128.式典祭3日目ーギルドマスター・ルシャーターー
「あら、驚かせちまったかい?」
「あんたは色んな意味で驚くぞ……」
「そうかい? とりあえず、そいつを離してやりなよ。エディが器用だからって、肩に乗せてるこの子が落ちかねないだろう?」
「へーへー」
どっすんと音が聞こえてきたので、はっとして下を見れば……カイキスのお兄さんが持ってたジョッキのお酒をかぶって倒れてました。幸い、意識はあるようです。
けど、エディオスさんはそれをそっちのけーでルシャーターさんに向き直りました。
「ギルマス自らお出ましとはどう言うことだ?」
「何、面白そうな話が聞こえてきてね? すぐにあんたが否定してたんでおかしく笑わせてもらったが、その子のことを思って出てきたのさ」
「あ、ありがとうございます」
助けてくれるために来ていただいたのなら、お礼言わなくちゃと上からですがしっかりお辞儀して言いました。
すると、どうしてか今度はルシャーターさんがお口と綺麗なグリーンアイをこれでもかと開きまくってしまった。
僕、何か粗相しちゃった?
「なんてことだい⁉︎ たった100以下の幼児なのにもう行儀作法がきちんと出来てるじゃないか! エディ、その子は貴族の子かい⁉︎」
「いや、違うが……」
あ、そう言えば僕の外見年齢ってこっちじゃ小学校の低学年っぽいから、さっきのは行儀良すぎだったかも。だからって、もう遅いけどね?
エディオスさんもうっかり忘れかけてたみたい。ちらっと見たら冷や汗流してたし。
「そうかい。お嬢ちゃん、お名前を聞いてもいいかい?」
「えっと……カティアって言います」
「へぇ、『陽に愛されし神の涙』。金の髪にぴったりの名前だね。とは言え、こんなむさ苦しいとこによく来たよ。歓迎しようじゃないか」
名字や守護名は言わないでおいても、名前を言っただけで感心されたような返事をしてくださいました。それと僕の今の名前の意味のようなものも教えてくれました。最初のもだったけど、ますますこそばゆく感じちゃう! 思わず鳥肌立って腕を摩りました。
「ふゅふゅぅ!」
「おや、随分と可愛いらしい聖獣じゃないか。カティアちゃんの守護獣かい?」
「あ、はい。クラウって言います」
「ふゅぅ!」
ぴこっとクラウは小ちゃい手をルシャーターさんに差し出して、自分なりの自己アピールをしてみてた。上から見てもかわゆくて鼻血出そう……ルシャーターさんも口に手を当ててぷるぷるしてるよ。多分、思ってることは一緒だ。
「……エディにしては随分と可愛いらしいお連れさんじゃないか? 護衛でも頼まれたのかい?」
「いいや、親戚みてぇなもんだ。私用だよ」
「へぇ?」
何回か使ってる言い訳だけど、ギルマスのルシャーターさんは少し疑り深いようだ。まあ、王様のエディオスさんとは違っても責任者さんだもんね。真偽がどうとかは相手が口にしても目や態度で確かめるのが普通。
それでも、若いなりにエディオスさんだって王様だからそこはいくらでも装えるよ。問題は僕。とにかくクラウをぎゅっと抱きしめてにこにこ顔に徹します!
不自然かもだけど頑張るの!
「ってことは、式典祭に乗じてシュレインを観光させてるってとこかい?」
「ああ、そうだ。こいつは多少調理が出来るから、ここで売ってる商品を見せてやりたいと思ってな?」
一介の見習い程度なので、エディオスさんの言うことに否定はしないよ? すごいのは毎日働いてるコックの皆さんだからね。ファルミアさんもプロ級だよ? 本人の趣味から家庭料理が主流らしいけど。
「料理を? 嘘じゃないだろうね?」
「少し出来ますよー」
ここは嘘じゃないことを僕が告げる。ピッツァは置いとくとして、城下にまで広めちゃったティラミス考案者本人とは絶対言いません!
「へぇ? 何が得意なんだい?」
「お惣菜パンみたいなのです」
「パン? そんな小さな体で生地を仕込めるのかい?」
「頑張ってますっ!」
ここだけは胸を張って答えてみたよ。お胸はルシャーターさんに及ぶまでもなくぺったんこだけどね。
「ふふ。そこまで言われちゃ信じないわけにはいかないねぇ? 惣菜と言うと果物よりは干し肉や燻製肉の方がいいだろうね」
せっかくだから案内してあげるよと、ルシャーターさんが指をくいくいっと振ったので僕らはついていくことに。カイキスのお兄さんはくしゃみしながら職員のお兄さんらしい人とお片づけしていました。
ルシャーターさんについていくと、冒険者さん達がすぐに道を開けてくれるのでエディオスさんは特に何も言うことなく歩を進められる。僕とクラウは変わらず肩に乗せてもらってます。だから、エディオスさんもだけど僕やクラウにも視線が向けられまくってるのが上からなんでよくわかります!
