136.式典祭3日目ー副ギルマス・フォックスー
おじさんは、本当にわかりやすく『おじさん』でした。
寝ぼけ眼の赤い目はもともとタレ目なのか目尻が下がってて、顎とかには無精ヒゲがボーボー。
髪は焦げ茶でこっちも無造作にはねたりしてるが後ろはしっかりしばってるようだ。服装は、ちょっと使い込んだ皮マントを羽織ってるから、隙間から軽装の鎧とかシャツしか見えない。
ちゃんとお手入れすればイケメンさんだろうに、実にもったいないおじさんだ。年齢は店長さんとマリウスさんの間くらいかな?
「ふ……ぁーあ、よく寝た」
「あら、フォックスさん。お目覚めですか?」
「あー、いい匂いしたんでね」
おじさんの名前が狐って意味に近くてちょっと吹きそうになった。
後ろにしばってる髪の膨らみ具合が少し似てたもので。
「ん? そこにいんのって、まさか」
「え?」
僕?と自分を指したら、フォックスさんは違う違うと手を振って近くでうたた寝してるエディオスさんを指した。
「……エディ、だよな?」
「ええ」
「です」
僕とセリカさんが頷けば、フォックスさんは急に立ち上がり、どかどかと音を立ててエディオスさんに近づいていった。当然エディオスさんは目を覚ましてフォックスさんの方に向けば、『うげっ』って声を上げて逃げようとした。
「おっ前、15年も音沙汰なくなにしてやがったんだ⁉︎」
「うぐっ」
「ふゅぅ?」
逃げようと立ち上がりかけたエディオスさんにラリアットをぶち込んで押しとどめ、同じく起きたクラウはエディオスさんの膝から転げ落ちたがすぐに宙に飛んで僕のとこにやってきた。
「けっほ、な、何すんだ⁉︎」
「おっ前がギルドに札置いてっても取りに来ないからだろうが! 相変わらずどこほっつき歩いてんのかわからん奴だ」
「てめぇが人の事言えるか?」
「俺はいーんだよ。副ギルマスだから」
「その副ギルマスがサボってんの報告すっぞ」
「休暇期間中だからいーんだよ」
思いっきり知り合い、いやそれ以上の関係みたいだ。
「副ギルマスさんって、ギルドの方ですか?」
「ええ。ギルドマスターのサポート役だそうよ。一人じゃなくて複数いるらしいけど、フォックスさんはその中でもリーダー的存在だそうよ。うちの常連さんの一人なの」
じゃあ、そこそこお偉いさんなんだ?
式典祭中に休暇なんてもらっていいのだろうかと不思議に思うが、本人が言うならいいのかな?
今も突っかかってるエディオスさんよりはきっといいだろう。
「つか、おっ前なんか注文したのか? それにしちゃ嗅いだことのないいい匂いだが」
「あー……今ちょっと、な」
まさか、監修が食器を拭いてる僕だなんて言い難い。
「あら、フォックス起きたのかい? いい時に起きたねぇ」
「よぉー、女将。今何作ってんの? 大将の新作?」
「違う違う。そこのお嬢ちゃんも料理人でね、火の番はうちの人がしてんだけど……あ」
「女将ぃ……」
まさか、一番口固そうな人が口滑らせるなんて思うだろうか。
エディオスさんもだけど、僕も肩をがっくし落とした。
「は? 嬢ちゃんって、セリカちゃんじゃなくて隣の金髪の?」
「あ、はい」
もう隠し立ては出来ないので返事をした。
途端、物凄い瞬発力で僕とセリカさんの前まで跳んできた!
見た目によらず狐並みにすばしっこい人!
「へーぇ? こーんな80歳くらいの子がねぇ?」
「フォックスさん、カティアちゃんが驚いてるんですから下がってくださいっ」
「おーおー、すまねぇ」
本当に驚いてぷるぷるしてたらセリカさんが助太刀してくれ、フォックスさんを引き離してくれました。
可愛い見た目以上に肝が据わってるお姉さんだ。強い!
