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【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版  作者: 櫛田こころ
第四章 式典祭に乗じて
145/616

145.式典祭翌日ーセリカの真実ー(サイノス視点)

大晦日の本日は久々に二話ですノ

「お待たせしました」


 セリカらしい女性がやってきたのは、客間に通されてから程なくしてだった。

 声は流石に200年近く経ってるから変わってて当然だが、中に入って来た途端俺は声を上げそうになって慌てて口を塞いだ。


(聞いてはいたが、似過ぎだろ……っ⁉︎)


 最後にイシャールの家に行ったのも二年前くらいだったから、あの肖像画は見かけていた。奴と……目の前にいるセリカの祖母君。彼女の若い頃の肖像画から飛び出たのかと思うくらい似ていた。

 たしかによく見れば、目の色は違っていたが。


「こんにちは。私に御用があるとお聞きしてましたが、どのような?」

「……単刀直入に聞くが、いいか?」

「あ、はい。どうぞ」


 いきなり言うのかと思ったが、俺は付いて来た身だからとやかくは言えない。


「セリカ。女将から聞いた話じゃ幼少期の記憶をなくしてここに引き取られたってことだったが……半分は違うだろ」

「はぁ⁉︎ どう言うことだ!」


 事情をほとんど聞いてないまま連れて来られたから俺は余計に驚いた。

 エディを揺さぶってもあとでとか言いやがるから離れたが……セリカは何も言わなかった。つまりは、肯定の意を表してるのと同じ。


「……どちらで、それを」

「ここの常連のフォックスだ。お前だから言うが、あれの本職は城の暗部だ。念入りに調べてっから、いくらお前が繕ってもこっち側には筒抜けなんだよ」

「…………フォックスさんは、もう言ってしまったんですね」


 小さく息を吐いてから、彼女は俺達に向き直った。

 悲嘆しているわけではなく、少し申し訳なさを表している笑みだった。


「……陛下がいらしてくださった日から、この日が来ることは予感していましたが」

「セリカ……俺達がわかるのか?」


 エディではなく、俺が聞いちまった。

 いくら軽くても、変装状態の今じゃ200年近く離れていた俺達の成長した姿とはいくらか違う。エディは姿絵が特に出回ってても、俺の方は圧倒的に少ない。

 髪色もいつもの紫からゼルに近い黒に変えてるし、目も琥珀色ではないのに。


「……報告にあった通りだな。時期まではこちらじゃ特定出来なかったが、イシャールと同じ魔眼が開花してんだろ?」

「ええ……」


 まさか、彼女まで見解の魔持ちになったとは。

 外見的には特徴がない分わかりにくいが、フォックスはどう調べたんだか。だが、それが事実なら変幻(フォゼ)してる俺達がわかって当然だ。

 俺とエディは彼女が頷いてからそれぞれ魔法を解いた。


「……やはり、陛下と将軍閣下なんですね」


 はっきり言われるとむず痒いが、昔のように敬語を外してはくれないか。

 無理もないが、200年近くも離れて生活してたんだ。疎遠状態とほとんど一緒だからな。


「セリカ。なんで俺とカティアが来た日ははぐらかした?」


 結構直球的に聞くが、そこは俺も知りたい。

 魔眼持ちでその時のエディを見抜いていたのなら、もう少し状況は違ったはずだ。


「……もう、ないと思ってたからです」

「ない?」


 曖昧な返答に俺は首を傾いだ。


「陛下が仰ったように、私の記憶は引き取られた当初はありませんでした。戻ったのは……この魔眼が覚醒した時ですから、ちょうど100年前です」

「……なんで女将達に言わなかった」

「引き取られた時に身につけてたもので私が貴族の娘だとはわかってたでしょうが、魔眼持ちと分かれば余計に迷惑をかけます」

「そうじゃねぇ。記憶が戻った方だ」

「…………伝えれるはずがありません」

「何故だ⁉︎」


 首を振ったセリカに俺は声を荒げてしまった。

 咄嗟に口を塞いだが、セリカは苦笑いするだけだった。


「閣下ならそう仰いますものね。ですが、今日まで私はただのセリカ。六大侯爵家のリチェルカーレに戻るなど……私にはおこがましいと思っていたのです」


 離れ過ぎてたせいか、カティア以上に顕著な性格になってたらしい。

 いくら記憶が戻っても、今までの生活と経験のせいもあって、感覚はほとんど庶民と同じなのだろう。


(これじゃ……連れ戻せねぇぞ)


 イシャールになんて言やいいんだ?


