154.過去と比較
◆◇◆
その日の晩は、セヴィルさんは夕飯も食べずに執務を頑張ると言うことになって、さすがのエディオスさんもお仕事をされることになった。
だから夕ご飯は少し席が空いて賑やかさも減ったから、少し寂しいと感じてしまった。
(で、でも、明日はセヴィルさんと……ででででデート……)
それと、おやつタイムが終わってから女性三人の手であーだこーだと着せ替え人形にさせられました。
最初セリカさんは傍観側だったけど、国民側の時にもお友達とおめかしすることはいくらかあったようで……すぐにアナさん達の輪に加わってしまった。
「瞳のお色がこれでしたら、蒼も良いですが真白も捨てがたいと思います!」
「主体はその色にして、レースでアクセントがあるのがいいわねセリカ!」
「完全な真白はこちらでも花嫁に許された色だもの。カティのそれはまだお預けだからダメね?」
三者三様でもノリノリで僕のお出かけ着を決めるのに盛り上がる展開に。
僕はついてけずに最初はクラウを寝かしつけてお腹を軽く叩いてあげていました。
「あ、あの……なんで僕よりそんな興奮されるんですか?」
「あら、愚問ねカティ? 自分のはもちろんだけど、他の人の逢引への仕度を手伝う程女性にとって楽しいものはないわ!」
「そこですか!」
結局は着せ替えごっこしたいだけなんですね!
でも、逆らうことも気力も大して起きなかったので、ベッドから引きずられて色々着せ替えられた。ご飯が終わってからも念入りに化粧の練習やヘアアレンジの練習をさせられてから、全員で温泉に入ることになりました。
セリカさんは明日女性だけのお茶会を開くことになったので、帰るよりも泊まった方がいいとアナさんに言われて一緒になったのだ。体は……言うまでもなく僕より段違いに凄い。と言うより、元の僕と比べても絶対あるし全体的に細い!
「あらセリカ。なかなかに男心を掻き立てる体つきじゃない」
「ファ、ファルミア様がおっしゃらないでください!」
妃殿下呼びはやめて、アナさんと同じように様付けになったけど過度な緊張感は解れたかな?
多分、今日半日で密に関われたせいだと思う。
特に後半の僕へのコーディネートの時とかは、敬語ではあってもファルミアさんと意気投合しまくっていたから。
「そうですわね。セリカはまだ若いからもう少し育てばエディお兄様の好みの域に入られるわ」
「あ、アナお姉様なんでそれを⁉︎」
「あなた昔っからお兄様ひと筋だったじゃないの。わかりやす過ぎたわ」
アナさんにもセリカさんの片想いについてはバレバレだったようだ。
これはエディオスさんもと言いたくても、あの人はフィーさんが言うに無自覚らしいから御名手の真実はこの人達の前で言えない。
まずセリカさんがいる時点でアウトだけれど。
「そう言えば、カティはそのことにあんまり驚いてないようね?」
「あ、え、えと……実はフィーさんに聞かされてたんで」
「あ、あああああの時退室されてた間にそんなことを⁉︎」
「ほほほほ、本人に絶対言いませんから落ち着かれてください!」
のぼせそうなくらいに真っ赤なのは月明かりでもよくわかった。
なので、三人でセリカさんを落ち着かせてから話を再開することに。
「私の時は御名手と言うのを半信半疑でいたから気づかなかったけど……ほのかに抱くより継続的に続くものがその相手だと思うの。カティの自覚が薄いのは、多分蒼の世界での常識が邪魔をしてるせいね。私もそうだったからよくわかるわ」
「継続的?」
「何年も思い続けれることと、諦めきれない気持ちがせめぎ合うことかしら? 今でこそ私とリースは砕けた付き合いをしてれるけれど、出会った当初は徹底的に避けてたわ。家の事情があったこともだけど、王太子と付き合うだなんてごめんだと思っててね」
「「「え⁉︎」」」
