130.式典祭3日目ーお金の使い方ー
けど、金貨はさておき、他のお金を一枚ずつチャイさんのお店の敷布に並べることになった。
「数はそう多くないさ。カティアちゃん、算術はどれくらい出来るかい?」
「え、えと……多分ひと通りくらいは?」
精算業務は任されたことはないけど、一応専門学校で短大卒扱いだから悪くない学歴ではあるよ? この世界の数学はまだ文字を優先しているので教わってないけど、多分大丈夫なはず。
「そうかい? じゃあ、言うよ? 鉄の小貨は一の単位で大貨は十の単位。銅のは小貨が百の単位で、大貨は1枚で500を意味する。ここまではいいかい?」
「はい」
5円と50円はないのに、500円はあるんだ?
「ふふ。少しおかしいと思ったことは後で答えてあげるよ。次に銀だけど、小貨は千の単位で大貨は小貨の五枚分の価値があるから?」
「5000ラインですか?」
「そうさ。正解」
大した計算じゃないのに、やっぱりこの見た目の子供だと教養を学ばせるのは早いみたい。よく出来ましたとルシャーターさんに頭を撫でられました。
しかし、貨幣価値や単位はそこまで日本と変わりないのに安心出来た。海外にはあんまり旅行しに行ったことがないから海外紙幣とかには苦戦したもの。
一部硬貨にないものはあるけど計算がほとんど変わらないのなら絶対こっちのが楽だ。
「さあて、どれを使ってもいいからチャイに代金を渡しておやり?」
「はい」
全部百円硬貨でもいいかもだけど、下の単位の硬貨も多いからそれも使ってみよう。
「えーと……これとこれを合わせてこうして……ちょっと多いですけど確認お願いします」
「あ、うん」
二回くらい自分でも確認したけど、お店の人が計算確認するのは常識。お財布を脇に抱えながら両手で差し出せば、チャイさんもうっかり両手で受け止める体勢を取ってくれたのでその上にお金を置いた。
「……ちゃんと出来てる」
ちょっとだけぽかーんってしてたけど、ルシャーターさんに軽く小突かれたので慌ててお金を会計していったらぽつりと一言。
よかった、初めての買い物だけどうまく出来たみたい。
お金は10円硬貨が一番多かったから20枚出して、残りは500円と100円を一枚ずつ。それから見せてもらったドライトマトの包みは屋台なんかの綿菓子袋くらいあったけど、これで800円は安すぎじゃないかな?
入場料も同額だったのに違いはなんだろう?
「じゃあ、これはあたしが代わりに持ってやるよ。他に欲しいのはないかい?」
「そうですね……」
持ち帰りはエディオスさんの四次元袋に入れるから問題はなくても、帰った後が少し大変だ。僕にはその四次元袋とかがないからお借りしてるゲストルームにしか保管場所がない。
よく選別しなくっちゃ。
「ふゅ、ふゅぅ!」
「ん? クラ……食べちゃダメー⁉︎」
クラウがいつの間にか頭から離れてたんで声が聞こえる方に振り向けば、チャイさんのお店のベーコンキットのような商品を口に入れようとしていた。そこはすかさずチャイさんがクラウを持ち上げてくれました。
「いけない食いしん坊君だねぇ?」
「すみません……」
「まあ、美味しいものには目がないのかもね? これオマケで少しあげようか?」
「ちゃんとお金払います!」
オマケ云々は外の屋台とかでも散々あったからだ。
結局、正規の値段よりもお安く売ってくれたので、それもルシャーターさんに預けてから僕らはチャイさんのお店を去りました。
「まだ見て回りたいかい?」
「いえ。少し休憩したいです……」
正直喉渇いちゃったんだよね。食べ歩きはずっとしてたけど、飲み物は街に来てすぐ飲んだぶどうジュースだけだったから。
「それならあたしからジュースを奢ってあげるよ。飲めない奴とかのために用意させてるのだから種類はあんまりないけどね?」
「ありがとうございます」
受付とは別のバーカウンター的なところまで歩いて行けば、ルシャーターさんがバーテンダーさんに注文するとすぐにジュースが出て来た。
冷たい金属製のマグを受け取れば、中身はりんごジュース。クラウに少し舐めさせてからぐいっと半分くらいあおった。
「美味しいかい?」
「はい」
全部を飲み終わってからルシャーターさんにマグを渡しました。
「しっかし、エディはまだ無理そうだねぇ?」
エディオスさんと言えば、まだまだ冒険者さん達が離してくれないようだ。エディオスさんもあれ以降飲み物口にしてないけど何か飲んでるのかな? まさか、ビールを飲んではないよね? 大人でも帰りだってディシャス操縦していくんだから酔っ払ってしまったら非常に困る!