「っかし、さっきまでこんな嬢ちゃんいなかっただろ? なに? まさかエディのーーーーって⁉︎」
「ほぼ毎回言われるから聞き飽きてんだよ……」
フォックスさんが言い切る前にこちらも瞬発力で近づいて来てたエディオスさんが脳天をどつきました。
本当に、何故毎回言われるか僕も不思議だ。
とりあえず、嘘の事情を踏まえて僕のことを伝えると、フォックスさんとしてはまだ疑ってるようだが女将さん達がいるから深くは聞いてこなかった。
「で、大将に気に入られて今カティアちゃんが作れそうなのをってことか?」
「はい」
気に入られて、は合ってるかわからないが多分その部類には入ったかもと頷いておくことに。
「ふーん。まあ、大将が元気出たんならいいことだ。例のバルの方はマジで勢いが増すばかりだしな。ギルド側にも整理係の依頼がいきなり来るぐらいだったしよ」
「あれやっぱギルドの方か」
「見てきたのか?」
「入る気失せるぐらいだったな」
「俺こっそり食わせてもらったが……まあ、びっくりはしたがそれくらいだったな。なんか一味足りねぇって感じだ」
いったいどう言うルートで手に入れたんだろう?
気になるがプライベートなことは聞けないからお口チャックだ。
それと広めたきっかけの張本人が目の前にいると分かれば、絶対追求されるですまないもの!
「それより俺としては今漂ってる方が気になんなぁ? 何作ってんだ?」
「え、えっと……」
「カティア、大雑把でいい。こいつ絶対食う気だからな」
「お前もだろ?」
「俺は別だ」
また言い合いになりそうだったところに、女将さんがどこからか出してきたフライパンで二人に思いっきり叩き込んだ。
ここ来てからこう言うの見るの何度目だろうかと少し現実逃避。
「うだうだ言ってないで、待つなら待つ! カティアちゃん、うちの人が呼んでたんだよ。もう出来上がりそうだって。セリカも一緒に行きな」
「は、はい!」
「わかりました」
避難経路を言ってくれたので、お言葉に甘えてセリカさんと奥に行くことに。
窯の近くまで着けば、店長さんが来い来いと手招きしてきました。
「なんだ、遅かったな?」
「フォックスさんが起きられたので……」
「あー、あいつエディ探してたしな?」
それよりほらっと、ミトンを使って天板に乗ってる熱々の食パンピッツァこと『シカゴピッツァ』を取り出してくれました。
「わぁ、すっごくいい匂い!」
至近距離にいるセリカさんにも堪らない匂いのようだ。
目の前に出されてる僕も、抱っこしてるクラウも堪らないですよ。お肉とチーズの焼けたいい匂いは暴力的なダメージに等しいもの!
「どーせなら皆で食うか?」
「私、食器の準備してきますね!」
準備が出来たらお店側に集合。
エディオスさんもだけど、フォックスさんも我慢ならないって感じにそれぞれ顔を緩めまくってる。おじさん顔も嫌だけど、イケメン顔も台無しなのは実に見たくない。
セリカさんはこう言うのは接客で見慣れてるのか、あんまり気にしていないのか表面に出していないだけか。どっちにしても尊敬します。
「んじゃ、カティア。これは普通に切り分けりゃいいのか?」
「四つにしか難しいんで、そこからまた分けるしかないですね」
普通のシカゴピッツァでも、厚みと具の雪崩で通常のピッツァ以上に分け難いがこれは更に難しい食パンでのピッツァ。
食べ易さはほとんど期待しない方がいい食べ物なのだ。
だいたいをお伝えしてから、あとは店長さんにお任せして切り分けてもらいます。
最初にナイフを入れたところからパンのカリカリ感を伝える音と一緒に、溶けたチーズと温められた具材がミルフィーユ状になって現れた。
「うひょー! 肉とカッツじゃねぇか!」
「いつもんともまた違うな?」
振り返らずともよだれ洪水な男の人の顔は見たくないんで、店長さんにお皿を渡していました。クラウは女将さんに抱っこしてもらってます。
「うっし、全員分出来たな? マイム、セリカ。卓寄せといてくれたか?」
「出来とるよ」
「はいっ」
だらしない男性二人には店長さんが鉄拳制裁を下したことで落ち着きました。
セッティングと準備が整えば、全員でいただきますを。
フライパンでパカーンってやるのやらせてみたかったんですよねwww
エディオスが時々残念になるのはお約束?のつもりでいますwww(*^艸^)クスクスw
次回はパンで作った分厚いピッツァの実食ですノシノシ
また明日〜〜ノシノシ