137.式典祭3日目ーここでも解禁させますー
「うっめ⁉︎ カッツと肉もいいが、チャップがパンに染み込ませてんのもいいな!」
一番がっついたのはエディオスさんじゃなくてフォックスさん。
居眠り前にどれだけ食べたかわからないが食欲旺盛だ。エディオスさんよりずっと年上だろうに、隣で食べてる彼に匹敵するくらいのがっつきようだ。
「本当に美味しい!」
「ほとんどあり合わせの材料なのに別もんだねぇ?」
「ふゅ、ふゅぅ!」
女性二人も気に入ってくださって何より。
セリカさんはちっちゃくちっちゃく切り分けながら食べてるが、女将さんは少し豪快で実に対照的だ。
クラウは僕に食べさせてもらいながら一回一回声を上げている。
さて、僕も美味しくいただいてるが注目すべき人物がいます。
そーっと、そっちを見ると思いっきり僕をガン見していたのかすぐに目が合った⁉︎
「……………………」
「…………え……っと」
とうに完食はされているようで、ずっと僕が気づくのを待ってたみたい。店長さんが。
(お、美味しくないわけじゃないよね……?)
味は僕も確かめたし、店長さんが完食してるとこから悪くはないと判断してるはず。
だけど、あの形相はどう解釈していいのかわからない。
例えるなら、修学旅行先で訪れたお寺の不動明王のように牙を剥き出しにしそうな、厳格化した表情。
思いっきり僕に問い詰めたい気満々だ。
とりあえず何を聞かれても、真実だけは避けるように色々考えておこう。
「……カティア」
静かに呼ばれた。
僕は軽く唾を飲み込んでから返事をする。
「は、はい」
「お前どこの出身だ? カッツをこう使う方法もだが、惣菜のパンでも俺は各地のパン屋を色々見て回って来たが、こんなのは見たことねぇ……」
やっぱり聞かれる質問が来てしまった。
これにはどう答えていいか、誤魔化すにも限界があるのは重々承知。
だからとは言え全部が全部話せないので、同じく聞いていたエディオスさんに視線を投げかけた。
彼も店長さんの質問は予想してたらしいからか、少し考えてから口を開けた。
「それは言えねぇんだ。ちょっと訳ありでな?」
「この国じゃなくてもか?」
「そーだな」
まさか国越えどころか世界を跨いで来たと言って誰も信じてもらえないでしょう!
エディオスさんの簡単な受け答えに店長さんも少し黙ったが、すぐに息を吐いた。
「わーった、そこは追求しないでおく。他にも聞きてぇがそこと関係しちまうだろ。フォックスもやめとけよ」
「あはー、バレちまったか?」
店長さんが言わなきゃ後で聞く気満々だったのね、このおじさんも。
「つか、これあくまで代用だろ? 実際作ってんのはもっと違うのか?」
「そ、そうですね」
言えない代わりに少しくらいはいいだろう。
エディオスさんを見ても特に止める仕草はしなかった。多分だけど、口の固い人達にヒントくらいはいいのかもしれない。
「パン生地でも出来なくないですが、バターじゃなくてリンネオイルを混ぜ込んで発酵させた生地をかなり薄く伸ばしてソースを塗って、そこに具材とカッツを乗せて窯で焼くだけです」
「……パン修行が浅い俺でもわかんねぇぞ」
「あ、あははは……」
ちょっと詳しく言い過ぎたかな?
店長さんだけでなく、僕やエディオスさん以外は皆さん首を傾いでしまってる。
想像はさっき食べたシカゴピッツァ風で出来なくもないが、やっぱり実物を見たいのだろう。今からじゃ絶対出来ないが。
「けど、このパン美味かったなぁ? 他にも具材変えれば出来んの?」
「そう、ですね」
いきなりフォックスさんが聞いてきたのでびっくりしたが、そこは正直に答えた。
「じゃ、これここのメニューに加えるってダメかね? 俺宣伝しちゃうけど」
「え"」
あえて避けてた方向にこの人持ってこうとしてる⁉︎
「馬鹿か! あくまでこれはカティアの料理だ、俺がどうこう出来るもんじゃねぇだろ!」
「い"ってぇ……」
すかさず、店長さんがフォックスさんに鉄拳制裁を下しました。
さっき以上に本気の拳に、少しだけ心配しちゃうが気絶はしないくらいだったのでホッと出来た。
「それに、仮にザインのとこみたくなってみろ? この料理の欠点は焼き時間だ。待たせまくる結果になったら意味がねぇ」
「え、そなの?」
フォックスさんは寝てたから正確な焼き時間は知らなかったからね。
今回もだいたい30分はかかったから、お客様を待たせるには申し訳ない時間だ。僕もメニューに加えてもらおうと言うわけで提案したわけじゃないもの。
店長さんがフォックスさんに焼き時間のことを言えば、彼も流石に肩を落としていた。
「そりゃ、たしかにダメだな。俺そんな料理に詳しくないけど、表面焼くだけじゃ意味ないのはわかるし」
「もともと俺が無理言ってカティアになんか作れって言ったからな」
「あ、そうでした!」
「「ん?」」
何か忘れてると思ったら、くり抜いた食パンの残り。
あれをどうすればいいのか、すっかり忘れていました。
「白パンの部分で、簡単にサンドイッチ作らせてください!」
今しょっぱいものを作ったから甘いものの方がいいだろう。
店長さんに言うと、ああ、と手を叩いてくれたので一緒に厨房に行くことに。
「このままじゃ切りにくいんで、外側は魔法で軽く炙ります」
「その間に具は用意しとくが、何が欲しい?」
「そうですね……じゃあ、パルフェとプチカと蜂蜜があれば」
「待て。サンドイッチになんでパルフェがいるんだ?」
「ふふふ、ここだけの秘密を教えますよ」
つまり、クリームチーズの伝授だ。
もうしばらく来れないだろうし、僕なりの置き土産として教えたいと思ったので。
この国では需要がなくても、ヴァスシードや他何国かはあるから別に未知の食材じゃないもの?
