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153.思ったより味がわからないエクレア

副題の意味は最後にわかりますノ

 仕上げた時と同じだけど、コンビニや普通のケーキ屋さんで作られてるのよりは固くて少し重い。

 紙ナプキンに挟んで口に3分の1くらい頬張ってから、しっかりと噛み切った。

 音は他の人達と同じくらい軽くて小気味の好いもので、甘さのないサックリとした生地に塗ったチョコがすっと溶けて香ばしさと調和し、もう少し噛めば間に挟んだ生クリームとカスタードが追いかけるようにやってきた。


「おいひい!」


 口に入れながらってお行儀悪いが言わずにはいられない。

 甘さ控えめなのにミルクの濃い味の生クリームとこってりとしたカスタードの組み合わせがなんとも言えない!

 細いタイプだからすぐになくなってしまったが、カスタード単体のを食べても十分に美味しかった。


「ふーゅふゅぅ!」


 クラウはまだファルミアさんの結界が効いてるので、汚れててもクリームが宙に浮くからそれも舐めとっていた。


「うぉ⁉︎ 言われてはいたが、マジで落ちやすいな?」


 エディオスさんはもう三個目に突入していたが、カスタードが下の方から溢れて手にべっちょりついてしまったようだ。

 普通なら別の紙ナプキンか何かで拭くところを、もったいないと思ったのかクラウみたく舌で舐め取っていた。


(……なんでエディオスさんがやるとエッロい光景になるんだろ)


 そして、これを見て大丈夫かなと気になった相手を見れば……セリカさんはやっぱり顔真っ赤になってわなわなと震えていました。


(好きな人のこう言うの見たら、そりゃ恥ずかしいでしょうね……)