(僕くらいの子供がここにいないから?)
あとは、さっき勘違いされたエディオスさんの子供なのかどうか気になったのもあるね。こっちの結婚適齢期がいくつかは聞いてないけど、フィーさんがたしかエディオスさんを蒼の世界じゃ24、5歳って言ってたから……にしても、ちょっと無理あるよ。高校生くらいで子供出来るって僕とかの感覚じゃ信じられない。一応ダメじゃなくても、気遣う事が色々あるもの。
「さて、ここいらが行商人と商業登録している冒険者達が集うとこだよ。扱ってるのは食材以外にも防具や武器など色々だね。残念ながら、調理人が扱うのはあんまし置いてないが」
「ふゅふゅぅ!」
「ふわぁ」
掲示板とは反対の壁際に集まった、露店の並び。
ルシャーターさんが説明してくれたように、武器、防具とか冒険者の必需品に補助用品に加えて携帯食料なんかが売られていた。たしかに調理人向けの道具類はなくても、食材も少し扱ってるようだったからすぐに気になった。お城にいる限り冒険者にはなれないから、武器があっても意味ないもの。
「……来てねぇ間に増えてんな?」
「そりゃそうさ。あんた下手したら十数年単位で来ないじゃないか? 風の噂にもほとんど聞かないから、どっかでのたれ死んでんのか心配したよ。まあ、来るたびにこんなけぴんぴんしてっから、一部じゃ『伝説の流浪人』とまで呼ばれてるよ」
「……なんじゃそりゃ」
からからとおかしそうに笑いながら言うルシャーターさんに、エディオスさんは呆れたようなため息を吐いた。まあ、来られないのは無理ないもんね? だって、すぐ近くのお城の王様。
「それより、そろそろ降ろしてやんなよ。カティアちゃんなら無闇に商品に触ることもないだろうし、あたしが見ててやるからさ? 後ろの連中達の相手してやっておくれよ」
「は?」
後ろ?、と僕も振り返れば、老若男女入り乱れの冒険者さん達が何故かついて来ていた。
「………………何してんだ?」
エディオスさんもさっぱのようで状況を読み込めてないみたい。
すると、
「久々に来たんだったら、色々聞かせてくれよ!」
「そうだよ、前来たのだって15年前じゃないか!」
「聖獣も金髪の子も可愛いーーーっ!」
「その子本当に隠し子じゃないんだよね⁉︎」
「あちこち行ってたんだろ! 旅の話聞かせてくれよエディ‼︎」
エディオスさんが呟いたと同時に一斉に冒険者さん達が話出しました。僕のこともだけど、滅多に来ることがないエディオスさんがやって来たことに興奮を隠せずに押しかけてきたみたい。わらわらと押し寄せて来ないのは肩に僕とクラウが乗ってるからだろうけど、どんなけいるんだろう? ざっと50人くらい?
「ってなわけさ。ここの値段は安くしとくから引き受けてくれないかい?」
「…………しょーがねぇ、か」
大っきくエディオスさんはため息を吐いてから、僕の脇に両手を入れてゆっくりと地面に降ろしました。
(おお、二時間くらいずっと乗ってたから地に足がつかない感覚。ちょっとふらつく)
かく言うエディオスさんはちっとも疲れてないようで、軽く肩を回したと思えば腰の魔法袋からお財布を取り出した。この世界のお財布って、ぶっちゃけて言うとガマ口タイプのシンプルなのです。内側にはちゃんと仕切りがあって、硬貨は仕分けらるようになってるよ。まだどれがどう言うお金かは教えてもらえてないけど。
「カティア、こっちの財布預けっから気になったの買っていいぜ? 買ったもんはギルマスに渡しな。受付で預かってくれっから」
「え、でもまだお金の使い方は……」
「あら、買い物は初めてかい? なら、あたしが教えてあげるよ。あの調子じゃすぐに終わることはないだろうから、時間は気にしなくていいさ」
「昼一にはバルに行くから、それまでには切り上げるがな」
「そうかい?」
あれよあれよと初のお買い物イベントが決まってしまい、エディオスさんからずっしりと重い財布を渡されちゃいました。ポケットに入らない量だよ……しかも、あの口ぶりじゃあメインのお財布とかは別みたい。けど、王様だから資産はたんまりあるもんね。もしくは、もっとお若い時に冒険者として稼いだものかもしれない。
僕にお財布渡すとエディオスさんはすぐに行ってしまい、速攻冒険者さん達に囲まれて頭しか見えなくなった。
変装しても、すっごい人気あるなぁ。まあ、片眼鏡以外髪と目の色変えただけだから女性にはおモテになるだろう。お姉さん達にはベタベタ触られていましたが、すぐにあしらってた。ああ言うのはエディオスさんも嫌みたい。
また明日〜〜ノシノシ