そう心配していたら、藍色の髪が動いて左右に動き出した。
やがて、僕とルシャーターさんのいるところを見れば、エディオスさんが詫びを入れながらも人垣を掻き分けてこっちまでやって来た。
「待たせて悪いな?」
「いえ、さっきまでお買い物してました」
「計算も恐ろしく早いじゃないのさ? この子、ほんとに貴族じゃないのかい?」
「ねーよ」
「違いますっ」
ルシャーターさんの疑問点は即否定しますとも。
エディオスさんはやっぱり何も飲んでないのか喉が渇いてたようで、バーテンダーさんにお酒ではなくお茶を頼んでました。
「あら、酒断ちかい?」
「連れがいんのに酒飲めっかよ」
「たしかに、カティアちゃんの前じゃ無理だろうね」
一応は保護者的な立ち位置にいるからその義務感から?
まあ、お酒飲まれて酔った後が僕だと対処出来ないからそれもあるかもしれない。それは非常にありがたいな。
「どーする。まだ買い物したいか?」
「いえ。僕が欲しいもの買い過ぎてもいけないですし」
「遠慮はいらねぇぞ?」
「そうじゃないんですが」
「そうさ。もっとエディにねだってもいいんだよ? 金貨持ちくらいの稼ぎ方してんだからさ」
「あ、抜くの忘れてたな」
「うっかりし過ぎだよ、あんた」
金貨を入れてたのはうっかりさんが出ちゃってたからなのね? 実際いくらかかるかは後で聞こう。そっちよりも、
「鉄のお金が五枚で払えるのがないのはどうしてですか?」
僕的にはこっちのが気になっています。
すると、ルシャーターさんがにっと口端を上げたよ。
「鉄貨の場合は数がそこまで面倒じゃないからとか色々言われてるが……いつの間にか作らなくなったんだよ。遥か昔は青銅の硬貨があって、それがそれぞれの五の意味だったらしいけどね」
需要しなくなったためなんだ?
けど、日本のお金も今のお金になってまだ100年経ってないとも聞いたことがあるから、そこはやっぱり国によるのかも。
あとはフィーさんに教えてもらうのが一番かもしれないが……全部把握してるのが時々怪しいので大丈夫かと思っちゃう。セヴィルさんとかならそれはなさそうだけど。
(……そう言えば、セヴィルさんとお散歩以降はちゃんと話してないかも)
中層へ連れてかれて行った時も僕の様子をちょっと見に来るしか出来なかったし、その後のティラミスの差し入れの時もあんまり。前日の時は話しても、お好み焼きやおかきとかの感想を聞いたくらい。
特に避けられてはないけど……ちょっとだけでもお話したいな。
贅沢な悩みかもしれない。
「どーした、カティア?」
「うぇ、あ」
いけないいけない。うっかり考え込み過ぎてた。
いつの間にかエディオスさんが屈んで僕の顔を覗き込む体勢になってくれてたし。
僕はぷるぷると顔を振ってから笑顔を見せてみた。
「ちょっと疲れただけです」
「それだけならいいが、無茶はすんなよ?」
「はい」
「ふゅぅ?」
「大丈夫だよ、クラウ」
痩せ我慢は体によくないけど、今は耐え時だ。
式典が終われば、またいつもの日常に戻るはずだもの。セヴィルさんだけでなく、皆さんと一緒にご飯を食べられる日常が。
「んじゃ、休むならここじゃなくて飯食いに行くか?」
「なんだい、依頼も受けずにもう行くのかい?」
「ここにはカティア達を連れてきただけだ。受けるかどうかはまた今度な?」
「そう言って15年も来なかったくせして。普段どうやって稼いでんのか気になるよ」
「それは言えねぇな?」
言えないよね、王様だってことは。
僕とクラウは再びエディオスさんの肩に座らせてもらってからギルドを出ることになった。
お財布はエディオスさんにちゃんと返しましたよ?
「カティアちゃんはいつでもおいで」
「こ、来れたら、ですが」
「それはつれないねぇ? ところでどこのバルに行くつもりだい?」
「あ? ミービスのとこだが」
「……あそこねぇ。今ちょいと大変なんだよ」
初めてルシャーターさんの顔色が曇った。
なんか、よくないことがこれから行くお店にあったのかな?
「どーゆーことだ?」
「あんたも街歩いてて聞いただろうが、宮城内で今持ちきりのデザートを真似たバル。あっちに客の大半を取られちまってるのはどこも同じなんだが……ミービスのとこも酷くてね。閑古鳥だけですまないんだよ」
「…………マジか」
僕、やっぱりとんでもないことを仕出かしてしまったみたいです。
改稿作業分はこれにて終了となりますノ
明日からは通常連載となります!
これからもどうぞよろしくお願いいたします(*・ω・)*_ _)