パンを炙ってから、僕はクリームチーズ作りの準備に取り掛かった。
「このパルフェを、まずはザルに入れてボウルの上に乗せます。そこから水分だけを抜くんです」
「ほう?」
質問はなくて、興味深く見ててくれました。
水気を抜く魔法をかけて、ホエーをボウルに溜めてから、クリームチーズになった元ヨーグルトを別のボウルに移した。
「これに蜂蜜で少し甘みをつけたら出来上がりです」
「……おい。フォックスとかにも言わねぇから教えてくれ。こりゃなんだ?」
「ヴァスシード付近じゃ多い、カッツのクリームだそうです」
「ヴァスシード?…………ああ、かなり昔に行ったきりだが、あそこじゃ今の王妃が料理好きで色々変わってるからな」
本当は違うらしいけど、とりあえずそう思ってもらおう。
ファルミアさんには少し申し訳ないけども。
「これは塩気や胡椒を入れれば食事にもなりますが、さっきしょっぱいものだったので今回は甘くしたんです」
「なるほどな? っし、パンは切ってやっから順に挟んでいけ」
「はい」
あとはイチゴをスライスしておけば、挟む準備は完了。
クリームチーズをパンの内側に塗り、そこにイチゴのスライスをたっぷり乗せて挟み込んでいく。
仕上げのカットも店長さんがやってくれたので、片付けをしてからお店に戻った。
「随分ちっさいサンドイッチなのな?」
盛り合わせのお皿を真ん中に置くと、フォックスさんがそう言った。
「くり抜いたパンで作ったものなので……」
「ああ、そう言ってたな? 生クリームのサンドイッチ?」
「ふふふ、違います」
「ふーん?」
「あれ教えたのか?」
「はい」
エディオスさんに無断で良かったかな?と今になって思ったけど、特に何も言わずだったので僕もそれ以上言わない。
「ふゅ、ふゅぅ!」
クラウは相変わらず待ちきれないようで、手足と翼をぴこぴこさせながらセリカさんの前で待っていた。僕が来るとすぐにやってきて、ぴとっと抱きつくのは安心の可愛さ。お行儀悪さについては少し学習したようだ。
サンドイッチの数は少ないので一人一個ずつ手に取り、ほんの一口でも半分くらいになってしまう程小さい。クラウでもほとんどひと口だった。
「甘い? けど、なんか酸味もあんな?」
フォックスさんもだけど、セリカさんや女将さんもさっぱりわからないから首を傾げた。
「けど、美味しいです。プチカともちょうど良くて甘さは控えめだし」
「こんなクリームうちになかっただろ? 何使ったんだい?」
「マイム達には後で教えてやる。っかし、こりゃいいな」
店長さんはふた口で食べてから僕の頭をがしがし撫でてくれました。
「他にも色々使い方はあるだろうが、これは俺も試作していいか?」
「え、ええ」
シカゴピッツァ風は難しくても、ヴァスシード付近で使われてることが多いクリームチーズなら多分大丈夫だ。
「これで流行ったらどーすんだ?」
「そん時はそん時だ」
エディオスさんの質問に店長さんは大丈夫そうに言うけど、僕らが危惧してるのはそこじゃない。
このクリームチーズが例のティラミス擬きを完成形に導く重要食材ってこと。
けど、店長さんは食べたことがないらしいから多分作らないだろう。多分。
「あのデザートよか俺こっちのがいいなー? 大将、これ料金払うからいくつかギルドに持ち帰りたいんだけど」
「おう」
早速注文入っちゃった!
大丈夫か心配になるが、エディオスさんと苦笑いするしか出来なかったです。
クリームチーズをここでも解禁ですノシノシ
では、また明日〜ノシノシ