優位はファルミアさんの方が上であることは多くたって、あれだけ仲が良い付き合いしか見たことがない。
少し付き合いのあるアナさんも意外だったようで、僕とセリカさんと同じくらいにびっくりされていた。
「ふゅぅ?」
それまでぷかぷか浮いていたクラウは、ファルミアさんの側に近づいてくりんと首を傾げた。
ファルミアさんは少し苦笑いされてからクラウの頭を撫でてくれた。
「お風呂で語ってると長風呂になるから少し省くけど……私がこんな風に地を出すこともリースと出会うまでなかったのよ。表向きは暗部の者として活動していたから、素の自分を出せたのも四凶達の前だけだったの」
想像は出来る。
僕はこの国の暗部であるフォックスさんと出会えたことで少しだけわかったが、暗部って自分を偽るのが主な仕事の一つだ。
フォックスさんとは半日しか過ごさなかったけれど、態度は変わらなくても正体を明かしてくれなきゃ暗部の人だなんてわからなかった。
あの人はほとんど素だったが、ファルミアさんの場合は違ってただろう。スパイとかSPの人って業務中は無表情無感動の状態が普通とかってテレビとかの情報でしか僕は想像するしか出来ない。
セリカさんとアナさんは僕以上に事情を把握されてるはずだから、余計にショックは大きいだろうね。
「でも、リースはしつこかったわ。初対面の時は、私が四凶達と食べてたシュークリームをだらしない顔になってまで欲しがったの。いくら初対面でも暗部の者から譲り受けることの意味を、あの人すっかり忘れてたから」
話しながら苦笑いしてても、口調はとても穏やかだ。
乗り越えてきたものはたくさんあっても、今の生活を後悔されてないと伝わってくる。
「大好きなんですね、ユティリウスさんが」
「もちろんよ」
返ってきたその笑顔は、眩しくても少女のような幼さを感じさせるものだった。
「私のことはともかく、あなた達はこれからなんだから頑張らなくちゃ! 特にカティは明日しっかりゼルと気持ちを確認し合いなさいな!」
「え"⁉︎」
せっかく感動しかけてたのに、一気に話題転換させられてしまった!
「見てて思ってたのよ。カティとしては蒼の世界で恋愛経験がほとんどなかったから、恋がどうとかがわからなくて好意的に思ってても友好に近い。でも、私が来た日に倒れた時に知った事実と一回目の逢引で多少は意識してるはずだわ」
「いいいい意識、で、すか?」
「リュシアから見ても私と同じかしら?」
「そうですわね。ゼルお兄様は普段の執務がおありですからあまり時間は取れていませんでしたが……カティアさんがお食事をお作りになられる時に集まっても、あまり会話はされてませんでしたわ。わたくしはお兄様がお側に女性を置かれてるだけで随分な進歩だと錯覚してましたが」
随分な言われようですが、それだけセヴィルさんが無関心過ぎなのが目立ってたんだろう。
そう言う箇所を見てないので、僕としては実感がない。
(でも、意識……)
してます。
むっちゃしてます!
こう『恋に恋してー』とかのフレーズみたいなのではないけれど、日常的にセヴィルさんを思い出す回数は最近少しずつ増えている。
式典中は一切会えなかったから余計に。
「大丈夫よ、カティアちゃん」
ちょっと考え込んでたらセリカさんが近くに来てくれた。
「ゼルお兄様が一度はきちんと伝えてくれたのでしょう? 私はしばらく離れててお兄様の変化を見られなかったけれど……昨日久しぶりにお会いしてあなたに向けた表情はごく自然だったわ。幼い頃の私にもああ言った笑顔や感情はほとんど向けられたことがなかったの」
「……想像しにくいです」
僕に向けられたもののほとんどが、皆さんが言うのと逆のことばかりだったから。
怒る表情はちょこちょこ見てても、どれもが僕に向けたものじゃなかったしね。傍観側でも充分怖かったけど。
また明日〜〜ノシノシ