「建前は寄せ!」

「エディ?」


 さっきの俺以上に声を荒げたエディに、俺やさすがのセリカも目を丸くした。


「陛下……?」

「お前は……セリカはこっちに戻りたくねぇのか⁉︎」

「っ!」


 その言葉に、セリカもいくらか表情を歪めた。

 泣きそうになるくらいなものだったが、彼女の頑なに閉ざしてた心を開くには充分な言葉だ。俺もかけたかったが、セリカが先に否定したから押しとどまったんだが。


(エディにしか出来ねぇな?)


 あと可能なのはイシャールくらいだろう。


「……………………だ、だって」


 エディが少し肩で息を整えてる間に、セリカの口調が少し変わった。

 彼女を見れば、水晶色の瞳の淵からほとんど涙が溢れ出ていた。


「も、戻って……いいのか、わ、わからなくて」


 敬語を使う余裕がないくらい、胸に突き刺さったのだろう。

 肩を揺らして嗚咽混じりの言葉を言いながら、彼女は続けた。


「この眼で……あの時、イシャールお兄様は狙われた。私も、それがわかったら……ここや、屋敷の方に迷惑がかかるって思うと」


 そう言い切ってから、セリカはその場に泣き崩れた。

 顔を隠す余裕もなく、ただただ静かに泣き出した。


(言いたくても、そりゃ誰にも言えねぇだろうな……)


 育ちもだが、庶民の魔眼持ちが現れる確率は貴族や王族よりも低い。

 魔眼は他にも特性を持つものはいるが、イシャールやセリカのような見解の方は特に希少性が高いからだ。無闇に吹聴して、ここが襲撃されたらセリカは一生後悔するだろう。


「いいんだ、戻ってきて」


 いつのまにか、エディがセリカの前でしゃがんで彼女の頭を撫でていた。

 上から見てもセリカの顔は見えねぇが、多分泣き止んだはずだろう。嗚咽が消えてたからな?


「今は俺が王だぜ? あん時みてぇな糞どもを根絶やしにすんのには時間かかってるが、当時の奴らはもうひっ捕らえて根城もぶっ潰した。同じ奴がお前やイシャールを狙うことはもうねぇよ」

「……お前が無理くり関わったあれか」


 俺やゼルが止めても聞かん坊だったから好き勝手やらせたが、即位以降もそう言う類の仕事は直々に向かうくらいだ。


「で、でも、もう私、あの家の子供じゃ……」

「ねぇって言ったって、セリカはリチェルカーレ家の末姫だ。その事実は今も変わっちゃいねぇよ。お前の婆様が今も祈ってんの無駄にさせないでくれねぇか?」

「お、ばあさまが……?」

「ああ」


 俺も、何度かその光景を目にしたことはある。

 自分の若い頃を更に幼くしたような少女の姿絵に向かって祈ってる姿を。

 俺も追い打ちをかけるように言えば、セリカはまた泣き出した。


「い……いの? お兄様達のところへ、戻って……?」

「いいんだって言ってんだろ?」

「無理矢理過ぎねぇか? まあ、俺も今回はエディに賛成だな」


 回り込んで近づけば、セリカはやっぱり大粒の涙を零していた。

 その泣き方だけは、昔とほとんど変わらない。


「で、どうする? これを聞いてもまだ、戻らないって言うか?」

「……エディ、お兄様。昔以上に強引」

「悪かったなぁ?」


 ちっとも悪びれてはいないが。

 けれど、泣きながらもセリカが笑ってるのを見れば、彼女の心が決まったのは俺達にもわかった。

セリカのその後は次でわかりますノシノシ

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