呑気に手足をばたつかせてるだけだった。
「……そうだ。忘れていたな」
手綱を持ってから、セヴィルさんが何かを思い出して懐を探り出した。
そうして見つけたモノを僕の前に差し出してきた。
「……飴?」
ルビーのように真っ赤で宝石にも見えるが、飴独特の光沢具合がすぐに見えたのでそう呟く。
数は何故か二個だ。
「俺達のように慣れた者はいいが、初めのうちに使う薬飴だ。酔いやすい体質の者も使うことは多いが」
「薬、ですか?」
「クラウも大丈夫そうだと聞いたが、距離はシュレインより更に遠いからな。念の為食べさせてやってくれ、二人の分だ」
「いただきまーす」
「ふゅぅ?」
酔い止め薬なる飴の味は、さくらんぼ味でも酸味の強いものだった。
クラウには飲み込まないように注意してから口に含ませてあげた。
また明日〜〜ノシノシ