 昔はどうだったかわからないが、大人になられたから色々変わってることは多いはず。

 でも、エディオスさんイケメンさんだって自覚がほとんどないからセリカさんにとって色々毒な部分も多いだろう。


「美味しーね! これならユティが太る原因になるのもわかるなぁ」

「俺が毎日食べてたのはこれよりもっと丸い感じに仕立ててあるシュークリームってやつだよ」


 シュークリームを毎日……一回でどれだけ食べたかによるけど、ユティリウスさんだから絶対に一個で済まなかったはずだ。


「お代わりも適度にしなさいね? エディも鍛練の時間は減ってるでしょうから、食べ過ぎは良くなくてよ?」

「ちぃっとはしてるっての」

「それでも蒼の世界の料理は基本的に肥えやすいものなのよ?」

「ピッツァはその代表ですもんね……」


 僕もこっちに来てから勤めてた時より確実に運動量が減ってるのでなんとかしなきゃだけど。


「ぜ、ゼルお兄様、か、完食ですの?」


 アナさんが驚いたように声を上げられたので隣のセヴィルさんを見れば……たしかに三つとも完食されていました。今はゆっくりとコフィーを飲んでいるだけ。


「……辛さはもう少しあってもよかったな」

「あ、あれでですか?」

「最低クリームの色が真っ赤になっていても構わないが」

「舌が壊れませんか⁉︎」


 この人唐辛子国なんかで生まれたんじゃって、勘違いしそうなくらいの激辛好きなようです。


「だが、美味かったぞ」

「そ、そうですか……」


 評価を微笑みと一緒にいただけたので、少し胸があったかくなっていく気がした。


「ぜ、ぜぜぜぜゼルお兄様が笑われた……?」


 セリカさんにはこう言うセヴィルさんを見るのは多分昔も機会が少なかったのだろう。

 サイノスさんの時以上に顔を青ざめてしまっていた。


「セリカ、こんなの序の口だぞ? ゼルの変わった表情はカティアといたらもっと見れるぜ?」

「……俺は珍獣か」

「冷徹宰相って異名がついてんだから、覆すのに多少は愛想見せろよ」

「時と場合によるが、わざと振りまくのはごめんだ」

「その発言が出るだけでも大分カティアに絆されたな?」


 これには僕とクラウ以外全員が頷かれた。

 セヴィルさんは余程意外だったのか眉を寄せられてしまったが。


「何かおかしな事を言ったか?」

「前のゼルだったら『俺の勝手だ』とかで一蹴するだけだったよ? なのに多少は相手を気遣う発言を出しただけでも十分な進歩さ」

「…………」


 親友のユティリウスさんがこう言うのだから、セヴィルさんは本当に自覚がなかったみたい。

 ちょっと顔を見れば、少しほっぺをピンクに染めていた。


「その進歩をもう一歩進めさせるためにも、エディ。明日ゼルに休暇を与えて、カティと遠出込みの逢引をさせてちょうだいな?」

「なっ⁉︎」


 あ、このタイミングで言っちゃうんだ……。


「おー、いいぜ? 式典最中は休みやれんかったし、残務整理くらいなら今いる奴でなんとかなるからな?」

「ちょっ、エディオ」

「俺も暇だから手伝えそうなの手伝おうかー?」

「それは俺がやるからやめとけ。国に帰ったら嫌でも執務が待ってるぞ?」

「たーしかにねー?」

「じゃあのんびりしてる!」

「サイノス達も待て!」


 セヴィルさんが割り込もうにも、打ち合わせしたかのように小芝居を交えながらエディオスさん達はちゃちゃっとセヴィルさんがお休みされてもいいように手を叩きあった。

 ユティリウスさんのだけはいらない発言だったかもしれないけど、今のじゃなくてもなんらかの理由でセヴィルさんを休ませただろう。


「まあ、素敵なご提案ですわファルミア様! でしたら、遠出でも可愛らしい装いにしなくてはいけませんわ!」

「そのとおりよリュシア! カティはまだそこまでドレスに慣れてないから動きやすいのがいいわ!」


 アナさんがヒートアップしてしまって、ファルミアさんが余計に煽っていく⁉︎

 セリカさんはぽかんと呆けてしまい、わけがわからないようだ。


「…………何故俺達の意思を無視して進めるんだ」

『お前/君/あなたが行動力ないから/ですわ!』


 セヴィルさんが最後の抵抗?を試みるも、セリカさんと四凶さん達以外からほぼ同時に言い返されてしまった。

 これには僕も圧倒されてしまい、椅子からずり落ちそうになった。


「あれっきりほんっとうに普通の散歩もしないくらい時間を取らなかったって聞いた時には呆れるだけで済まなかったわよ? カティに少しでも伝えたのならもう少し……いいえ、あなたの場合だいぶ親交を深めるように努めないとカティの身体が戻った後が余計に大変よ? それに、私があなたから聞いたことをカティにこの後言おうかしら? それとも自分で言うの? どうするの⁉︎」


 あまり間を置かずに早口ながらも噛まずにしゃべりまくるファルミアさんに……テーブルを挟んでても詰め寄られてるのと変わらない状況にまで追い込まれたセヴィルさん。

 他の皆さんも僕も彼女の必死さに呑まれそうになってしまったが……セヴィルさんは久しぶりにゆでだこ状態にまでお顔や首が真っ赤に。

 だけどなったのは一瞬で、目元にだけ赤みを残してから少し歯をくいしばった。


「あれは言うな……」

「じゃあ、自分で言うのかしら?」

「少しは言ったが……カティアはこの通りだ」

「お互いそう言うところは似た者同士ね。けど、明日はゆっくり話し合ってきなさい。一度じゃ無理なのはあなたがよく分かってるのなら、二度目も早い方がいいわ」

「……なら、今日出来得る限りの執務は詰めさせてもらう」


 と言って、少し逃げるような形でセヴィルさんが退室されてしまった。


「……素直じゃないわねぇ?」


 これにはセリカさんも四凶さん達も加わって大きなため息を吐かれた。


「まあ、カティアが来る前だったら無表情で即否定だったからなぁ?」

「感情を露わにするとかほとんどと言っていいくらいなかったしな?」


 エディオスさんとサイノスさんはしみじみしながら頷いている。


(……ほとんど見てないからわかんないんだよなぁ)


 セヴィルさんが冷徹なところを見せるのって。

 僕は最後に残しておいたチョコカスタードを口にしたけど、美味しくはあってもセヴィルさんのことが気になって思った以上の感動は得られなかった。


ではでは、また明日〜〜ノシノシ

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